一人娘を救出せよ
シチュエーション


大陸の最西部、生温かい風に揺れる老女の髪のような枯れ草、只々広がる。

アヘニアの地。

大陸の強国ソルヴァールと白の王国ハルシアの境に広がる荒野。
人の営みは、其処には既に無く、
漸くしてよじ登った高台からの眺望ではとうの昔に捨てられたソルヴァールの拠点群くらいしか見受けられない。
彼らソルヴァール人が黒魔術の果てに倦みだした異界の門。
その孔から蝗の如く溢れ来る異界の住人達。
大陸西部の各国は彼ら魔族との戦いを余議なくされ、それが「大陸の魅惑」と呼ばれたアヘニアの地を一変させてしまっていた。

「さて、如何しようものかな・・・」

虚無の眺望を見やりながら男は無造作に散らせた鳶色の長髪をわしゃわしゃとさせて途方に暮れる。
男の名はウインガー。
だが其れは男の真の名ではなく傭兵ギルドでの通り名でしかなかった。
人助けから要人警護、戦場から果ては強奪者まがいの荒行まで、
依頼ごとに主を変え東奔西走する彼らにとって、本当の名を名乗ることには危険が付きまとうのだ。
そんな彼ら傭兵でも眼下に広がるこのアヘニアの地の変わり果てた光景は壮絶に感じられた。

この無数に点在する集落群の跡地に潜むと思われる正体不明の武装集団から侯爵夫人の一人娘を救出せよ。

さらわれたまだ年端も行かぬ少女を探し救い出すことが彼らに与えられた依頼であった。

「しっかし、まだ生きてんのかね。その娘は。」

後ろに立つ大男が大きく伸びをしながらぼやいた。

「なら契約通りさっさと遺品を回収してあの未亡人から報奨を貰って終わらせたいものだな。」

ウインガーは肩から下げられた革袋の中からくしゃくしゃに巻かれた羊皮紙、出立の際に受け取ったアヘニアの古い地図を広げながら答えた。
「でもよぉ・・・大体その一人娘様をさらってこんな所まで逃げてる奴ら、何者だよ。

只の身の程知らずの盗賊団とかならともかく、魔族なんかだったら面倒な事になるぜ・・・」

「よし、まずはあの砦から探ろう。」

ウインガーは聞きなれた相棒のぼやきをサラッと流し出発の用意を始めた。






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