シチュエーション
![]() 美香は何も言うこともできず、ただ男の力強い腕に抱かれるまま、駅近くの ラブホテルへと導かれて行った。 この前と同じホテルは、もうほぼ満室に近く、幾つかの空き部屋しかなかった。 男は迷わず宿泊のボタンを押す。 美香はまだ呆然としていたが、男が笑みを浮かべて彼女を見つめる。 こうしたかったんだろう、とでも言いたげな表情だった。 エレベーターに乗り込み、部屋へ向かう。 まだ少し、胸の動悸がおさまらない。 男がドアを開けて、美香に中へ入れと顎で指し示した。 靴を脱いで中に上がり込む美香の背後で、男が内鍵をロックする。 重い金属音が、外界の雑事をすべて遮断するかのように響いた。 男は無言でコートを脱ぐ。 今日はこの前と違い、すっきりとしたダークスーツ姿だった。 この人は、何者なんだろう…。 まっとうなサラリーマン風にも見えないし、さりとてフリーターや 無職の風にも見えない。 男の男性的な鋭い容貌が、そういった職にはあまりにも相応しくない。 美香が着ているコートを脱ぐと、さりげなくそれを取ってハンガーに掛けてくれた。 「あ……」 お礼を言おうかと戸惑っていると、男は美香の眼前でスーツを脱ぎ始めた。 ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外す。 シャツの前ボタンを外すと、すぐに裸の胸が現れた。 逞しい胸板をさらけ出す男に、美香は秘所が熱くなっていくのを感じた。 手早くスラックスとソックスを脱ぎ去り、男は濃紺のブリーフだけの 姿になった。 美香は、これから何をされるのかと身を固くしてしまう。 すると、男は意外な動きを見せた。 「先に、シャワーを浴びて来る」 それだけ言うと、美香に背を向けて、浴室へさっさと歩いて行ってしまった。 すぐにでも犯されるんじゃないか、と思っていた美香の思惑は外れた。 男は悠々と、シャワーを浴びている。 まるっきり美香が逃げることなど考えていないようだった。 逃げられず、逆に抱かれることを密かに望んでいることを知っている。 とり残された彼女は、ピンクのツイードのジャケットを脱いで ベッドに座った。 落ち着かない、そわそわした気分のまま男が出てくるのを待つ。 十分以上は経った頃、男は全裸のまま、タオルで身体を拭いながら出てきた。 「入ってきなよ」 言いながら、美香へ一瞥をくれる。 既にそそり立つものが、彼女の目に映った。 身体に走る妖しいざわめきをふり払うように、美香はそそくさと 浴室へ向かった。 熱めのシャワーを浴びながら、美香は先週我が身に起こったことを 振り返った。 さんざんに嬲りぬかれ、犯された挙げ句に感じさせられた。 男は美香に、奴隷になれ、と命じた……。 そして美香が眠り込んで(失神して)いる間に、携帯の番号を調べていたのだ。 フルネームも知られている。 携帯番号から住所や氏名を割り出すような、興信所や業者もいると聞く。 このまま、ほんとうに男のなすがまま、言うがままになるしかないのだろうか……。 それなのに、どこかで期待している自分がいる。 また、あれほどの快感を味わわせてもらえる。 何度も何度もイかされ、狂い乱れたあの日、あの時。 男の逞しい身体に夢中でしがみつき、自分から腰を振って悶えた。 そんな美香を男は淫乱な女だと言い、巧みに翻弄し尽くした。 美香はそっと自分の秘所を指で探った。 当然、そこはぬるぬるとした愛液で溢れかえっている。 電車の中にいた時点から、予感で濡れてしまっていた。 自分自身の手で、そこを慰めてしまいたい欲求にかられる。 ふくれあがったクリトリスに触れながら、濡れて開ききった膣口にも浅く 指を入れてみる。 「はぁっ……」 小さく溜息をつきながら、美香はうっとりと指戯にひたろうとした。 「おやおや…待ちきれなくて、ひとりでお楽しみかい?」 背後で、男のからかうような声がした。 はっとして慌てて指を外すと、男の手が白い手をぐっと掴んだ。 指先についた美香の恥ずかしい液を、男は舐めて見せた。 「ふふ……かわいそうにな。……そんなに、俺が欲しかったのか。 よしよし…これから、たっぷり可愛がってやるからな」 にやにやと笑いながら、全裸の男が美香の身体を壁に押しつける。 「あっ……」 男の熱い怒張が、美香の白い太ももに押し当てられる。 「やめ………」 拒絶しようとする言葉が、男の唇に吸い取られた。 男の唇は、爽やかなミント系の香りがした。 気を遣ってくれている。 そういえば、この前の時もそうだった…。 ぬめる舌が美香の唇を割り、口蓋に自由に侵入する。 美香は差し入れられた舌を吸い、おずおずと男に応じた。 「もっと舌、絡めろよ。この前みたいにな……」 キスを中断すると、男は首筋に唇を移した。 「あ………」 ぞくぞくするほど、優しい舌の動きが伝わってくる。 こんなふうにされたら、もう……たまらない。 男の首に手を回して、愛しい男にするようにかき抱きたい。 そう思いながら、美香が男の肩に手をかけた。 ふっと男が笑いながら、美香に向き直ると、また唇が重ねられた。 「続きは、ベッドでな……」 男は、彼女の心をすべて見透かしたかのようだった。 どうしようもないほど、美香は男に惹かれていた。 軽くキスをされただけで、もう腰がうずいて仕方なかった。 まさか、指での戯れを男に見られていようとは……。 今度は、どんなふうにして責められるのか。 期待が、ふたたび美香の胸を息苦しいほどにさせていった。 シャワーを終えて、なにを身につけて出ようか迷ってしまう。 一応下着だけはつけようと、淡いピンク色のブラとショーツ。 そしてお揃いの膝上丈のミニスリップを着て、上にバスローブをまとった。 男は、ブリーフだけの姿でベッドに横になっていた。 目を閉じていて、眠っているように見える。 それでも、天を仰ぐものは堂々と股間に息づいている。 自然と、彼女の視線はそのものに吸い寄せられる。 男のものの硬度と回復力は、並はずれたものだった、と美香はこれまでの 男性経験と照らし合わせて知った。 大きさは特に大きいと言えるものではない、はずだった。 ただ、いやらしく張ったカリ首が美香にもたらした快感は凄まじかった。 「欲しいか?」 唐突に、男が目を開けて美香に訊いた。 男はゆっくりと身を起こすと、美香の身体を抱き寄せた。 白いバスローブの前をはだけさせる。 現れた美香の下着姿を見て、薄く笑う。 「今日は、ピンクか…。色っぽいな」 言いながら、スリップの肩ひもに手をかけ、ずらして肩から落とす。 「スーツがピンクだから、下着も色を揃えたのか?洒落てるな」 さりげなく誉められて、美香は胸が泡立つような気分になった。 「あとは、自分で脱げ……」 「………」 心の中で、はいと呟きながら美香はスリップを床に落とした。 ブラの肩ひもを下げ、フロントホックを外す。 ぷるん、と揺れる乳房が男の目にさらされる。 淡く色づいた乳首が、もう痛いほど勃起してしまっている。 あとは、全体が薄く素肌が透ける素材のショーツだけになった。 「それも、脱げ。脱いで、自分で見せてみろ」 美香はアンダーヘアがうっすらと浮いて見える布に手をかけ、ゆっくり 腰からずらして下ろしはじめた。 男の刺すような視線を、そこに感じる。 見られているのを知っていて、わざとゆっくりとショーツを下げていく。 恥ずかしいから、少しずつしか脱いでいけない。 それもあるが、男の命令に素直に従う素振りを見せながら、実は男の欲情をそそり 煽り立てる効果をわかってやっている。 恥毛をのぞかせ、さらにゆっくりと太ももの下にまで下ろした。 すると、愛液が糸をひいてショーツと股間を結んだ。 「凄いな……。糸、引いてるぜ……」 淫らな笑いを浮かべると、男は起きあがって美香の身体を横抱きにする。 そのまま彼女をベッドに横たえ、両膝を掴んで立てさせた。 「ほら、足を広げろ……。 自分で、あそこを開いて、俺に見せてみろ」 前に犯された時よりも、さらに卑猥な要求だった。 「いやっ……」 小さな悲鳴をあげて、美香は両手で顔を覆った。 そんな恥ずかしいこと、できない……。 「…できないのか?」 静かな男の声が、美香の耳元にかかる。 膝を開かせるようにしながら、その間に顔を近づけていく。 内ももを吸いながら、息を秘所に吹きかける。 「こんなに、濡らしてる……。 俺がもっともっと、びしょびしょに濡らしてやるよ……」 そう言うと、ぬらついた舌を美香の敏感なはざまに沿って動かす。 「はあっ……!あっ……」 いきなりのクンニリングスに、美香は戸惑いながらも声をあげてしまう。 クリトリスのふくらみをそっと舌で上下にこすり、感じて開いている 膣の口へと舌先はもぐりこんだ。 「ああっ……。だ………め………。 ……ああんっ………。……あっ………」 膣内を犯す男の舌先の自在な動きに、早くも美香は達しそうになっている。 膣口に舌を入れて、出すとすぐにクリトリスを舐め上げる。 十分に濡れきって、たっぷり分泌する愛液が、快感を増幅している。 さらに男の唾液が加わり、粘ついた感触が美香を責める。 それを繰り返すやり方が、美香の唇から淫らな喘ぎを引き出した。 「もう……。だ、め………。ああ………。 ああ、いっちゃう………。……イきます………。」 最後は、ああ、と大きく叫びながら、美香は一度目の絶頂を迎えた。 胸を弾ませて余韻にひたる美香を見下ろしながら、男は笑っていた。 「ふふふ……。もう、イったのか? まだまだ、これから……狂うほど、感じさせてやるよ……」 男は、美香の秘所をねぶったばかりの唇で、キスを求める。 美香はもう躊躇せずに男と舌を絡め合う。 両方の乳房を男の手がやわやわと揉みしだき、敏感な乳首をこすられる。 「んっ……。」 キスの最中でも、声が漏れてしまうほど…感じる。 乳首をそっと舐め回され、時にはやや強めに乳房を掴むようにこねられる。 男は、前回美香を犯した時に、彼女が感じる責め方を心得ている。 強く彼女の白い乳房に吸いつき、紅くキスマークを残す。 「ほら…キスマークをつけてやったぜ。」 「いやぁ………」 美香は、羞恥と快楽に顔を桜色に染めていた。 「俺の唇の痕を、たっぷりつけてやるよ。 それこそ、おまえの全身……身体中にな。」 笑みを浮かべながら、男は美香の潤んだ瞳を見据えて言った。 「美香………」 名前を呼び捨てにされ、美香は身体に甘いうずきが立ちのぼってくるのを知った。 「おまえは、俺のものなんだ。 それを、これから……ようく思い知らせてやるよ……」 抱き起こされて、男のブリーフの前のふくらみに顔を近づけられた。 すでに先端の部分が濡れ、濃紺の布に染みを作っている。 「脱がせろ……」 膝立ちになった男に、美香はひざまづく形になった。 「ほら。脱がせるんだよ」 焦れた男は、美香の頬にいきり立ったものを擦りつけてくる。 屈辱と、同時に被虐の快感が美香を襲う。 男の言うまま、そっと両手でブリーフを下ろしていく。 生々しい、肉の色をした棒が揺れた。 恥ずかしいけれど、どうしてもそれを見ずにはいられない。 「どうだ……? これが、欲しいか?」 手で握りながら、美香の唇にそれを近づける。 「どうなんだ?……この前は、あんなに熱心にこいつを可愛がって くれたっけな。おしゃぶり、得意なんだろう?」 美香はただ、黙って首を振るしかなかった。 「この前、おまえを犯してから…溜まってるんだよ。 言っただろう。次からは、始めは口で抜いてもらうってな」 ……そういえば。 そんなことを、言われたような覚えがある……。 「ほら……しゃぶりたいか?」 男は、卑猥な要求を美香の口から言わせたいらしかった。 「…しゃぶりたい、だろう?」 思い切って、美香は小さな声で言った。 「……しゃぶりたい、です……。」 恥辱が、顔を…そして身体を熱く火照らせていた。 「そうか……。それなら、存分にしゃぶりな」 満足そうに、男は美香の唇を開かせ、先端をこじ入れた。 貴重なものをおし戴くように、美香はそのものに下から手を添えて 亀頭を舌先で舐めた。 ちろちろと舌を立てて、男の敏感な部分をくすぐる。 それからゆっくりと全体を唇で包むようにして、幹の部分をくわえ込む。 根元近くまで、唾液を塗りながら口腔内に収めていく。 男が最も感じるウラスジの部分へ、舌先で何度も何度もこすりたてて 往復させてやる。 陰嚢部分を空いた片手でそっと揉み、そのまま蟻の途渡りから すぼまったアナルにも指先を這わせた。 「うっ………」 これには、さすがの男も耐えきれずに声をあげてしまう。 どう……?感じるでしょう。 もっと、声を出さずにいられないほど、気持ちよくさせてあげる…。 美香は、一度試してみたかったテクニックを使うつもりだった。 指での愛撫をやめると、男性全体を吸引しながら、今度は舌を思いきり 突き出して、男のアナルへ責めを始めた。 「うっ……!!」 男は、反射的に興奮と快感でうわずった声をあげた。 整った顔が、こらえきれない愉悦に歪んでいる。 そんな男の声も、表情も、美香の倒錯した喜悦をより刺激していくものだった。 美香が、男の性器を犯しているような気分になる。 今は自分が男よりも優位に立っている。 「……凄い……。こんなやり方を、知ってるのか……」 男の驚嘆の声が、美香の加虐心をくすぐった。 「……もう、出すぜ……。 そうだ……飲むのと、顔にかけられるのと、どっちがいい?」 男が、また猥褻な選択を迫ってきた。 前回は、口の中でそのまま精液を出されて飲んだ。 それなら………。 「……顔に……。顔に、かけてください………」 はじめての経験になる。 でも、前から試してみたかったことでもあった。 「よし……。顔に、かけてやるぞ……。 俺の熱いので、おまえのかわいい顔を汚してやる……」 美香の唇から離れると、男は自分の手で激しくしごき始めた。 「いくぞ……!ほらっ………」 熱い、白濁した液が美香の眉間のあたりに勢いよく飛び散った。 「ああっ………!」 一回目の射精……。 しかも、男の言うように溜まっていたらしい。 量は当然多く、そして粘度も高い。 鼻筋を伝わって落ちてくる精液を、男の指がすくい取り、美香の唇に含ませた。 「ん、んっ……」 目を閉じて、精液が目に入らないようにしているところに、そんなことを された。 粘っこいそれは、苦みが感じられる。 「顔射は、されたことあるのか?」 「いいえ……。」 「これが、はじめてか?」 「……そうです。」 うなずく美香に、男は気を良くしたようだった。 「かけられた気分は、どうだ?」 「……恥ずかしいです………。」 うつむく美香の顔を、男はタオルで拭いてやる。 「ほら。口で、きれいに舐めろ。」 唇に精液のこびりついた怒張を押しつけると、美香は勧んで舐めた。 一度射精を終えたばかりのそれは、徐々に硬度を失いつつあった。 「顔……きれいにして来いよ」 「はい……」 男に言われるまでもなく、粘つく感触を洗い流したかった。 いつまでも、濃厚な男の匂いが残るような気がする。 シャワーを浴びながらボディソープで顔を洗い、新しいタオルで拭く。 入れ違いに、今度は男がシャワーを浴びる。 まだまだ、夜は始まったばかりだった。 美香は、全裸の体を隠すように布団をかけてベッドに横になっていた。 そこへ、男が布団をはぐって入り込む。 美香の身体に覆い被さり、唇から首筋、肩から胸へと愛撫を加える。 丁寧に乳房をゆっくりと触り、舌で乳首を転がす。 そのたびに美香はせつない声をあげて反応した。 恋人同士の行うセックスに等しく、自分から男の首に手を回して口づけを求めた。 シックスナインの体勢をとらされ、半立ちのものを握らされてしゃぶりながら 秘所をたっぷりと舐められ、悶えた。 男の舌戯は執拗に、巧妙に美香の感じる部分を突いてくる。 硬さを取り戻した男根を舐めていられないほど、よがり声をあげた。 一度イかされた時のように責めたてられて、美香はついに二度目に達してしまった。 イったばかりの汗ばむ身体をうつぶせにされる。 男が何を求めているのか、わかりすぎるくらいだった。 美香の脚を開かせ、股間に勃起を押し当てて、暫く亀頭でこする。 それが互いの性感を高めるための前戯だった。 感じている声を出す美香に、男は詰問を始める。 …これが、なんだかわかるか? はっきりとそのものの名前を言うまで許さない。 恥じ入った美香が、やっと男性器の俗称を口にしても、まだ入れてはもらえない。 犯してください、と言うように強要される。 そのことをとぎれとぎれに言うと、ようやく先端が入り込んできた。 ぐっと突き上げられ、奥の感じる部分を刺激される。 男のものが、その部分を巧みにこすりつけてくる。 美香は自分から腰を揺すって快楽を追いはじめた。 それほどのよさが、美香の理性を徐々に失わせていく。 男は美香に淫猥な約束をさせようとしていた。 …おまえは、俺の奴隷だな。 俺は、おまえの住所も、自宅の電話も知っている。 もちろん勤務先も。 おまえがこの前言ったことで、それはみんな嘘だということは知っていた。 今度は本当のことを言え。 おまえは、俺の奴隷だな。 俺の言うことを、なんでも聞くか。 ……美香は、男がやはり興信所を使って調べたのだと愕然とした。 これからは、この男の言うことをほんとうに聞かなければならない。 男の求めるままに、身体を開き、恥を捨てて奉仕しなければならない。 呼び出されては、こうして犯されるのだろう。 電車内で、またあんな風にされるのかもしれない。 身裡が、暗い絶望感と屈辱に苛まれた。 それでいて、男の怒張を受け容れ、快楽を貪りながら歓びの吐息をもらしている。 今日この駅へやって来るのも、おそらく調べられていたのだろう。 もう……すべてを、知られてしまっている。 美香自身がマゾの気質を持っていることも、こうして犯されてよがっていることも。 突き引きを繰り返しながら、美香をイかせる寸前で男は畳みかけた。 「美香は、あなたの奴隷です…そう言え」 快楽に焦がれて狂う寸前になった美香は、男の言葉に従った。 この時、まだ美香は男の計略のほんの一端を見たにすぎなかった。 ……男の哄笑とともに、彼女の意識は遠ざかっていった………。 …美香は、ようやく意識を取り戻した。 また、気を失うほどの責めに遭って翻弄され尽くしてしまった。 男が、うつぶせになったままの美香の足近くに腰を下ろしていた。 「ああ。気がついたか……」 後ろを振り向く美香に、男は薄く笑って見せると、ゆっくりと立ち上がる。 手荷物を置いてあるハンガーラックの近くに行き、自分の スーツのネクタイを取り出した。 美香がさきほどハンガーに掛けておいたので、それがスーツと 揃いのダーバンのものであることは知っている。 男がネクタイを持ち出したところで、その意図を察して胸が 高鳴っていく……。 美香の足もとに座ると、彼女の両手を後ろに回させる。 男の大きな手で、美香の細腕はたやすく両方まとめて拘束 されてしまう。 「やめて………」 美香の胸に、未知の行為への不安感と、それに相反するように ある種の期待が去来する。 男はかまわず、いかにも高価そうなネクタイを彼女の白く細い 手首に締め付けた。 慣れた手つきで、素早く縛り、結ぶ。 そこで、美香の腕は手首の部分で完全に固定された。 後ろ手に縛られ、男の前に無防備な姿をさらしている。 手首部分には若干の余裕を持たせてあるが、結び目は ほどけそうにない。 「やめて…。ほどいて、ください……」 か細い声で抗議する美香に、男は問いかけた。 「こんな風にされるのは、初めてか?」 「……そうです。お願い、ほどいて……」 「一度経験しておくのも、悪くはないぞ。やみつきになるかもしれないがな……」 男はおかしそうに低く笑いながら、美香を抱き起こさせた。 「ベッドの下に、降りろ」 縛られたまま、男の言うように床に降りる。 「床に、ひざまづいてこっちを向け」 男はベッドの端に腰掛け、両膝を開いて美香の身体をその間に 入る形にさせる。 既に二度の射精を終えたというのに、男のものは天を仰いでいた。 うつむく美香の白い頬を引き寄せて、傲然と命じる。 「しゃぶれ……」 唇の上に、熱いものの先がこすりつけられた。 それだけで、美香の腰の奥に痺れが生じてしまう。 観念して、唇を開いてそのものの侵入を許した。 亀頭部分を吸い始めると、男はわざと腰を引いた。 「あっ………」 当然、美香の口に収まっていたものは外へ出る。 そして再び、彼女の口へめがけて入り込む。 「どうした?熱を入れてしゃぶらないと、いつまでもこのままだぞ……」 嘲りの笑いを浮かべながら、美香を見下ろす。 男と視線が絡み合い、かっと身体に恥辱感が走る。 どこまでも……いつまでも、辱めていくつもりなのか……。 美香は、今度こそひといきに根元部分までを口腔に収めた。 すっかり馴染まされた感触が、彼女の唇を快感で満たしていく。 手が使えないもどかしさ、そして床にひざまづかされて男にかしづき 奉仕を命ぜられる。 そのことが、美香の倒錯した快楽を呼んでいた。 裏筋を、舌を突き出して派手に舐め上げ、唾液を分泌させてこすりつける。 滑りをよくさせておいて、すすり立てる音をさせる。 男に言われるまでもなく、彼女自身奉仕に熱中し始めていた。 男の反応が、直接唇の中で息づく怒張から伝わってくる。 それは膨れ上がり、脈動とともに美香の中で震える。 声にならない熱い吐息を漏らし、男は美香の顔を押さえつけた。 そして自分から腰を突き上げ、イラマチオの形をとり始めた。 逞しいものを、美香の口内の粘膜に擦りつける。 美香は、それを強く吸いながらむせないように喉の奥を締め付けた。 あまり奥まで来られては、えずいてしまうかもしれない。 そうなっては台無しになってしまう。 「……本当に、うまいな……。もうすぐ、出ちまいそうなくらいだ……」 美香は手が使えないぶん、いっそう口での行為に集中している。 ディープスロートまで行う彼女の口戯に感心したか、男は嘆息した。 「そろそろ、出すぞ。今度は飲ませて欲しいか?」 美香はそこで激しく首を振った。 そんなことを、されたら…… ………入れてもらえなくなってしまう。 これまでの縛りから、フェラチオとイラマチオの段階を追っていくごとに 美香の体奥から蜜が湧き出てきて、止まらない。 3度目の射精を口にされてしまったら、いくらこの男でも回復するには 時間がかかってしまうに違いない。 「ふふ…冗談だよ。そんな勿体ないこと、できやしない」 そう言うと、彼女の唇から隆々とした勃起を引き離した。 床下に座る美香を立ち上がらせ、ベッドへ再び寝かせる。 また、うつぶせの姿勢にされた美香は足を開かされた。 充分に熟した股間に、男の手がまさぐりにくる。 「は、ああ………」 「……凄いじゃないか。え……。 俺のちんぽしゃぶりながら、こんなにぐしょぐしょに濡らしてたのか?」 指を膣の口に侵入させて、そのまま内壁を指がこすりにくる。 「あ、あっ……!ああ……。ああ………」 せつない声をあげて、男の淫らな指戯に応える。 男の指は、正確に美香の感じるポイントを突いてきた。 男根の挿入でも感じる膣口が、今度は精細な指での動きに反応する。 「一本指が入るだけで、ここが締まるぜ……。 さあ……今度は、二本指でどうだ?」 男の右手中指に加え、人差し指までもが膣内に入ってきた。 「ああ………!」 美香は、思わず叫び声をあげた。 二本の指が、それぞれが自在に蠢き、美香に新たな官能を呼び起こす。 片方の指が膣の口をこするように責め、もう片方はぐっと奥の子宮口の 付近のポイントと、Gスポットのざらついたあたりを責める。 指が優しくツン、ツンとそこを突つき、子宮口のすぐ下の場所もそっと 指先で柔らかく刺激される。 そのたびに、膣の中を締め付けて快感を増幅させようとしてしまう。 「ああ!ああ……。あっ……。ああ………」 美香は、絶妙な責めに感じすぎて目を閉じ、声を絞り出すだけだった。 「凄え……。おまんこ、俺の指をぐっと締め付けてくるぜ。 もう、中も濡れ濡れだ……」 そんなことを耳元で言われても、美香はただ喘ぐだけだった。 「もうすぐ、イキそうなんじゃないか? ………そうなんだろう?え?」 男が指摘する、その通りだった。 「……はい……」 言いながら、うなずくと美香は哀願をこめて男の目を見た。 お願い……もう、いかせてほしいの……。 もう、我慢できない……。 「そうか……。」 男は、考えている素振りを見せた。 そこで、また卑猥な二者択一が待っていた。 「指でいくのと、こいつでいくのと、どっちがいい? さあ、選べ。答えろ」 美香に自分の手と、そしてまだ勢いを失わない膨隆を指し示した。 「……………………」 咄嗟に、美香は答えに詰まってしまった。 こうしている間にも、快感は醒めていきそうになっていってしまう。 どっちでもいい。早く、なんとかしてほしい………。 そんな思いが、美香の口から答えを出した。 「あなたの、好きなほうで………」 「俺に、任せるっていうのか?」 「ええ………」 美香は、それよりも手が動かせないことに焦れていた。 手が自由なら…自分で慰めてしまいたいほどの快楽。 「それなら………」 男は淫らな笑いを浮かべながら、ベッドを降り、自分の黒いブリーフケースを 探りに行った。 美香は、男が今度は何を取り出すつもりなのか、不安と好奇でいっぱいになる。 次に男が手にしたものは、美香の予測を越えたものだった。 黒い、いかつい形をしたバイブレーター。 それも胴回りにイボ状の突起がびっしりと付いた、見るからに淫猥な形の ものだった。 それに慣れた女なら、見ただけで欲情するような代物だろうが、美香にとっては 不気味な威圧をはらんだ得体の知れないものだった。 「いや………」 思わずそう言うと、あとずさりしてしまう。 男は、それにコンドームをかぶせている。 そういえば、なにかで読んだことがあった。バイブにも、ゴムを着けるべきだと。 あれは、どこのどんな雑誌だったか…… 「こいつで、気持ちよくさせてやるよ……」 男はそれをかざして、美香の頬に擦りつけた。 「……いや………。いや……。やめて………」 ゆっくりと首を振りながら、美香は欲情を上回る嫌悪感に苛まれた。 ある意味、男の性器で犯されるよりも遙かに屈辱的なことに思える。 それに、バイブレーター自体を見るのもはじめてだった。 こんなものを入れられたら…… いったい、どうなってしまうのか………。 正体の皆目わからないものだけに、美香の恐怖感は大きかった。 ………でも、男に逆らうことは………。 男は、美香を横たえさせ、上から自分の身体をのしかからせてきた。 男の体重がかけられ、美香はか弱く抵抗するだけだった。 「いやぁ……!いや………。お願い、そんなの、いや………」 なぜだか、最初に電車内で犯されかけるよりも嫌だった。 そんな彼女の抗いも、男の前にはほとんど意味をなさない。 かえって、それが男を高ぶらせる。 「なんだ……これが、いやなのか?」 意外そうに、美香の拒絶を見て男は言った。 「バイブ使うのは、初めてなのか?」 うつむいて何度もうなずく美香に、男は嗜虐心をそそられたようだった。 「テクニックの割には、随分とウブなんだな……」 美香の言い分を信じていないかのように、畳みかける。 「それじゃ、こいつが初体験なわけか。 どういうものだか、味わってみるのもいい勉強だぜ……」 美香の膝の裏側に乗り、脚をぐっと広げさせてそのものを宛う。 嫌がる言葉と裏腹に、そこはさきほどまでの指の愛撫で濡れきっていた。 「いやぁっ!お願い、やめて……。やめてぇ!」 叫ぶ美香の声を無視して、男はバイブを美香に挿入した。 「いやあぁぁ…………」 冷たい、硬い異物が侵入してきた。 明らかに、男根の感触とは違う。違いすぎる。 あたたかみのない、硬質な刺激がぐっと奥まで与えられた。 「いやぁ……」 力ない声は、半泣きに近くなっていた。 目に、うっすらと涙が浮かぶ。 男がバイブを前後に動かし、内部をかき回す。 馴染みのない感触が、快感とはほど遠い違和感しか生まなかった。 「どうだ…?こんな物を入れられてる気分は……」 「やめて……!もう、やめてください……」 泣き声になりかけながらそう言っても、男はやめてくれなかった。 「こうしたら、もっと気持ちよくなれるぞ……」 それまでは、ただ手で動かすだけだったのが、スイッチを入れられて 急に振動が加わった。 「あああっ………!」 男性のものとは違う、機械的な、ありえない動き。 膣内をぐるりと旋回するような運動が、いやな振動とともに繰り返される。 それが美香にとっては、不快きわまりないものでしかなかった。 「いやぁあああ!!こんなの、いやぁ!! やめて、やめて!お願い、もうやめてぇ………!!」 美香は、それまでにない悲痛な叫び声をあげ、男に懇願した。 涙が頬を伝わって、こぼれてくる。 どうしても、これだけは耐えられなかった。 美香の声の調子が、本気で嫌がっているのを察したのか、男はそこで バイブを止めて引き抜いた。 縛られていた腕も、すぐにほどかれた。 「……どうした?大丈夫か……?」 さすがに心配そうに、美香の肩に手をかけて尋ねる。 美香は答えることもできず、ただしゃくりあげていた。 「そんなに、嫌だったのか?」 潤んだ美香の瞳からこぼれる涙を、男の長い指が拭った。 「悪かったな……。もう、しないから。泣くな………」 まるで痴話喧嘩して機嫌を損ねた恋人を慰めるように、優しく抱きしめられる。 そこで、初めて美香は男の胸の暖かさに気づいた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |