ガブリニスト=サークル
シチュエーション


蝶よ花よと育てられ
地獄三大貴族の一つ
その次期当主として親族の期待を一身に受けた御令嬢ですが
やはり年頃になれば反抗期を迎えるのでしょうか……

つい先頃、現当主のパーティの席で
首から銀のロザリオを下げ、清純な尼僧姿で現れたのです。
クリスチャン=ファッションと呼ばれる
最近流行の風紀の乱れた姿だけなら良かったのですが
大勢の客人の前でとんでもない言葉を叫んだのです。

「エイメン」

御令嬢の奇行に頭を痛めた当主は
娘を由緒ある学園に半ば強引に入学させました。
これまで数々の高名な悪魔や魔女を排出した教育システム
厳格なサタンの教えの基づいた道徳教育
ここに入学すれば大丈夫だ。
何せ御令嬢はサッキュバスの身でありながらまだ処女なのです。
由々しき問題です。

しかしそんな当主の心配を他所に
件の御令嬢は学園内に秘密のサークルを作ったのです。

『ガブリニスト=サークル』

地獄の学園内に天使を呼び出そうなんて正気の沙汰ではありません。
さてはてどうなることやら

変わり者はどこにでもいます。
由緒正しい地獄のエリート学園も例外ではありません。
御令嬢以外にちゃんとおりました。

魔女のミゥハーピーのラコーバンシーのルネ
そして御令嬢サキュバスのリリム

「ねーねーこの前、失敗ってさー
やっぱあんたのイボカエルの干物のせいじゃない
あれ古いしショボイから帰っちゃったんだよ」

「そうだよだいたい天使がイボガエルって変だよ
だからミゥは怪魚の脳髄にすればってあの時言ったんだよ」

ミゥはお気に入りの不気味なホルマリン漬けを掲げてみせる。

「もうッそれのどこが怪魚の脳髄?食堂の生ごみじゃない
そんなんだからあんた魔女なのに標本学がFなんだよ」

リリムは深いため息をついて首を左右に振った。

彼女達の会議のテンションが高いのには理由があります。

数え切れない失敗を繰り返した天使降臨だったのですが
なんと前回の儀式で少しだけ成功したのです。
片手だけですが……

天井に光輪が浮かび
不思議な匂いが漂います。
4人が固唾を飲んで見ていると光輪から片手がヌッと現れたのです。

「やったー」
「えっウソ?!マジ」
「あっミゥまだ天使にお願い事考えてなーい」

それは何かを探るような仕草をすると
グー・チョキ・パーと指を動かし
そのまま引っ込んでしまいました。

彼女達は偉業の第一歩を踏み出したのです。
4人は抱き合って喜びを分かち会いました。
そりゃ悪魔や魔女は呼ばれて使役される事はあっても
呼んで使役する事はありませんから
画期的だったといえましょう。

ところがそれから何度同じ召還を繰り返しても
全く成功しないのです。
光輪と匂いは漂うのですが何も出てきません。

サークルの数式儀式の小道具干物を骨に血を猛毒に変えたり
彼女達はしつこく実験を続けるのでありました。


一方こっちは人間の世界

素質はあるのですがやる気まったく無しの見習い僧侶クレリ君
代々悪魔祓いの儀式を執り行う家系の出です。
今日も修行を抜け出して遊びに出かけます。
まあ師匠もクレリ君の行動はお見通しで
あっさり見つけて懲罰部屋に閉じ込めるのでありました。

懲罰部屋に閉じ込められたクレリ君
何気なく下を向くと自分の足元に渦を巻く真っ黒な穴が見えます。
自分の真下に穴があると言うのに落っこちる気配はありません。

なんだこりゃ?と右手を入れてみました。
何も無い空間のようです。
グー・チョキ・パーと指を動かしてみました。
やっぱり何も起こりません。
思ったよりつまらなかったので手を抜いてみました。
すると穴は消えてしまいます。

それっきりなら話はおしまいなんですが
その黒い穴は何度もしつこくクレリ君の足元に現れるのです。
しかも穴はどうやら彼にしか見えないらしく
彼はこれを使って修行を抜け出そうなんてろくでも無い事を考えるのでした。

「みんなお願い。
私もう時間が無いの。
今度の天使降臨は絶対成功させて」

今回のリリムは必死です。

「うーん……今まで召喚で出てきた物から考えてもねぇ」

ルネは難しい顔で机の上のガラクタを眺めます。

「石ころ木の棒、なんだか分らない道具……
あっでもすっごい戦利品があったね」

『Bible』
その名を口にするのもはばかれる恐るべき書物。
この学園の図書館にも厳重に鍵を掛けて保管してあり
弱い者は見ただけで絶命すると言われる幻の禁書。
ちなみに「ガブリニスト」垂涎のアイテムだったりする。

「禁書なんてどうでもいいッ!私は天使を呼びたいの
どうしてもッ
天使にお願いしなきゃいけない事があるんだから
もう時間が無いんだって」

感極まって、わぁーと泣き出しました。

リリムが焦っている理由

それは少し前のことです。
リリムの御父君が娘の評判を聞きに学園を訪問したのです。
成績は芳しくありませんでしたが、
御父君にとってそんな事はどーでもいいのです。

御父君が激怒したのは
そもそも学園の女王の座は代々サキュバスのトップ争いになります。
娘は三大貴族の後継ぎ令嬢女王争いに負ける理由がありません。
ところがどっこい
娘は女王どころか鉄壁なガードで処女を守り通していたのです。

さすがに堪忍袋の緒が切れた御父君は
娘をダンジョンに派遣すると言い出したのです。

「勇者100人吸って来い」

リリムは思いました。

ダンジョンだけは絶対イヤ!
だって狭いし
ダサイし
マヌケなダンジョン=マスターの言う事聞かなきゃいけないし
決まった階層から動いちゃダメだし
退屈で死にそうな場所なんだもん。

御父君はダンジョンのパンフレットをリリムの前にずらりと並べて
どこが良いか選べと迫りました。

「ここなんてどうだ?トレボーは父さんも良く知ってる……」

娘の気も知らず呑気な事を言っています。
冗談じゃありません。

「全部イヤーッ」

まあ学園を揺るがす父と娘の激しい喧嘩がありまして
結果
御父君が勝手に選ばれたダンジョンから
お迎えが来るまでリリムには残された時間が殆ど無いのです。

一方こっちは人間の世界

クレリ君修行のやる気は全く無いのですが
サボる事に関しては結構マメであります。

足元の穴は危険かどうか、
石を落としたり木の棒で深さを確かめたり
果ては御師匠様から命の次に大切にしろと言われた『Bible』まで放り込んで
穴の中を確かめました。
一応用心深く確認した所安全と結論が出たのであります。

計画はいたってシンプル
御師匠様が来たらはしごを使って穴の中に隠れる。
これだけです。

学園の自習室
4人はシスター姿でクリスチャン式のお祈りを捧げています。

「神様お願いっ、早く来てぇ」

リリムなんかはサキュバスなのに両手で銀のロザリオを握り締め
十字を切ってます。

カタン

天井の光輪から簡易縄梯子が降りて来ました。
その時のリリムの失望は計り知れない物でした。
だってまたガラクタを召喚してしまったのですから……

「もうバカバカッなんでまた失敗するのよ」

「リリムちゃん大丈夫だよぉ
きっと天使さんはぁはしごを使って降りて来るんだよぉ」

「ミゥあんたって……どこの世界に梯子使って降りてくる天使がいるわけ?」

「召喚された時は第一印象が重要派手な炎や煙演出は必須
あんた授業聞いてた?」

「エクッエゥッだってミゥだってリリムの事心配して言ってるんだもん」

御師匠様をやりすごす為初めて穴の中に入ったクレリ君
穴の中はどこかの部屋だったという事実に驚きました。
それどころか自分しか見えない穴に
自分以外の誰かがいる事に気が付きました。

どうやら4人のシスター達が言い争う現場に踏み込んでしまったようです。
透明なガラスが目の前にあるのでしょうか…
見えない壁がクレリ君をぐるりと囲んでいます。
結界に顔面をぶつけてひっくり返るクレリ君の姿に
1人のシスターが気が付きました。

シスター達が駆け寄ります。
どこか変な気がしますが……
彼女達は外国人でしょうか?
いやそれ以前に人間なんでしょうか……

「ねー本当に天使なの?」

「でも一応それっぽい服着てるよ」

「ほら!ミゥの言った通り!天使さんは梯子を使って降りてきたでしょ」

「きっと天使の中でも身分低いんじゃないかな」

「召喚出来ただけでもめっけもんだよ」

「ねーねーミゥ天使さんで実験したい実験していい?」

手にしているのは
サタン礼拝堂の邪水、産湯や洗礼に使ったりする
彼女達からすれば手洗い用の水ですが、
こんなもん普通の人間にかけたら一滴で死ねます。

「ちょっとやめなさいミゥこんな天使でも帰ったら困るでしょ」

「もう他の天使を呼んでる暇なんてないの
貴方でいいから、私を御父様の手の届かない所に連れてって」

「えーリリム、いきなり契約すんの?」

「値札も見ないで契約するなんてさっすが貴族の御令嬢ね」

「いいのッ!いざとなったら御父様に払って貰うんだから
何ボケーっとしてるの?
天使でしょ
私もう時間が無いの、
とりあえず貴方の来た所でいいから隠れさせて」

リリムは結界の中に飛び込むと
クレリ君を押し退けて縄梯子を昇り始めます。
突然の出来事にクレリ君は見ている事しか出来ませんでした。

「あっあーーーーっ閉じちゃう
まだダメ天使さんこっちにいるってば」

リリムが光輪の向こう側に到達すると同時に
召喚サークルが閉じはじめました。

「えっ?えっ何いまの何?なんなのここどこ」

光輪が消えて、呆然とするクレリ君の頭の上に縄梯子がパサッと落ちてきました。

……数年後

スカートのスリットから覗く黒いストッキングの太股が悩ましく。
腰のコルセットが見事なマーメイドラインを形成し
谷間を強調するようにカットされた胸元から
しゃぶりつきたくなる程の淫らしい色艶の美乳を僅かに覗かせています。
大変不謹慎ですが一応シスター服のようです。

首から銀のロザリオを下げたシスターが不適な笑みを浮かべて
悪霊の前に立ちはだかりました。
『Bible』を片手に、もう一方の手を悪霊に向け、凛とした声で叫びます。

「地獄の悪霊よ闇に帰れ」

折伏は全く効果を見せません。
悪霊は相変わらず元気に部屋の中を跳ね回っていました。

「あのぉ御師匠様やっぱり私この方法ダメなんです
いつもの方法でやっちゃっていいですか?」

「好きにせいわしゃ知らん」

部屋を出て行く師匠を見届けると
頭巾を投げ捨て、指先で軽く長い髪をかきあげ、
紅い唇を濡れた舌でそっと湿らせると
片手でスカートをたくし上げ始めました。
瞳が赤く染まります。
彼女を中心に空気が変わってゆきます。

「貴方たち大人しく折伏されていれば良かったのに……
……さぁいい事しましょ」






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