窓を叩く音
シチュエーション


窓を叩く音がする。

コンコン。コンコン。

確かに誰かが叩く音がする。
気になって開けたら、いきなりキスされた。

「こんばんわぁ〜」

豊満ボディに不釣合いなロリ顔青髪。背中から申し訳程度に生えた黒い羽と頭から生える小さい角が、彼女が人間ではないことを物語っていた。

「だ、誰ですかあなたは。というより、ここ二階なんですけどっ!?」

唇に残る暖かい感触が生々しくて、ドキドキが止まらないまま叫んでいた。

「ん〜、私サナ。サキュバスなの〜」
「サキュバスなの〜じゃないですよ!それに勝手に部屋入らないで欲しいんですけど」

サキュバスのサナちゃんは窓からひょいと部屋に上がりこむなり、本棚のエロゲの箱やエロ漫画、美少女フィギュアなどを興味深そうに観察している。

「うっは〜、これはかなりのオタクだね。たまってそ〜」

サナちゃんは汚いオタニートの僕の部屋を眺めて、しきりに感心している。
サナちゃんの衣装は一言で言えば破けたスク水。しかし胸から腰まで入った切れ込みや、パックリ開いた背中、肩と腰に付いたフリフリが可愛らしいくもエロいデザインになっていた。
そして……なんだか、甘ったるいバニラのような匂いがする。香水、だろうか?

「これ……現実?」
「もち!」

笑顔で頷くサナちゃん。そっか〜、ホントに現実だったんだ〜。エロゲで培った妄想を具現化する魔法が使えるようになったのかと思ったよ。
「もう一度、キスしてみる?」

パソコンの前に座る僕に近づくキュートなロリフェイス。潤んだ瞳は怪しい光を放ち、艶やかな唇からは控えめな舌が覗く。
夢のような現実に抗う気などなく、僕はサナちゃんを受け入れた。

「んっ……」

くちゅっ、くちゅっという淫靡な音が、サナちゃんの舌使いの激しさを物語っている。
初めてのキスは想像していたのと全然違った。味なんてしないと思ってた。でも、サナちゃんのキスは……。

「ぷあっ……。どう?サキュバスのキスは?死にかけの爺さんだってビンビンになっちゃう発情成分入りなの〜」
「すごく甘くて……おいしい。も、もう一度!」

サナちゃんとの間に架かった唾液の橋を追いかけるように、サナちゃんの口にむしゃぶりついた。

「あはっ!すっごい欲情した顔してる。いいよ〜、もう一度させてあげる。でもどうなっても知らないわよ……んっふ……」

舌で犯されてるみたい。サナちゃんの舌ってこんなに激しく動くんだ。キスってしたことないけど、女の人ってこんなにすごいの?
夢中になってどれだけ舌を絡めていたのだろう。キスだけでわけがわからなくなって、時間の経つのも忘れていた。
口を離したサナちゃんは頬を上気させていて、すごく興奮してるのが分かった。

「信じられない。オタクだからって、なんてバカなの〜。私の唾液そんなに飲んだら、イキ過ぎて死んじゃうよ〜?」

呆れたように言うサナちゃんだって絶対興奮してる。人のことなんか言えないはずだ。
なんだか体が熱くなって、下半身がじんじん痺れてきて……。

ビュッ、ビュルッ。

「あっは!なんにもしてないのにイッちゃった。うっわ〜、まだガッチガチ。全然出し足りないみたいね〜」
「う、うん」

サナちゃんの言う通りだった。僕の下半身は火を入れられたみたいに熱くなってて、せり上がった精液が尿道の先から溢れそうなほどパンパンに溜まっていた。

「すっご〜い。おいしそ〜」

僕はイスの上でお尻を浮かせて、ピンと腰を突き出していた。ガマンできなかった。何もしてなくても暴発してしまいそうだった。

「サナちゃん……は、早く……」

サナちゃんはサキュバスの本領発揮とばかりににや〜っと笑って、よだれを垂らして僕のチンポを見ていた。

「いっただっきま〜す!」
「うわぁぁぁぁぁあぁ……ぁあ……」

すごっ……。チンポ溶けそう……。
サナちゃんの可愛らしい口が僕のチンポを咥えたとたん、柔らかい快感が優しく広がった。

「うあっ……サナちゃん、これすごすぎ……うひっ」

僕は情けない声を出してサナちゃんの口の中へ射精していた。
サナちゃんは口をすぼめて僕の精液を啜った。

「濃くておいし〜。やんっ、すごい量。こぼれちゃう〜」

僕を見上げて小悪魔っぽく、いやサキュバスだから淫魔っぽく微笑むサナちゃん。口の端から垂れる、飲みきれなかった精液がこの上なくエロかった。

「ふあっ、はぁ……あぁ」

全身から力が抜けるような圧倒的な悦感。筋肉の繊維一本に至るまでふにゃふにゃに弛緩していく様が分かるようだ。
抗いがたい虚脱感に、ふと眠気が忍び寄り、僕のまぶたを押し下げる。

「眠っちゃダ〜メっ」

至福の眠りに陥りそうになった僕は、サナちゃんに亀頭を指先でほんの少し弄られただけで強制的に覚醒させられる。

「うひゃ」

ロリ顔に似合わないねっとりと絡みつくような艶顔。僕はサナちゃんが何を言いたいのか分かっていた。
なぜなら僕のチンポを優しくつまむ指先が小さく動くだけで、二度の射精で敏感になったそれは、思わず声が出てしまうほどの快感を伝えてくるのだから。
もっと、もっと欲しい。
不思議なことに、フェラで圧倒的な満足を得られたはずの僕の性欲は、新たな欲情の炎を燃え上がらせていた。

「サナちゃん」
「なぁ〜に?」

きっと今僕は舌を出して息を荒げる犬のように見えているに違いない。サナちゃんの笑顔は全部お見通しだと語っている。
それでもその先を言ってくれないサナちゃん。僕は早る気持ちを押さえきれずに、ベッドの方へ視線を向けた。
その直後、抱きつかれた。

「うわっ」
「もぉ〜っ!かわいいいぃ〜!」

女の子のやわらかさを全身で感じて、今すぐにでもサナちゃんをメチャクチャにしたい衝動に駆られた。
僕が力を込めて抱き返すと、サナちゃんは耳に息が吹きかかるほど口を寄せて言った。

「したいんでしょ?……いいよ」

女の子に、それもこんなに可愛い娘にこんなセリフを言われるなんて、今までの人生で一度だって予想できなかった。
幸せだ。僕は今幸せだ。
今この瞬間になら、死んだっていい!
ベッドになだれ込んだ僕とサナちゃんは、抱き合ったままお互いの体をまさぐり合った。

「すごい。女の子の体ってこんなに……すべすべして、白くって……」

サナちゃんの服は露出部分の方が多いようなスク水もどきだ。そのスリットから手を差し入れて幼さの残る体に似合わない豊満なおっぱいを、夢中で揉みしだく。

「うふふ、ありがとぉ。あんっ、気持ちいいっ」

時折快感を堪えるような表情をして喘ぐサナちゃん。自分の愛撫で感じてくれてることがたまらなく嬉しくて、すでに限界を超えたと思っていた僕の興奮をさらに煽る。

「サ、サナちゃん。もう――」

その先を言うより早く、サナちゃんは僕のチンポを握り、ゆっくりと自らの秘所へ導いていく。
まるで僕の心を読んでいるように、いや、事実読んでいるのかもしれない。男を手玉に取ることが仕事のサキュバスなのだ。男のして欲しいこと、どうすれば男が興奮するか、表情や仕草だけで全て分かるのかもしれない。
一瞬ドキッとした。なぜならその瞬間のサナちゃんの顔は、まさに獲物を前にした狩人のような――。

「教えてあげる……この世にはちゃ〜んと天国があるんだってこと」
「う、うあああぁぁ」

ぬちゅっと音が聞こえたのは気のせいだろうかと考える暇も無く、僕のチンポはサナちゃんの性器に飲み込まれた。

「ああぁぁ〜ん、きっくぅ〜!初物童貞チンポ最高なのぉ〜。それに、二回も射精したのにすっごいガチガチ。これならちょぉ〜っと搾っちゃえるかも」

恍惚にとろけた顔で、口元に指を当てて喘ぐサナちゃん。
されるがままに騎乗位で挿入させられた僕は、まさにその天国を味わっていた。

「くっ、あああぁぁ。くぅっ」

苦痛に耐えるような声が漏れてしまう。でも感じているのは快感だ。混じりっ気なしの純粋な快感。
あまりの気持ちよさに言葉を考える余裕すらなく、ただ顔をしかめて喘ぐことしかできない。

「あはっ、気持ちよさそうな顔してるねぇ〜。私も、ああんっ、もう腰から下がじんじん痺れて……溶けちゃったみたいっ!」

言いながらも、激しく腰を上下させるサナちゃん。気持ちよすぎて自分の意思では指一本動かせず、電気を通されたみたいにビクビク痙攣するしかない僕から見れば、サナちゃんは余裕そのものに見えた。
それでもサナちゃんももの凄い快感を感じているということは、どんどん激しくなる腰使いからも明らかだった。

「あうん、あふっ……すごっ、気持ちいい。気持ちいいよぉ〜」

待ってサナちゃん!これ以上されたら、もう……。
言葉にする余裕なんてとうに失われている。ほどなく僕はその気持ちよすぎる蜜壺に大量の白濁を注ぎ込んでいた。

「あんっ、出てる〜。おいしい〜」
「くぅああああぁ……」

きゅっきゅっと、まるで租借するかのごとく締め付けてくる肉壺に、なすすべなくありったけの精子を搾り取られる。
その気持ちよさと言ったら……。下半身が溶けて無くなって、僕もそのまま天に召されるような……。

「……」

いつまでも引かない絶頂感。女の子はイキ続けることができるってエロゲで得た知識だけど、まさか男にもできたなんて初めて……知った……。

「あっ」

サナちゃんの驚くような声がしたが、どんな表情をしているのか見ることが出来ない。僕はいつの間にか自分がまぶたを閉じてしまっていることに気付いた。気付いた、が……もう目を開けることが――。

「やばっ、やっちゃったかも〜」

きっと”やる”の字は”殺る”だ。
そんな声を最後に僕の意識は恍惚境の中へと沈んでいった。

「ん……」

何かを漁る音がする。

ゴソゴソ。ゴソゴソ。

確かに漁る、乾いた音がする。
何かと思って体を起こしたら、黒くて小さな羽が生えた可愛い背中が、部屋の隅でうずくまって何かをやっていた。
そういえば昨日はサキュバス少女のサナちゃんが家にやってきて、いきなりエッチしちゃったんだっけ。
童貞の僕の初エッチは、あんまり気持ちよすぎて途中で寝ちゃったんだ。
サキュバスなんていうエロゲの中にしかいないような女の子に出会って、しかもエッチに突入なんていう、どう考えても異常な出来事を前にしても、なぜか心の中は落ち着いていた。
まるで最高の快楽を伴う射精と共に、魂まで吐き出してしまったような感じだ。

「サナちゃん?」

なんとなく声をかけてみただけなのだが、サナちゃんの反応は激烈だった。

「うきゃあああああああああああああぁん!」
「うわぁ!」

逆にこっちが驚くほどの大声を上げて、サナちゃんが慌てて振り向いた。
その拍子にサナちゃんの周りにポロポロと白い塊が転がって、サナちゃんの口にも白い何かが咥えられていた。

「えーと……なんでティッシュ食べてるの?」
「食べてないっ!」

叫んだ拍子にサナちゃんの口からティッシュの塊が飛ぶ。
僕のとこまで飛んできたそれを手にとってみて、ごく普通のティッシュだということが分かる。いや、指に当たる感触はやけにカリカリしていて、これは……。
一つの予感が脳裏によぎって、そのティッシュの匂いを嗅いでみる。
うっ、これは……。
僕の思考が正解に到達したことをその表情から読み取ったのだろう、サナちゃんは急激に顔を赤くして恥ずかしがった。

「えっと、えっとね……これは違うの〜。私はそんなはしたない真似する娘じゃ……」

なんとサナちゃんは僕の部屋のゴミ箱を漁っていたのだ!そしてその中身は全て……悲しいかな日課のエロゲの際に消費したティッシュが詰まっている。つまり――。

「だって、だってね?何十回、何百回分の濃〜い精液の匂いがしたら、誰だって吸い寄せられちゃうよ。ネコにマタタビって言葉くらい知ってるでしょ!」
「それで、僕の部屋のゴミ箱に顔を突っ込んで、ふがふがやってたわけ」
「うっ……」

そんなに恥ずかしいのか、言葉を詰まらせて今度は青ざめるサナちゃん。
昨日はまさにサキュバスといった激しい責めっぷりで、僕は童貞を奪われたばかりか三回も射精させられた。もう面白いように遊ばれたと言っていいだろう。
そのサナちゃんが今は恥ずかしさに身悶えしながら慌てふためいている。

「いいね、実にいい」
「何がっ!」

しまった、つい心の声が出てしまった。恥ずかしさを誤魔化すように、今度は怒り出すサナちゃん。

「何ニヤニヤしてるのっ!もぉ〜〜〜っっ!」

元々の愛嬌あるロリ顔のせいか、頬をふくらませて怒る顔も、非常に可愛い。
本当はもっと怒る顔を見ていたいのだが、僕はSではないのでこの辺を引き際にした。
”使用後のティッシュの匂いを嗅ぐ”という性癖はあまり触れられたくないようなので、あえて話題を変えてあげる。

「ところでサナちゃん、昨日はなんで僕の部屋に来たの?」

本当はなんでまだ部屋にいるのか聞きたかったが、それを言うとエロゲの世界でもバッドエンド確定なので飲み込んだ。女の子と話す基準がエロゲってどうよ?ははは、自分でもなんか悲しくなってきた。

「あっ、そうだ!」

僕の質問を聞くやサナちゃんは窓に駆け寄り、少しだけ開けて外の様子を確かめだした。

「うん……うん、大丈夫みたいね」

一人外を見て頷くサナちゃん。その表情は真剣そのものだった。

「えーと、話、聞いてる?」
「追われてるの」

振り向いたサナちゃんは、これまでとは打って変わって真剣な表情で、ロリ顔はそのままのはずだが、なぜか大人びた雰囲気を感じさせた。

「私以外のサキュバスって見たことある?」
「はい?」

理解が及ばず、つい間抜けに聞き返してしまう。
サキュバス、それは男の理想。エロゲ界のスター。いや、そんなことは置いといて、現実にそんな存在があるなんて誰も信じないに違いない。僕だってサナちゃんと会わなければ信じていなかった。

「日本は股間を膨らませた男ばかり。サキュバスにとっては山のように料理の積まれた大皿みたいなものなの。でもね、そんなごちそうがあっても、サキュバスは誰もいない。なぜか――」

なんか口調まで変わってる?突然のシリアスモードについていけず、僕はただ魅入られたようにサナちゃんの話に聞き入ることしかできなかった。

「狩られてるの。昔から日本には優れた退魔の家系がいくつもあってね、独自のネットワークを形成して魔物を狩り出してるの。だからこの国には人外の存在はいない」
「じゃ、じゃあ」

聞かずにはいられなかった。

「じゃあなんでサナちゃんは平気なの?他が全部狩られちゃって、誰もお化けなんて信じなくなって、そんな状況なのになんでサナちゃんは今まで生きて――」

サナちゃんのシリアスモードが壊れた。

「そっれは〜、私が超〜優秀で、最強のサキュバスだからなのぉ〜。今でもたま〜に見つかるようなお仲間さんなんかは都市伝説になって、オカルト本のネタにされてるみたいだけどね〜」

思わずコケそうになった。態度と表情が変わりすぎだよこの娘。もう昨日出会ってから振り回されっぱなしだ。

「でもドジってヤバいのに見つかっちゃって、えへへ……慌てて逃げて来たの。でもラッキーかも。久々にお腹いっぱいになったし、誇っていいよ、昨日ヤリすぎて殺っちゃうとこだったのに大丈夫だなんて、結構すごいことなんだから。いい人見つけたな〜」

昨日のエッチを思い出したのか、顔を紅潮させてにへらっと笑うサナちゃん。僕は思い出しても恥ずかしくなるだけなんですけどね!

「で〜、ここ、見つかってないみたいだしぃ〜、しばらく隠れさせて?」
「え……それって」
「私、サナはこの部屋の同居人になることを宣言します!」

なぜかビシっと敬礼して声を張り上げた。
いやいやいや、いきなりそんなことを言われても……。

「とりあえず僕の名前くらい聞いてくれ……」

張り切るサナちゃんとは対照的に、僕はがっくりと肩を落とすのだった。






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