サキュバス・カンパニー 精液牧場
シチュエーション


その建物は街郊外の青々とした田畑が散在し、
所々に小さな森林が見える、山の裾野が近い場所にあった。

建物を外から見ると、3F建ての小さな工場に見えた。
社名の表示や、建物の存在意義を示す看板は存在しないため、
その建物の中身が何なのかは分からなかった。

辺りは広大な平地が広がる田畑の中に
ぽつぽつと民家が存在するだけの地域で、
特に建物の事を気にする近隣住民もいなかった。

透き通る青を宿した大空の下、
田舎道を走る一台の紅い車があった。
車内には女の姿が見える。

車窓からは両側にひたすら美しく輝く田畑が続いている。
女はハンドルを握り、サングラスを通してその光景を眺めている。

この街には不似合いな女だった。
年頃は20代後半。
髪は薄い茶色。
高くすらっとした身体に黒いパンツスーツを完璧に身にまとい、
手足はハンドルとアクセルに向かって長く伸びていた。
この街の住人ではなく、
都会でキャリアウーマンとして日々仕事をこなしていそうな、
そんな印象だった。

前方に建物が見えて来た。
女は月に一度、この建物を訪れる。

女は建物の前の土がむき出しになった広場に車を止めた。
ドアを開けて降りると、サングラスを外し建物を見上げる。
まつげが長く、切れ長の大きな瞳は髪の色と同じく茶色を帯び、
何か人間と異なる不可思議で妖しい印象を醸し出していた。

建物に向かって歩き、正面のドアを開けて中に入る。
右側には受付があり、一人の女がカウンターに置いた本を読んでいた。
女は本から目を上げ、ドアを閉める女を見て微笑んで言った。

「こんにちは、葉山さん」

葉山はカウンターに歩いていき、無表情で言った。

「食事に来たの」

受付の女は笑みを浮かべて言う。

「ここを訪れる人は皆さん、食事の御用です」

受付の女は30歳前くらいだろうか。
一見すると中小企業にいる、
少々歳をとった綺麗な事務職員といった風情だが、
女の浮かべる笑みはどこか妖しい雰囲気を持っていた。

「お仕事はお休みですか?」

事務員が横にあるパソコンのキーボードを叩きながら尋ねる。

「休みを取ったの。買収が大詰めの時期になってるから、
今休むのは都合が悪いのだけれど」

ディスプレイに表示された画面を見ながら受付の女がまた妖しく微笑む。

「生理的な欲求には逆らえませんからね、私たちは」

葉山はじろりと受付女性に目をやったが、すぐに目をそらした。

受付の女はカードキーを差し出した。

「3Fの203番です。ご希望通りのご用意がなされています」
「ありがとう」

葉山はそっけなく応えるとカードキーを受け取り
廊下をエレベーターに向かって歩き出した。
後ろから受付女性の声が追ってくる。

「ゆっくりお楽しみ下さい」

葉山は振り返らず、エレベーターのボタンを押した。

エレベーターが3階で止まり、葉山は薄暗い廊下に降りた。
廊下の両側には同じ様なドアがずっと奥まで並んでいた。

1階や建物周辺の明るく健康的な雰囲気とは異なり、
この階は禍々しい妖気が漂っていた。
廊下の広さの割に、天井に電灯は数個しか付いておらず、
弱々しく最低限視界が見える程度の光しか廊下に与えていなかった。

この階を特別異様な雰囲気にしているのは
低いうめき声だった。
それは廊下の両側の各ドアから響き出し、
廊下全体に充満していた。
右側の奥のドアから突然、ひときわ高い悲鳴が聞こえた。
そして突然ぷつりと悲鳴が消えた。
廊下に響く声は全て男性のものだった。

低いうめき声もあれば、甲高い異様な悲鳴もあり、
それらはしばらく続くと突然消え去り、
また別の部屋から響きだしてきた
うめき声や悲鳴がそれにとって替わった。

葉山は203号室に向かって歩き出した。
左側の奥の部屋だった。

暗い廊下を歩いていると、ちょうど右側の部屋208号室から
若い男性の泣き叫ぶ哀れな声が聞こえて来た。

「や、やめてくれ・・!も、もう、ゆ、許してくれ!!」

そして男の声は突然悲鳴の様な喘ぎ声に変わった。

「あ、あ、ああぁぁッ!!うわぁぁぁッッ!!!」

葉山はそれに対して特に何も反応せず、廊下を進んで行く。
左側の部屋のドアが開いた。
中から40代の美しい女性が現れた。
女は葉山に気付くと軽く頭を下げた。
葉山も軽く頭を下げて応じる。

女は美味なフランス料理を食した後の様に
満足そうな恍惚とした瞳を浮かべ、
手の甲で唇をぬぐった。

すれ違い様に、葉山は部屋の中を覗いた。
暗い部屋の中の光景がドアから差し込む光で少しだけ見えた。
ベッドの上に裸の男がうつ伏せになって倒れ込み、
ベッドの真横の床では同じく裸の男が絨毯に仰向けになっていた。
男は驚愕した様に大きく両眼を見開いていた。

仰向けになった男の横には、ここの職員の女性が2人佇み、
男を冷たい視線で見下ろしていた。

「これはダメね」
「ええ、死んでしまってるわ」

片方の女が顔を上げて言った。

「宮城さん、吸い過ぎですよ。殺してしまっては困ります」

宮城と呼ばれた女は照れた様に笑みを浮かべ、

「ごめんなさい。弁済はするわ。久しぶりだったから、荒っぽくいたぶり過ぎたかしら」

両手で口を抑えておかしそうに笑い、葉山に視線を送る。
宮城はそれに無表情で返し歩き続け、203号室のドアの前に立った。
簡素な作りのドアを見つめる。

周囲からは男達の痛々しい悲鳴や、事切れる寸前の様な喘ぎ声や溜息が聞こえる。

自分の生物としての性は受け止めているつもりだ。
幼少の頃から自分の種族が人間という別種族に対し、
ある種の優位に立つ攻撃性や能力を持ち、
彼らの生命によってのみ存続出来るのだという事実に
衝撃を受けつつも受け止めようと努力して来た。
しかし葉山の中には彼ら人間に対する罪悪感の様な物が消える事は無かった。
外見的には彼ら人間と寸分違わぬ容姿を持つのに、
己の生命を支える方法は大きく違った。

葉山達の種族の生命を存続させる栄養摂取の方法、
それは人間ーそれも男性に限定されるーの生態エネルギーだった。
そしてそれは性交渉によってのみ摂取された。
性交渉時に彼らが吐き出す精液こそが、
葉山達種族のエネルギー源だった。

葉山がドアのノブに手をかける。
葉山の中には確かに罪悪感があった。
しかし、ここの建物に来る度に、ここで男達の悲鳴を聞く度に、
彼らの生命エネルギーの匂いをかぐ度に、
葉山が心に感じるのは、この上無い喜び・うれしさだった。

ドアの中は、さっき覗いた部屋と同じ様な作りで
そこそこ高級なホテルの部屋の様に思えた。
しかしホテルと異なるのは、敷かれた絨毯の上にあるのがベッドだけ、
他に一切の調度品は無く、
つまり男性との性交渉、男性を犯す事にのみ用途が限定された部屋だった。

部屋の隅では20前後の男と、高校生くらいの男が裸で座り、小刻みに震えていた。
2人は怯えきった表情で部屋に入って来た葉山を見上げていた。
葉山は2人を見下ろすと、ドアを後ろ手に閉めた。
自動的にドアのロックがかかる。

部屋から出ると時は、部屋の壁に備え付けられた電話で
管理室に連絡し、ロックを開けて貰う仕組みだった。
獲物がー男達がー逃げ出すのを防止するためのシステムだった。

「あ、あなたも・・・、今までにここを訪れた女性達と同じ目的なのですか・・?」

高校生くらいの男が震えながら言った。
女性的な可愛らしい目鼻立ちの男だった。

もう1人は何か運動をしているのか、がっしりとした体つきで、
怯えた目で葉山を黙って見上げていた。

葉山はジャケットを脱いで、壁のフックにかけた。
そして白いブラウスのボタンをひとつひとつ外して行く。

高校生くらいの男は言った。

「・・・ここに連れてこられてから、ここを訪れる女性達に・・・、
その・・・何度も・・・、襲われました。あなたも・・・同じ目的なのですか?」

身体のがっしりした方の男が怯えた声を絞り出した。

「俺はここに昨日連れて来られた。でも、ここでどういう目に遭わされるかは
コイツから全部聞いた」

葉山は男達には何も応えず、ブラウスを壁に掛けて、
今度はスカートを脱ぎ始めた。
葉山の白い下着が露になる。

「僕は、・・・こんなことは間違ってると思うんです。
思い直して下さい・・・。あなたも人間の感情を持ってるんでしょう?」
「俺は大学ではラグビーをやってるんだ。いくら何でも女1人には負けん。
もしヘンなことをしてみろ、ボコボコにしてやるぞ!!」

葉山は背中を向けたまま、脱いだスカートを丁寧に折り畳んでいる。

「なぁ!聞いてんのかよ!!」

大学生の男が叫ぶ。

「あなた達、名前は?」

突然葉山が言葉を発した。
感情を交えないひんやりとした声だった。
2人はびくりとなって、顔を見合わせた。

20歳前後の男は黙ったままなので、
高校生くらいの男が応えた。

「・・・僕は磯崎信也、彼は川上栄一さんです」

葉山は返事をせず、背中を向けたままブラを取り始めた。
2人は恐怖を感じつつも葉山の白い背中に視線を捉えられる。
葉山はブラを絨毯に落とすとショーツを脱いだ。
豊かな肉付きの尻が露になった。
2人はごくりとつばを飲み込んだ。

葉山はゆっくり2人を振り返ると言った。

「はじめましょうか」

170cm以上はありそうな高い身長に長い手足、
余分な肉はついていないのに
乳房は豊かに丸みを帯びて盛り上がり、
陰毛は黒々と股の間を駆け登っていた。

葉山は2人に向かって1歩を踏み出した。

「サキュバス・カンパニー」。
それがこの会社の名前だった。

現在地球上に住む人類の5パーセントが葉山と同じ種族、
人類が伝承等で「サキュバス」と呼ぶ種族だった。

彼らはその栄養摂取の方法の特性上、
食品の入手に困難を持っていた。
無節操に男性の男を捉え補食するサキュバスもいたが、
それは人類に自分たち種族の存在を露見することに繋がりかねないし、
もしそうなれば彼らは熱烈な敵意を持って
自分たちサキュバスを排除しかねない。

ある時、世界中のサキュバスが集まり、
自分たちの食品確保の方法について話し合った。

そして各国の目立たぬ場所に「サキュバス・カンパニー」が設けられ、
自国のサキュバス達の食品供給を一手に引き受け始めたのだ。

組織に所属する職員である女性サキュバス達が様々な方法で男性を確保、
郊外の建物に拘束して飼育し、
会員である一般サキュバスは小額の会員費用で彼らを食することが許された。

しかし頻繁に男性を狩っては人間達の疑いを招きかねないので、
捉えた男性達は殺さない程度に、落命ギリギリまでエネルギーを吸い取り、
必要な者には治療を施して、
体力が回復した頃にまた食品として供され
何度も再利用がなされた。

万が一、男性を殺傷してしまった会員には新たな男性を捉えるための
手数料が要求された。

葉山の裸体が2人に近づいてくる。






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