佐紀場家(さきばけ)の一族
シチュエーション


自分が西洋で言うところのサキュバスなる存在だと
母親に明かされたのは17歳の春でした。庭の梅の木が色づき、
池の水面にその姿を鮮やかに写していたのを覚えています。

自分の本性を知った翌日は、学校で友人達と語らっていても
上の空で、自分が男性の精を吸う事によってしか生きられない
存在だということに、言い様の無い衝撃を受けておりました。

しかし己の本質が封じられていた封を切ったかの如く、
己の中の、男性の精を狂おしく求める本流の様な衝動が
激しく溢れ出すのも感じておりました。

学生帽を斜に被った青年、茨木幸之助が私の最初の相手でした。
犠牲者と書かず、相手と表記するのは、
己の本質を認めつつも私に精を差し出すことになった青年への
憐憫の念が伴うからかも知れません。

私は茨木青年を街はずれの草むらへと誘いました。青年は
私の唐突な誘いに最初はいぶかしんでおりましたが、途中から私が
互いの肉体を合わす事を欲していることに気付いたようで、
この年頃の青年にありがちな欲情に燃えた赤い目をしていました。

茨木青年は私を草むらへ押さえつけると、私の服を
はぎ取り始めました。私は茨木青年の熱く荒い息を感じながら、
母が口にした「人間の生命を奪う事に罪悪を感じる事は無い」
という言葉を思い出しておりました。

私は茨木青年を横に押し倒し、青年の口に唇を合わせました。
その結果は母の言う通りでした。我々の種族には人間の男性への
愛撫や性交を、通常の人間の女性がする快楽の数十倍にして
もたらす能力があるらしいのです。
彼らの精を効率よく啜るための我々種族の才能でした。

青年は目を見開き、悲鳴を上げました。
私は青年の衣服を丁寧に脱がせ始めました。
青年はあまりの快楽に立ち上がる事も出来ず、
私の下でわなわなと震えていました。

私は自分の下着を下ろし、自分以外の人間には見せない部分を
茨木青年のそそり立った部分にあてがい、それを一気に飲み込み
ました。後は夢中でした。
私は青年の生の最後の一滴までも搾り取るかの様に、
激しく腰を動かし続けました。

その後の男性との性交において、いつも思うのですが、
人間族の男性達はこの時とてもいびつで不思議な顔をします。
生きる事を求めて泣き叫びつつも、あまりの快楽にむせび泣くのです。
茨木青年の生が残り少なくなり、彼は私に憐れみを請いましたが、
私は青年のその表情をまじまじと観察しながら、
彼を最後の絶頂へと導きました。

性交が終わった時、陽光はススキ野の向こうに暮れ始めていました。
私は骨と皮だけになった青年を見下ろしながら衣服を着ると、
草原を後にしました。

豆腐屋のラッパの音を聞きながら私は自宅へと帰りました。
母はまるで私の初めての性交の一部始終を見ていたかの様に
妖しげな笑みを浮かべ、三和土の上で私を待っていました。
「食事にしましょう。今度は膣じゃなく、胃で消化する食事に」

ここから、私たち一族「佐紀場家(さきばけ)」の
本質と運命に従った物語が始まるのです。
続きは別の機会に。






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