虜囚 三章
-2-
シチュエーション


……返しに行かなくちゃ。
すぐにでも。
今夜はもう遅いから、明日にでも。
なんで、土曜日の時点ですぐに気づかなかったんだろう。
もう、すんなり受け取っていると思われるのは心外だった。
そんないけ図々しい女だと、思われたくない。
まるで美香がこれを受け取ることで、これまでの屈辱的な行為の
当然の代価を支払う、とでもいうのか?
美香がこれを返しにくるのを、黒澤は当然知っている。
巧妙な計略にひきずりこまれ、彼のペースにどんどんはまっていく。
それがわかっているのに、抜け出せない……

直接会って話し、彼の手に返さなくては気が済まない。
そうしないと、自分で自分が許せなくなる。
幸い、明日は店が早く終わる日でもあった。

明日……金曜日の夜。
黒澤と一度は交わした約束の、週末の夜。
池袋に行ってみよう。 
直接会って、これを突き返してやる。
美香はきらきらと輝くネックレスを丁寧に箱に収め、鞄にしまいこんだ。
電話に関する話も、聞いてアドバイスも受けたい。
あの男がどんな所で、どんなオフィスを構えているのかを知りたい。

また、いろいろなことを考えると、眠れなくなりそうな予感がした。
無理に目をつぶって、休もうとする……


翌日、金曜日。
やっぱり美香はよく眠れず、でも妙に高揚感が身体にあった。
落ち着かないけれど、それを周囲に悟られないようにふるまう。
恋人と別れてから、デートのあてがなくなったので、おしゃれな
服装は通勤に着ないのに、今日は濃いブルーのワンピースを着た。
身体の線がくっきり浮き出る、シンプルな形でいながらセクシーな服。
会うと、きっと求められるかもしれない。
心では、拒否してやりたい。
いいなりになり続ける女だと、たかをくくっているあの男に、なにか
思い知らせるようなことをしてやりたい。
そんなことばかりを考えていると、美香はなぜか胸が熱くなって
いくのを感じた。

かけひきを、楽しむような気持ちになっている。
抱かれ、犯され……何度も何度も感じさせられ、その時は服従
させられて従っている。
でも、ベッドにいる時以外の美香を、あの男は知らない。
すべて、奪っているつもりでいるがいい。


午後3時……
レジを締め、計算をして手早く掃除を済ませる。
従業員の女性たちは、いそいそと週末のデートに出かける。
美香もそのうちの一人、かもしれない。

秋葉原で山手線に乗り換え、池袋に出る。
黒澤から貰った名刺を手にして、鞄の中にあるダイヤの箱を
ぎゅっと押さえる。
事務所のある場所は、きのうネットで検索してだいたいの地理を
つかんでいた。
あとは、電話連絡をすべきかどうか。
でも下手に電話を入れると、待ちかまえられていいようにされるのが
目に見えている。
留守なら留守で、また出直すか、どうするか……
迷いながらサンシャインシティに入り、化粧を直す。

今日の服装は、紺色のロングコートに濃いブルーのぴったりした
膝丈のワンピース。
だから、いつもの清楚な格好とはまったく違ったメイクにする。
しっかりめにアイライン、マスカラを塗り、シャドウも濃いめにする。
眉も、いつもは自然な感じに引くのが、今日は意志の強そうな
きつめなラインを描く。

口紅は、ダークワイン。
落ちにくいグロスを塗ると、唇が艶やかに光る。
普段の可憐そうな美香の印象は消え、濃艶な女が鏡に映っている。
実年齢の22歳よりも、ぐっと大人びて見える。
仕上げにオンブルローズのトワレを手首と首、膝に吹き付けた。
官能的な香りが美香の身体から漂い、立ちのぼっていく。
ふっと溜息をつくと、意を決してハイヒールの靴音を高く響かせた。


サンシャインの通りを出て、首都高沿いに歩いていく。
住居表示からすると、この周辺のはずだ。
どんなところなんだろう……。

探偵事務所なんていうと、場末の寂れたビル、いかがわしい
雰囲気…そういったイメージしか湧いてこない。
所長なんていう肩書きだけど、部下はいるのか?
いても何人くらいなのか。

大小の雑居ビルが建ち並ぶ通りをゆっくりと歩き、下からビルの
外看板を見上げながら探す。
黒澤……黒澤、探偵事務所………

…………あった。
小さいけれど、比較的新しそうなビルの5階。
ここに、あの男が……私立探偵として、拠点を置いている。
胸が苦しくなるほど高鳴り、早鐘を打っている。
深呼吸して、ビルの入り口に入っていく。
小さなエレベーターに乗り、「5」を押す指が、かすかに震えていく……

ゆっくりと上昇していく函の中で、美香は腰がじんと痺れていくのを
知った。
まもなく5階に着き、扉が音もなく開く。
狭い通路の奥に、マンションタイプの扉が見える。
その上に、白地のプレートに黒一色で「黒澤探偵事務所」と素っ気なく
書かれている。
ドアの横にインターホンがあるが、なかなか手をのばすことができずに
暫くその場に立ちつくしていた。
ゆっくり、深呼吸を繰り返し…動悸といっていいほどの早さで鼓動する
心拍を、なんとかして落ち着けたい。

お願い……誰か、いて欲しい。
あの人、ひとりきりじゃなければいい………

もう一度、大きく深く息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
そして、思い切ってインターホンの「呼」ボタンを押した。

ありきたりの呼び出し音が響く。
美香は応答を待つ間、数を数えてみた。
……1、2、3、4、5………
……十秒以上が経っても、応答がない。
もしかして、留守なのか?まだ外は明るいから、明かりが外に
漏れているかはわからなかった。

もう一度、押してみる。
……十秒ほど経って、黒澤ではないような男の声が返事した。

「はい」

若い男のような、やや高めの声。

「あの……ご相談したい件があって、お伺いしたんですが……」

美香は何度も口の中で繰り返した言葉を出した。

「はい。どうぞお入りください」

そう言われると、美香の胸はますます苦しくなってしまう。

……なにをすくんでるの。
私はこれを返しにきただけよ。
あのひとに、抱かれたいから来たんじゃない……

そう自分に言い聞かせながら、美香はドアノブに手をかけた。

中へ入ると、意外に明るくきれいな印象を受けた。
5階のテナントの一つとしてここが占めているらしく、見回すと
およそ20坪ほどの広さに見える。
正面には応接セットがあり、依頼人と交渉をもつスペースの
ように見受けられる。
ほんとに、小さな会社のオフィスといった雰囲気だった。

応接セットの近くに若い男性…20代半ばくらいの、爽やかそうな
青年が立っている。

「どうぞ、おかけになってお待ちください」

美香はコートを脱いで、セクシーなワンピース姿になった。
青年の視線がちらりと美香を捉え、部屋の隅のティーセットに向かった。
黒澤は、いないのだろうか……
美香は肩すかしをくらった気分になっていた。

「あの……。所長さんは……
……黒澤さんは、いらっしゃらないんでしょうか?」

青年は、黒澤の部下に当たるのだろうと思い、訊いてみることにした。

「所長は、ただいま奥で電話応対しておりまして……
終わり次第お客様のご相談を、直接お受けしますので、少々お待ち
いただけますか?」
「あ……。はい……」

青年に紅茶を出され、美香はふう、と小さく溜息をついた。

まもなく青年は、その奥の部屋の方へ歩いていった。
その部屋のドアを開けているらしく、会話が漏れ聞こえてくる。

“所長…相談に来られた方が、お待ちです”
“相談?待っててもらえ。今手が離せん”
“いいんですか?若くてきれいな女性の方ですよ。所長を名指しで
ご指名ですよ”

若くてきれいな女性……
青年は黒澤をからかうような調子で話していた。
そんなふうに言われて、美香はくすりと笑いたくなってしまった。

“……ちょっと待ってろ。じきに行く”

青年と黒澤のやりとりが、なぜかほほえましく思える。
会話が終わっても、青年はこちらへ戻ってこない。
そのまま、しばらくの間待つことになった。

今は、胸の動悸もかなり落ち着いている。
できるだけ冷静に、対応してやりたい。
黒澤が美香の態度を見て、どう思うか。
あの青年がいるのなら、美香を抱くこともできない筈。

美香の後ろで、ドアの開く音がした。

「お待たせしました。所長の、黒澤……」

やってきた彼に向かって、美香がソファからすっと立ち上がる。
美香の姿を認めて、黒澤は一瞬黙り込む。
予告なしに、急に金曜の夕方訪れてきた彼女を、彼はどう思うのか。

「……美香?」

驚きのあまりに表情を崩す彼を見ていて、美香は一種の快感を覚えていた。

「……美香、なのか? ……どうしたんだ、急に……」

普段ほとんど冷静な表情を保っている黒澤が、美香を見つめて
目を見開き、口をぽかんと開けている。
それも一瞬のことで、すぐにまたいつものように動じない様子を
見せようとしている。

「あなたに、用があって……。
いけなかったかしら?急に訪ねてきたりして……」

今日の彼は、暖房のよく効いた室内だからか、白いワイシャツに
ネクタイの薄着だった。
主義なのか、素肌のすぐ上に直接シャツを着ている。
逞しい胸板と、乳首がうっすらと透けて見える……

「いや……わざわざここまで来るなんて、思ってもいなかった。
座れよ。」

言いながら、自分も美香の向かいのソファに腰を下ろす。
部屋から出てきた青年に「八巻。おまえ、今日はもうあがれ。明日は
おまえに任す」と言った。

「はい…。じゃ、所長…ぼくは失礼します」

八巻という青年は、荷物を持って出ていき、寸前で美香にも頭を下げた。

ああ……。帰されてしまった。

これで、ふたりきりになってしまった……?
美香の格好を見て、黒澤は舐めるような無遠慮な視線を注いでくる。

「しかし、変われば変わるもんだな……女ってのは。
化粧と、服装で……ここまで見違えるとは。正直、驚かされたよ」
「こういうのは、嫌い?」

美香は挑むように視線を上げて、黒澤をやや上目遣いに見つめる。

「いいや……。色っぽくて、いいじゃないか。
いつもの清楚な美香もいいけど、今日は違う女と会ってるみたいな
気になる。そそられるよ」

黒澤は腰を上げて、美香の隣に移動しようとした。

「相談があるなんて、口実なんだろう?
俺に、会いに来てくれたんだろう?こんな色っぽい格好して……」

やっぱり……そう言われるだろうと思った。
キスを迫られる前に、言わなくちゃ。
なし崩しで、抱かれる前に……

「いいえ。本当に、用事があって来たんです」

肩を抱く黒澤の腕を、やんわりと押しのけて鞄を取る。
ネックレスの箱を取り出し、テーブルの上に載せる。

「これを…お返しします。受け取れません」

一瞬、黒澤の表情が固まる。

「気に入らなかったのか?」
「気に入るとか、入らないとかじゃなく…いただく理由がありませんから」

きっぱりと言ってのける。

「理由が必要なのか?」

黒澤は、箱を手で弄びながら考えているようだった。

「これが、おまえに不愉快な思いをさせたことの詫び、だと……
……そういうことにでも、しておくか?」
「私を犯したことの、代償だっていうの?」

頭の中でシュミレートしたような話の展開になっている…
美香はそう思った。

「だったらますます、受け取れないわ」

「堅いんだな……」

黒澤はふっと息をついて、頑なに拒否する美香を困ったように見つめる。

「私、娼婦じゃありません。抱かれたからって、その報酬を貰って
喜ぶような女じゃないのよ!」

美香は激して、叩きつけるような言葉を投げた。

我ながら、きつい物言いだと思う。
でも、これはプライドの問題で……どうしても、このことが許せない。
それゆえ、熱くなってしまう。

「怒るなよ……。怒った顔も、色っぽくていいけどな」

にっと笑うと、黒澤は美香の肩を抱き寄せ、二人掛けのソファに
押し倒した。
体重をかけられると、あっというまに美香の身体の自由は奪われる。

「いやっ……やめて!まだ、話が……」

唇を奪われ、残りの言葉も吸い取られてしまう。
ばたつかせていた手足の力も、抜けていってしまう。
男の舌が唇を割り、少しずつ美香の口内に侵入してくる。
ぬるむ舌先が彼女の舌を捉え、奥へと入り込もうとする。
それだけのことで、情けないほど感じていってしまう。
腰がだるくなってしまうほど……たまらなく濡れて、溢れてくるのがわかる

舌を、噛んでやりたい……
ちらっと不穏な考えも頭をかすめるけれど、できない。
できようはずもない。
男の舌が口内を自在に這い回ってくるけれど、美香の方からは
応じないのが、せめてもの抵抗だった。

どうして………?
どうしてキスだけで、こんなにもたやすく身体が反応してしまうんだろう。
長いディープキスが終わり、黒澤の唇が離れても…美香の身体は
痺れてしまったようになり、動けなかった。
くく、と黒澤が美香を見下ろしながら笑った。

「意外に、気が強いところもあるんだな……。
それに、堅くて真面目なところも。俺とキスしただけでも、このザマなのにな」

勝ち誇ったように言い放つ黒澤の挑発的な言葉に、美香は身体が
熱くなっていった。

「……ふざけないで……!」

言いながら、美香はようやく身体を起こすことができた。
悔しい……。
たかがキスなのに、こんなにも……身体の芯が、溶けてしまいそうに疼く。
胸も、下半身も触られたわけでもないのに……
これでは、黒澤に以前言われたように性奴隷扱いされても、逆らえない…

まだ笑いを張りつかせたままの黒澤が言う。

「ふざけてなんか、いないさ。……ますます気に入ったぜ……美香。
普段は気の強い真面目な女を征服するっていうのは、燃えるんだよ……」

そんなことを言われると、美香は背筋がゾクゾクするような興奮を
覚えてしまう。

これから先、何をされるのか……
想像しただけで、女の部分がわななき、蜜をこぼしてしまうほどの
期待感と不安感に襲われていた。
マゾヒスティックな愉悦が、黒澤のなすがまま、彼の思う壺になることを
許してしまう。
キスが終わり、見下げられて、嗤われたときにも快楽を感じてしまった。
嘲られているのに、身体と心はそれを快いと受け止めてしまう……。
これが、美香のマゾの資質を握る鍵でもあった。

「立ってみろよ。その格好、ようく見せてくれ……」

美香の腕をとり、彼女を立ち上がらせると…黒澤は彼女の背後に回った。

「ネックレス、試しに着けてみろよ。それでも気に入らなかったら、また
今度返しに来てくれてもいい。……な?」

優しく耳元でそう囁かれると、美香はもう何も言い返せなくなってしまった。

黒澤の長い指が、美香の背中まであるまっすぐな髪をかきわけて
白いうなじをあらわにさせた。

「髪…… 自分で、持ってろよ」

美香の左肩から左胸に、髪をまとめて置いておくようにさせる。
黒澤の手が美香の両肩を越えて、首の前にネックレスのトップを持ってくる。

「じっとしてろよ」

たぶん今、首の後ろで金具を留めている……
妙に静かな、それでいて官能的なものを予感させる時間。

「ほら…見てみろよ。似合うから……」

美香の腰に手を回すと、どうやらさっきまで黒澤がいたらしい部屋に
導かれる。

そこは黒澤の私室のようなスペースらしく、8畳ほどの広さの部屋に
木製の大きな机があり、その上にパソコンとスキャナ、プリンタ、そして
FAX付き電話が置かれている。
仮眠にでも使うのか簡易なソファベッドもあり、それを見ると美香は
胸が騒いだ。
木製のスーツロッカーについた、全身が映る大きさの鏡の前に立たされる。

「綺麗だろう…?」

鏡に映る美香の顔は、もう頬を紅潮させ、瞳も潤んでいる。
不意に電気が消され、窓の外のわずかな街の明かりだけが部屋に満ちる。

「こうして見ると、暗い中でも輝きがわかるだろう?」

そう言いながら、再び美香の背後から肩を抱いてくる。
黒澤の顔が下がり、首筋に彼の吐息がかかる。
……そのまま、彼の唇が肩口に当てられた。

一瞬、美香は息を呑む。……けれど、声をあげることはこらえた。
彼女の性感帯の一つである耳元に、そして首筋に男の唇が這い、舌先が
微妙な動きを加えて舐めてくる。

“ああ………。”

つい声を漏らしてしまいそうになるのを、唇を噛みしめて耐える。
でも、いつまで耐えきれるか……自信は、ない。
そこから、黒澤の顔が美香の背中に当てられる。
背中から、すっきりとくびれを浮き立たせる見事なラインを描いたヒップへ
男の顔が、次第に下りていく。
両手で、美香の脇腹から腰へ、そして太ももへと身体の線を辿りながら
撫で下ろしていった。
右足の太ももの内側に、黒のストッキング越しに口づけられる。

「あ、ああ………」

感じやすい部分への思わぬ攻撃に、ついに美香は声をあげた。
そのまま右足の膝の裏側へ、そして引き締まったふくらはぎから下へ…
……ついに、足首にまでも唇の愛撫は下りていった。

美香の足元に、黒澤が背後からひざまずいている。
まるで、貴人に奉仕する召使いのように……
いつもなら、美香がこうして男に服従する行為。
足が、なんともいえない快感にふるえ、立っているのが辛くなる……

「そのまま、立っていろよ。辛ければ、鏡に手を突いてもたれていろ」

彼の命令通りに、鏡に両腕を突いて上半身を預ける。
ベッドに押し倒されて、犯されるものと思っていたのに……
まさか、こんなふうにして責めてこられるなんて……

床にしゃがんだまま、黒澤は美香の正面へ移動する。
今度は、彼女の左足の甲へとキスが与えられた。
ハイヒールを履いた美香の脚線美を下から崇めるように、両手で撫で
さすられる。
手は右足の内側を責め、唇が足の甲から細く締まった足首へ……
……そこから徐々に、ふくらはぎへ、膝の内側へ……
そして太ももへと、左足とは逆の順に、男の顔が…愛撫がせり上がってくる。
美香はもう、恍惚としながら身体を鏡に押しつけ、息を荒げて喘いでいた。

「あ……。ああ……」

ワンピースの裾をたくしあげると、黒澤は感嘆の声をあげた。
美香は、黒のガーターベルトでガーターストッキングを吊っていた。
それを見ると、黒澤は好色そうな笑いを浮かべた。

「黒の、ガーターベルトか……。いやらしいのを着けてきたんだな。
それに、これも……」

ほとんど陰毛が透けて見えている、ごく薄いチュールレースの黒い
ショーツが男の目を引く。
まさに、セックスのためだけに着けて、男の欲情をそそりたてる目的の
下着だった。
指で、ショーツの股間をつう、とこすられる。

「あ!はあんっ……」

ビクン、と身体が反ってしまう。

「見えるぞ……脱がなくても。
美香のいやらしい、濡れてるここが。俺の目に、みんな見えてるぞ……」

黒澤の声も、興奮のためかうわずっている。
指が、もう既に濡れきって布の外にまで滲む愛液をすくう。

「濡れすぎて、太ももまでこぼれてるぜ……」

満足そうな笑い声を立てられて、美香は羞恥のあまりに顔を伏せた。

「いや……。言わないで…。そんなこと……」
「どうしてだ?感じてるんだろう?……ほんとうのことを言ってるだけだ。」

言葉での嬲りを始められる……
するとますます、熱いものが股間に新たに湧き出てきてしまう。

甘くかすれた彼の声が、美香の太ももに吐息とともにかけられる。

「もっと……濡らしてやる。俺の舌でな……」
「……いや……。だめよ……。汚な……」

ほんとうは、化粧を直してきた時に、ビデできれいに洗っていた。
ふふ、と黒澤が低く笑う。

「……美香の身体が、汚いわけがないだろう?」

優しくそう言われながら、ついにそこに唇が迫ってくる。

ぬるむ舌の先が、薄い布を通して…膣口とクリトリスを目指して舐めてくる。

「……あっ……。あ、はぁっ……」

立ったまま……男の舌で、秘所を嬲られている。

下着を脱がされもせず、服を着たまま……鏡に上体を預け、黒澤の
秀麗な顔を跨ぐ形をとらされて、唇と舌での愛撫を甘受している。
しかも、ここは黒澤の構える探偵事務所の中。
ネックレスを返そうとして、逆に首にかけられ、そして今……
こんなにも、淫靡な責めを受け続けている……。
異様な状況と、途轍もなく卑猥な体勢と性戯……
ただでさえ敏感な美香のそこは、薄布一枚隔てただけの舌の責めに
陥落寸前にまで追いつめられていた。

「ああん……。あ……。……あ……ん………」

自然と、男に媚びるような悩ましい声音で責めに応える。
声をあげずには、いられない……
美香の股間に顔を埋めている黒澤の口が、なんとも淫らな音を立てている。
ぴちゃぴちゃと舐める水音、そして時おり愛液をすする音……

膣の口に、布とともに舌先が入り込もうとする。
けれど、当然股布に邪魔されて、入れられない。
黒澤の舌が、美香の秘所を守る黒い布を持ち上げようと試みて、何度か
失敗を繰り返した。
膝が、気持ちよさのあまりにふるえる……。
ぬるぬると滑る舌が、クリトリスをこすり、美香に的確に快感を与えている。
両腕を冷たい鏡に押しつけて、身体を支えていなければ、倒れ込んで
しまいそうになるほどの心地よさだった。
そして、幾度か失敗しながら…ようやく、舌がショーツの端を持ち上げた。

そのまま布をめくられ、布の脇からじかに男の舌がふれる……
濡れた粘膜どうしがふれあう感触が、美香をいっきに高ぶらせた。
もう、たまらない……。いってしまう………。

「あ、あっ……。ああん、だめぇ……。ああ……。あ、はあ……
……ああ、いくぅっ………!」

切迫した声が絶頂を告げて、美香は立ったままのクンニリングスだけで
達してしまった。

「ああ…………」

まだ、からだじゅうにふるえが走る………。
あそこがひくついて、男のものの侵入を、今かいまかと待ちわびている。
………ほしい。
どうしようもなく、彼のものが、ほしい………。
足りない。黒澤の逞しいもので貫かれなければ、満たされない……。

「ふふふ……クンニだけで、いったのか……。
こういうのも、刺激的でいいものだろう?なあ………」

美香の足の間から、ようやく黒澤の顔が離れた。
まだ鏡にもたれたまま、かろうじて倒れないでいる美香の太ももに
顔をこすりつけてくる。
きっと、美香の分泌したおびただしい愛液を拭ったに違いない……
黒澤の立ち上がる気配を感じると、まもなく背後で、スラックスのジッパーを
下ろす音がした。
ああ………来る。
鏡に目をやると、彼は服を着たまま勃起した男根だけを剥き出しにしている。
そして、いつのまにか用意していたコンドームを着けている。

「美香………」

呼びかけられ、振り向こうとした顎を捉えられる。

「こっちを向けよ……」

右肩越しに顔をねじ向けられると、すぐにディープキスが始まった。
さきほどまで美香の秘所をたっぷりと愛撫したばかりの男の唇が、
なぜかやけに甘く感じる。
彼が前回言っていたように、愛液が甘いというのはほんとうなのか……

長いキスが終わると、いよいよショーツに手がかけられる。
……ゆっくり……ゆっくりと、黒のごく薄い布で覆われた下腹部が
露出されていく。
黒のレースのガーターベルトと、それで吊られている太ももまでしかない
黒のストッキングが残されている、淫猥な眺め。
色白の美香の肌に、黒が鮮やかに映えて、夜目にもコントラストが
際だつ。
そんな美香の後ろ姿を、きっと黒澤は目で犯している……
 
「……ほしいか?」

熱いものが、熟れた瑞々しい白桃のような美香の尻のはざまに当てられた。

……ほしい……。
また、こうして言わされる……
彼女の唇から求めるまでは、決してこの男は許しはしない。
そのかわりに、言うまでは執拗に先端でつついて、こすられる……

それもまた、美香にとってはたまらなく感じる行為だった。

「欲しいのか?……どうなんだ?うん?」

黒澤の声も欲情で掠れているが、笑いを含んだ響きがある。

抱かれる前までは抗っていても、美香の成熟した女の肉体が、男の
愛撫に反応して、開いていってしまう……。

今までの行為でそれを知り尽くしたうえで、言葉で…卑猥な行為で、
感じやすい身体を容赦なく嬲りぬく。
大人の男の手練手管にいいように弄ばれ、そしていつも美香は敗北する。
その敗北さえも、美香にとっては途方もない快楽を与えられる、甘美な
ものでしかなかった。

熱く固いものが、美香の潤みきったはざまを、ゆっくりと上下に擦りはじめる。

「……ああ……。ほしい……。ほしいわ……」

美香は自分からはしたなくねだり、甘えた声を出した。

「欲しかったら、どうするんだ?お願いするんだろうが。…違うか?」

熱い吐息を美香の右耳に吹きかけながら、同時に舌先も耳腔に差し入れる。

「はぁ……。」

喘ぎながら、美香は男のものの感触を味わっていた。
黒澤の両手が、ここで初めて美香の乳房を揉み始める。
今までは乳房への愛撫はまったくされず、専ら下半身ばかりを責められて
既にクリトリスで一度いかされた。

服の上から、形よく盛り上がった美香の乳房を掴みしめ、的確に
乳首の辺りを狙って指がつまむ。

「あ、あん………」
「欲しいんだろう?言ってみろよ」
「あ……。……お願い……します。入れて……くだ、さい………」

それでは男は納得しない。

「そんな言い方で、お願いしてるつもりか?どうして欲しい。言え……」

鏡に映る黒澤の顔が、薄く笑いを作っている。
彼の言葉責めをすることで悦に入った表情を見て、美香は背筋が粟だった。
すると首筋を強く吸われて、美香は大きく喘いだ。

「……ああ……。犯して、ください……。あなたの……もので、わたしを……」

それを聞いた瞬間、黒澤は勝ち誇ったように笑った。

「くくく……。俺が言え、と強制したわけでもないのに……
おまえが、自分から犯してくれと、そう言うのか……」

その通り、今までは黒澤に強要されて言わされていた部分があった。
たとえ美香が心底からそう願っていたとしても、黒澤の言葉で
後押しをされていただけで、自分から言い出したことではなかった。
なのに今は、はじめて自分からそう望んで、口にしてしまった……
情欲の奔流の中で、美香は自分がたとえようもなく淫らに堕ちていくのを
予感した……

「……いいだろう。立ったまま、後ろからか?」
「……ええ。立ったまま……うしろから、犯してください………」

やぶれかぶれになって、そこまでを言ってしまった。

「もっと、尻をこっちに突き出せ。……もっと、こうだ」

美香の腰を掴み、ぐっと自分の方へ引き寄せる。
浅く、先端がもぐりこんできた……。

「は、ああっ……」

夢にまで繰り返し見た、この男のものが……いま、ようやく……

熱く太く、固いものが…濡れそぼった美香の肉襞を貫く。

「あああっ……!ああ……!」

思わず叫び声が出てしまうほど、その感覚は鮮烈なものだった。
立ったままの姿勢で、しかも背後からの挿入……
いつもよりも、黒澤のものでいっぱいにされている感覚が強い。
ただバックからされるだけでもきついのに、立っているから
なおのこと締まりが強くなっている。

「……ああ……。よく濡れてるくせに、きついくらいに締まるな……。
中も…奥も、ヒクヒクしてるぜ……。奥まで、引き込まれていくみたいだ…」

こらえきれない快感のにじみ出る声で、黒澤はそう言った。

なのに…ゆっくりとしか、動いてくれない。
深く貫いたまま、そのままで美香の内部の感触を味わっているようだった。
ふたりとも、着衣のまま…美香はワンピースの裾をはぐられ、濡れた
ショーツは膝下まで下ろされている。
ガーターベルトとストッキングは身につけたままの、扇情的な姿。
黒澤に至っては、きちんとワイシャツを着、ネクタイを締め、スラックスの
ジッパーから男根だけを露出させ、美香を尻から犯している。
下半身だけ、性器だけで繋がっているのが、全裸になって行うセックスよりも
遙かに淫靡な快楽を増幅させる。

そのうちに、黒澤の腰の動きが次第に早まってくる。
美香の腰を背後から抱えるようにして、時に浅く、時に深く刺し貫く。
男根で満たされ、感じる襞をかき回され、緩急をつけた突き引きが美香の
呼吸を浅く、そして早くさせていた。
もう、声も出せずにただ息をついているしかできない……
抽送を繰り返しながら、黒澤の指が美香のクリトリスをさぐった。

「ああん……あんっ!」

陰唇をくすぐり、クリトリスを押しつぶすようにされる。

「あ……。いき……そ、う………」
「いきたいか?いかせて、ほしいか?」
「おねが、い……。いか、せて……」

二人とも、もう息も絶え絶えになっている。

「ようし…いけよ。俺も……ああ、いくぞ……」

忙しない息をつきながら、彼も頂上に近いことを宣言される。
クリトリスをもうひと撫でされた途端、美香は叫び声をあげた。

「あああっ……!ああ……!」







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