シチュエーション
![]() 男と女の出会いなんて、どこにでも転がってる。 私たちのスタートラインも偶然だった。 それでも、 二人で積み重ねた時間が増えていくうちに、 手に入れたやすらぎを失うことが怖くなる。 そして今、肩を抱いていると、 私の心に君の感情が入り込んでくる。ゆっくりと。 それは、「切なさ」と表現するのが近いかも知れない。 すぐに許容量を超えてしまい、私の心は落ち着きを失う。 そこにいるのは、 すべてを私に委ねて、無防備に待っている女。 言葉であっても触れあいであっても、 これから自分の全身に降り注がれるものが、 愛であることを疑わず待っている女。 でも、一つの疑問が湧く。 逆に私の感情は君にどんな形で伝わっているのだろうか。 本人に聞いてみる。 「おんなじだョ」 それはそれで恥ずかしい、と思う。 「恥ずかしくなんかないよ、わたしは。 ホントのことだから。あなたのこと大好きだから。」 絶句してしまう。 私の胸の下に、由衣の胸がある。 呼吸で上下すると、固くなった乳首が触れるのが分かる。 そしてそれだけで由衣の体が震える。そのたびに。 髪を撫でる。 背中の由衣の手が力を増す。 もう既に由衣の感情のすべては私の中にコピーされてる。 正直に言うと、 私のものなのか由衣のものなのか、それさえわからないほど、 二人の思いは混じり合っている。 その中に見かけないものがあった。 今すぐひとつになりたいという、要望めいたもの。あるいは「思い」。 わたしのもの?それとも由衣のもの?わからない。 位置を変え、先端を入り口にあてがう。 やはりまだ濡れていない。 しかし、私は「思い」に従うことにした。 すこしだけ中に入る。 由衣の両腕が私の背中をつかみ、促すように引っ張る。 目を見た。 「おんなじ?」 「そう、おんなじ」 ほほえんで由衣が答える。 しばらく、入り口のところで楽しむ。二人で。 焦らすためではなく。 だれがだれを? 今の二人には意味がない話。 おたがいの接触している場所が、熱くなる。 触れ合ってる場所の、とても細かい場所まで、 あるいは細胞の一つ一つが、官能を受け取っている。 位置が少し変わるたびに、組み合わせが変わるたびに、 この人のこの場所が、わたしのこの場所に、 とても明確にわかってしまう瞬間が、とぎれなく続く。 あまりの期待感に狂ってしまいそうな今。 すこしずつ奥に向かう。 由衣の喉から、あふれだす快感が言葉となって飛び出す。 私も全く同時に心の中で叫んでいる。同じ言葉を。 息遣いまで同じタイミングになる。 下半身だけでなく、すべての接触してる皮膚が熱い。 由衣の中に私のすべてがおさまったとき、 張り詰めていた息が、長い吐息となってベッドの上に広がる。 唇の奥からすべてをもぎ取ろうとするほどの、深いキスをする。 舌が激しく絡み合う。 じっとキスをしていられない。 どうしようもない感情に支配され、こすり合わせるように唇を回転させる二人。 それでも手に入れられないものがある。 欲しいと思う気持ちだけがかえって増幅してしまう。もどかしい。 答えは一つしかない。 ゆっくりと動く。 それでもそれぞれの場所が異なった快感を生んでいるのがわかる。 由衣の声はほとんど意味のない叫びと化している。 先ほどのキスで満たされなかった分を、 今、ふたりで貪欲に求めている。 背中に痛みがある。由衣の爪がかきむしっているのだと思う。 由衣は既に、顔さえじっとしていない。 獣のような叫び声をあげ、顔を左右に激しく振り、 しかし腰は私のものを迎え入れる動きを、片時も休まず繰り返している。 由衣の背中がバウンドし始める。不規則にうねる。 そうか、もう近いんだね。 それからすぐだった。 咆哮とともに、由衣の体が硬直したのは。 そして私へのいましめのすべてが解ける。 由衣の両手と両足は、ベッドに投げ出された。 少しの間、私も息を整える。 そして、由衣の両足を開き、もう一度入れる。 休んでいた由衣が、間髪を居れず反応を始める。 さっきよりももっと強く。 中に入れた私のものは、由衣のひだに強くつかまれている。 私の動きを正確にトレースするように、タイミングを合わせて。 ひだから受ける刺激が気持ちよくてビクッと無意識に動くと、 由衣のひだがそれを受け取り、増幅して返してくる。 あっというまに私は絶頂を迎えていた。 何回かの射精の収縮の間にも、 由衣のひだが、こんどは自分自身のタイミングで収縮をくりかえす。 次に備えて弛緩した瞬間のわたしのものが、強い力でしめつけられる。 ずれた周期が、余計大きな快感となって私を襲う。 会ったときから二人を苦しめていた渇望が、 嘘のように消えていた。 由衣は既に眠りに入りつつある。 満ちたりた顔をしている。 私も、穏やかに変わった心と共に、つかの間の眠りに落ちる。 由衣の後を追うように。 目が覚めて、隣を見た。 由衣が静かな寝息を立てている。 この部屋の中は、私たちの安らぎで満ちている。 疑いも、ためらいも、最初から存在しなかったみたいに。 さっき二人でドアの鍵を開けたとき、 ベッドルームにつながる階段のそばに、 変わったものが見えた。 壁のX状の木。4つの先端に鎖でぶら下がる皮の拘束具。 そして赤いライトがそれらを暗闇に浮かび上がらせている。 「こんなの置いたんだ」 「えっ?」 「ほら、この部屋改装中だったろ?」 「うん」 「こういうわけか、、」 由衣はきょとんとしていた。 そうか、これがなんだか分からないのか。 「これはね、、」 ちょっと説明しにくい。 決めた。 無言で由衣のバッグを奪って、そばのテーブルに置いた。 X状の木の前に立たせる。 両手を上げさせ、右手を拘束する。続いて左手も。 由衣は何も言わない。 私は、 「なに?これ、変なの、」 ぐらいの反応を予測していた。 しかし由衣は私のとった行動に全く逆らうことをしない。 すべてが当然のことのように、私の促すままに。 それも喜んで? 私はとても驚いた。 しかしそのときは、由衣のとった行動の意味が分からなかった。 説明のためと思って、かまわず両足の拘束にはいる。 足を広げさせベルトで拘束する。 「痛くない?」 「ぜんぜん」 お約束の通りに進行してみる。 胸をわしづかみにして、キスをする。 「無理やり」感がここでは大切なんだけど、 素直に受け止められてしまう。あまりにも素直に。 ちがうんだけど。なんか。 そう言おうと思った。 けど、、、 私は気づき始めた。 スカートをまくりあげ、ショーツを下にずらす。 むきだしにされた部分の奥、 由衣の敏感な場所に舌の先を這わせる。そっと。 由衣の体が激しく反応する。体全体が波うつ。 こんどはひだに触れる。 おとなしめの反応が、両足のこわばりとして見てとれる。 いつものベッドの中での反応と変わらない。 拘束を解き、 「っていうこと。ほんとは裸でやって、ムチなんか使ったり。」 一応の解説を入れた。 「へー、そうなんだ。」 やはり、期待したこの言葉は聞くことができなかった。 由衣はただ私を見つめてる。次のことばを待っている。 私は、由衣の手を引いて、 道具たちから逃げるように部屋に向かった。 由衣に深く愛されていることは、 階段の途中で、推測から確信へと変わって行った。 そして私は苦しいほどの愛おしさをおぼえた。 手をつないでいる由衣に対して。 私が気づかなくてもじっと待っていた由衣に。 不思議なことに、すべてが許容されているとわかったとき、 私のいたずら心も欲望も、すべて消え去ってしまった。 あとかたもなく。 残されたのは、 痛みすら覚えるほどのまっすぐな由衣の気持ちだけ。 心の半分をふさぐ、心地いいもの。 それだけ。 目の前の由衣の寝顔を見つめながら。 私の心は落ち着きを増していく。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |