素朴な疑問番外編 「戦慄の栄養食品」
シチュエーション


それは、家庭の事情で武志が妃奈の家に預けられていた頃のこと。
武志、妃奈、お母さんの「家族」3人でフグを食べに行ったのがことの始まりでした。

「今日は白子のものすごく良いのが出たので、召し上がってくださいな」

店員さんが勧めるままに、外見はさほど美味しいとも思えない柔らかな白い塊を口に運びます。
外見で嫌ってごめん。美味しかった。甘いとか辛いとかではない表現困難な旨味と、とろりとした食感は
子供の舌にも強烈にアピールしました。

「これ、おいし…」

感想は途中で消えました。お母さんと妃奈の様子がおかしいのです。
視線が中空を泳ぎ、頬が緩みきっています。妃奈はともかく、お母さんの呆けた顔なんて初めて見ました。

「これ…なに?」

ああ、なぜなに妃奈ちゃんはいつものことです。

「白子だって…」
「白子って、なに?」

お母さんまで…ごめん、知らない。

「なんだろ?」
「白子は精巣、精子をつくるところですよ」

ちょうどお酒を持ってきた店員さんが教えてくれました。

「精子…そう、なるほど!」

お母さん、なんだか眼つきが変です。瞳の中に炎が燃え上がっています。白子のお代わりなんか頼んでます。好きなお酒もあまり飲まず、
空揚げもふぐちりも、半分以上が武志の胃袋に消えていきました。

お母さんは翌日、さっそく行動しました。魚屋に行って白子を仕入れてきたのです。フグにタラ、ついでに鮭のも。
でも、お母さんはご不満のようです。

「味はまあ、悪くないのよ。でも、なんというか、あの…エネルギーの塊みたいな感じが無いのよね」

横でうんうんとうなずく妃奈と異なり、武志にはその感想がわかりません。ひょっとしたら、人類の味覚とは異なる何かが
求められているのでしょうか?
お母さん、昨夜のお店に電話してます。ややあって

「どうやら、決め手は鮮度のようね」

なんとお母さん、生けすのある大型鮮魚店から生きたままのタラを3匹も買って来ました(フグは素人調理禁止です)。
お母さん、妙にエネルギッシュですね。
そのタラを捌いて、すぐに白子を食べてみました。

「これ! これなのよぉ!」

お母さん、台所で叫んでいます。妃奈も叫びこそしませんが大興奮です。
精液を主食とする淫魔にとって、新鮮な精巣は正にスタミナ食…なのでしょうか? もう少し危ない何かを感じます。

(確かに美味しいけど、そこまで叫ぶほど?)

と武志一人蚊帳の外です。
最後の一匹を開いた時

「え? 白子じゃない? なによこれ?」
「お母さん。それは鱈子よ…このタラはメスだったのね」
「なんてこと…タラ!今すぐ男体化しなさい!!」

いつもの落ち着きはどこに吹き飛んだのか、ご無体なことを叫んでいます。

マニアの道への暴走が始まりました。

(魚の精巣があんなに凄いなら、他の生き物のは…)

「武志。うちの店に妃奈ちゃんがお母さんと来たんだが…」

ある日、青ざめた顔で話し掛けてきたのは、同級生の金田君。
武志は部活の合宿で不参加でしたが、どうやら金田君の家でやっているホルモン焼き屋さんに行ったようです。

「極めつきに新鮮な『ほうでん刺し』を山ほどなんて、予約された時は何の冗談かと思ってたんだが、二人して食うわ食うわ。
親父は職人冥利に尽きるなんて喜んでたけど、正直あの光景は…怖かったぞ」

『ほうでん刺し』というのは、睾丸の刺し身だそうです。ホルモン料理の中でもかなりマニアックな一品で、
お世辞にもご婦人向きのメニューではありません。
そんな料理を女性二人連れがパカパカ食べている光景は…股間を押さえてそっと店を出た男性客数名が、一様に「なんか…食われそうで…」と
感想を漏らすほどの迫力だったようです。
余談ですが金田君ちのお店は、この後『ほうでん刺し』を食べに来る女性客が急に増えたそうです。妖艶な美女ばかりだそうです。

そして数日後。定期的にある、お母さんの「朝帰りの日」のことです。
何をしているか特段話しはしませんが、「狩り」に行ってるのだということは何となくわかりますし、そこまでは日常の一部です。
日常でないことは、夜明けと共に帰ってきたお母さんが何時になくご機嫌なことと…

「お母さん、何か赤いものがついてるわ」
「あらいやだ。洗ってくるわね」

妃奈に言われて洗面所に向かう途中、武志とすれ違ったお母さんの表情は…

(武志です…玉の搾り汁が主食の保護者が、玉の直食いにはまっています。僕の股間を見て涎を垂らしていたのは気のせいですよね? 武志です…)






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