月の見える草原 純愛風味ver
シチュエーション


『夜、月の見える丘の上で会いましょう。返事はその時にするわ』

生徒皆が憧れる生徒会長。黒いロングヘアを翻し、凛とした雰囲気でそう告げてくる。
その光景を何度も脳内で再生しながら、僕、早瀬心太は急ぎ走っていた。
思えば、どれだけの努力があっただろう。特に染める気のなかった黒髪を、わざと校則で禁じられている色に染めて、注目してもらったりもした。
他にも、生徒会に加入してなんとか一緒に帰ろうとしたり。あわよくば、会長の家まで訪ねちゃおうとしたり。休みの日も、偶然を装って出会ったり――。
……あれ?なんか、僕ってストーカーみたいな気がしてきたぞ。でももう、今更、引き下がる事なんてできないんだ。
これまでの努力が今夜、結果を結ぶか否か。それだけが僕の今の心配だった。

「せ、せんぱい!香凛せんぱーい!!」

人影が一つしかない、夜の丘。そこは静かで、まるで秘密の世界のようにも思えた。
竜胆香凛。名前の通り、凛とした雰囲気とうまく合わさった長身。どこを取ってもモデルに劣らないような綺麗な全身。
……いや、別に裸を拝んだ訳じゃあないけどね?
月明かりの下、会長の長い黒髪が光る姿は、僕には女神のように感じられた。

「ああ、早瀬君。ようやく来たか」

静かにそう告げてくる会長の姿は、どこか憂鬱気に映る。

「……さて、確かキミは私に、愛の告白をしたのだったな?」

真顔でそう、改めて言われる。耳の先まで真っ赤になるのを自分で実感する。

「あ、は、はい」

やっとそう僕が答えると、会長はすこし間を置き、溜息をついた。

「単刀直入に言おう。私は、人間ではない」

あまりに突拍子の無い言葉に、僕は首をかしげてしまう。
それを見た会長は、笑うでもなく、真剣な表情で言葉を続けた。

「私は『淫魔』なのだよ。聞いた事くらいはあるだろう?
――有り体に言えば、まぁ、何だ。エ、エッチな悪魔だ」

少しばかり恥じらいを見せる姿も新鮮だ……って、会長が、淫魔?
しかし、冗談をあまり言わない性格なのは理解していた。突然すぎる話だけども――。
その僕の心情が顔に出ていたのだろうか。会長は少しばかり悲しそうな顔をする。

「……いや、別に信じてもらえなくても構わない。ただ――」

瞬間、彼女の背中から、黒い翼のような、もやもやした何かが出現した。それが、おそらく会長が『淫魔』であるという証明なのだとすぐに理解していた。

「きっとキミのその気持ちも、一種の気の迷いのようなものだ。だから、私はキミの記憶を少しだけいじらせてもらう。私の事など、二度と好きにならないようにね」

そこまで言われ、流石の僕も冷や汗がでてきていた。並々ならぬ雰囲気。そして、会長の言葉は、ナイフのように鋭かったからだ。
冷ややかな口調になっていた会長の瞳が、紅に光る。それは一体、何なのか――。

「……終わったよ。これでキミは明日からまた、普通の学生だ」

誰かがそんな事を、頭の上で言っていた。ああ、草原に倒れているんだ。

「おやすみ。また明日、会おう」

――おやすみ。

僕は誰とも知らぬ相手に、そう答えていた。

夜中の草原で、一人で倒れている。あわや、行方不明として大騒ぎになる所だった。
そんな情けない出来事から何日か過ぎた、昼休みの事。
いつものように仲間内で集まって笑いながら、購買で買ったパンを食べる。
それが当たり前の光景で――どこか、不思議な違和感を感じていた。

「なー、心太。お前そういえば、アレはどうなったんだ?」

同じくパンをほお張っていた友人が、不意にそう問いかけてきた。アレとは何だろう。

「ああ、俺も気になってたんだ。ま、あの生徒会長だ。どうせふられたんだろ?」

なるほど。僕が生徒会長に、告白をしたことか――そう、僕は彼女に告白をしたんだ。
告白をした僕は、彼女と夜の丘で出会った。そして――。

「……ありがとう、二人とも。今度、ジュースの一本くらいおごるよ!」

そして、僕は一気に教室を飛び出した。
――残された二人は『はぁ?』と言った感じの表情をしていた。

『今日の夜。あの日と同じ、月の見える丘の上で待っています――貴方の心太より』

この間と同じシチュエーション。
違う事があるとすれば、待っていたのは会長ではなく僕だという事。
そして――、

「キミ、まさか記憶が戻ったのか?」

目の前の生徒会長が、非情に不機嫌な事である。少しばかり慌てつつも、静かに頷く。
会長はそれを見て、大きな溜息をついた。

「魔法が効き難い体質なのか、単純に思い込みの激しいバカなのか。
――次はもっと強力にかけさせてもらう。何かが起こっても、私は責任を取らない」

そして、この間と同じように、黒い翼が姿を現す。それを見て、僕は語りかけた。

「香凛先輩。そうやって近づいてくる人を拒絶して、何になるんですか?
僕の記憶を消して、次に言い寄ってくる人の記憶も消して……そんなの、悲しすぎると思いませんか?」

その言葉が、会長の何かに触れたのだろう。やや怒り気味の表情になり、

「キミに私の何が分かる?この忌まわしい体を持つ辛さは分からないだろう?」

そう捲くし立ててきた。僕は首を縦に振る事しかできない。

「例え人を好きになったとしても、その人と結ばれる事なんてできない。私はなるべく誰にも関わらず、一人で生きるしかない」
「でも!それは、違うと思います。現に香凛先輩は、皆から慕われている。それなのに、孤独に生きるだなんて――」

僕の言葉を最後まで聞かず、会長は鼻で軽く笑い飛ばした。

「そこまで言うなら、教えてあげるよ。私の言いたい事を。生と死の狭間で――ね」

そして、喜びとも悲しみともつかない、淫靡な表情でそう口にした。

直後、草原の上に、僕は押し倒されていた。目の前に迫るのは、秀麗な会長の顔。
それを確認した時には、馬乗りになった会長に唇を奪われていた。
ファーストキス。その余韻に浸る暇もなく、甘い舌が侵入してくる。
唾液と唇。舌と舌。色々なものが交じり合って立てる淫らな音は、僕を興奮の高みへと押し上げ続けていた。それでも会長は僕から顔を離さず、ねっとりとキスを続けてくる。

「気持ちよくて堪らない――って表情だね?でも、こんなのは優しい方さ……」

ようやく会長が離れる。光る口元を舌で舐めとりながら、初めての深いキスに朦朧としていた僕のズボンを、下ろしにかかっていた。

「か、香凛先輩。何を――」

期待と不安。次にされる事は、予測ができていた。
口先ばかりの制止など気にも留めず、そそり立ったペニスが姿を現す。皮の被ったそれを、清楚な唇が飲み込んでゆく。

「あ、ああ……」

その光景に、僕は目を離すことができなかった。憧れの会長が、汚い部分を咥える。しかも、舌か唇かそれ以外かよく分からないけれど、皮が剥かれて行く。
次いで襲い来る敏感な部分への刺激に、僕は腰を突き上げてしまっていた。

「んっ!」

会長はそのせいで一瞬だけ呻いたが、すぐに動きを再開した。本や動画で見て知っていた初めてのフェラチオは、オナニーなどとか比べ物にならない気持ちよさだった。
剥きあげられ、敏感な亀頭が熱い粘膜にやわらかく刺激される。カリ首に唇を押し付けるような動きをしつつ、何度も何度も会長が顔を上下させてくる。

「で、出ますっ!」

早すぎる。自分でも情けないと思っていた。でも、我慢などできるはずもなかった。

「――さて、と。それじゃそろそろ、本当の淫魔の恐ろしさを教えてあげよう」

二度の射精の余韻に浸る僕の前で、会長は制服のスカートの下から、薄手の黒い布を脱ぎ捨てた。下着なのだと、おぼろげに理解する。

「ほら、見なさい?」

会長は僕の顔をまたぎ、指で軽く膣口を開いて見せ付けてきた。湿ったピンク色の内壁が、呼吸をするかのように蠢いている。どこか気色悪いそれは――とても、淫らだった。
そして、未だに勃起しているペニスへと会長が跨る。先端が触れない程度に近づき、

「この膣こそ、私が淫魔である証。普通の恋愛など、できない証。ここに挿入すると、どんな人でも何度も射精して、狂ってしまうのよ
あまりの気持ちよさに――ね」

言いながら、会長はゆるゆると腰を落としてくる。
まだ入り口だと言うのに、既に僕のペニスは悲鳴をあげていた。

「じらすのも可哀想よね。だから一気に――終わらせてあげる」

それを見て、会長は笑っていた。
無慈悲に叩きつけられるような、奥深くへの挿入。
僕は、声にならない悲鳴をあげていた。

あれから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
会長は顔を上気させながら、腰を振りたてている。僕はその強烈な快楽に、脳を焼かれているような、苦痛に近い天国を味わっていた。

「……な、なんでキミはイかないのよっ……!」

だけど――僕はまだ、挿入してから一度も射精をしていなかった。
焦ったような会長の言葉に、僕はもう壊れかけていた頭を回して答える。

「か、会長の事が好きだから……僕が射精しなければ、人間と淫魔だって付き合える……なんて風には思ったりできませんか……?」

限界なんて、とっくの昔に超えていた。僕を支えているのは、ただ一念。
――生徒会長、竜胆香凛が好きだから、射精をしてはいけない。
もう磨り減りきったその意志だけが、僕の心を繋ぎとめていた。
ふいに、会長の腰の動きが止まった。焦点がやや定まらない瞳で見上げる。

「キミは……バカだね。そんな事の為に……」

泣いていた。笑顔で、泣いていた。
僕は起き上がろうとしたけれど、体に力が入らない。
宙を切る手を、小さな手が握り締め、引き上げてくれる。

「ありがとう、心太君――」

そして、静かなキス。優しい言葉に、僕の限界はあっさりと崩れ落ちていた。

「――キミのような強い意志があれば、わざわざ私を選ぶ事もないんじゃないか?」

月明かりの下、三度の射精で疲労困憊した僕は今、驚く事に会長の膝枕を受けていた。
柔らかな太ももの感触と、仄かな良い匂い。そして、眼前には恥ずかしそうに微笑む会長。まるで桃源郷のような状況である。

「そうかもしれませんね。でも、僕は会長が――いや、香凛が好きなんです」

目を見開く香凛。眉を顰めたり、顔を真っ赤にしたり、怒ったような表情になったり。

「い、いきなり名前で呼ぶだなんて、キミは失礼だ。だ、だから私も今度からはキミの事を、心太と呼ぶ事にする。いいね!?」
「えぇ〜、どうしようかなぁ〜」

僕たちは顔を見合わせて、笑っていた。

――確かに、淫魔である香凛と一緒に居るのは、大変かもしれない。
でも、僕は今、間違いなく幸せだった。
全てを見ていたお月様に誓う。
僕は、僕だけじゃなくて、香凛も必ず幸せにしてみせると。






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