素朴な疑問 第3問
シチュエーション


「サキュバスを召喚。特殊能力エナジードレインを使用。プレイヤーのライフを3奪う…終わりだな」

ごく普通のお茶の間で、ごく普通にカードゲームしている二人。あえて普通でない事を上げるなら、たった今
サキュバスのカードで仕留められた女の子が、本物のサキュバスであることくらいであろうか。
勝利した武志が、ふと切り札となったカードと、面前でじたばたしている妃奈を見比べる。

「どうしたの?」
「いや。絵姿のサキュバスって、なんで角が生えてるんだろう?」

武志の知己に、「角の生えたサキュバス」はいない。もちろん妃奈にもお母さんにも角は無い。
もっとも武志とて正体まで見たことがあるサキュバスは数えるほどだし、彼女たちは妃奈の親類縁者ばかりだから
サンプルが偏っているが。

「生えてる人の方が多いらしいし、角のある姿に化けることも出来るわ…でも」

妃奈の眼鏡が鈍く光った

「淫魔の角は、一体何の役に立っているの?角突き合わせて喧嘩するわけでもないし。
角が立派な方が偉いの?…それだと皆、立派な角がある姿に化けちゃうから無意味よね」

妃奈は科学の信奉者である。妖魔や妖術も研究すれば科学で説明できるはずというのが彼女の持論であり、
まだ自分が人外だという自覚が希薄だったころ「お化けなんかいるわけない」と力説していたのが彼女の黒歴史である。

「ひょっとして、角があると男の子が寄ってきたりする?…実験してみよう」

やおら立ち上がった妃奈は、目をつぶって何やら集中し始める。しばらくして、妃奈の両側頭部に光が集まり……
カードの淫魔にそっくりな、曲がった角が出現した。変身術の応用だろう。現実界育ちなのに意外にも?
妃奈は結構妖術が上手い。知識欲の赴くままに研究し、練習し、誰かさんをモルモットに実験しまくった成果である。

「どう、魅力的?」
「なんというか…頭でっかち」

小柄な妃奈の頭にかなり大きな角が生えた分、頭が大きく見えるシルエットになってしまった。

「外観は今一つと。機能は……あれ?頭が…重い?」

グラリとよろめいた妃奈を、武志は慌てて抱きとめた……が。

「ドワォォ?!」

目の前に角がぁぁ!
妃奈を放り出すわけにはいかないが、凶器は妃奈の頭に付いているのだ。無理やり首だけひねって必死にかわす。
角の先端は、武志の頬をかすめて通り過ぎた。

「が、顔面ぶち抜かれるかと思ったぞ」

腕の中の妃奈は、顔を武志の肩に乗せるような形でじっとしている。
ボリュームは敢えて何も言わないが、力を入れすぎると潰してしまいそうに思えるほど柔らかな妃奈の抱き心地は、
それなりのものであった。側頭部に当たる角の、恐ろしく固い感触を除いて。
妃奈が身じろぎした。わずかな動きだが、その分武志のこめかみに角が食い込む。

「ぐぉぉぉぁあ…」

痛い、イタイ、い・た・い!

「ひ、妃奈。角を引っ込めろ。痛い」
「うん…」

視界の隅で何かがチカチカして激痛は消え、頬と頬の触れ合う柔らかさに代わる。

「角なんて無くて良い。少なくともお前には生えてない方が良い。主に俺の安全のために」

実験終了したのに、妃奈は武志の肩に頭を乗せたまま動かない。武志が体を離そうとすると

「うごかないで…」
「どうした?」
「角の重さで首がつった…もうちょっとこのままで」
「はいはい。御心のままに」

お母さんが、どう見ても抱き合っている二人を発見して

「あらごめんなさい、良いところを邪魔しちゃったわね」

と言うのは1分後のことである。

「……ということで、サキュバスに角は有害無益に思えるんだけど?」
「う〜ん。特に角が役に立つ訳じゃないんだけどね…」

歯切れの悪いお母さんである。

「何か使い道があるの?重くて首が凝るし、抱きつくと刺さるわ食い込むわじゃ、誘惑するにも邪魔そうだし。
お母さんだって角無いのに、全然困ってないでしょ?」

答えは、想像を絶するものだった。

「その絵みたいに、人間ってサキュバスには角があると思ってる人が多いでしょ?
だから角の無い私たちが正体を見せると、時々サキュバスと認識してくれなくて……怪奇コウモリ女って言われるの」






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