掃除
シチュエーション


「またか・・・」

遠山金蔵刑事は、足元に転がる死体を見下ろし思わず顔を歪めた。

都内 自然公園

青い服を着た鑑識が走り回るなか、地面に出来損ないの魚みたいに転がる<それ>は、
今まで見た死体のどれよりも異様だった。死体は完全に枯れてミイラ化していた。生前、
余程怖い物を見たのだろう。眼球が飛び出さんばかりに見開かれている。

「やっこさんも身元は?」

横でハンカチで口を覆い、いまにも吐きそうな表情の青山刑事に尋ねた。
この程度のホトケさんで吐きそうになるとは情けない。俺なんかバラバラ死体やら腸剥き出しなんぞ、
若い頃は嫌になる程見たというのに・・・・・

「え・・えっと・・・運転免許によると青島輝真(21)・・・・。」
「青島!!あの・・青島か!?」

驚きを隠せない遠山を、全員が見る。

「誰です?」
「連続強姦魔・・・。指名手配されてる奴・・・・」
「こ、こいつが!?」

全員が驚いた表情で、死体を見る。

「そういえば、この事件の被害者は闇金とか筋者とか薬の売人だな・・・。」

また厄介な事になりそうだ・・・・

***

「ねぇ、小夏!?公園で何かあったのかな?警察の人が居るよ?」

歩の声に、小夏は公園を見る。黄色いテープが張られ、野次馬がいる。
それが何か、小夏は知っていた。この騒ぎの原因を造ったのは 誰あろう小夏本人なのだから・・・・。

「ほら、そんな事より早くしないと遅刻するよ。」

幼馴染というよりお母さんみたいな口調で言うと、学校に向う。
小夏は、ごく普通の中学1年生だ。だが、幼馴染の歩さえ知らない秘密がある。
それは小夏がサキュバスだという事だ。正確にいえばサキュバスの母と人間の父の間に生まれたハーフである。
時々、夜中に<掃除>にいく。昨夜がそうだった・・・・・。

***

「ほ・・ほんとだよぉ!!け・・刑事さん!!ほんとに見たんだって!!」

廊下で誰かが騒いでいる。遠山が覗くと、廊下でホームレスだと判る老人が騒いでいる。

「どうしたんだ?」

ホームレスを落ち着かせようとする青山に尋ねた

「それが、この老人が羽根が生えた少女を現場で見たって・・・」
「何だ そりゃ!?」

羽根が?このじいさん、危ない薬遣ってんのか?

「ほ・・ホントだよ!!男に跨って犯してるのオラァ見たんだ!!」

このジーさま、危ない薬物を遣っているのだろうか?遠山はマジマジと老人の瞳を見つめた。
どうやら薬の類ではないようだ。

「ほ、ほんとだって!!おらぁ見たんだぁぁぁぁぁッ!!」
「はいはい、判ったから・・・。」

***

小夏が家に帰ると、母親 舞が怖い顔をして待っていた。

「ねぇ小夏、昨日の夜 公園に<掃除>に出掛けたでしょ?」
「何、怒ってんの!?舞だって時々、掃除に行くジャン」

パパ(ちなみに人間の ごく普通の人)が出張で遠出してる夜は、ママは全裸で羽根を伸ばして(読んで字の如く)
掃除に出かける。

「何逆切れしてんの!?こんな近くで掃除したりしたら、サキュバスが居るってバレバレでしょ!?」
「舞は何時の時代の人間!?中世ヨーロッパ?今頃、サキュバスが実在するなんて、誰も思ってないから・・・。」

刑事は「現場100ぺん」という言葉がある。行き詰った時、現場に立ち戻ってみる。
そうすれば その時は見えなかった物が見えてくる事もある。
遠山もそうだ。
まだ 封鎖された現場を(気味悪がって誰も近づかないだけだが・・・)を這っている。

<きっと 何かある・・・・・。>

ふいに 何かに気がついた。
地面に奇怪な穴

”!?”

指で触れてみる。湿っていた。雨が降った訳ではないのに・・・・?
穴の横に落ちた落ち葉に小さな水の雫
道具で旨く吸い 瓶にいれた。
核心は無い。だが、何故か気になった。

****

小夏も母親 舞もサキュバスである。吸血鬼同様、精液を吸わなければ生きてい
けない。だがら、ある一定のルールを決めた。吸うのは悪党のみだ。
小夏が自分がサキュバスだと知ったのは小学4年生の時、川原で独り遊んでいる処を変質者
に襲われレイプされた。最初は泣き叫ぶのを無理矢理押し倒され圧し掛かれ犯されていたが、
最後は自分で跨って激しく腰を振っていた。
ミイラにした後、河のキラキラ輝く水面に放尿した時の快感を いまだ小夏は覚えている。






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