日雇い淫魔
シチュエーション


淫魔女王「昔は玉座に座っているだけで勇敢な男たちが向こうから…」

質の悪い精しか吸えず、常に不調な故に優良な精を探すこともできない「サッキング・プア」
幼少時から吸精の機会に恵まれ、吸精技能を磨くことができ、より魅力的になる者とそうでない者との「吸精格差」
肉類や乳製品に含まれる微量の精気で生きようとする「肉食系淫魔」の登場
少数の優良な男に多数の淫魔が群がることで人間も消耗していく負のスパイラルに落ち込む淫魔社会

いまや淫魔内のヒエラルキーでいえば上級クラスに位置するサキュバスまで
精を吸うためには条件に適合する男を求める「吸活」が必要であり
労働をこなす代わりに精を受け取る日雇い淫魔も珍しくない。


朝8時の○×区中央公園

ここには職を求めるたくさんの淫魔たちが集まり、手配師たちを待つ。

「多いのは処理業や輸送業、製造業、人間にはできない危険な仕事が多い。」

数台のトラックが到着し、助手席から手配師達が降りてきた。

「××リサイクルセンターに20!!」
「○○運輸に15!!」

採用には面接が必要なことになっているが、ほぼ早い者勝ちで決まる。
手配師を誘惑して仕事を得ようとした淫魔が他の淫魔たちに袋叩きにされる場面も。

××リサイクルセンターでは
淫魔たちが一度処理した廃棄物を第二工程施設に輸送する作業に従事している。
付近には濛々と粉じんが垂れこめているが淫魔たちはマスクもしていない。
手袋や防護服もなしなため時折手指を負傷する淫魔もいるが丈夫な彼女らは気にする風でもない。

「これくらいで騒いでいたら他の淫魔に回される。技能も経験もない私たちは丈夫さだけが取り柄。
少々の傷はすぐ治るし、扇情的な服装は淫魔のアイデンティティー。蔽い隠したくない。」

○○運輸▽▼配送所

淫魔たちは主に冷凍倉庫で働く。氷点下の倉庫内を整理する仕事だ。

「人間だと動きにくい保護服が必要で作業効率が落ちる上に、倉庫内での連続作業時間にも制限がある。
丈夫な淫魔なら一日中いても問題ないし福利厚生もほとんど必要ない。」

人間労働者が昼食をとる間も黙々と働き続ける淫魔達
現状として淫魔労働者を保護する法律はほぼ存在しない。
安く丈夫な労働力を望む人間たちの思惑とともに、淫魔たちの労働観の問題もある。

「淫魔たちは人間を誘惑してこそという価値観で、労働を忌避する傾向が強い。
労働者となっても周りにそれを隠す淫魔も多いうえに、偽名で働く者もいる。
大半が日雇い仕事なため職場での連帯意識も低く、労組も生まれない。
淫魔女王は『精を乞う淫魔などいない』という姿勢で淫魔労働者の存在そのものを認めていない。」

一日の労働が終わり、給料としての精を吸うことができるはずの時間
しかし淫魔労働者達は手配師から「労働証明書」という1枚の紙を受け取るだけだ。

「この紙があれば淫魔娼館で一日働くことができる。精が吸える最高の職場」

その紙に書かれた住所はここからかなりの距離があるが、交通費の支給はないため飛んでいくという。

「私たちの状況が良くないことはわかっている。でもこうやって暮らしていけば精は吸える。」

そういって彼女は夕闇の中へ消えていった。

●◎市⇒×町

ここには何軒かの淫魔娼館が並んでいる。
この日ある淫魔娼館で働くことになったSさん(仮名)と接触した。

開店前、Sさんは念入りにベットメイキングを行う。

「今日1日だけでもここは私の餌場。気は抜けない。」

開店後は人間から指名を待ち、精を吸う。

一回の吸精ごとに部屋を掃除し、ベッドを整える。
ゴミ出しや洗濯も淫魔達が交替で行う。
フロントや経理にいる人間を除けばほとんどの業務が淫魔によって行われている。
が、淫魔娼館では労働そのものが給料となっている為、利用者が支払う代金はすべて店側の収入となる。
「淫魔が人間から吸う以上を人間が吸っている」状況だ。

淫魔達が淫魔娼館に拘るのには訳がある。
合法的に精を吸うことができる場が年々減っているのだ。

古来よりの吸精法とも言うべき「人間を誘惑する」という方法の場合

「少子化で人間自体が減っているうえ、優良な精を持つ人間は上級淫魔が囲いこんでいる。
下手に手を出そうものなら報復を受ける。」

結果的に十分な精を得るには働いて淫魔娼館で働く権利を得るしかない。

また淫魔が人間を買うことも難しい。
許可を得た手配師を通さない労働は人間の雇用確保のために禁止されており
手配師の仕事も金銭を得る仕事は禁止、すべて精で支払うことになっている。
淫魔娼館以外での金銭を受け取っての吸精は売春行為として取り締まられているため
淫魔が現金を得る術はない。

1日の労働を終えたSさんは住処へと案内してくれた。
●◎市にある淫魔収容施設だ。
アスベスト問題で建設中止となった団地を再利用した施設でインフラなどは通っていない。
一見すると廃墟のようにも見えるが、大勢の淫魔が暮らす賑やかな場所だ。

「ここには毎日顔を合わせる仲間がいる。皆が家族。」

中庭ではまだ幼い淫魔達が遊んでいる。町中では見られない光景だ。

2LDKの住居となるはずだった部屋には廃材を利用した2段ベットが並び
個人のスペースはほとんどない。が、Sさん達はあまり気にしない。

「眠るだけの場所があれば十分」

午後10時就寝
と、同時に部屋中淫魔がSさんに集り始める。淫魔同士での吸精が始まったのだ。

「精にありつけなかった淫魔はああするしかない」

翌日Sさんが語ってくれた。
昨日1日で吸った精の半分が持っていかれたという。

「私も仕事がなかった時はああやって食いつなぐ。それがここのルール」

誰かが決めたわけではなく、ここの居住者たちが助け合うために自然にできたルールだ。
とくに幼い淫魔には優先的に精が回される。

「まだ幼い淫魔達は働くことができないし親に仕事があるとは限らない。皆が助け合って育てている。」

Sさんには心配なことがある。
若い世代の淫魔達が人間を誘惑することや夜活動することを忘れ始めているというのだ。

「産まれたときから昼間人間社会で働く親を見て育っている。私たちのような暮らしは淫魔の本道とは言えない。
精は必ずしも労働の対価ではなく、快楽によって贖うものであることや夜は寝るものではないことを知ってほしい。」

Sさんは今日は化学工場で働くという。






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