白昼夢
シチュエーション


時刻、22時21分。天気、曇りだが湿気は少ない。風速、西へ2m。
確認し終えると、俺は双眼鏡を取りだした。レンズの向こうにネオンサインで輝く街並みが見える。
そこから俺は視線を動かして目的の場所を探す。

大通りから東へ探していくと、すぐに目当ての建物が見つかった。ネオンと深夜の熱気で歪んだ街。
その中に、物々しくそびえ立つ巨大なビルがある。この辺りでも有数の高級ホテルだ。
その最上階、大きなベランダとガラス戸が特徴のVIPルームの中に、男が一人で大きなソファに腰掛けて葉巻を吹かしていた。
白いスーツと、遠くからではよく分からないが高そうな装飾品で身を飾っている。

そこまで確認すると俺は双眼鏡から目を離した。
後ろに下がり、置いてあった二つのアタッシュケースを手に取る。ダイヤル式の鍵を開けると、中から仕事道具のパーツを取り出す。
銃身を組み立て、グリップを繋ぎ、所々の埃を払いつつ全体像を作り上げていく。最後にスコープを付ければ、見事、全長620mmの狙撃銃の完成だ。

さっきの男が今回の標的、マテオ・ガラメンティだ。隣の都市のマフィアのボスだが、俺が加わる組織が内輪揉めで混乱しているのをいい事に、この都市にまで縄張りを広げてようとしてきた。
俺のボスは事をなるべく穏便に済ませようとしたが、奴はそんな気は毛頭無いらしい。暫くの折衝と抗争の後、子飼いの暗殺者である俺に仕事が回ってきたという訳だ。

そして、俺の仕事は最終段階に入っている。
奴は今、この街のホテルに我が物顔で居座っている。そして、俺はそこを完全に監視できる場所にいる。街のシンボルでもある電波塔の上だ。本来なら一般人が立ち入れる場所ではないが、ボスの根回しも

ある今回は特別だ。部屋からの直線距離はおよそ600m。この距離なら仕損じる事は無い。後は奴の隙を逃さないだけだった。

暫く待っていると、一人の女が部屋に入ってきた。ウェーブの掛かった赤毛の女だった。
豊かな胸、くびれた腰、突き出た尻。そこいらの人間が欲望と羨望が詰まった視線で見つめそうなプロポーションの体を、黒いドレスで包んでいる。

その女は、ソファに座るマテオに笑顔で手を振った。それにマテオも下衆な笑顔で答える。どうやら、部屋に入ってきた女はコールガールらしい。この街の女を味見しようという腹だろうか。全く、下らない。
そう思いつつも、双眼鏡からは目を離さない。標的がいつ隙を晒すか分からないのに目を逸らしていては、狙撃など出来る筈もなかった。そのせいで出歯亀をする羽目になるとは思ってもみなかったが。
部屋に入ってきた娼婦は、マテオと暫く会話を交わした後、ソファに座る奴の肩にしなだれかかった。マテオはその肩を抱いていたが、我慢できなくなったのか、娼婦の顔を無理矢理自分に向けさせると、その唇を奪った。
どうやら、ベッドルームに行かずここで始めるらしい。元気なものだ。

二、三度、唇を触れさせるようなキスを交わした後、マテオは娼婦の唇に大きく喰らいついた。舌を絡め取られているのだろう。ソファに押し倒されながら、娼婦が肩を震わせる。
そうして娼婦を組み伏せていたマテオだったが、それに飽き足らずドレスの黒い布地を下着ごとずり下げると、剥き出しとなった乳房を揉みしだき始めた。娼婦は顔を赤らめて胸を隠そうとするが、マテオがそれを許さない。
娼婦の口中を貪っていたマテオの舌が、首筋を這って空いた乳房に吸いついた。ようやく解放された娼婦の口から、甲高い喘ぎ声が漏れる。
いや、実際に聞こえはしないが、娼婦が見るからに喘いでいそうな顔だったので、つい補足してしまった。
ともかく、娼婦は胸を責められて喘いでいる。そこらを歩いている女共とは一回りも違う大きさの胸だ。吸いついている方はさぞかし気分がいいだろう。大きい胸は感度が悪いと聞いたことがあるのだが、あれは嘘だったのだろうか。
そんな事を考えていると、マテオの空いた左手が娼婦の足の間に伸びた。それに気付いた娼婦が足を閉じようとするが、これもやはりマテオの体に阻まれ敵わない。手が秘所に到達すると、娼婦の体が一層大きく跳ねた。
相当激しく責めているようで、娼婦の手が虚空を掻いている。飛び跳ねようとする娼婦の体を、マテオが体を押し付けて無理矢理ソファに沈める。
やがて、一際大きく娼婦が体を反らせたかと思うと、二人の動きが止まった。どうやら、娼婦の方が達したらしい。まあ、あんな激しい責め方をされては長く持たないのは当然だろう。
だが、マテオにとってそれは前戯程度の責めでしか無かったようだ。焦点の合っていない娼婦の目の前に、自分のペニスを突き出した。娼婦も心得たもので、達したばかりだというのに突き出された肉棒に手を這わせている。
少し呼吸を整えた後、娼婦はペニスを口に咥えた。むしゃぶりつく、と言った方が正しいようなフェラチオに、マテオが肩を震わせる。
両手を器用に使い分けて、娼婦はペニスを高みへと追いやっていく。先程あれだけ強気に責めていたマテオだったが、今では絶頂を堪えるのに精一杯な顔をしていた。
最後に、娼婦が一際激しくストロークすると、マテオが大きく体を震わせた。ここからでは見えないが、今頃あの口の中に精液が注ぎ込まれているのだろう。娼婦はそれを嫌がることなく、うっとりと眼を細めて飲み下す。

そこまで見ると、俺はとうとう双眼鏡から目を離した。なんというか、もう、こんな鉄骨の上で人の情事を見ている自分が余りにも惨めすぎて、いたたまれなくなったからだ。
そもそも俺がここにいるのは狙撃のためだ。だから、奴が動く心配のないタイミングを見つけなければいけない。情事が始まってしまえば、終わるまでせっせと動き続けるのだから経過を見続けてもしょうがないだろうが。
そんな風に惨めな自分を励ましながら、俺はポケットからゼリー飲料を取り出した。蓋を開けて中身を吸い上げる。いざ狙撃という時に、腹が減って失敗したなどという言い訳は許されない。
空になった容器を仕舞うと、俺はもう一度レンズを覗いた。相変わらず奴らはよろしくヤッている。目を離している間に本番に入ったのか、今は娼婦の手をガラス戸につかせてマテオが後ろから突き上げている。
丁度、二人ともこちらを向いている状態だ。その、マテオに犯されている娼婦と、二枚のガラス越しに目が合った。いや、俺がそう思い違いをしただけだろう。600mも離れた場所を見る事の出来る人間など、この世にいるはずがない。
それなのに俺は、何かに駆られるように双眼鏡を狙撃銃に持ち変え、スコープを覗いた。十字の照準の向こうでも、二人の交合は休むことなく続けられている。
しかしこの際、止まっていようがいまいが関係ない。一刻も早く標的を仕留めて、この場から離れたかった。

しかし、俺がマテオに照準を合わせようとすると、相手が腰を震わせた。どうやら娼婦の膣内で達したらしい。娼婦の色に狂った顔が、一際大きく快楽に歪む。
しかし、娼婦はまだ足りないようだ。床に腰を下ろしたマテオに跨ると、騎乗位でマテオを犯し始める。
床に倒れたマテオの頭を狙おうとするが、ベランダに置かれた植木が邪魔をして、上手く照準を合わせられない。
そのもどかしさを嘲笑うかのように、娼婦はマテオを責め立てる。細く括れた腰を上下に動かす度に、長い赤毛が波を打つように揺れていた。
娼婦の動きがより激しくなる。マテオは膣内で何度も達しているのか、時々大きく腰が揺れている。
それが更なる快感の呼び水になって、更に娼婦を愉しませる。俺はその光景を見せつけられながら、引き金を引く事はおろか目を離す事すらできなかった。
照準の向こうで、娼婦が一際大きく背を反らせた。大きく口を開けて嬌声を上げているようだが、俺には聞こえてこない。
やがて、力が抜けた娼婦の体がくたりとマテオの胸板に寄りかかった。椅子の陰に隠れて、娼婦の顔が見えなくなる。
もうすぐ、チャンスが来ると分かった。情事を終えた後なら疲れで動きが鈍くなるだろう。マテオが娼婦を払いのけて、起き上がるのを待つ。
だが、いつまで経ってもその時は来なかった。
先に娼婦の方が起き上がった。雇い主を気遣ったのかと思ったが、様子がおかしい。上から動かず、娼婦はマテオのアクセサリーを外し始めた。それに対して、横たわった男が何かする仕草は見えない。
次々と娼婦がアクセサリーを外し、自分のバッグに収めて行く。ようやく俺は、事の次第に気付いた。だが、信じられない。昇り調子のマフィアのボスが、たかが一夜の情事で死んでしまうなど、あり得るない。
だが、そうしている間にも娼婦は荷物をまとめている。結局どうなったのかはわからないが、とにかく今はここを離れるべきだ。これでは狙撃どころじゃない。

俺はスコープから目を離すと、銃を分解してカバンの中に仕舞い始めた。
目撃者はどこにもいないから、例えマテオが死んでいたとしても、俺の事を怪しむ奴はいない。気になるのはあの娼婦だけだが、まさかこんなに遠くから俺の事を見つけてはいないだろう。
だが、それなのに。あの娼婦が窓の側で犯されている時、アイツは確かに俺に向かって、魅せつけるように舌舐めずりをしていた。

自分の部屋に戻ったのは昼になってからだった。仮住まいの一人暮らしではあるが、それでも自分の空間というのは、何となく落ち着く場所だ。
ドアに鍵を掛けながら、思う。
昨日は散々な一夜だった。結局標的が死んだかどうかは分からないし、そもそもあの時の出来事が自分の中でどうにも現実感を持っていない。まるで、昼寝の最中に見た夢のようだった。
夢と違うのは、現実感が無いくせにハッキリと記憶に残っているところだが。
ひょっとしたら眠っていないせいで頭が上手く回らないのかもしれない。それなら今日はさっさと寝よう。そう思った俺は、荷物をその辺に放り出すとベッドにまっすぐに向かおうとした。

「あら、随分遅かったじゃない」

背中に氷を当てられたような気分だった。咄嗟に俺は腰の拳銃を抜き放ち、声のした方向、すなわち部屋の隅へと向けた。

「もう……またそんな物騒なモノを私に向けるの? つれないわねぇ」

肩甲骨まで届くウェーブの赤毛。透けるのではないかと思うぐらい薄い黒のドレス。そして、遠目でもはっきりとわかった均整のとれた体つき。
昨晩の娼婦が、俺の部屋の壁にもたれかかって、そこにいた。

「せっかくいいモノ見せてあげたんだから、少しは感謝しなさい。……それとも、見るだけじゃ物足りなかったかしら?」

銃を突きつけられても娼婦は平然としている。だが、そんな事より分からない事があった。
なぜ、と聞こうとした俺の唇に、娼婦の指が添えられる。本当にさっきまで壁際にいたのに、この女は瞬きする間もなく俺の懐に飛び込んでいた。

「野暮な事は聞かないの。遠くから見ただけだけど、私、貴方の事は気に入っているんだから」

女の腕が俺の首に絡みつく。振り払おうと思っても、体が動いてくれなかった。

「さあ、白昼夢を楽しみましょう? 貴方を私の……サキュバスの虜にしてあげる」






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