研究棟の一室
シチュエーション


研究棟の一室。

機会のチューブに宙づりにされたまま、惚けたように笑う裸体の女がいる。
背にはコウモリのような翼が生えており、尻からは、黒い尻尾が生えている。
吊るされた淫乱女の正面に、俺は立っていた。

「……えへ、えへへ、えへへへへぇ……っ!」
「ふん、壊れたか?」

手元にある小型の電子機器を操作する。
表示されるのは、新薬の被験者リストだ。
一覧には、ほとんどが赤線が引かれている。『廃棄』と記された中で、
目の前のコイツだけが『初期から継続中』とある。

(いまいましい)

もっとも初期の、オリジナルこそが、至福の逸品であるとは。
いくら改良を加えても、このメスに適わないのが、実に腹正しい。

「おい、生きてるなら返事をしろ。――淫魔、サキュバス」

顎を持ち、瞳孔を見るために光を当てる。
すると、深い紫色の瞳に、ぼうっと、理性の色が戻っていった。

「ぁ……りゅーくぅん。もうご飯の時間なのぉ?
おいしくてぇ、にがくてくちゃいせーえき、食べさせてくれる〜?」
「まだ意識があるか。丈夫だな」
「褒められた?さっきゅん、褒められちゃった?
えへ、えへへ、えへへへへ〜♪」
「黙れよ」

俺は一歩後ろに離れ、手にした電子機器の画面を、機械触手の端末へと
切り替え、起動させた。

ごぉん、ごぉん。

淫魔の二穴と繋がった、極太のチューブが、激しくぜん動しはじめた。

「あっ、あっ、あはぁん♪な、なんでぇっ!?
きょ、きょうの、ぶんっ!終わったっ、の、にぃッ!!」
「発注が増えたからな。今日からノルマの追加だ」
「むりっ、むりぃっ!これいじょー、ふえひゃらぁぁ!!
さっきゅん、こわれっ――あはぁ♪むりらよおぉぉっ♪」
「悦んだ声で言われてもな」

じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷん。
どくっ、どくっ、どくんっ。

ヴァギナとアナルの両方から、母乳を分泌する、特殊な液体が挿入される。

「いひぃぃっ!ら、ら、ら、らめっ、ほんと、むりっ――んほううぅっ!?」

さらに口内に伸びた触手から、生命を維持する栄養剤を投与する。

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

蜘蛛の巣にとらわれた、蝶々のように、惨めな姿だった。
唯一に自由な尻尾だけが、びちびち、狂ったように跳ねている。

「あ、あ、あ、あっ、あ、あおあぁ、ぁぁおおぉあ――!」

瞳からは理性が消えた。獣のような悲鳴が心地いい。

「栄養は十分だな。まだまだいけるか?」

口内への触手を外すと、メスは、狂ったような痴態をあげた。

「らめぇぇっ、びゅーしちゃらめぇッ!やらぁ、もうこんなのやらぁぁっ!!
触手やらぁ!もうっ、触手のおくすりはやらよおぉっ!!
りゅーくぅんっ!りゅーくんのぉ、せーえきがぁ、ほしいよおおっ!!」
「欲しければ、しっかり出せ」
「やっ!はぁうっ!やぁああああああ!!」

巨大な乳房に巻きついていた二つの触手が、伸縮する。
ぎゅぅ、ぎゅぅぅぅっと、搾り取るように。

「――らめらめらめーッ!!でるぅ!おっぱいでちゃううぅぅっ!!」

尖った乳首には、特殊な管がついており、ここから、

「イクゥ!さっきゅんイクぅ!イクイクいっひゃうううぅぅーーーッ!!」

牛の乳のように噴出する、淫魔の内に眠る、媚薬のエキス。
それを尖った乳首の先端より、搾り出す。

びしゅぅ、ぶしゅぅ。びゅっ、びゅぅうぅううぅっ!
びゅうぅぅううっっーーーっ!ぶひゅううぅぅっ!!

白く濃密な液体は、酒瓶ほどの容器に詰め込まれていく。
この原液を数万倍に水増しするだけで、億単位の価値がつく。

「貴様は本当に、金のなる木だよな」
「え、えへ……ほめ、られ、ちゃっ、た……?
……う、うれ、し……にゃ…………」

小刻みに振動していた全身が、動かなくなった。
陸の上の魚のように跳ねていた尻尾も、力尽きたように、垂れた。
だらんと開いた口元から、生々しい涎が、絶えず零れる。
ひたすらに、淫らな女だった。

「動け。まだ終わってないぞ」
「…………ぅ、ぁ……」
「ちっ」

舌打ちをするのと同時に、機器触手の様子がおかしいことにも気がついた。

「なんだ?動かないのか?」

蠢くチューブの挿入も、止まっていた。
手元の機器で操作をいろいろ試してみるが、どれも反応しない。

「くそっ、こっちもイカれたか」

いまいましい。
苛立ちのまま後ろに回りこみ、尻に突き刺さったチューブを抜いてやった。
続けて、性器のほうに突き刺さった一本も抜き取る。

「……ひどい匂いだな」

ぼたぼたと、様々なものが交じり合った液が、床にこぼれ落ちた。

「淫魔、おい」
「………………」
「生きてるか?」
「………………」

支えが抜けた分、ゆら、ゆら、と、僅かに揺れる裸体が見える。

(起きないか。まぁ、都合がいい)

機械触手は、恐らく、長期の運用でガタが来たのだろう。
メンテナンスをしなければ、動きそうにない。
俺は一つ、一つ、繋がったチューブを外していく。
繋がる数が減る度に、女の体は不安定に、艶かしく宙を舞った。
体を支えていた、最後の一本を断ち切る。

「……つかまえた……」

息が止まる。目の前に、生気に溢れた紫の瞳が映る。

「りゅーくん……♪」
「!?」

唇をふさがれ、そのまま、抱きつくように、床に落とされる。
じっとり、汗に塗れた身体が絡みつく。

「んっ、ちゅぅ……しゅきっ、んっ、しゅきっ、だーい、ちゅきっ……」
「……!ど、け……っ」

俺より小柄で、華奢である身体なのに、離すことができない。
まるで、麻酔を投与されたように、全身の感覚が無くなる。
その代わり、下半身の一部分だけが、異様に、熱を持つ。

「えへっ、えへっ、えへへへへぇ……」

そこを、手で摩られる。赤い舌先が喉を舐めていく。

「りゅーくんの、赤ちゃん、いーっぱい、作るからね♪
大丈夫だよ。私ね、おっぱいでるから。赤ちゃん増えても、だいじょーぶ」
「やめっ……」

ごぼっ、ごぼっ、と。
底のない池に沈むように、意識が堕ちていく。
今度は、俺が搾りとられる番だった。






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