クリスマスイブ
シチュエーション


クリスマスイブも暮れちまった駅前の賑やかな街を、一人で歩いている奴は案外多いと思う。
なにと比べて多いんだか自分でもよくはわからん。が、いまこうして歩いていると。わー、いっぱいいるなー。と思う。
楽しくない。

それにしても、2年半つきあった恋人を親友――だと今は思いたくない奴――に寝取られたてほやほやの、
本格ヘタレデビュー新人のゴミ野郎なんざ、俺の他にはたぶんいないだろう。
中途半端な人ごみの中で、くたびれたおっさんを一人追い越した。……あのおっさんも一人か。
あのおっさん冴えちゃいないけど、冴えていないだけで誰かに裏切られてもなんにもできなかったヘタレのオーラはないもんな。
俺は不幸だ。だから俺のほうが不幸だ。おっさん乙。

……今更かわる気もない。

変わろうと思わなくたって、人の気持ちなんか勝手に変わっちまうのだから。

「あは。気づいてないんだ」

誰かにかけた誰かの声が、やけにはっきりと俺の耳に入って来た。女の声だ。アニメチックで甘ったるい。虫唾が走る。

「誰かじゃないよ、君だよ」

ヘタレデビューを成し遂げたつもりはあるが、糖質デビューをした覚えはないぞ。
君って誰だよ。てか、疲れてんな俺。他人の会話にこうまで脳内で絡むような性格じゃなかったはずなのに。

「だーれだ」

軽くびっくりする俺。あまり気力がないので軽くしかびっくりもできない。
12月24日の19時頃、俺が女の子にいきなり後ろから抱きつかれるという事案が発生。
後ろを振り向いたわけではないが、女の子だとわかる。俺の悪い予感はだいたい当たるからだ。
一瞬でもあいつの顔を思い出した俺がなさけない。
あいつはこんなことをする女じゃなかったし、俺の中ではあんなことをする女でもなかった。
だからこんなことがありえてもいいんじゃないの?
あいつがこうしていきなり俺に後ろからだきついたりぐらい、ありえるんじゃないの?
でも、違う。俺はただ、ため息をついていた。

「なんすかあなた。ヤりたいの?」

露骨に八つ当たりじみた口ぶりをはっきりと意識して言い放ってやった。

「うん。したいよ」

スケベ心が望んではいたが、期待はしていなかった返事がかえってきた。
黒髪ロングメガネっ娘の、満面の笑みを浮かべたロングコートのマフラー姿が、俺の目の前にくるりとまわりこんできた。
お望みのプレゼントでも貰えたようなうれしそうな笑みをまだ含めたままのその子に、俺はいきなり唇を奪われた。

「……!?」
「交尾もしたいけど、君のおちんちんを吸い尽くしたいな」

なんじゃそりゃ。あまりにも唐突でわけのわからん言葉だったが、
俺のヘタレチンポはその言葉に反応して急激に活力を取り戻していた。

「ごめんねいきなり。私、変わってるってよく言われるの。偏食なんだって。
私お姉ちゃんがいるんだけど、サキュバスの癖に活きのいい獲物じゃなく、クセのある餌ばっかり食べ過ぎって言われちゃうの」

こいつ、病気持ちかなにかか。
まあいい、感染りさえしなければ問題はないし、感染った所でヘタレが一匹病気デビュー、最悪苦しみ抜いて死ぬだけ。
テキトーに話を合わせておけば一発やれる。
バックに誰がいようとしったこっちゃない。俺はそんなうかつな人間だからあいつにも裏切られちまうんだ。
そんな思いを頭に垂れ流していた俺に、少女はなぜかまた謝ってきた。

「ごめんね。……たぶん、一発じゃすまないと思うよ」

間違いない。確かめようはない。だが間違いない。俺の悪い予感が、全力でそう俺自身に伝えようとしているのを感じる。
こいつ、俺の心を読んでる。……読んでいる。読まれている!
さとるの化物ってやつか。
日本古来の、山奥の小屋とかで人に出くわすと、人の心を読んで喰っちまうバケモノ。
俺は一瞬、小学校の同級生の悟くんの顔が、この少女の顔にすげ変わってるのを想像してゲンナリしてしまった。
ごめんなさい悟くん。悟くんは悪くない。俺がヘタレなのが全部悪いんだ。

「君は自分を責めすぎじゃないかな」

世界にひとつだけ咲いていそうな顔で困ったように笑いながら、黒髪ロングメガネっ娘はそう言った。

「君の想像は大体あたってるよ。私には心がよめる。そう言っても差し支えないと思う。
けど、それは君の心のかけらが私に突き刺さっているだけ」

ずいぶん詩的な子だな。詩的すぎてなんのこっちゃさっぱりわからん。

「だから、君の本当の心はわからないよ。安心して」

安心できるか!
言っていることはようわからんが、おまえがうさんくさい奴だということは、誰の目にも明らかだぞ。
ちょっとお顔がよろしくて、ファッションセンスが有りげで、所作にもどことなく可愛げがあって、
脱いだらむっちむちっぽくても、俺はおまえとなんかヤりたいとしか思わないからな!
あー、俺なんでこういうめんどくさい女ばっか好きになるんだろう。
一目惚れは病気だ。これは断言できると俺は思う。
俺の心を読んだと思われる少女の、「くすっ」という表現がこれでもかとばかりにプッシュされたような笑顔に、俺はちょっとくらりとした。

「君はおちんちん、吸われてもいいんだよね? やけくそだもんね」

小学生の言う、「オモチャじゃないからバトルエンピツ学校に持ち込んでもわるくないよね?」的な意図を、俺はこいつの今の発言から強く感じる。
つーかおちんちん吸うって何だ。
さとるの化物の主食はおち○ぽミルクなのか。それはきいたことがない。
俺はまたも悟くんで想像してしまった。悟くんがおちん○ミルクをごきゅごきゅするシーンを想像しかけたところでなんとか踏み止まれた。
人はきっと、こうやって同じ過ちを繰り返さずに明日を掴んでいけるのだろう。
俺のようなヘタレに、掴むべき輝けるような明日なんてないけれど。

はて、ここで俺は思い出した。そんなん食ってる魔物がいたはずだ。
スーファミのロープレとかに出てきた。敵のモンスターで。
やたらエロいコス……というか履いていなかった……だったので友達と遊ぶのに気まずかったのを覚えている。

……サキュバスだ。

夢魔、淫魔。まあ何でもいい。
正体がババアとかいう説もあったが、俺のおちんちんを包み込むおまんこのヌメっとした温かい感触が、美少女のそれであれば知った事ではない。

「じゃあ、しよっか。ここでする? みんなに見られながらおちんちん吸われたら、君はきもちいい?」

この子は話が早い。物事の展開も早い。非常に早い。
口で喋らないぶん、いちいち気持ちを確かめるプロセスを踏まなくてすんでいるからだろうか。
すべてがどうでもいい今の俺からしても、お互いブレーキのついていない新幹線のようなものだから、並んで走るぶんには何も問題がないのかもしれない。
轢かれてぶっ飛ばされる周囲の人間なんぞ知らん。わりとどうでもいい。
とりあえず寒いのでここはよそう。
恥ずかしいからじゃないぞ! 寒いからだぞ!

「そっか。ふふっ」

この子、いちいち所作がかわいいな。なんというか、距離が近い。
キャバを嬢やったら同僚のシゴキにさえ耐えられれば確実にトップになれそうな逸材だと俺は思った。

デートに行くのにカネがかかるから、その辺をうろうろしてどこに入ろうか迷った挙句、自分とこのアパートの部屋で彼女とセックス。
生活感のないブランド嗜好の女じゃなくても、ため息のでるような男だと、↑のタイプの男をみると俺も思う。
それ以上に、「別にいいじゃんよ。貧乏大学生は昼間っからアパートでセックスすんのが醍醐味だろ」、
なんて思っているから俺はあいつを寝取られたのだ。みんな死ね。
結局俺は、黒髪ロングメガネっ娘を俺の部屋へと連れ込んだ。
衆人環境での性交はめんどくさい。したことはないが俺はいつもそう思っている。
そして、お金がない。
お金を得るだけの甲斐性とか、俺がこの世界に生きていていい理由がない。みんな死ね。
この思いがあいつに届かないようにと願いながら、俺は視線だけをあいつの残り香をまとったペアクッションにぶつけた。

「ふーん。薄汚いゴミカスの部屋って君がさんざんいうから、冬でも死なないゴキブリでもわいてそうな部屋かと思ってたよ」

確かに俺は駅前からこの部屋にむかう途中、あいつとの思い出をひたすら薄汚いゴミカスだと思い願いながら、
新興宗教かマルチ商法のスローガンの如く「ゴミカスがッ!」を心の中で連呼していた。
それにしても、ずいぶんな言われようだなあとは俺も思う。
だが、おそらくこの子は、そういう一般ピーポーが耳にしたら「なにこの子、アスペ?」という反応をしそうな言葉を、
人の心を読むことによって、きちんと相手を選んで言ってるんじゃないかと俺は推測した。
「いやあ、けっこうお口にチャックできなかったりしちゃうよ、私」
そう答えながらロングコートを脱いだ少女の姿を見て、俺はぎょっとした。
文系知的美女がかけてそうな細めのフレームの銀縁メガネと、桃色っぽい白の無地のハイソックス以外には、なんにもまとていない少女の裸体。
その裸体だけですでにびっくりだった。
が、だらしなさと逆ベクトルをもった、
ダンスをやってる子によくあるぷりりぃんとした、足からお尻にかけての均整がとれ、ほどよく引き締まった下半身の線美。
寄りすぎても離れすぎてもおらず、うら若き少女特有の張りとみずみずしさをたっぷりふくんだたわわな乳房。
小柄な背丈に見合った、ほんの少しだけぽてっとしたおへそ周りの肉と、それとは対照的に卑猥なまでにくびれた腰つき。
そのすべてが、粘性を帯び、透き通った薄紫色の、ねっとりとした「なにか」にまみれていた。それにいちばんびっくらこいた。
おそらくコレはあのロングコートの内側にうねっている触手のヒダヒダから分泌された体液であろう。
きっと、少女はおまんこの奥やクリトリス全体まで、あの薄紫の粘液でぬっちゅぬちゅなのだ。

「お風呂の電気のスイッチ、どこ? こっちでいいの?」

少女はあっけにとられてただおちんちんを固くしている俺にそう訊いてきた。すみません、そっちはトイレです。
そうか、少女はロングコートから滴る粘液をこの部屋に垂らさないように、コートを風呂場に置きにいったのか。
そーいやこの黒髪ロング眼鏡っ娘、なんて名前なんだろう。
とりあえず、なぜロングコートの内側が触手でびっしりで、あの子は粘液まみれだったかよりそっちを気にしようと思う。


「あんた、名前はなんていうの?」

俺は今頃こんなタイミングになって、ようやく少女に尋ねた。
正直セックスすることしか考えていなかったのと、誰かに気を遣うのが非常に煩わしかった。なんどでも言う。みんな死ね。
それから俺は自分の名前を名乗った。

「俺はヘタレハゲだ。ヘタレでハゲで意気地なしでゴミで地球で一番自分がかわいいから、そんな名前がついた。みんな死ね」
「私は焔羅。難しめな『ほのお』って漢字の『エン』と、芥川龍之介で有名な羅生門の『ラ』で、焔羅。よろしくね、ゆうすけくん」

焔羅か、いい名だ。そしてゆうすけ……か。懐かしい名だ。
しかし、今の俺の名はヘタレハゲ。ゆうすけは死んだのだ。
あいつに捨てられ、信じていた親友(とも)にすべてを奪われたあのとき、その名は俺の命と共に奪われた。

「へー」

焔羅ちゃん、どうしてあなたは人の心を見透かすの? 戸籍に載ってる方の名前まで当てないでよ。
ヘタレだって泣く時は泣くんだぞ。みんな死ね。

「ごめんね、名前はそこにおちてた名札をみただけなんだ」

そう言って焔羅ちゃんが指さした場所にあったバイト先のIDカードつきの首から下げる名札入れの中には、
間抜けヅラ度ですら世界一になれないヘタレの、リアルに肌が汚い履歴書の使い回しの犯罪者風バストアップ写真が貼られていた。
貼られた位置がけっこうズレている。
しかもバーコードにちょっとかぶっているから、検問の機械をとおしてもたまにエラーがでる。
みんな死ね。家は焼け、機械という機械はみんな壊れ、草木は枯れはて、鳥だけが空を虚ろな空を飛んでしまえ。そしてみんな死ね。

「ヘタレハゲさん、後悔はしませんか?」
「後悔する余裕がありません」

即答してやった。なんのこっちゃ知らんが、何をした所でうまくいかないのに今更後悔とかはありえない。
そして、黒髪メガネっ娘の粘液ヌメヌメむっちゅりエロボディを今見ていられるだけで、充分に元がとれる。

「愚かだね、ヘタレハゲさん。これから君を待ち受けているのは逃れられない地獄だよ」

こいつなあ……、確実に俺が逃げないことを想定して言ってるよなあ、それ。
逃げようとかは思わないけど、サキュバスだったら難攻不落のお固い男を魅了して、骨抜きにしたがりそうなもんじゃないだろうか?
つーかこの子はホントにサキュバスなんだろうか?
しかしだ、焔羅の口からは否定も肯定もされていないが、普通は人間のうら若き乙女って、
触手コートを着て見知らぬ男に声をかけて、そいつの心を読んだりすることは少ないとも思う。
知人や友達の話や、又聞きですらも聞いたことがない。
友達……。嫌なことを思い出した。みんな死ね。

「私たちは、何者なのでしょうね」

ときどきこの子は困ったように笑う。その所作はたまらなく男心をくすぐるなと思うと共に、
陰口言いまくるタイプの嫉妬ババアがこれをみたら、即座にイラッときちゃうんだろうなと思い、
ババアの巻き添えをくらってボコボコにされるやもしれぬ俺の身だけを俺は案じた。

自分では俺をかなりマイペースな奴だと思っている。
正確には「おまえマイペースだよね」と誰かに言われてそれを真に受けた。
誰にいつ言われたのかは覚えていないが、当時俺はその言葉がけっこうショックで、それ以来なるべく人に合わせるようにするクセがついてしまった。
反動形成でやっているだけのクセなので、あんまり人からは快く思われていなかったのだろう。
結果、俺はいろいろあってあいつを寝取られた。
非常に胸糞悪いこの思いは、5文字で表すと必ず「みんな死ね」に集約される。
まーいろいろあったのだ。全部俺がヘタレだから悪い。
そんな何もかもがないまぜになってしまったような思いを、焔羅がかき消してくれるような気がした。
黒髪ロング眼鏡っ娘だからだ。しかもかわいいし、えっちな身体をしている。
だから俺はあんな素っ頓狂な出会いを、こうしてすんなり受け入れた。

焔羅の裸体に塗り込められていた薄紫色の粘液は、気化してしまったのだろうか。
無くなっていた。ごく一般的な眼鏡ハイソックスヘアヌード少女・焔羅だけがそこにいた。

「本当にいいの?」

焔羅はまたそう訊く。こいつはクドい。俺もクドいがこいつは女の癖にくどい。

「君がどう答えようと、君を操って、エッチなことしか考えられなくしちゃうことしか、考えてなかったけど……」

そして一言多い。相手を選んでいるだけマシなのかもしれないが、
美少女であることに胡坐をかいているんじゃないかと、俺はどうしても思ってしまう。
俺は声に出してきいてやった。

「何をそんなに迷ってんの?」

焔羅ちゃん、君、おちんちんを吸い尽くしたいって言ってたような気がするよ。
焔羅の口ぶりを思い出しただけで、俺のおちんちんはいやらしい感覚で満ちていった。
まがりなりの少女らしい恥じらいの観念なのかもしれない。
人間の女ならそんなことに触れられれば嫌悪を覚えるに他はないだろう。
「好き好き補正」が加わっていれば大目に見てもらえるかもしれないが、
補正がなくなったあとにそのデリカシーのなさを思い出してそれを追求さえれるとか、容易にありえるし、マジでファックだ。

「そうじゃない……のかな。わかんないや」

また困ったように……今度は笑ってもいなかった。
ふと思ったが、俺、こんなにおちんちんが臨戦体勢なのに、服を脱ぎも襲いかかりもしないってのは、なんか変なのかもしれない。
草食男子と人は言う。
だが俺は、単に疲れているのとめんどくさいのとで、あんまりそういう動きがとれないだけである。
皮肉でそうみられてるのかマジでそう思われているのかはわからんが、人は少なくとも上辺では俺をそう言う。
影ではなんと言われているのだろう。きっとなんの迷惑もかけていないのに、「あのヘタレマジ死なないかな」とか言われているんだろう。

「ねえ、脱いでよ。おちんちん……見たいよ」

焔羅の頬がほのかに赤らむ。
こういったサキュバスの計略とは恐ろしい。計略だとわかっていても、その計略に男はのっかり、むしろその計略に発奮してしまう。

「ヘタレハゲさん、いっつも斜め上から人をみてるんだね」

俺に関して今焔羅が言ったのと似たようなことを、あいつは奴に言っていた。
と、俺はこないだ人づてに聞いてしまっていた。
みんな死ね。俺が今脱いだ服に巻かれ、「こんな死に方ねえよ!!」と思いながら無様に死んでほしい。
そんな思いを脱ぐ服一枚一枚に全部こめて、俺は一糸まとわぬ姿になり、
ちょっぴり乱暴に焔羅の後ろにまわりこんで有無をいわさずそのたわわな乳房を鷲掴みにした。

「あっ… んっ……」

わざとらしいまでに甘い吐息を漏らす焔羅。その両手が、ふたつの乳房をむにゅむにゅする俺の両手を下の方へ移動させようとする。

「こっち……触って」

どこを触ってほしいんだい?
わざと口に出さず、心の声で焔羅に呼びかけながら、俺は焔羅の手に逆らっておっぱいむにゅむにゅ攻撃を連発する。
柔らかすぎる焔羅のお尻におちんちんが挟まるように当たり、焔羅が身をよじらせるたびにおれのおちんちんはビクンビクンとなった。
今気付いたが、俺の身長は焔羅より15cmは軽く高いはずなのに、おちんちんにあたるお尻の位置があまりにもベストポジションすぎる。
サキュバスは見えないシークレットブーツを穿いて男を効果的に誘惑するという。

「んっ… そんなの… 穿いてないよ」

否定された。
え、焔羅ちゃんの脚が長すぎるんだ!! ……俺の名はヘタレハゲ。現実を歪める『能力』の使い手だ。
焔羅ちゃん、君は黙って俺のAV男優ごっこに付き合っていればいいんだ。
イきたいなんて思っちゃだめだよ。俺の気が済むまで、おっぱいをもまれて卑猥な吐息を漏らしてくれ。

「だめぇ……。ヘタレハゲさんのおちんちん、ちゅぅちゅぅするのぉ」

じゃあなぜ君は今すぐ俺のおちんちんをちゅうちゅうせずに、俺の手を下の方へもっていくんだ。
麗しき乙女への問いかけは昔話だったら悲惨なオチがまっていそうなものだが、
俺はヘタレだ。みんな死ね。

「……えっち」

焔羅ちゃんの身体の方がえっちです。
俺はとっさにフェイントをかけてやった。
「女は基本ドMだ!」とν速のおっさんが言っていたので、多少乱暴に扱うぐらいがちょうどいいと思っている。
直立したまま閉じたお股の間、陰唇をとっさに両手の指で広げられ、焔羅は「ひあぅ……っ」と嬌声を放った。
そのまま陰核を親指で上下にさするようにこねくり回してあげた。指がつりかけた。

「あんっ… あぁ… ぁ… ぁ…」

俺の指にまとわりついてくるぬめぬめした汁は、焔羅ちゃんのおまんこが分泌したエキスなのか、
それとも、触手コートから滴っていたあの薄紫の粘液なのだろうか。

ねえ、どっち?

焔羅は答えない。
ひたすら悩ましげな吐息を漏らし、お尻の動きでジャストフィットのチンポを弄びながら、
俺の両手に手を添えて陰核をいじめられる行為を愉しんでいる。
この行為が、彼女の本性を露わにしてしまった。

俺のおちんちんの上の方と胸のあたりに、焔羅の身体からニョキニョキ生えてきた何かの感触が伝わった。

わかるぞ。尻尾と翼だ。たぶんな。
うわあ! 頭にもなんか生えている!

こいつの正体は鬼女だ! 黒髪ロングデビルウイングにゅるにゅる尻尾眼鏡搾精鬼女!

長い。

俺はなぜか全く関係のない悟くんの顔を思い出していた。
俺と悟くんは友達以下クラスメイト以上敵未満だった気がするが、別段なんかのエピソードがあった記億はない。
俺自身が封じ込めている忌まわしき記億でも、脳内のどこかにあるのだろうか?
それはともかく、俺は射精していた。
いや、射精させられていた。
注意が悟くんの方へそれていてよくわからなかったが、俺は焔羅からニョキニョキ生えてきた親知らずのような尻尾に何かをされて、
有無をいわさずザーメンを発射させられていたのだ。
物凄く損をしたような気持ち。悟くんへの奇妙な気持ち。焔羅への欲情。目に焼き付いたあいつと奴の情事。
バイト先のババア。エビピラフ。奴。あいつ。クリスマス。クリトリス。ヘタレ。ヘタレじゃない奴。射精は気持ちいい。

「ふふっ。ヘタレハゲさんのせーえき、もっとぴゅっぴゅさせてあげます」

うるせえ。今それどころじゃねえ!
俺は声も出せずに叫んでいた。また焔羅のおっぱいを触り、おちんちんの先から出残りの汁を垂らしながら。
何かに抗っている。焔羅? いや、焔羅ではない。いや、やっぱり焔羅だ。
しかしてだ、抗っているはずの俺は、あの日以来全く干していないせんべい布団の上に横たわらされていた。
おちんちんが物凄く気持ちいいのに、なぜだか射精したくない。

「だめです。ヘタレハゲさんのおちんちんは、もう私の餌です」

今頃になって気付いた。
焔羅の身体から気化した触手コートの粘液は、おそらく男を欲情させ、
かつ抵抗する力や意志を奪う媚薬のミストとなって俺の部屋に充満しきっている。
それに気がついた瞬間、俺は呼吸をするだけで我慢汁をお漏らししている自分のおちんちんにも気づいた。
あと、部屋が湿りそう。ただでさえ日当たりも風通しも最悪なのに、
これ以上やっすい施工のフローリング床がぼっこぼこになったらどうしてくれよう。
えへへ… いいんだ みんな死んじゃえ ボク… もっと射精したいよぉ。←略すと「みんな死ね」。
さっきまで射精したくなかったはずなのに、俺のチンポは欲望を吐き出したくてたまらない状態にまでチャージされていたようだ。

焔羅が俺を見下ろしている。今になって俺はまた彼女がサキュバスであることを再認した。
とにかくポージングがいちいちエロい。
男の目線を知り尽くし、また清純で健全な少女ではない雌の誘惑行為に欲情するタイプの男のツボを
まるで本能的に察しているかのような扇情的な動きをそつなく取り入れた所作。
清純そうな黒髪メガネっ娘の外見とのその組み合わせは、正直言ってあざとい。
俺は大好物だが、普通につきあうんならこんなあざとい子はNGな男子諸君はいっぱいいるんじゃないかと思う。
俺にしたところで、本来ヤりたかっただけだ。
繰り返す。一目惚れは病気だ。ただの病気である。

「文句が多いねヘタレハゲさん。でも……」

踏まれた。俺の不純は踏みにじられている。

「かわいい」

そう言う君のほうがかわいいよ。俺は踏まれたおちんちんからいつになく勢いよく精液をとびちらせながら、口には出さず焔羅に告げた。
焔羅は飛び散った精液の方に手をかざしながら、俺の方から視線を逸らさずに意識を集中させる。
念力の一種と思われるチカラで俺の精液をすいよせ、焔羅は自分のへそのあたりにそれをへばりつかせた。
空気にふれてとろとろになっていた精液は、結露のように焔羅のおまんこへとつたい流れていった。

それから何度か俺は射精させられてしまったのだが、
途中でまたよくわからない拒絶感に襲われ、俺は焔羅に「イきたくない」と懇願した。
彼女はやめてはくれなかった。
騎乗位でおまんこにちんちんを飲み込まれて射精。おっぱいに挟まれて卑猥な言葉を聞かされながら射精。
ストリップを見せつけられながら、淫語で心を蕩かされての射精。
幻でつくりだした魔導師のコスをきて、お尻だけを丸出しにしてチンポを尻コキされての射精。
ありとあらゆる方法で射精させられた俺。
俺が彼女の身体をチンポでせめることは許されなかった。
俺はまさに、ただひたすら焔羅に射精させられるだけのどぴゅどぴゅマシーン。
すべての精液を放っても、俺は彼女に体液を飲まされ、彼女の甘美なエキスを吸収させられる。
俺の身体は焔羅のエキスによって癒され、精液を放ち、人間の女の身体では味わえない快感へと落ちていった。
たまーに悟くんを唐突に思い出さなければ危うく、正気を失っていたであろうことは容易に想像がつく。
悟くん、おまえは俺のなんなんだ。
100回目(多分)の射精を俺が終え、
真冬のおっそい夜明けとともに、最近とんとみかけなかったはずのスズメがチュンチュン鳴き始めたその頃、焔羅は俺に告げた。

「精液はこれで充分かな。次、『精気』ね」

なんか意味わからないこと言ってるんですけど、この人。
焔羅はその淫靡な身振り手振りを交えて、これから『精気』という、欲情の感情エネルギーのようなものを貪る旨を解説してくれた。
俺のすべてを貪るそうだ。断る理由は特になんにもないので、俺はその全てを彼女に捧げることを誓った。
死ね。みんな死ね。
そのまえに、いっぺん寝かせろ。寝たら、もしかしたらもう一個クリスマスプレゼントがくるかもしれない。
いい子にしていなかった割には、俺が今もらっているプレゼントは、充分にすぎる。
幸せとは思わない。が、そんなもんは俺がやけくそになっているせいでかかった贅沢病であることぐらい、流石に理解できる。

バイトにいって疲れて帰ってきた俺は熟睡できず、バイトの夢をみてうなされ、
開けの朝おんなじような仕事をしに、またバイト先へ向かう。
ノイローゼあるあるコーナーは君の同意を募集中だ! みんな死ね。
マジでそんなノイローゼのほうがマシな夢を、俺はよく観ている。

「ああっ… いいよぉ…! もぉ、貴仁くんのチンポ、全然ちがうぅっ!」

はて、あいつは行為の際によく喋るタイプの女だったろうか。
俺の中ではマグロの親類で、サバかなんかと形容したらいいんじゃないかって感じの女だったと記憶している。
それぐらい俺はあいつに親しみを感じ、不器用なりに愛を育んでゆけたと感じていた。
あと、貴仁。いや貴仁さん。
お前は昔おれがお前のレアカードをパクった際、「人の物を奪うやつなんか最低だ!」っていって泣きわめいていたよね?
でも、俺はそれを許してもらって

「はぁん……! はぁあぁぁぁぁん!」

うっせーーーーーーーーー!!

あいつうっせえよ。
俺が過去の美しい思い出をついこのあいだのように思い返しているときに、
思い出の登場人物の続編にでてくる成長したそのキャラにチンポをねじ込まれて、歓喜の声をあげるってなんですか。
ああ、それで、俺はカードをパクった罪を貴仁様に帳消しにしてもらい、そいつとの友情はきっと永遠に崩れないんだろうと信じた。
永遠はない。
なぜなら、永遠をぶっ壊すチカラが俺には備わっているからだ。
我が名はヘタレハゲ。完全なるヘタレにして究極のハゲたる存在。みんな死ね。
どうして俺は、あの時のあいつと奴の行為を黙っておっきしながら見ていたんだろう。
あの時の俺はゆうすけで、完全無比なる存在・ヘタレハゲではなかったはずだ。
その片鱗しかなかったはず。
思い出したらまたおっきしてきたのと、部活の選択を誤るとタメで同級生奴らのガタイはこんなにも差がつくのだという発見が、
まじまじと思い起こされる。
あー、俺バイトの夢とか余裕だわー。
夢だから疲れないじゃん、身体はw
俺はまだ、いろんなことを信じたいと思っている。
俺の睡眠時間は長い。9時間睡眠がデフォなので、その大半をあいつの嬌声で占められる。
ひたすら繰り返すおんなじシーンのあいつの嬌声だけに耳を傾けているうちは、
ちんちんがおっきしてくれるので、どうして… とか なぜ… とか思わない。
寝たくないわマジで。
ヘタレハゲなので欲望には逆らえないから、寝るけどな。
寝ればいつか起きる。
みんなが俺には二度と目を覚まさないで欲しいと思っていたとしても、俺はその現実を歪める『能力』をもっているのだから……。

昼、目が覚めた。

「夢か……」

変な夢だった。
「俺にうっかりレスをしたら黒髪美少女が云々」の、レス乞食の呪いが適ったかのような、えろえろな夢だったような気がする。
人間の心を見透かして読みとり、精を貪り食うサキュバス、焔羅……。
その夢にでてきた少女の名は、冷静に考えるとキュートとかコケティッシュっていうよりかは、
「○○が敗れたか。しかし奴は四天王の中で最弱……」ってな場面が似合う名前だなあと俺は思った。

「文句が多い」

それだけ言い放った焔羅が着ていたのは、あいつが置き去りにして行った、別にオキニでもなんでもない、
俺がプレゼントと称してお買い上げしてあげたあまり統一感のない洋服群だった。
こいつはあてつけで着ているんだろうか。
俺の夢の登場人物のくせに……、という気持ちと、ああ、やっぱり俺の夢の登場人部だわという気持ちが同時にわく。
夢の登場人物はぶん殴ったらギャグマンガのようにキラーンって飛んでいくのかしら。
俺は夢をみているとき、あまりそういった実験性のある発想をしない。
そうか、これは現実だ。確かに俺は文句が非常に多い。

「文句は多いけど、殺してしまうのは惜しいね」

さらっと恐ろしいことを言われたような気がする。焔羅ちゃん、君は本当に何物なの。
まー惜しいって言ってくれるんなら俺はイかしてもらうに限る。
焔羅の耳たぶに、おはようのキス。
俺は唇が濡れるのが嫌いだ。
濡れると落ち着かない。乾くのをまったり、パートナーを傷つけないために、相手の見えない所で口を拭うとかが嫌い。
かといって無神経に目の前でふきふきするのはなんだか胃が痛む。

「それはよくないかもしれないね」

やけに無愛想な返事が返ってくる。焔羅は昼だと、あんまり所作が艷めいて扇情的ではない子なのか。
楽。気ぃ遣って押し黙る子より、こっちの方が俺は楽だ。

「起きがけで悪いんだけど、今晩から君には精気を貯めたり放つ訓練をしてもらうよ」

嘘だ。絶対調教の間違いだ。
どっちでもいいでしょ。とでも云いたげな視線だけが俺に返ってきた。

ピンポーン!

電池が切れて鳴らないはずの俺んちの呼び鈴が、ああこれは電池かえたてだなとわかる音量で鳴り響いた。
その時、「きっと焔羅ちゃんは気のきく働き者なんだ」と思った俺は、
あとでこの件にかけられた意味のわからない多額の請求で詰みかけることとなる。
それはともかく、誰か俺んちに来た。
NHKだろう。死ね。
だが、俺の部屋への訪問者は俺の予想とは違った。
なんと、魔女だった。

「宅急便でーす。お引越しの荷物をお届けにあがりましたー」

魔女の宅急便は郵政民営化のときのゴタゴタ以来、今はこっちの分野の現場が多い。
その日、俺はそう魔女からきいた。あと、客に荷物運ばせるとかまじでありえなかった。魔女パネエ。

魔女の宅急便が運んできた荷物は、焔羅の生活用具。
これすなわち、こいつは俺んちに住み着くということを表していることは、そんな俺の想像と違いない可能性が高い。

「ちょっと待て。俺はあいつとの仲をまだ解消したわけじゃないから……」

自分で言いながら気がついたものの、すぐに焔羅から「私にちんちんいれてびゅーってしたのはだあれ?」と問い詰められた。
春風だ。
まだ今日はクリスマスだけど、俺は犯人春風説を強く推したい。
春風は悪戯者だ。そんな戯言を頭のなかで呟いていたら、この日の晩に俺は焔羅にフェアリーコスでひぃひぃ言わされてしまった。

「それじゃダメなの。私の求める精気は、君のもつその複雑怪異な感情の奔流にまみれていなければいけないの」

やはりこいつの言うことは、なんのこっちゃわからん。






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