サキュバス少女
シチュエーション


草木も眠る丑三つ時。一つの影が高度1000m辺りの所を飛んでいる。
それは人かと訊かれれば大体の容姿は似ているが、大きく違うポイントがいくつもあった。
まずその影の頭の部分には、山羊の様に大きく湾曲した一対の角があった。
それに臀部の辺りからは長く鞭を連想させるかのような尻尾も生えている。
そして最大の特徴とも呼べるのが、自分の身をすっぽりと覆うくらいに大きな背中の翼だった。
そのどれもが魔の眷属に位置する者の形をしている。
影は周囲を見回したが、月明かりが分厚い雲に隠れて完全に消えている中では、それは無駄な試行でもあった。

「ん〜。ここで一番強い退魔師ってどこにいるって言ってたかなぁ?」

年の頃十二、三歳を想起させるような、割とキーの高い可愛らしい声がその辺りに響く。
少女は母親から与えられたある命令の下、長く住み慣れた世界から離れ、人間たちの住まう世界にやってきたのである。
しかしその命令がまた珍妙な物であった。彼女の住む世界の事情を知らない者からしてみれば怪訝な表情をされそうなものである。

「ママ……どうしてあんな事を私に……?」

いくらぼやいても命令は命令だし背く事は出来ない。少女は溜め息一つ吐いてもう一度周囲をよく探し回る。

「えーと……確かこの近くの山にある霊石寺っていう大きなお寺にいるはずなんだけど……あっ!あそこかな?」

目的の場所を見つけられたのか、少女の声を持つ影は漆黒の翼をはためかせ、ゆっくりとその寺があると思しき場所へ降下していった。


ざわめきを残す色鮮やかな繁華街を背にするようにその山は聳え立っている。
そして山の頂上にある大きな寺、霊石寺の一室で、目鼻立ちの整った綺麗な白衣姿の青年が燈台の明かりを元に写経をやっていた。
が、綴られている字は自身の姿とは正反対に極めて汚い。一応隷書体で書いているようだが、本人でなければ判別不可能なほどだ。
ただそんな風に書いているので、山と積まれていた写経用の巻物はサクサク減っていく。
その合間に彼は懐からタバコを一箱取り出し、その内の一本口に咥えると何の躊躇も無くそれに火を付ける。
それから机の端に吸殻入れを置き、自身は紫煙を燻らせたまま汚い字の写経に戻った。
汚いのはそれだけではない。机の周りには度数がゆうに40%は越えている酒の入っていたであろう一升瓶がゴロゴロあったし、高価そうな花札や賽、手垢のびっしりと付いたスロット関連の雑誌が乱雑に置いてあった。
それらは青年が真面目に自分の職務をやっているとは到底思えないと回りに印象付けるのに十分過ぎるほどだった。

……ここ霊石寺は日本中に退魔師を送る、言わば退魔師の総本山のような所である。
何百人もいる退魔師の卵を育てるその場所で、青年は文武において特別抜きん出た才能を発揮していた。
十二歳の頃にこの寺の門を叩いて以来、今現在弱冠二十二にして退治した魔物の数は大小強弱を含めおよそ万を越えている。
また解決した魔物関係のトラブルは、今は亡き前退魔師総帥が同い年の頃解決した数に至っていた。
故に次期総帥を継ぐのは彼しかいないという状況になっているのだが、周囲の者達はそれに関してかなり渋い顔をする。
というのも彼は、日常の言動からして聖なる職務に帰依するつもりなどさらさら無く、飲酒上等、喫煙上等、博打上等に女犯上等という破戒ぶりを周囲に見せ付けていたからであった。
普通ならば破門されるべき立場なのだが、希代の実力を持っている故に、幹部の者達はどうしても彼を手放す事が出来ないのであった

……十分ほど経ったろうか。青年はタバコの灰を吸殻入れにトントンと叩いて入れ、再び口に咥えた後で写経に戻る。
その瞬間、青年の筆の動きが止まった。完全に密閉された部屋の空気が極幽かに揺らめくのを感じたからだ。
霊石寺全体にはいかなる魔族も寄せ付けない符術が二重、三重に施されている。
加えて青年を中心点とするこの部屋には、青年が自らの力で編み出した独自の強力結界がそれ以上に厚く張り巡らされていた。
それが揺らめくという事は……
青年は腿の横から、退魔の術式が施された弾を装備したIMIデザートイーグル.50AEを静かに、しかし目にも止まらぬスピードで取り出す。
そして振り向くことも無く、間髪入れずに後ろに向かって片手で十発は撃った。

すると、何とも情けない「ひぃやぁぁっっ!!」という声が起きる。

やっぱり……ここがどんな場所かも知らない超ド級におバカな魔族が迷い込んで来たか。
そう確信した青年は右手に50AEを、左手に同じ様な退魔処置の施されたワルサーPPK/Sを持ち、大きく穴の開いた障子を蹴破って素早く外に出る。
外は月明かりも何も無い闇が広がっており、相手を探すのは無理なように思えた。しかし、青年は周囲の空気の律動から容易く相手を見つけ出す。
ものの三秒と経たない内に、彼はある方向に向かってワルサーの銃口を向け、今度は三発放ってみる。
すると銃弾は確実に何かを捕らえたらしく、バスッという音と共に「きゃあっ!!」という声、そして木の葉が何かに擦れる軽い音に次いで、
ドサッという重い音が辺りに響いた。
青年は小さく舌打ちをする。不意を着かれたとはいえ、ここまで来るのに弾丸を十三発も無駄にしてしまった。
しかも相手はまだ消滅したわけではないので油断は出来ない。
どこに逃げ込んだのか、札を燃やして起こす霊灯を使って探そうとすると、後方から騒ぎを聞きつけた年下の退魔師達がどやどやと駆けつけてきた。

「優人様!如何なされたのですか?!」
「なんでもねぇ。取るに足らねえクソ野郎が一匹来ただけだ。」
「そ、それなら我々にお任せを!」

松明を掲げた退魔師の一人がそう言うと、青年……優人は一度落ち着くためにタバコを一本懐から取り出してライターで火を付ける。

「テメエらは戻って写経の続きやってろ……クソ野郎の相手なんざ俺一人で十分だ。」
「しかし……卵達に経験を積ませるのも上の役目……」
「聞こえなかったのか。俺は戻れっつったんだ。」

190近くの長身から出される気迫に声をかけた退魔師は半歩後ずさる。それから直ぐに集まっていた退魔師達は自室に戻っていった。
全員がいなくなったのを確認した後、優人は改めて狙撃した相手を探すために近くの森に入る。
そうして暫く探していると掲げている霊灯が暗闇の中に何かを映し出した。
それは外見から推察されるであろう年齢に反して、かなりグラマラスな曲線美をしたサキュバスだった。
大きな特長とも言える白く湾曲した一対の角。優人の放った弾丸によって傷ついてはいるが、黒く大きな翼もある。それに御丁寧に先がハート型をした尻尾まであった。
優人はその場にしゃがみこみ、今度は顔や体付きの全体像を調べていく。
髪は良く出来たミルクティーのような色。綺麗な細い眉に、大きく幼ささえ感じられるような垂れ気味の目。
要素が要素だけに引き付けられるが、深紅のルージュが引かれている唇の下から見える尖った一対の牙、そしてピアスの開けられた笹の葉を連想させる程長く尖った耳で意識は元の世界に戻ってくる。
そして体型はというと……確実に西瓜くらいはある形の整った二つの胸に、大手出版社の漫画単行本一回りくらいの細いウェスト。そして子供の一人や二人は楽に出て来れそうな安産型の尻。
腕や腿といった枝葉に当たる部分も、細すぎず太すぎずなかなかに良いバランスを保っている。
それらを全て、白シルクで統一された布面積の小さいかなり扇情的な衣装と、妖しい文様の入った肘辺りまである手袋が申し訳無さそうに覆っていた。

そして……アクセントのつもりかどうかは分からないが、首元に鈴の付いたチョーカーがあった。
これだけ据え膳がなされているのである。性的に見境の無い奴なら、相手がサキュバスだろうと何だろうとこの場でヤッていることだろう。
だが優人はやれやれと言わんばかりに溜め息を吐き、そのサキュバスの身を軽々と持ち上げた。
いつもなら問答無用で消し去っている筈のサキュバス。だが優人は何となく気が咎めた。
何故かは分からない。だが簡単に殺してしまっては惜しい。そう思ったのだ。

それから一時間ほど経ったろうか。件のサキュバスは十二畳ほどありそうな優人の部屋の中で目を覚ました。
はっきりした意識下で自身の翼をゆっくり動かしてみると、驚いた事に銃によって開けられた風穴が何事も無かったかのようにぴったりと閉じられている。
だが、目覚める前に撃たれた人間によって体の自由がある程度利かないよう、強固な術式による処置が施されていた。
しかし、口もきけないという状況ではなかったために何とか話す事ぐらいは出来そうである。

「気がついたか。」

ふと、自分を気遣う、それでいてぶっきらぼう極まりない声が聞こえてくる。
誰だろうと思って横を見ると、筆や硯といった古風な筆記用具を片付けている一人の美青年がいた。
室内は明かりがあったが何分暗い。だが彼以外に誰も彼女に声をかける者がいなかったために、サキュバス少女は恐る恐る声をかけた。

「えと……見逃してくださいまして有り難う御座います。私はフィーナと申します。あのぅ、すみませんがお名前を教えて貰えませんか?」
「断る。」

いっちょまえのサキュバスとは思えないフィーナの丁寧な頼みを、立膝をついている優人は咥えていたタバコに火をつけようとしながら冷たい声で無碍に断った。

「あうぅ……名前が無いんじゃ困りますよう……」
「魔族相手に名乗る名前はねえ。」

元から無口で、話す時も常時気怠げに一文、二文と割合必要最小限の事しか言わない優人。これでは取り付く島も無い。
どうやって話を進めていけばいいのかフィーナがおろおろとしていると優人の方から端的に質問がなされた。

「何用だ?」
「えっ?!あ、はい!あの……実は私、ママからある事を言いつけられたんです。それで、それを実行するためにどうしても強い退魔師としての力を持っているあなたが必要になったので……」

そこまで聞いた時に優人はタバコを口から外し、白煙を正面にいるフィーナに向かって思いっきり吹きかける。
タバコの臭いに慣れていなかったのか、煙を思いっきり吸ってしまったフィーナは目に涙を浮かべてむせかえる。
優人は、地獄の悪魔も風邪を引きそうなほどに冷たく刺す様な目でその様子を見つめながら言う。

「アホか、テメエは。もっと上等な嘘を吐きやがれ。」
「う、嘘じゃないですぅ。ホントに頼まれたんですよぅ。」

フィーナは冴えたマロン色をした目を輝かせながらどこまでも真剣な表情で言ったが、優人は顔に出さないまでも完全にそれを馬鹿にした調子で聞いていた。
しかし、幼い外見とはいえ相手はサキュバスなのだ。週に一度、常に自身の心にかけている‘精神の封印の術’を解いた上で女遊びのために街へ行く優人がぐっと来ない訳が無い。
やがて優人は小さく溜め息を吐き、タバコを口から離した後、‘精神の封印の術’をほんの少し緩め、頬杖をついた状態でフィーナに話しかける。

「写経後の気晴らしだ。身の上話でもしろ。」

それを聞いたフィーナはやっとほっとした顔を見せる。

「あ、有り難う御座います。私はご覧の通り魔界から来たサキュバスです。男性の精気を糧に生きる生き物です。」
「んなこたぁ見りゃ分かる。本題を話せ。」
「は、はい!……私達は昔から男性方の精気を吸い取って暮らしていたのですが、人間達が高度な文明を持ち出した頃から人間達を飼う事にしたんです。
私達の性欲はもう物凄い物ですから、限定された人数の人間を衰弱死するほどに搾り尽くすより、もっとより沢山の人々から少しずつ搾り取っていった方が、効率も良いし人間達とのバランスも崩れないことに気付いたんです。」
「牛乳を男のそれと間違うようなアホ共が考えたとは思えないな……」
「ううっ!……と、とにかく、齢五百年の我らが女王、アーシャ様がそう決められたのです。でも……それに従おうとしない者達が現れまして……」
「要ははみ出し者ってことだろ。」
「じ、自分だってそうじゃないですかぁ……」

そうフィーナが言うと、優人は問答無用で.50AEをフィーナの頭に向かって突きつける。
ぎょっとしたフィーナは床に手を着いて平謝りする。

「す、すみません!すみません!……それで、私達サキュバスは一人前になるタイミングを個人の任意で決められるんです。
その一人前になる時、試練として一度に百人くらいの男性を相手にするのですが、アーシャ様の意に背く者達は一気にその5倍とも10倍ともいえる男性を相手にするんです。
そうなると、人間で言う満腹中枢みたいなものが機能を失ってしまい、完全に理性的な判断が出来ないようになってしまうんです。
私達の様な普通のサキュバスは一日に一回五人程の男性を相手にすれば体の渇きは落ち着くんですが、彼女達……『フォールン・サキュバス』は一日の内に昼夜問わず、常に合計約50人の男達を相手にするんです。
中には実際に死んだりした男性、死ぬまではいかなくても長期に渡って昏睡状態に陥ったっていう男性もいるんです。
最初は絶対的な数が少なかったので、みんなある程度楽観視はされていたのですが、事態を重く見たアーシャ様が終に『フォールン・サキュバス』の討伐を宣言なされたんです。
でもそこに来てある重大な問題が出て来ました……」
「サキュバスはサキュバスに対してのブチのめし方を知らない……か?」
「はい。ですので、ある者は素性を隠しながら、またある者は今回の私の様に正直に事情を話しながら退魔師の方々に協力を仰いだんです。
でも、当然の事ながら協力を貰えるどころか問答無用で殺されたり、稀に協力してもらっても『フォールン・サキュバス』によって快楽の虜になった後で殺されたり……なかなか事態は進展しませんでした。
その時、最高の実力を持つ退魔師としてあなたに、そしてその折衝役として私に白羽の矢が立ったんです。
だからお願いです!日常生活……よ、夜の生活は絶対に損はさせませんから、私に協力して下さい!!」

一通りの話を聞いた優人は何も言わず、近くにあったコップに酒をなみなみと注いでいき、それを一気に飲み干す。
やっぱり駄目なのかな……?そう思ったフィーナは思わぬ言葉を耳にした。

「つまりはその『フォールン・サキュバス』って奴らを片っ端からブチのめしゃあいいのか?」
「あのぅ、処置に関してはなるべく浄化って手段を取ってもらえませんか?私達の間でも殺すというのはあくまで最終手段なので……」
「殺るモンは殺る。その為なら俺は手段を選ばんし、手加減もしない。」

流石に幾つもの魔族を討伐してきた優人なのか、かなりさらっとした調子で答えた。
しかしそれでも一応手応えはあったということだ。フィーナははにかむ様に笑って続ける。

「そう……ですか。あの……一応協力有難う御座います。あと……その……名前で呼んで頂けませんか?」
「やなこった。テメエなんて‘テメエ’で十分だ、エロ山羊。」
「エロ山羊?あのぉ、それって何なんですか?」
「サキュバスはエロいんだろ……それとその山羊っぽい角でエロ山羊。そう呼ばせてもらうぞ。」
「あううぅ……ちゃんと名前で呼んで下さいぃ……」
「やかましい。終いにゃ下僕にするぞ。」

フィーナは下を向いてしょぼくれる。
それを見ながら優人は立ち上がり、自身にかけた‘精神の封印’を解いていく。
魔力的な物を感知したフィーナが上を向くと、優人が自分に歩み寄って来ていた。

「あの……どうしました?」
「ふう。前にこの術式を解除したのは三週間前だったな。やっと暴れられるな。
今日に限らずここ二週間半は散々な日が続いたし……マジで疲れたよ。」
「へ?」

フィーナが間の抜けた返事をすると、優人はしゃがみ込んで彼女の顎をぐいと持ち上げる。
その目は先程まで感情無き目をしていたが今は違う。これから女性を引っ掛ける誘うような目をしていた。
口ぶりもクールさは残っているが、さっきよりかは何と無く優しくなっているし、割と饒舌な方になっている。

「あんた、サキュバスなんだろ?なら、この状況で男と一緒にやる事はたった一つに決まってるだろ?
それにあんたは力を発揮してちゃんと『フォールン・サキュバス』を見つけなきゃいけねえんだ。ま、早い話がエネルギー充填だよ。」

その言葉にサキュバスの本能を目覚めさせたのか、フィーナの顔がぱあっと明るくなる。
それに釣られる形で優人はフッと小さく笑った。

「安心しろ。俺は体力回復の符くらいたんまり持ってる。例えあんたが一時間とかからずにこの場で俺を10回イかそうが、
十秒とかからずに直ぐに元に戻る事は出来る。さあ、‘めくるめく快楽の世界’とやらをおっ始めようか?」






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