シチュエーション
![]() これは、とある淫魔の少女が、下僕にスケベな青年を選んだ事から始まる物語。 スケベで、自分の欲望に忠実で、お調子者な青年。 次期女王候補であり、その中でも際立った力を持つ淫魔の少女。 人間と淫魔は、相容れられる存在とは言いがたい。 あくまで『餌』と『捕食者』という関係でしかないのだ。 そしてそれは、彼と彼女においても、例外ではない。 ただ、そのルールは誰が決めたのか? 何を以ってそうせざるを得なかったのか? これは、淫魔とヒトが生きる、小さな物語。 休日の繁華街は、当然のように大盛況。特にデパートともなれば、もうヒトが有象無象。 どこかの大佐ではないけれど、少しばかり数を減らしたいとすら思ってしまう。 「フフフ……ヒトがゴミのようd」 ベチコォン!頭を叩かれ、振り返る。そこには赤毛の美少女――。 「アンタ。その考えがダダ漏れなトコ、直したほうがいいわよ?」 いや、淫魔ミオ=ソーティスが、呆れた様子で立っていた。 無論、盛大な音を立てた張本人である。痛くはないいものの、音を耳にした周囲の女性陣の視線が痛い。 だが俺はそんな事よりも、人間離れしたミオの美貌と白のワンピースが似合いすぎていて、見惚れてしまっていた。 「ん、あ、ああ。悪い。あんまりにも暇、というか落ち着かなくてな――」 どもりながら、言葉を返す。もちろん、彼女に見惚れている事だけが、落ち着かない理由ではない 仮にもここが食料品売り場であれば、それなりに楽しめる自負はある。 本屋であれば、エロコーナー直行で、むしろリラックスタイムに持ち込める。 ただ今、俺――平正直助が居る場所は、いわゆるその、女性用下着売り場なのであった。 「何よ。いつもだったら半脱ぎがいいとか、ずらすだけがいいとか、黒だの白だのストライプだの――」 「ちょ、おま。場所と時を弁えろ!」 すらすらとちょっと真昼間からは危険な事を言い放つミオの口を抑える。 恋人同士の痴話喧嘩とでも思ってくれているのだろうか、美人の店員さんがクスクス笑っているのだけが救いだった。 「――ちょっと。アンタ、何考えてるの?」 急に。本当に、いきなり不機嫌になるミオ。何が原因かと考え、内心で美人と褒めたせいかと気づき――。 「ふぅーん。ま、アンタが誰をどう思おうと自由だけどねー。 ――ただ明日から、アンタ学校に居られないかもね?ふふっ」 にやりと、まさしく悪魔のような狡猾に笑うミオに、俺は肩を落とすだけであった。 「お、おい――流石にこれは、ヤバいって!」 下着売り場から早々に逃げ出し、俺はミオに手を引かれるまま、トイレに連れ込まれていた。 貞操の危機!なんて馬鹿馬鹿しい事を言っている場合ではない。 なにしろ『女子トイレ』の奥の個室に連れ込まれたのだから。 この場合、何かあれば変態として扱われるのは、ミオではなく間違いなく俺である。 「大丈夫よ。人除けはしてあるもの」 「いやお前、前もそんな事言ってた癖に――」 相変わらずどこか不機嫌な様子で、ぶっきらぼうに言葉を返してくるミオ。 彼女は俺の心を読もうと思えば読めるらしい。少なくとも、気分の察知程度は常時できるそうだ。 俺はまた、彼女の逆鱗に触れてしまったのだろうか――。 そう考え、原因を究明しようとしていた俺の頭に、ミオの両腕が回され、 「んっ――」 唇が、奪われた。 一瞬だけたじろいでしまったが、躊躇なく侵入してくる舌に、逆襲をしかける。 だが、彼女の甘い唾液が、息が、肌が、匂いが、俺の頭を溶かしてゆく自覚があった。 何分たったか分からない。時間の感覚も分からない。 「――ぷはっ」 ようやく解放され、短い糸が唇を繋ぐ。先ほどまでと打って変わって上機嫌な様子が見て取れた。 だが、彼女のキス責めで胡乱になった頭では、何故そうなったのかまでは至れない。 「ほら、座って♪」 蓋を閉じたままの便座に、押し倒されるように座り込む。 キス責めで腰が砕けそうで、抵抗はできなかった。そのままミオは、俺の顔をじっと見つめてくる。 その瞳は、怒りとか嫉妬ではなく――嬉しい、という気持ちがあるように見えた。 「ミオ。お前、いきなりどうして、こんな所で――」 「ふふ、教えてあっげなーい。ああでも、いい事を教えてあげる。私、今――」 耳元に、紅色の唇が迫る。抱き締められているような状況の俺は、特に抵抗する事なく、次の言葉を待つ。 「とても上機嫌。あと、下着はいてないの。朝から」 その悪魔的な言葉に、先ほどのキスで既に戦闘態勢に入りつつあったペニスが、更なる膨張を見せる。 ミオは腰砕けなままの俺をそのままに、息子へと手をかけて白布の下にある魔膣へと誘っていった。 全く前戯をしていないにも関わらず、ミオの膣は溶岩のような熱さで、俺の息子を迎え入れた。 「ぐっ……!パ、パンツはかずに外を歩いて興奮するなんて、へ、変態だな!」 下僕と主人の契約を結んで以来、幾度と無く回数をこなしてきた。 だが気を抜けば、最初の頃のように一瞬でイかされかねない。 童貞であった頃の俺とは違うということを、ミオに思い知らせてやりたい。 その一身で、歯を食いしばりつつも、逆に挑発するような言葉を返す。 「あら、だって私は淫魔だもの。人間の感性なんて知らないわねー」 ぐりぐりと、左右に円を描くように腰を回しながら、余裕の表情でミオは笑い、返してきた。 その度に、俺の息子は縦横無尽に蹂躙され、ペニスに食いつくような肉の甘噛みに打ちのめされてしまう。 「でも……嬉しかったわよ?」 不意に。頬を赤らめて、少しだけそっぽを向くミオ。 へ?何が?そう問い返そうと思った。 理由はよく分からない。分からないが、俺の体はこの時、言葉を口にするのではなく、勝手に動いていた。 今度は俺から。ミオの唇を奪い、舌を絡める。 彼女もそれに合わせるが、先ほどのように淫魔としての力で、俺を蹂躙するという事は無かった。 抱き締め、唇を吸い、吸われ、肩口をなめあげられ、耳たぶに甘噛み、腰を突き上げ、腰を揺られ。 時間も場所も、何もかもどうでもいい。自分の腕の中にミオが居て、ミオの腕の中に俺が居る。 ミオは、感じていたような気がした。今まで、こんな彼女は見たことが無い。 「んっ、直助、直助――」 甘く呼びかけられ、現実に引き戻される。 俺はもう既に限界を迎えようとしてた。だが、彼女も感じている様子で、どうせなら――。 「――!」 ミオの腰の動きが、唐突に変わった。 先ほどまでが例えば、俺とミオの関係は別にして、恋人同士のセックスであったとしたならば。 今度の動きは、俺というエサを捕食するサキュバスの動き。今までに幾度となく経験したその動き。 「う、う、み、ミオーッ!」 ただの人間である俺が、それに耐えられるはずもない。 柔らかく繊細な、男のペニスを攻め立てる為だけに存在する繊毛。 彼女の膣にあるその全てが轟き、カリ首も裏筋も、尿道に至るまで一斉に刺激が増し、俺はなすすべなく射精していた。 「は、はぁ……はぁ……」 いつもと同じ脱力感。下僕として吸われた精気は、ミオの魔力の糧となると聞かされた。 女王を目指すミオと、彼女に選ばれた俺が、このような行為に励む理由はそれである。 ミオは立ち上がる前に、俺に軽くキスをする。 「ほら、少し力を戻してあげたから。これで立てるでしょ?」 彼女は、いつも通りのミオに戻っていた。強気で、少し傲慢で、でも優しい――まぁ恥ずかしくていえないけどさ。 だから、だからこそ……今日のこの、ミオの挙動は不振だった。 最初から、最後まで。何一つ、分からない。 「なぁ、ミオ。ひとつだけ、言っていいか?」 いつもの飄々とした笑みを浮かべる彼女に、問いかける。無言を、俺は肯定と受け止めた。 「俺が何か悪いことしたなら――謝る。俺はスケベだし、あんま考え深い奴じゃないからさ。 だから文句があるなら、はっきり言ってくれないと分からないんだ」 心からの本心だった。ミオが何故、いきなり性交を迫ってきたのか。 また、その途中での豹変。今までに無い恋人のようなセックスと、唐突な吸精の為の動き。 晴れないその心のもやを、彼女に俺は晴らして欲しかった。少しして、ミオが口を開く。 「文句なんて無い。私と、この服が似合ってるって思ってくれたでしょ?それが嬉しかっただけ、分かる?」 確かに、俺がミオを面と向かって褒めた事はほとんどない。それを喜んでくれたなら、今後はもっと褒めよう。 だが、本当にそれだけなのだろうか? 「さ、行きましょ。まだ私、行きたい所が沢山あるの。エスコートしてくださるかしら?」 トイレの中で、あまり締まらない状況だけれど、まだ納得のいかないところはいくつもあるけれど。 「かしこまりました、お姫様。エスコートさせて頂きます」 今は、これでいい。俺は少なくとも幸せで、ミオは今を楽しんでいる。 女子トイレの中という締まらない場所で、仰々しく礼儀を交わした俺たちは、直後、盛大に笑っていた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |