シャッター
シチュエーション


「え?海外?」

思わず秀行の肘をつかんで聞き返す。そんなの初耳。

「痛い、離してくれよ。海外って言ったって、たったの1年間だぜ?」

雑踏のなか。今日は2人で秀行のスーツを見立てるつもりだった。そのあとに、
お気に入りの店で食事して。でもウキウキした気分が途端に崩れる。

「そんなの聞いてないよ、あたし」
「やっと本決まりになったんだ。それで最初に裕未に言おうと思った」
「そう……」

沈んでいく私の声。付き合い始めて2年半、どうなるんだろう、私達。

「別に行ったきりって訳じゃないし。そりゃ今までみたいに毎週は会えないけど」
「そうだね」

無理して笑顔を作ろうとする。でもどうやら失敗のよう。

「そんな顔するなよ。断りようがなかったんだよ。1年っていうのも、目一杯交渉した

成果だと思ってくれよ」

「うん……。それで、いつ出発するの?」
「来月3日」
「10日しかない。そんなに急に」
「まだこれでも余裕があるほうだぜ?」

私の頭をポンポンと手の平で軽くたたいて、髪の毛をくしゃくしゃとかきまわす。
ほんとに行っちゃうんだ。

秀行が出発した。日本を離れるまでの間、私達は寸暇を惜しんで会ったし、体を
重ねて愛し合った。そして私の生活は一変した。
何しろ休みの日に、暇を持て余してしまう。誰かに拘束されるのはダイキライだった
のに、こんなにも私の生活は秀行を中心に回っていたのかな。自分でも少し呆れて
しまう。

昨夜友達から電話があった。彼と喧嘩したこと、どんなに腹が立ったか、どんなに
ムカついたか、そんな愚痴を聞きながら、私達はいま喧嘩もできない状態なんだ、そう
考えると少し寂しくなった。
秀行とは何度か電話でやり取りした末、連絡はメールを中心にすることに決めた。
いま寝てるんじゃないか、疲れてるんじゃないか、電話だと声が聞けて嬉しいけど、
そんな心配はいつもついて回るから。
週に1・2度のメールが楽しみになっている自分に気づいた。いくつかの発見もあった。それは会話をしている時と、文章に書く時とでの言葉の違い。たぶん口では上手く
言えないようなことも、メールだと書けてしまう。

『裕未はメールだと別人みたいにしおらしいな』
『そういう秀行こそ、ときどき薄気味悪いよ』

それでも会えない分、気持ちをこめてメールを書く。きっと秀行もそうなのだろう、
いやそうだと思いたい。
秀行の誕生日が近づいた。何がほしい?そう聞いた私に、裕未の写真が欲しいと言った。上司のところに、家族の写真が定期的に届くのだそうだ。それがとても
羨ましいって。

『だから、デジカメ買って送ってくれないかな?裕未の写真。
できればエッチなやつ、撮って』

機械オンチの私に、そんなこと言って、正気だろうか。
それよりエッチなやつって、どんな写真よ。

『無理だったら、普段の裕未の写真でもいいから。買っておいでよ、デジカメ。
あ、それから、リクエスト画像を送ります。こんなの撮ってくれたら嬉しいけどな』

添付ファイルを開いて、一瞬言葉がなかった。お尻のオンパレード。
秀行がオッパイ星人じゃなくて、オシリ星人だって知っていたけど、ここまでとは。
どこから探してきたのだろう、全裸女性の後姿の写真ばかり。でも同性の私が見ても
綺麗な人が沢山いる。なんだか落ち込むなぁ。こういうの見て、秀行は、その、自分で
して……るんだろうか。私のことを思い出して、してくれたらいいのに。
そんな訳で、会社帰りに電器店に足を運んでしまった。本当は、写真を撮るのも、
撮られるのも、あんまり好きじゃない。自分の意志じゃなくて、秀行に「命令」されてここ
まで来ちゃったような気がする。カタログみたり、説明聞いたりして、値段も画素数も
中程度の商品を選ぶ。

やれやれ。欲しいモノを買うんじゃなくて、「買わされる」のって始めてだ。でも実際に
お金払って買っているのは私か。なんか変だな。きっと今の私は、秀行に上手に乗せ
られてるんだ。メールの最後のセリフ、これにやられちゃったのかも。

『無理いってごめん。でも離れているから、裕未をもっと身近に感じたいんだ。
そう、できれば写真の裕未を見て逝きたい』

私も……秀行を思い出してすることがあるから。秀行の指を、唇を、それから
彼自身も。触れられたり、抱かれたりした事を思い出す。
だから、そんなセリフはちょっと嬉しい。

『デジカメ買いました。でもただいま取扱説明書と悪戦苦闘中。
何か撮って送ることができるようになるまで、もうちょっと待っててね』

『やったーーーー!!楽しみにしてます。
そうだ、こんなのはどうだろう?裕未のエッチな写真を見て、僕は逝くんだ。
だから裕未も、僕に見られている気持ちになって撮ってほしい。シャッター音を、
僕の視線だと思って。
セルフタイマーの使い方、覚えた?それを使えば、好きなポーズを撮ることが
できるよ。裕未が僕に見られている気持ちになって、感じながら取った証拠に、
感じている顔なんて撮ってくれたら嬉しい。
あぁ、あと2日で誕生日か。なんだか待ちきれない』

うわぁ、秀行ったらプレッシャーかけまくりだ。
仕事しながら、どんな写真を撮って送るか、あれこれと考えてしまった。そして考え
ながらすごく恥ずかしくなった。ベッドの中で、秀行の前で、今までたくさん乱れてきた
のに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。
やっぱり恥ずかしいから、そんなの送れないって、言ってしまおうか。でも本当は、
私の事を、もっと身近に感じて欲しい。私で感じて、逝ってほしい。
そんなことを考えていたら、遠くにいるはずの秀行が、とても近くにいるような気が
した。

秀行の誕生日。いつも通り起きて、いつも通り会社に行った。普段どおりの日常。
でもなんだか仕事が手につかない。周り中に迷惑をかけながら、上の空で一日を
過ごした。
帰宅して、ご飯食べて、お風呂に入る。いつもより念入りにゆっくりと。お風呂から
あがって、髪の毛を整える。ほんの少しだけメイクをして、カメラを手にとった。
秀行が感じる写真、好きなポーズは想像がついた。ベッドの脇のテーブルに、カメラ
をセットしてアングルを決める。タイマーをセットして、その角度に入るように、すばやく
ベッドの上に移動して、ポーズを作る。

なんだか笑ってしまう。お風呂上りに裸のまま、こんなことをして。シャッターが下りる
までじっと待っている時間、恥かしいというより、滑稽だわ、これ。
フラッシュが光ってシャッターが下りる。その瞬間、ちょっとドキリとした。背中が
『何か』に敏感に反応した。

できあがりを見てみる。ちょっと私の予想と違う。位置をほんの少しずらして、もう
一度撮り直す。今度はどうだろう?秀行が好きな、お尻を突き出した四つん這いの
ポーズ。お尻の丸みが強調して見えるように、足元側から撮る。でも、恥ずかしい部分
は、もちろん写らないように。
シャッターが落ちるまでの間は、意外と長い。2回目は少し余裕をもって、後をふり
むく。他に誰もいない部屋の中で、全裸の私を見つめているレンズ。私だけを見ている。
シャッターチャンスを告げる赤い点滅、その瞬きが次第に早くなる。ドキドキして呼吸が
荒くなる。フラッシュが光った。なんだろう、この感覚。

もう一度カメラを覗いて、少しだけ自分でも気に入らないので、撮り直すことにする。
カメラをセットする時、なんとなく頬が染まる。これはただのカメラなのに、他のものに
いきなり変わってしまったよう。

元の位置に戻って……その間にも、誰かに見られているような気がする。背中に
感じる視線、舐め回すような眼。カメラに向かってお尻を向ける。いま私はなんて
恥ずかしいことをしてるんだろう。

『とても恥ずかしい格好だね。もっと僕に良く見えるようにお尻を突き出して』

秀行の声が聞こえるような気がした。見られている……フラッシュの光は、背中に
突き刺さる秀行の視線。すごくおかしな気分。
カメラを手にとって、また確認。うん、これならイイ感じかな。ベッドの上で一息つく。
私さっき、撮りながら感じていた。肩先をきゅっと掴む。まだ恥ずかしさが残っている。
あぁ、違う。まだ見られているような気がするんだ。

『シャッター音を、僕の視線だと思って』

そっと胸に触れてみる。胸から全身に震えが走って、すごく敏感になっている。きっと
これのせいだ。そう思ってカメラを見つめる。おそるおそる、足の間に手を伸ばす。
指を差し入れると、そこはもう大洪水だった。自分でもびっくりするくらい、溢れるまでに
濡れている。

『裕未が僕に見られている気持ちになって、感じている顔なんて撮ってくれたら嬉しい』

やられちゃったよ、私。もう、感じまくりだ。溜息をつきながら、指でツンと硬くなって
いる乳首をはじく。もう片方の手で、ベッドに置いてあるカメラを手に取った。

感じている時、自分ではどんな顔してるかなんて、わからない。パシャリ。
もうアングルもフレームも構わずに、シャッターだけを押し続ける。ファインダー越しに
見つめられている感覚。
もう片方の手は、忙しく私の体の上を這いまわる。胸を撫でまわし、てっぺんの乳首
を指先で転がす。そっと優しく、それからクリリと強く。
フラッシュの光を浴びながら、声も出さずに自分のからだに悪戯する。

『ふーん、いつも1人でそんなことしてるんだ。いやらしいね、裕未』

そんなことない、今日は特別なの。だって秀行に見られて感じちゃったから。心の中
で言い訳しながら、そろりと指先が下腹部の先まで伸びる。
しっとりと湿った繁みをかきわけて、もうトロトロになっている部分にたどりつく。自分
で触れて、濡れているって気づくとき、その瞬間がいつも1番恥ずかしい。
ぷっくりと膨れたクリトリスを、指でつるんと撫であげる。体がびくんと震えて、頭の芯
まで気持ち良さが走った。

無意識のうちに指がシャッターを押す。パシャリ。私のこんな姿を、まだ秀行には
見せたことがない。本当は見せたいんだろうか。それとも見られたくないのかな。
だんだん、どちらだか分からなくなる。
シャッター音と、私がたてている湿った音と、喘ぎ声とが重なり合って。片手だけで
触れているのが、もどかしくなってきて、カメラが手からぽろりと落ちる。指を自分の
液体でぐしょぐしょに濡らしながら、もう片方の手が、脇腹から胸元、肩先へと走り
ぬける。イヤだ、逝っちゃいそう。

『気持ちイイのに、どうして逝きそうになると、裕未はいつも「イヤ」って言うんだろう?』

耳元で秀行の声が聞こえる気がした。だって気持ち良すぎて、怖いくらいなんだ
もの。

『逝きそうなんだね、裕未。いいよ、見ててあげるから。逝っちゃいなよ、ほら』

ずるり。指がクリトリスの上を強く滑った。昂ぶっている気持ちを後押しする、頭の中
で響く秀行の声。コップにいっぱいになった水が、あふれてこぼれる瞬間の、最後の
ひと触れ。

「は……んっ……いやぁ。……見ないで!」

首を振ってイヤイヤをしながら、カメラのそばにいた『秀行』に、私はそう叫んで
いた。

達した後は、夢から醒めたみたいだ、といつも思う。
写真を撮るために、部屋の灯りをつけていた。裸で息遣いを荒くしている自分が、
明るさの中で、とても気恥ずかしい。体のすぐ脇にコロンと置かれて、無機質に鈍い
光を放つカメラ。さっきまでのあれは何だったんだろう。
ベッドの上でうつ伏せになりながら、カメラを手に取り、撮った写真をチェックする。
思わず苦笑してしまった。最初の3枚以外、感じながら撮った写真は全部、何をどう
撮ったのか訳の分からない画像になっていた。お臍のアップに、肩のアップ、太腿
だけ…なんてのもある。
残念ながら、『感じている顔』の写真は一枚も撮れていなかった。プロじゃないん
だから、偶然に期待してもやっぱりダメか。ごめんね、秀行。

シャツを羽織って、PCに画像を取り込もうとして、ふと悪戯心が湧いた。感じている
顔、は撮れなかったけど、感じていた証拠、があればいいのよね。
まだ下着をつけていない足の間に、そっと手を伸ばす。逝ったばかりで、まだ
火照っている部分に指を差し入れて。

「くぅっ……」

『ほーら、みてごらん。こんなに濡らしちゃってる』

いつも秀行は、私で濡れて光った指を、見せつけるようにする。私が恥ずかしがる
のを分かっていて、そうやっていじめる。
中は何かを待ち受けているように、熱くなっていた。抜いた指を目の前にかざす。
パシャリ。フラッシュの光に、濡れた指がきらめいた。

『お誕生日おめでとう、秀行。
 あなたにとって、すてきな1年でありますように。
  追伸
 添付の画像は、私からのプレゼント。
 受け取ってくださいね。  
裕未』



画像を2枚挿入して、作業を終える。後姿の裸身と、私の指。いつもより緊張して
送信ボタンをクリックし、いつもより長い『メールを送信中』の画面を見つめた。

メール送ったよ、って電話をしようとして、やっぱりやめた。今は何て話していいのか、分からない。
さっきまでの自分を振り切るようにして、バスルームに直行し、熱いシャワーを頭から
浴びる。どうかしている。ずっと会えなかったからって、あんなになるなんて。

ひと心地ついて、部屋に戻る。PCの電源を落とそうとして、新着メールの表示に
気づいた。秀行からだった。あれから30分ぐらいしか経っていないのに。


『すごい、凄いよ、裕未。とてもすてきなプレゼントだ。ありがとう!
 裕未のまぁるい白いお尻を見ていたら、すぐに逝っちゃったよ。
 2枚目は…いや、説明してくれなくてもよく分かる。湯気が立ちそうだね。
 ホントにありがとう!もう遅いから今日はおやすみ。明日も仕事だろう?
 またゆっくりメールします。良い夢を。
   追伸
 僕も1枚撮ってみました。オナニーする前の光景。
 それではまた。
秀行』



メールの文面から、弾んでいる秀行の声が聞こえてくるみたい。男の人って可愛い
なぁ。私で感じて逝ってくれた。それだけでとても嬉しい。画面を見ながら、顔が自然と
ほころんで、蕩けそうになっていく。今まで感じていた恥ずかしさや居心地の悪さが、
いっぺんに喜びに変わっていく。

続けてスクロールして画像を見つける。オナ…する前の光景って……きゃあ!!
びっくりして、思わずPCの画面を両手で隠してしまった。
そこに写っていたのは、ちょうど彼自身のモノを握っている、秀行の股間のあたり。
もちろん、手で隠れていて、そのものは写っていないのだけど、太腿のあたりとか、
周囲の毛とかそういうの、全部写っていて……。とにかく生々しくて、それで……。
どきどきどき。いちど大人しくなっていた場所が、またじゅわっと濡れ始めてくるのが
わかる。ひどいよ、秀行。これで「おやすみ」って言われても。
今夜はなんだかおかしな夜だ。長い夜になりそうな予感がした。

早く、会いたい、あなたに。


あくる朝、不思議な気持ちで目覚めた。秀行と、気持ちだけはいつでも繋がっている
つもりだったけど、昨夜のような感覚は始めてだった。距離を飛び越えて、体ごと
繋がって興奮しているような。こんなの悪友に話したら、「脳内錯覚だよ、裕未!」って
断言されそう。

それでも私は秀行から、カタチにならない素敵な贈り物をもらった、と思った。私から
は秀行に興奮をあげられただろうか。単なるオナネタ、と言ってしまえばそれまで
だけど。他の誰でもない『彼』だから、もしそうであったら嬉しいと、素直に思う。
ドギマギするような、秀行からのメールを読んだ後、それでも昼間の疲れからか、
いつの間にか眠りに落ちていた。覚えていないけど、たくさん夢を見たような気がする。
起きぬけに寝ぼけた頭でトイレに行って、用を足したあとペーパーで拭くと、ぬるりと
した感触があった。その生々しさに驚いて、それから赤面した。
これは昨日の興奮のなごり?それとも夢の中で私は何かをしていたんだろうか。
恥ずかしさと自分に対する嫌悪感、そんなのが交錯する。興奮はできても、抱きしめて
はもらえない寂しさを、あらためて噛みしめる。

今もしここに秀行がいてくれたとしたら、私は何をしたいだろう。熱いキスをする?
セックスをする?それとも……。

後からきつく抱きしめられて、秀行の体温だけを背中で感じとりたい。それさえあれ
ば他には何にもいらない。天気もよくて爽やかな朝なのに、なんとなく泣きたい気分で
そう思った。

それでもそんな喪失感は、月日とともに薄れていく。『会えないこと』にだんだんと
慣れていくのが、ホッとするようなもの寂しいような。けだるい気分だけで、ルーティンの
日常生活をこなしていく。

「裕未ちゃん、最近ハツラツとしてないなぁ。彼氏と喧嘩でもしたの?」

そんな上司のからかいにも、曖昧に笑ってごまかすだけ。今の私は、糸の切れた凧
みたいだ。ただ風に流されて。

「あの、お電話ですけど」

盆休み直前の忙殺されている最中、私と秀行との事情を知っている後輩が、
ウィンクしながら受話器を渡してくれた。

「あ、裕未?急だけど来週そっちに帰ることになった。短い休暇だけど」

少しだけ笑いを含んだ秀行の声。どうやら凧になっているのに飽きて、風船に乗り
換えたようだ。足元からふわりと浮いてしまったような気持ちで、耳慣れた懐かしい声
を聞いていた。

秀行が帰ってくる日、緊張と嬉しさがごっちゃになって、着る洋服を選ぶのが一苦労
だった。あれこれ悩んだあげく、麻混の生成りのワンピースに決定。この猛暑だもの、
しかたがない。
出迎えのために車を走らせる。秀行はアパートを引き払っての転勤だったから、
今日はとりあえず私のところに泊まって、明日の朝実家に帰る予定、と言う。その
予定を聞くだけで、ほんのちょっと胸がどきんとした。

ロビーに現れた変わらぬ人影、同じ笑顔と、同じ姿で。でも少し髪を短くしたのかな。
五ヶ月前の残像と重ね合わせながら、そんなチェックも楽しい。

「お、ただいま」
「うん、おかえり。疲れた?」

キスも抱擁もなく、淡々と普通の会話を交わす。ドラマのようにはいかない。でも一緒
にいるだけで気持ちが暖まる。
ちょうどお昼どきだったので、何が食べたい、と聞くと

「すし、寿司〜。回転ずしでいいから、腹いっぱい!」

と秀行は答えた。笑いながら、会えなかった空白を埋めるようにたくさん話をして、
それから2人でたくさんお皿を積み上げた。

「じゃ次は食後のコーヒー。裕未特製で頼みます」

おどけたように秀行が言う。走り慣れた道を、特別な景色をみるような気分で、軽快
に車を走らせる。

帰宅した部屋はすこし暑さでむっとしていた。急いでエアコンを入れて、やかんを
火にかける。部屋の中をぱたぱたと動き回っていたら、秀行に後ろから抱きしめ
られた。

「ひ、秀行、コーヒー……」
「あとで」

短く言って、秀行はそのままじっと動かない。うなじにピタリと寄せられた顔、吐息が
くすぐったくて胸の鼓動がおさまらない。

「くすぐったいよ。それにあたし、汗だく、だし」
「いーの、このままでいる。いま裕未の匂いを嗅いでるんだから」
「わ、やだ。シャワー浴びてくるッ」
「いっちゃ駄目だ」

逃れようとする私を、痛いほどムギューッと強く抱きしめて、少し強い口調で言う。
そしてその後に小さく呟いた。

「写真の裕未には、匂いが、ない。汗臭くても全部、裕未の匂いだ。ぜんぶ」

その言葉に背中がふっと溶けた。伝わってくる秀行の体温をダイレクトに感じて、
タバコと汗が混じり合った秀行の匂いを、鼻腔から胸いっぱいに吸い込む。
うん、私もあなたの匂い、嗅いでいるよ、いま。
昼下り、部屋の中はまだ暑い。こめかみから汗が流れる。その汗を耳元で、秀行の舌が掬いとる。

「ひで、ゆき……」

ゆっくり首を回して、秀行を見つめる。間近にあった唇が、求めるように近づいた。
もっとあなたの顔を見ていたい。目を瞑るのがもったいない。そう思いながら、唇を
合わせた。
荒々しく、私の唾液を汲みあげるように、唇を吸われる。まっすぐに私に向かってくる
気持ちそのままに、舌が口の中を自在に暴れ回る。こすって絡まって、誘うように
離れる。追いかけて舌を絡めると吸い取られ、私の中の欲望も剥き出しにされていく。
首をひねった窮屈な体勢で、私達はそんな長いキスを交わした。

「会いたかった?裕未」
「うん……」
「寂しかった?」
「う……ん」

そう聞きながら、服の上から少し乱暴に胸を揉まれる。もどかしそうに服の前の
ボタンを何個かはずすと、ぐいっと肩先まで襟元を開かれた。ブラの上から乳首を探り
当てて摘まむ。首筋から肩までを舌が這って、次第に立っていられなくなる。秀行は
そのまま肩先を軽く歯で噛んだ。

「や……いたいよ。跡ついちゃうし」
「いいの。跡つけてんだから。僕のものだっていうしるし」

後から、腰のあたりに熱く硬いものが押し付けられている。

「裕未すこし痩せたかな。あぁでも、ここは変わらない」

からだ全体を確認するように手の平で触れていき、最後に両手でワンピ越しにお尻を
ぐるぐると撫で回した。

「あの写真を撮ったとき、裕未、ホントに感じてた?したいと思った?」

咄嗟に答えられずにいると、秀行は裾をばさっと捲って、下着だけのお尻を剥き出し
にして、私の足元にしゃがみこんだ。顔をお尻の割れ目あたりに押し付けている。

「何する……やんッ!」
「ここも匂いを嗅いじゃう。それから、今日の裕未、素直じゃないから、すこし苛めて
やる」
「やめ、て、秀行。あ、お湯わいてる……」

台所から届くしゅんしゅんという音、でもそんな事にはお構いなしに、ショーツの上
から下腹部を、お尻を、それから太腿を撫でる。その仕草は肝心の場所に触れずに、
私を焦らしていく。

「裕未、ますますエッチになったんじゃない?ほら……」

足をゆっくり広げられて、覗き込むようにされる。恥ずかしさと焦れた気持ちが
ごっちゃになって、訳が分からなくなる。

「触らなくてもここ、色が変わってるよ。裕未、やらしい」

股布の端を秀行の指がひっぱって、中の熱い部分に吐息を吹きかける。

「や……。いじわる……」

一気に足元までショーツを引き下ろされた。そのまま舌でずるりと、クリトリスを舐め
上げられる。

「ひゃあッ!」

強烈な刺激に崩れ落ちそうで、壁にもたれていないと、体が支えられなくなる。立ち
上がった秀行は、もう一度私の唇を後ろから吸った。熱く硬いものを私の入り口に
あてがいながら。

「あ……ここで、このまま?」
「そう、このまま。立ったまま」

いきなり奥まで押し入る勢いに、からだ中が悲鳴をあげそうになる。軽く2・3度擦り
上げられるだけで、啜り泣きが洩れる。ずっと待っていた快感、触れてほしくて、埋めて
ほしくて堪らなかった。

「あ、そうだ。ガスの火、止める?」

悪戯っぽく笑って、半分ほど抜こうとする。追いかけるようにお尻を突き出してしまう。

「どうしたいの?聞こえない」
「や…やッ……やめちゃいやぁッ!」
「片足あげて、裕未」

言われるままに、ほんのちょっと足をあげる。秀行は私の膝裏を手で持ち上げて、
腰を沈めて突き上げる。再び奥まで送りこまれる熱いものに、痺れが走る。ブラを
ずり下げられて、そこからあふれた乳房を手の平で覆われ、ときおり指のすきまで
乳首を摘ままれる。押し付けるような、擦りあげるような秀行の中の動きに反応して、
あっという間に高みまで、追い上げられていく。

「いいよ、裕未。見ててあげるから、逝っちゃえ」

私の最後の砦をつき崩す、いつもの魔法の言葉が、秀行の口から放たれた。気持ち
イイのに、どうして達するのがイヤなんだろう。きっと、気持ち良すぎて、ずっとそのまま
でいたいからだ。

「裕未の逝くときの顔、みせて」

頬に手をあてられて後を向かされると、秀行の視線と絡む。慌てて目だけそらす。

「なんで……そんな、意地、悪……」
「会えなくても覚えていたいんだよ。裕未のやらしくなってる顔。ほら」

掛け声に合わせるように突き上げる。片足を支えてくれていた手が、前まで伸びて、
敏感な芽を捏ねまわした。

全身がすみずみまで強ばって、頭の中で火花が散った。秀行の、クッ……ていう
小さな声が耳元で聞こえて、私の中で一瞬おおきくなって弾ける感じがした。
私達は繋がったまま、床の上に崩れ落ちた。

「参った。裕未のなか、気持ちよすぎる。もっと苛めようと思ったのに。ばかやろ」

誉めてんだか、貶してんだか、わかんないような事を言って、秀行が毒づく。

「もう……」

部屋の中はやっと涼しくなってきたけど、2人とも汗だくだ。

「シャワー借りるぞ、いいか?」
「あ、うん」

床にへたりこんだまま、ボウッとして返事をする。何にも考えられなくって、しばらくの
間、私は放心していた。

「お、これが例のデジカメかぁ。こいつが、Hな裕未を色々と知っているわけだ」

カラスの行水みたいに、さっさとバスルームから出てきた秀行が、からかい半分で
そんな事を言う。棚の上に置いてあったのを見つけたようだ。

「Hって、そんな……」

言いながら振り向くと、パシャッとシャッター音がした。

「ちょっと止めてよ。なに撮ってんのよ!」
「Hのあとで放心している裕未、1枚ゲットォ」

信じらんない、秀行ってば。ワンピの前を開けて、ブラもずれて胸も丸見え、
でもって足首にはショーツが丸まって引っかかって、おまけにボケーッとした顔してる。

うわぁ。

「きゃあぁー!ウソでしょ。すぐに消して、それ」

慌てて立ち上がって、秀行からカメラを取り上げようと頑張ってみる。ちょっとまだ
足元がふらつくけど。

「だーめ。これも秀行‘s ライブラリィに追加するんだ。それより……」
「許さん……」
「そのパンツ、履くんだか脱ぐんだか、どっちかにした方がイイと思うんだけど?」

あぁ、なんか情けないや、私。とりあえず足首に丸まってたショーツを回収して、
後ろ手に持つ。

「あ……」
「ん?どした?裕未」
「何でもないッ!シャワー、浴びてくる……」
「あ、じゃぁ、コーヒー淹れとくわ」
「うん」

ちょっとおかしなヨタヨタ歩きで、バスルームに向かう。さっき中で弾けた秀行の
モノが、とろりと足の間から流れ落ちてきたのだ。久しぶりのこの感触、嬉しいけど
なんだか気恥ずかしい。

これからも、離れていても、私達はなんとかやっていけそうだ。熱いシャワーを浴び
ながら、そう考えていた。肩にちょっとだけついた、秀行の歯型、私につけられたしるし
を、鏡にうつしながら。






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