シチュエーション
![]() 【サキュバス】 サキュバスとは、夢魔の一種であり、男性の精を摂取して生存する女性型夢魔の一種である。 サクバス・サッカバスとも呼ばれ、摂取対象の男性の理想の存在として顕れる怪異であり、 世界各地で多くの目撃・体験例を持つという稀有な悪魔でもある。 (以下20行略) サキュバスは基本的に妊娠しない生命体である。 不老不死である彼女たちにとって、性交渉というものは単に食事であるにすぎない。 人間の精液を子宮に受け入れることは彼女たちの生命活動維持のための栄養補給であり、それ以上でもそれ以下でもない。 彼女たちには感情もない。 男性を幻惑するための仕草はすべて、生来の本能に基づくものであり、それにはいささかの感情も含まれていない。 まるでカメレオンが身体の色を変えるように。 まるでチョウチンアンコウが発光器官でエサをおびき寄せるように。 その媚態はすべて、捕食のための本能的行為でしかない。 さて。 本項執筆者は冒頭で「基本的に」と述べた。 サキュバスは基本的には妊娠はしない。 しかし、例外も存在する。 彼女たちは数千年に一度ほどの頻度で、妊娠し出産をする。 その機構は不明であるが、彼女たちサキュバスの間での言い伝えによると、サキュバスには世界中の男のなかに一人だけ、 自分を妊娠させることのできる男性がいると信じられている。 その男性は、サキュバスの各個体によって異なっている。 Aというサキュバスを妊娠させられる男性であっても、A以外のサキュバスを妊娠させる能力を持ってはいない。 サキュバスたちはその極めてごく稀なその男性を「運命の男(オム・ファタル)」と呼んでいる。 各自にとって世界に一人だけしかいないその男性には、サキュバスの魅惑の魔力は通用しない。 いかに彼女たちがその魅力をふりまこうとも、その男性には効果がない。 ただ赤心の至誠だけが、その男性を手に入れる唯一の方法である。 多くのサキュバスは、その男性を手に入れることはできない。 稀有な出会いのなかの、きわめて幸福な例外だけが、サキュバスの妊娠へと至る恋愛である。 その「運命の男」が、サキュバスの愛情に気づき、愛し合ったとき。 サキュバスは妊娠し、あらたなサキュバスを産むといわれている。 そして、その子サキュバスを育てながら、不老不死のサキュバスは定命の「運命の男」の寿命が果てるまで、 無限で無償の愛を捧げ続ける、とサキュバスの言い伝えは告げている。 『レクラム文庫版・世界幻想怪異百科』より抜粋 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |