シチュエーション
■ドレル王国領上空、飛翔甲獣アーケマージル内・円卓の間 「目標トレンタス1、沈黙。……生体活動の完全停止を確認」 眼前に浮かぶ水晶板に打ちしだされた文字を、円卓を囲む一人、メイド服に身を包んだ若い女が読み上げた。 別の水晶板で、軽素な白い軍服に身を包んだ男は 「AG3、機能不備、損傷、ともにありません」 と、入り口から一番遠くの席に座した老練な男に伝える。。 「本時刻をもって第一種戦闘配置を解除。アーケマージルを下げるぞ」 「了解」 メイドが卓上にいくつか並んで埋まった半球状の水晶玉に手を翳しながら言う。 「戦闘終了です。帰還してください、アンゼリカ様」 応答は、なかった。 「アンゼリカ様?」 「感じる……」 『赤い部屋』の中で、アンゼリカは呟いた。 毒々しいまでに艶めいた青紫のロングヘアを軽く指でかき上げ、アンゼリカは告げる。 「坊やのお兄さんがきたようよ」 「距離約1000の位置にエナジー反応!転移と思われます。これは……AG2です!」 白い軍服男のその報告に、白い作業着を着て円卓の外で壁に背もたれている浅黒い肌の男が答える。 「好きにさせてあげましょう。艦長、一応追撃の令は出しておいてくださいませんか」 「わかっている。スティーラアムに指令!AG2を追跡せよ。最悪の場合、相手機の破壊も許可する」 アンゼリカは何も答えずに、破壊の樹を枯らした巨人・スティーラアムに命じた。 「坊や……好きにして、いいって」 赤い部屋の中のローション状の液体のプールの中に、胸まで浸かっているアンゼリカが、そう言って、微笑んだ。 ■地上、神無川県街田市 この町に住む俺、志家田免蔵は、今日もこの名の通りシケた面をしていた。 (食器も洗い終わっちまった……することねえ) 俺ほど退屈な男もそうそういないだろう。 働く気はない。遊ぶ気もない。友達は少ない。運動は嫌い。読書は嫌い。インターネットはもっと嫌い。 俺はその大嫌いなインターネットで、お小遣いサイトやらゲームの攻略ページの広告収入で身をしのいでいた。 PC画面が大嫌いなので、更新は、気が向いたときに一気にやる。 だらだら生きている割に、仕事の手はなぜか、吉野家のレジ打ちが裸足で逃げ出しそうなほど速い。 だらだら生きていると、寝たいときに寝られない。 そんな格好のつかないいつもの夜、幸い天気も暗雲が立ち込めているが雨は降っていないので、 俺はため池の蛇に石をなげるという、自分でも不毛だと思う行為をしに出かけた。 懐中電灯片手に、俺は住宅街を少し外れたあぜ道をけだるく歩く。 時々、意味もなく小走りしてみたりもしたが、何一つ、退屈な事に代わりはない。 大体息切れする前に小走りに飽きるぐらいだ。何をしても、どうしたってつまらない。 が、流石にあの青い光の玉と赤い光の玉を見てしまった時は、俺もシケた面のままではいられなかった。 (なんだありゃ!?) 個性のない驚きの一言しかでてこなかったが、驚いた。 彗星のような大きな青い光と赤い光が、ため池の上空あたりで、人魂が戯れるように飛び交っていた。 (赤い玉が正義のヒーローだよな……セオリー的に。いや、スパロボ的に考えると青軍か) とかなんとかくだらないことを考えているうちに、赤い玉は俺をビビらせるいとまもなく、 俺に向かって飛んできて、激突していた。 気がつくと、俺は『赤い部屋』のプールの中に横たわっていた。誰かの気配を、そこで俺は感じた。 「おい誰だそこにいるのは」 仰向けに横たわり、目を閉じたまま、俺は気配に向かって心の中でそう言った。 「君は一体何者だ」 「コンタオル・デルのサキュバス……」 気配が、そう言った。 「コンタオル・デルのサキュバス?」 なんじゃそりゃ?と、単純に思った。ゲームの攻略サイトを運営している割に、俺はRPGなどの世界観には疎い。 「そうよ。遠い異世界から、この子の兄弟と遊んでいる途中、兄弟に逃げ出されて、この地上に来たの」 「この子?」 「スティーラアム。鉄の骨と土の肉をもつ、我が眷属のカタチをしたモノ」 気配の言うことの意味も自分の置かれている状況も、俺にはさっぱり飲み込めていない。 気配が、姿を現した。 「!!」 艶かしい青紫の髪をした女だった。器量は悪くない、悪くないどころではない。 MAX100のゲージで表せば確実にカンストだ。年の頃は……俺とおなじくらいか。 俺はその女を観た。尖った耳、羊の様な角、背中に生えた蝙蝠の様な小さな翼。その異様な姿を見て、 「あ、悪魔!?」 と、また個性もへったくれもない驚きを発してしまった。 「俺は……死んだのか?」 「いいえ、死んではいないわ」 「じゃあこれは……ここは?」 よく見ると、格好も刺激的すぎた。象形文字のような蛇の柄の入った、 透けてしまいそうな薄桃色のどぎついハイレグのレオタード。 それと幾つかのアクセサリだけを纏う彼女の身体は、かなりの長身でスレンダーであるにも関わらず、 出るところはどこもはち切れんばかりであった。……俺もはち切れんばかりになってしまった。 「ねぇ、私とひとつになりましょう。私、あなたが欲しくなったの……」 女がその身をそっと俺に寄せた。 「味見、させて頂戴」 悪魔のような姿の女が免蔵のジャージの股間に顔を埋める。 女は猫のように何度も顔を擦りつけながら、小さく吐息を漏らす。 「ぁぁ……これが、地上の男……。ふふ、とってもよさそうね。 でも、まだお預けね。そろそろ帰らなきゃ、サンジェルマン様に叱られてしまうわ」 女が俺にフレンチな口付けをした。 俺を捕らえた赤い光の玉は天へと昇ってゆき、やがて地上から見えなくなった。 ■ドレル王国領上空、飛翔甲獣アーケマージル内・応接室 「冗談じゃねえ。人食いのバケモノと一緒の世界になんていられるか!俺は自分の部屋に戻るからな!」 俺はそう面きったものの、帰る手段を知らない。 ……今、俺は異世界にいるらしい。 「あんた、フィリピン人なんだろ?帰る方法教えてくれよ」 俺にひととおり、この『コンタオル・デル』とかいう世界のことを説明してくれた、 カルロスという30過ぎくらいの男に向かって、俺は強い口調でそう言った。 この船に来てまず、俺は窓越しに夜空を見せられた。 雲の内側に月があった。二つも三つも月があった。俄かには信じがたかった。 CGだ。 そう思いたかった。だが、天体の半球規模のCGなど、観たことも聞いたこともない。 それから、俺はカルロスから説明をうけた。 時空転移はある種の気まぐれにより発生し、発生から一往復しかその転移は行われない……と。 なんという都合の悪い現象なんだと、俺はいつもの如く単純にそう思った。 それから、この世界のこと説明された。 この世界が『吸精種』とかいうバケモノの脅威に見舞われていること。 そして、そのバケモノを討つために、地上の人間の特異な力が必要だということ……。 もはや信じるも信じないもない。耳の尖った奴までいる。これで例のバケモノがでてくれば完璧だった。 「お願いです……。このままでは、私たちの世界は滅んでしまいます。どうか、どうかお力を」 歳若いおかっぱの金髪の淫魔……リムと名乗った少女が、俺に懇願した。 「俺ね、こないだまで死にたいと思ってたけど、今ね、すんげえ生きてたいの。ごめんな」 俺は軽々しい口調で、彼女の顔も見ずにそう返事をした。 「困ったな……。いくらなんでも、いきなり彼にこんなことを強制するわけには……」 カルロスの表情も、曇らざるをえなかったようだ。そこに、コツコツとヒールの音が響いてきた。 「説明は済んだかしら?」 あの女が、指で髪をかき上げる癖を見せながら、応接室に入ってくるなり足を組んで椅子に腰掛け、そういった。 今はあのレオタードではなく、黒い衣に身を包んでいた。 「アンゼリカ様。説明は済みましたけど……」 リムが言った。 「悪いな。俺は帰るぞ。いや、俺全然悪くねえ。拉致られただけじゃん」 「カルロス、リム。少し外してちょうだい」 二人は返事をすると、そのまま部屋を出て行った。 「また二人きりになれたわね」 俺は黙ってアンゼリカの目を見ると、すぐにその目をそらした。なんというか、気まずい。 「さぁ、続き、しましょう」 そう言って立ち上がり、アンゼリカはいきなり衣を脱ぎ捨てた。 ついちらりと目を遣ってしまった俺の目に、手足と髪に飾りを纏っただけの彼女の白い肌が、強烈に焼きつく。 顔が、すぐさまに熱くなった。確実に俺は赤面しているだろう。 「!?」 アンゼリカと呼ばれた女は俺に近づくと、ジャージの中に潜り込ませ、下手で右手の指を俺のペニスと遊ばせ始めた。 俺のだらしない部分が、彼女の指にすぐに手なずけなれてしまう。 張り詰めた俺のペニスの先端を、アンゼリカの指は丹念に扱き続けた……。 「脱がせる愉しみも身体を観る楽しみも、今はお預け……」 左手が、俺の背中を抱いた。アンゼリカの上目遣いの瞳が、彼女の髪色に淡く光る……。 なんだ……この感じ……。身体がふわっとして……。 「今は感じなさい……」 「あんた……人間じゃないだろ」 苦し紛れと言うか気持ち良紛れに、俺はそんなことを口走ってしまった。 「人間じゃなければ、嫌?」 生理的な恐怖と、身体が熱くなるような言い知れぬ心地よさが襲い続ける……。嫌、と言えば嘘になる。 ただ、こんな場の空気は読みようがない。 志家田免蔵23歳。宴会窓際社員。ド童貞。本日は曇天なり。 「私は、好き嫌いはしないほうなの……」 あんたのことはどうでもいい……。いや、あんたの体のことは……」 !?俺は、何を考えている? アンゼリカは、微笑んでいた。俺の顔を見ている。彼女が小さく瞬きをした。 俺の心臓はバクバクいっている。たぶん、今の俺の顔は、シケているどころではない。 「さぁ、あなたを味あわせて……」 ……脱がされた。 彼女は俺のペニスを放し、両手で俺のボクサーパンツごとジャージをずり下げてきた。 少しの間、彼女は俺のペニスを見つめた。 そして俺の太ももを抱くようにして、その口に、おれの先の方を含んだ。 ちぅぅぅ…… 唇が暖かかった。 「く、くすぐったい……」 俺の言葉を聞いているのかいないのか、アンゼリカは瞼を閉じて、優しく俺の先の方を吸っている。 AVや漫画でしか見たことのない光景だったことは、言うまでもない。 今まで感じたことのない感触におれは打ち震えるような感覚を覚えた。 ちぅっ……ちぅちぅぅぅ……。 アンゼリカの形のよい尻が、羽根のせいで見えかけの位置にあった。俺は見とれるばかりだった。 ……カンスト美女が俺のちんこを吸っている。……ぶっちゃけありえない。 夢だ。この、ぼーっとするような感覚。確実に夢だ。 夢ならあのCGみたいな光景も、とんがった耳も納得できる。 イきそうだ……。 まだ、強く吸われているわけでも、唇で扱かれているわけでもないのに……。 アンゼリカを見ていると、それだけで俺の中で熱いものが湧きたてられるようだ。 なんて卑猥な女だ、いきなり俺を脱がせて、有無をいわさず俺のものに吸い付くなんて……。 まだ射精してもいないのに、こんなに心地いい気分は初めてだ。 俺はこの夢が覚めて欲しくないと、初めて思った。……そのときだった。 警報が鳴り響いた。 『市街地西部に吸精種の反応を確認!総員、第一種戦闘配置についてください!』 女の声の艦内放送がそう告げた。夢から覚まされたような気がした。 「お、おい。吸精種って、例のバケモノだろ?いいのか?」 ちぅぅぅっ……。 「うっ……。おい」 アンゼリカは瞼を閉じたまま、俺の先の方に吸いついている。 「うぁぁっ……!どうして……?そんなに刺激されてもいないのに、こんな……あっ!」 ぶびびっ!ぶびゅぅぅっ! アンゼリカの口の中に、俺の精液が迸った。蕩けるような射精の感覚に、俺は夢に引き戻されていった。 アンゼリカは、俺のペニスを口から開放した。 瞼を閉じたまま、アンゼリカは口の中のものを舌で吟味しているようだ。 おれの先端から残り汁が滴ると、アンゼリカはその双眸を開いた。 滴り落ちようと意図を引く俺の雫を、彼女の右の人差し指が受けた。 「すばらしいわ……」 アンゼリカは、俺のペニスをつまむように持ちながら、そう呟いた。 「凄まじいエナジーよ……。これが、わたしのものになるのね」 アンゼリカが微笑む。微笑みは、高笑いに変った。 どうでもよかった。射精感の余韻が、まだ俺を蕩けさせ続けている……。 「あははは!この力があれば、あの小汚い花を散らしてやれるわ」 男の声の艦内放送が告げる。 『サー・アンゼリカ・インヴァシサス、至急AG3へ搭乗せよ! 繰り返す!サー・インヴァシサス、至急AG3へ搭乗せよ!』 「もう少しここで愉しみたかったけど……続きは戦場ね」 アンゼリカが、俺の手を引く。 「来て……」 半ば放心状態の俺は、彼女に言われるまま、この手を引かれて歩き出した。 ■ドレル王国領上空、飛翔甲獣アーケマージル内・第1格納庫 「これが……スティーラアム」 カルロスの説明にあった、俺をこの世界に連れ去った、アドゴーレムとかいうロボット……。 いや、ロボットともまた違うらしいが、そんなことはどうでもいい。 灰色の巨体に、俺は圧倒された。比較的線の細いシルエットをしているが、 その禍々しさというか、俺の言葉ではうまくいえない無機質な不気味さに、俺は少しおののいた。 「なあアンゼリカ。俺、ズボン穿きたいんだけど……」 フルチンで格納庫まで歩いてきたが、誰とも遭わなかった。 おそらくは管制室かなんかでこの格納庫や通路はチェックされているのだろうが、 あの感覚に夢みせられていた俺にとっては、気になるも気にならないもなかった。 「その必要はないわ」 あの時来ていたレオタードを着ながら、アンゼリカはそう返事をした。 「あなたは裸でいいのよ」 「は?」 「第二操縦区画は、あなたの身体の変調を確実に把握する必要があるの」 「いやいや!乗らない!乗らないよ俺」 「……詳しく知りたければ、カルロスにでも訊くのがいいわ」 「人の話聞いてます?おねえさん」 レオタード姿が、またグッとくる。はて、なぜ俺は裸で彼女はレオタなのか……。 まあいい。俺は乗らない。さっさとズボンを穿かせてほしい。 「ここまでついてきておいて、まだそんなことを言うのね」 「あんたがヘンなことするからだろうが!」 突然、アンゼリカの唇が俺の唇をふさいだ。何かが流れ込んでくる……。また何かする気だ。 だがもう遅い。抵抗しようという気が俺にはあるのだが、身体が言うことをきかないし、 抵抗せずに身を委ねてしまいたい気も、少なからず俺にはあった。唇を離し、アンゼリカは俺を抱いた。 「聞き分けのない子は可愛いものね……」 俺を抱いたまま、アンゼリカは翼を広げた。微笑んでいた。 俺たちの身体が中に浮いた。彼女の翼は羽ばたいてはいない。 どうゆう原理で飛んでいるのか……よりも、俺は彼女の胸と太ももの感触が気になった。 思いっきり押し付けられ、下は、はさまれている。 その時、スティーラアムの胸にある、巨大な赤い宝珠のようなものが、俺たちに向かって光を照らした。 (ああ、こいつに吸い込まれて、俺はこの世界に……) あわよくば時空転移とやらがまた起こってくれることを願いながら、俺は機体へと吸い込まれていった。 気がつくと、俺はあの赤い部屋の中にいた。 斜めに据えられた歯医者の寝台のような赤いシートの上に、俺は仰向けに寝かされている。 ゴボッ!ゴボゴボ……! 赤い部屋になにやらローションの様な液体が満ち始めた。……液体は俺の肩の辺りまで満ちると、流れ出るのをやめた。 「遅いですよアンゼリカ様!」 艦内アナウンスの男の声が、赤い部屋に響いた。アンゼリカ俺に向かい合うように馬乗りになると、 俺の両横あたりの中に浮いている金色のリングを握り、彼女はふふっと笑ってから、その声と会話を始めた。 「ごめんなさい。敵は?」 極小のレオタード姿のカンスト美女が、俺に馬乗りになっている……。俺は、しばしその姿に見とれた。 「マンドレイカス・タイプが2体。現在、AG5が応戦中です」 「ディスティ……。まともに動くのかしら?」 「調整は万全だ」 カルロスの声がした。 「あとはリムの調子次第だ」 「リムが?」 アンゼリカの声が少し低くなった気がした。リムってのは……カルロスと一緒にいたあの金髪の子か。 「あの子は第二でしょう?自律稼動で時間を稼げば充分じゃない」 「ルイが離反した今、これからは彼女にも戦ってもらわねばならない」 なんだかよく事情のわからないことを話しているが、 まだ14、5だろうってな子が戦っていると知ると、俺は、そこで口を開いた。 「なあ、無駄口叩いてないでさっさと出撃したほういいんじゃないか?」 「メンゾウくんか。協力、してくれるんだな」 「おいおい勘違いするなって!俺はアンゼリカに変な魔法かなんかかけられて、ここにいる破目になっただけだぞ」 「だが、そこにいる以上は戦うことが一番安全な方法だ」 カルロスは軽くそう言ってくれた。来るんじゃなかった。いいもん見れたけど、来るんじゃなかった。 「戦うって……。俺、なんもできませんぜ?」 「説明していなかったな。君は、アンゼリカに身を委ねるだけでいい」 ……正直、ちょっとロボットを動かしてみたかった俺は、 どうにも帰れそうにない雰囲気の手前、カルロスの言葉に肩を落とした。やっぱり来るんじゃなかった。 「そうか……。っていやいや、帰るよ俺は。時空転移ってやつ待ちだけど」 再度の時空転移。んなもん期待したのが間違いだったような気が、もうしてくる……。 「リム、よく戦ってますよ」 艦内放送の男が口をはさんだ。というか、ただアンゼリカに告げた。 「……準備は整っているわ。開放しなさい」 「了解!AG3、開放!」 艦内放送の男の声がそう言うと、俺の脳裏に外の風景が流れ込んできた。 「な……なんだこれ?」 カルロスが告げる。 「ただの幻覚さ。スティーラアムが見た光景が、君の頭の中に流れ込んでいるんだ」 目を閉じると、はっきりと外が見えた。 ……レンガ造りの街が、赤々と燃えているのが見える。 薄霧に煙る街の中心で、茶けた緑色をした、根菜から触手の生えたような巨大な物体がふたつ、蠢いているのが見えた。 緑色のバケモノは、鏃のように黒光るドラゴンのようなバケモノを襲っている。 ■ドレル王国領、カーの街西部・市街地上空 「あれが……吸精種。ん?どっちがだ?」 「緑色のやつが吸精種さ。黒い龍も見えるだろう、そっちは味方だ。君の乗っているスティーラアムと同じ、アドゴーレムだよ」 「あれだな。AG5って言ってた奴だろ」 「そう。AG3が君たちのスティーラアム。5が、リムのディスティーリアだ」 「ところで……この……」 俺は、いまさらもじもじしながら「赤い部屋の中、そっちから見えてるのか?」と、カルロスに訊いた。 「安心してくれ。今は、アンゼリカに身を委ねるんだ」 それだけ言われた。 どうなっちまうんだ、俺。 こうなっては、恐らくどうにもならないことは、なんとなく理解できる。 戦いはもう始まっていた。 スティーラアムはバケモノの背後に回り込み、吸精種のダイコンの葉っぱの様な頭部を左腕で鷲づかみにすると、 そのまま飛び上がって地面から引っこ抜き、空へ放り投げた。 中空に放られた吸精種にが落ちてきかけたその時、スティーラアムの肩からのびた何かが突き刺ささった。 アンゼリカは無言でリングを握る手左手をふるっていた。 脳裏に写される幻の戦いと、リングの動きの同調から、スティーラアムはそのリングによって操縦されているのが想像できる。 鞭を振るうようにリングが振るわれると、吸精種がもう一体の吸精種にたたきつけられた。 黒いドラゴン……ディスティーリアに絡み付いていたその吸精種が、今の一撃でディスティーリアがぶち離されたのがみえる。 「AG5を下がらせなさい」 アンゼリカが命じた。彼女は続けざまに俺の方を向いて言う。 「味は悪くなかったけど、相性は、どうかしらね」 ぶちのめされた吸精種たちが、よろよろと立ち上がりながら、こちらに触手を伸ばしてくる。 「おい、なに余裕こいてんだよ!敵!敵!」 「ねえメンゾウ、あなたを頂戴……」 「!?」 アンゼリカがそう言った途端に、俺の身体が溶け出した。 ……ように感じた。力が抜けていく。ローション状の液体の中に、俺が溶けてゆくようだ。 「あ、あっ……」 「ああっ。いいわ。これよ……」 アンゼリカは微笑んだ。その瞳は敵を見据えている。俺はなんだか気持ちよくなってくるし、なんだよこれ……。 「メンゾウ、君の力をスティーラアムに貸してやってくれ」 チカラ?カルロスのようわからん要求に、俺は問い返そうとした。しかし、力が入らない。 触手が眼の前に迫った瞬間、赤い閃光が触手を切り裂いていた。 ……アンゼリカが、スティーラアムがやったのか。そんなことはどうでもよかった。 「マンドレイカスタイプ・1、2ともに沈黙。生体活動の停止まで、約……これは!?」 「目覚めたのね……我が眷属に仇なす芽が」 目覚めてないです……寧ろ眠い。眠い……。…………。 目が覚めると、リムがいた。 「あっ、メンゾウさんが目を覚ましました!」 ■ドレル王国領上空、飛翔甲獣アーケマージル内・医務室 「俺が……吸精種を?」 「はい。アンゼリカ様が吸われてしまって、その後は、スティーラアムが……」 全然覚えていない。……身体が重い。いや、人一人分にしては軽いんだが……ん? なんでアンゼリカが俺の上で寝てるんだ? しかも、なんか密着感がある。この感覚は……挿入? 「でぇぇぇぇっ!?!?」 知らないうちに童貞を失う世界、コンタオル・デル……。 とんでもねえ脱力感と、疲労感。 あの戦いの最中、なにがあったのか。それは、次の話に繋がっているので、次に話したほうが、たぶんわかりやすい……。 SS一覧に戻る メインページに戻る |