シチュエーション
「何故だ?何故こんなことを…姉さん!」 世界の命運を懸けた人類と淫魔の決戦。その戦場に悲痛な叫びが響いた。 人類側のエース。淫術が効かない特異体質と、淫魔大戦終結への執念とも言える 意志を武器に、能力で劣る人類を決戦までたどり着かせる原動力となった男。 涙を溢れさせ叫ぶ彼の前に立つのは、淫魔たちの中でもひときわ妖艶な有翼の美女。 淫魔軍団の長にして、この戦いの元凶。彼女の瞳からも涙がこぼれ出す。 「あなたのせいよ…」 「何を言ってるんだ?姉さん。俺たちは人間と淫魔でも姉弟で、ずっと仲良くやってきたじゃないか!」 美女の声が張り上がる。 「そうよっ!それが私には耐えられなかった!私はあなたの『お姉ちゃん』でいるだけじゃ満足できないの。 だけど、あなたに私の誘惑術は通じない。そしてあなたは、人間の女の子を選んだ。 なにが淫魔女帝の再来、史上最強の魔力よ!!一番誘惑したい人には効かない魔力なんて、無意味じゃない! だから私は世界を壊す。あの女の子も、他の人間も、ついでに他の淫魔も全部消し去る!あなたと地上最後の男と女になって、 私を選ぶ以外の選択肢を無くしてあげる!!」 溜まりに溜まった思いの丈を吐き出した彼女の周りに、いつの間にか人間たち、そして淫魔たちが集まってきた。 「するってえと何か?この大戦争の原因は、ブラコン淫魔の逆ギレってことか?」 「嫌だわ。弟を堕としそこねたから世界をぶっ壊すなんて、飛躍にも程があるわよ」 「その前に、姉弟でってのは問題だろう」 「ここは人類の道徳にはちょっと自重していただくことで…」 「というか、術が効かないからって人間一人堕とせないのに淫魔女帝の再来って…どうよ?」 弟は呆気に取られて言葉も出ない。そして姉は、先程までとは別の理由で頬を紅潮させていった 「何よ何よ!みんな好き勝手ばかり!」 『『『アンタが一番好き勝手だ!!!』』』 今、人類と淫魔の心が一つになって突っ込んだ!! 返す言葉の無い姉の肩を、人類軍の兵士が軽く叩いた。中年の、はっきり言って醜男だ。 「なあ、嬢ちゃん。アンタは淫魔だから、この際近親がどうこうなんて話はおいとこう。 だけど弟がアレってことは、嬢ちゃんにも人間の血が入ってるんじゃないのか?」 「ええ…でも、それがどうしたの?」 醜男はニタリと笑みを浮かべた。 「なら魔力なんて忘れちまえ!淫魔の術が効かないなら、惚れた男にゃ人間の術で迫れば良いんだよ!! ウチの女房は、俺を捕まえるのに魔力なんか使わなかったぜ!!」 姉はしばし考え込み……ポンと手を打ち……世界は平和を取り戻した。 ……平和をもっとも望んだ男の身辺を除いて(合掌) SS一覧に戻る メインページに戻る |