シチュエーション
![]() 二人の服は、すべて床に脱ぎ捨てられていた。 部屋に響き渡るのは、喘ぎ声と荒い息遣い。 ひとみの身体は、すでにバァンを受け入れるには充分過ぎるほどに蕩けていた。 不意に、ひとみの胸の彩りを含んでいたバァンの唇が、身体の線を辿っていく。 「バァ・・・ン・・・?」 行き着こうとしている先が、ずっと指で弄られている場所であることに気づいて。 「あ・・・」 ひとみは身を捩ろうとしたが、バァンの腕の力には敵わなかった。 唇が触れ、温かく柔らかいものがゆっくりと蠢く。 消えてしまいたいほどに恥ずかしい・・・でも。 拒めない。 幾度となく愛されている身体が、初めて知った快楽。 すぐに羞恥は霧散した。 行き場を失った手が、バァンの髪を掴む。 この時、ひとみはまだ気づいていなかった。 自分の中で、新たな欲望が生まれていたことに───。 夜の帳が下りて、城内が寝静まろうとしていた頃。 ひとみは一人、自室でバァンを待ちわびていた。 昼過ぎ、10日ぶりに城へ戻ってきたバァンを、ひとみはいつものように城門の前で出迎えた。 長旅の疲れのなさそうなバァンの表情を見て、ひとみは嬉しくてたまらなかったのだが、いちおう皆の前では毅然とした態度を崩さずにいようとしていた。 しかし、バァンには見抜かれていたらしい。 「ただいま」の一言とともに見せた笑顔は、とても可笑しそうだった。 そして、「後でお前の部屋に行く」と、ひとみの耳元で囁いた。 ところが、その『後で』までの時間が、とても長い。 バァンは急な仕事が入ったために夕食も一緒に取ることができず、とうとうこの時間までひとみは待ちぼうけということになってしまっている。 もちろん、バァンが忙しいことくらいわかっているから怒りなどは全く湧いてこないが、あまりにも待ち遠しくてひとみは少々焦れていた。 バァンが何日も城を空けることなど、そう珍しくはない。 しかしこの10日間、ひとみは淋しくて仕方がなかった。 以前は『いつものこと』と自分に言い聞かせて、淋しさを紛らわせることができたのに。 理由は、自分でもわかっていた。 その時。 コンコン、と小さなノックの音。 バァンだ。 ひとみが椅子から立ち上がるのと同時に、バァンが部屋の中に入ってきた。 「お疲れ様」 早足でバァンの傍に近づくと、ひとみは笑顔で労った。 「すまないな、待たせて」 「ううん・・・」 ひとみはバァンのシャツを掴んで、胸元に顔を埋めた。 そのぬくもりがとても懐かしく感じられて、強く額を押しつける。 バァンがひとみの背中を、そっと抱いた。 「・・・どうしたんだ?」 少し戸惑ったような声が、ひとみの耳に降りてくる。 「淋しかった・・・」 一人で過ごす時間が、あんなにも長いものだったなんて。 しかし、この言葉を口に出すことはできなかった。 ひとみが淋しかったのは、心だけではないから。 身体も、バァンを焦がれていた まだ婚約期間中ではあるが、すでに二人は何度も肌を合わせている。 最初のうちは人目を憚っていたが、2ヶ月ほど前からバァンは頻繁にひとみの部屋に泊まるようになっていた。 それ以来、10日間も逢えないというのは初めてのことで・・・。 「変だよね、たった10日間なのに・・・」 身も心も愛される幸せを知ってから、自分はこんなにも淋しがり屋になってしまっていた。 そんなひとみの想いに気づいたかのように、ぎゅっと、バァンの腕に力がこもった。 「長かったな・・・」 「え?」 顔を上げると、バァンの微笑み。 「じゃあ・・・」 そこまで言いかけて、ひとみは一瞬躊躇した。 でも、バァンの口から聞きたい。 「バァンも・・・淋しかった?」 やはり何となく気恥ずかしくなり、ひとみは俯いた。 バァンが小さく息をついた。 「わかりきってること訊くなよ」 クイ、と顎を取られ。 「一人でいる時は、お前のことしか考えられなかった」 優しい、けれど欲情の炎に彩られた瞳が、ひとみを射貫く。 ドクン、と心臓が波打った。 しかし、ひとみはバァンと同じ炎が心の奥底で燃え上がり始めるのを感じていた。 「10日分だから・・・覚悟しろよ」 いつものバァンからは想像もつかないような言葉を紡いだ唇は、この瞬間からひとみを翻弄するものへと変わっていった。 バァンの10日分の想いは、強引とも思えるものだった。 いつもよりもはるかに多く胸に咲き乱れた、そして初めて腿の内側にも咲いた紅い華。 身体の中にも、何度も求められた余韻が残っている。 けれど、ひとみは身も心も充たされていた。 ひとみ自身も、それを望んでいたのだから。 ふと、隣りに横たわっているバァンがどんな顔をしているのかが気になった。 ゆっくりと身を起こすと。 「どうした?」 先ほどとは別人のように穏やかな顔が、目に入った。 「ううん・・・」 バァンの胸に頬を預ける。 ひとみが一番、大好きな場所。 規則正しい鼓動が、小さく響く。 安心感を与えてくれる音を心でも感じたくて、ひとみは目を閉じた。 ふわりと、髪を撫でる感触。 何度も、何度も。 今は優しい・・・バァンの手。 それなのに、なぜかひとみの身体には、同じ手に刻みつけられた激しい愛撫の記憶がより鮮やかに蘇った。 手と・・・そして。 ひとみはバァンの頬に、そっと手を伸ばした。 何か言いたそうな唇を、親指で辿る。 この唇は、今夜、ひとみのすべてを知った。 ひとみの中で、消えていたはずの炎が再び燃え始める。 バァンを知りたい。 自分の手で、唇で。 バァンが自分を知っているのと、同じように。 そして、もっと触れて欲しい。 ・・・愛して欲しい。 「ひとみ・・・?」 静かに呼ぶ唇に、そっと口づける。 「バァン・・・」 もう一度、今度は深く口づけながら、バァンの首筋から胸に手を這わせた。 長い口づけの後、手で辿った場所を唇で追う。 ───ずっと、ここで愛されていたい・・・。 自分と同じ華を、バァンにも咲かせる。 独占の証を、一輪。 その傍には、胸の彩り。 いつもひとみが受けている愛撫を真似て軽く吸うと、バァンの身体がピクリと震えた。 何度も吸いつき、さらに舌先で触れると、少しずつ立ち上がっていく。 バァンも自分と同じだということを、ひとみは初めて知った。 でも、バァンが一番感じるのは・・・。 手を、脚の方へ伸ばす。 -END?- ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |