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シチュエーション


くちゅ・・・ぴちゃ、ぴちゃ

いつもセックスの時の音を聞く度、恥ずかしくなる。
あたしの蜜の音も、ヤツのキスの音も。
「ちゃんと感じてる声、聞きたいから」と言って、
絶対TVもBGMもつけないから、余計にいやらしく響く。

おいしそうにあたしの乳首をほおばってたヤツは、
甘噛みされて思わず「あんっ」と甘い声をあげてしまったあたしを、
顔を上げて優しく微笑む。

恥ずかしい・・・いつまで経っても慣れない行為。
顔を背けてしまったあたし。
ヤツの顔があたしの胸を離れて、あたしの顔を真上から見下ろす。

あ、ヤバい。またいつものパターンだ。
耳もとに顔を近付けて、囁かれる・・・

「可愛いよ・・・もっと聞かせて・・・?」

ヤツの、とっておきの甘い声。
低くて、体中に振動が響き渡る、それでいて溜息のような。

きっとこいつは、知らない。
あたしがどんな愛撫よりも、囁きで感じてしまっている事に。
だから、絶対に言ってやらない。

顔を背けたまま、何も言わなくなったあたしを、
優しく見下ろしたまま・・・ヤツはふぅっと溜息をつく。

「まったく、意地っ張りなんだから」

声色は優しいけど、目に悪戯っぽい色が宿る。

「いいよ・・・俺がちゃんと、声、出させてあげる」

そう言って、ヤツの右手が身体のラインをなぞってあたしの濡れた部分にたどり着く。

ぴちゃっ

「んっ・・・!」思わず声が洩れて、身体がはねる。

「ほら、もっと・・・」

ぴちゃぴちゃぴちゃ

「んっ、はぁぁ・・・やだよぅ・・・あぁぁ!」

入り口を弄んでいた指先が、蜜のをからめながら滑るように入って来る。
あたしの感じる所を知り尽くしてると言わんばかりに蠢く。

クヤシイ。翻弄されていくのが、なんだかクヤシイ。
だけどそんな理性を食い尽くすように、
快感が確実にあたしの身体を侵していく。

くちゅっ ぐちゅ・・ぐちゅ、くちゅくちゅ

「はぁん、んんんっ、ふぅぅっぅん・・・あっ、あっ!」

奥まで差し込まれた指をかき混ぜられて、声がとまんない。
腰が求めるように、自然に浮き上がる。

「ほら・・・可愛いよ。すっごくいやらしい」

また耳もとで、囁かれた。
その途端、今まで以上に感じてしまって、
思わずきゅんっと締め付けてしまった。

ヤツのはっとした空気を感じて、少しだけ我に返る。

ヤバい。
今まで、ほとんど弱味なんて見せた事ないのに。
ひょっとして、ひょっとして・・・

・・・気付かれた?

「お前・・・囁かれると感じる方?」

身体がビクっとする。

そうだとは言えず、黙りこくってしまう。
だけど、無言なんて認めたも同然だ。

耳朶を甘噛みされる。

「あんっ」

恥じ入って油断しきってるトコを狙われて、これ以上はないくらいに甘い声。

「そっか。耳にされるの、好きなんだね」

ヤツが満足気に、意地悪くうなずく。

「いつもさ、『俺の事ホントに好きなのかな〜』って思うくらい、
 お前そっけないじゃん。
 強がってるだけだって知ってるけどさ。お前意地っ張りだから」

頬や耳にキスを降らせながら、ヤツが言う。

わかってるよ。知ってるよ、それくらい。
いっつもあたし、素直になれないんだ。
みんなから「強いね」って言われて、「女王様」なんて呼ばれてて。
こいつの事も、ワガママ言って振り回しっぱなし。
だけど、いつも笑ってあたしの事、受け止めてくれる。

それでも、セックスの時でも、あたしはまだ自分を見せられない。
いつも心の中で叫んでる。

『ねぇ、ホントのあたしを見せても、幻滅しない?
 あたしってホントは、すっごく弱くて不安なの』

「だから今日は、俺がお前を変えてやるよ」

いきなりあたしを抱き起こすと、
あたしは後ろからヤツに抱き締められる形にされた。
そう、ヤツの唇があたしの耳に密着するような体勢に。

「ちょっ・・・やだっ、放しなさいよ!」

後ろから抱きすくめられて、思わず身体を振払おうともがく。

「ダメだよ」

ヤツの、キッパリと、容赦ない拒絶の声。
声がダイレクトに耳に入って来て、身体がビクリとはねる。

「ほら、感じちゃうんでしょ?素直に感じていいんだよ・・・?」

どうして・・?
いっつもあたしが言えば、苦笑してやめてくれるのに。
何でも、どんな事でも。
拒絶される事に慣れてないから、悔しさと戸惑いが心の中を交錯する。

その力の抜けた一瞬をついて、ヤツの手があたしの身体に回されてた。
あたしの胸をマッサージするようにまさぐる。

「あっ・・・!ふっ、うん!!」

既にツンとたってしまった乳首を摘まれ、軽い痛みと甘さが身体を貫く。

「やっ・・ホントにヤなんだったら!放して!」

身体中の力が抜けていって、叫ぶ事だけがかろうじて許された反抗。

なのに・・・
「イヤなの?本当に?じゃあここも?」
ヤツが意地悪に囁いて、右手を伸ばして来た。

ピチャッ

「はぁあぁぁんんん!」

厭らしい水音と、あたしの声が部屋中に響く。
ヤツの満足そうな笑みが耳許をくすぐる。

「あっ・・・ぅん、ふぅ・・・あっ、あっ・・」

首筋をヤツの唇でまさぐられ、左手で乳首を摘まれ、右手で秘所をを弄ばれている。
声はもはや甘さだけを含んだ喘ぎに変わっていた。
何から逃れようとしているのか自分でも分からないけれど、
両手が空を描いてももがく。
あたしに許されているのは、感じる事だけだった。
ヤツの手が、唇が、蜘蛛の糸のようにあたしの身体を捕らえて放さない。
もう、罠に捕らえられて為されるがまま。

自分自身を支えられる力もなくなり、
ぐったりとヤツに身体全体をあずける形になる。
耳許で「可愛いよ」とか「こっちは感じる?」とか溜息のように囁かれ、
その合間に首筋にキスの雨を降らす。
左手は胸や脇腹、お臍の辺りを執拗に撫で回す。
すっと内腿を撫で上げられ、ゾクリとしたものが背筋を走る。
なのにその間、わざとなのか、
右手は入り口を軽く弄って、激しい水音を立てさせているだけだった。

「ふぅぅぅぅんん・・はぁぁ・・・んんん、うぅぅぅ・・・」

何時の間にか声は啜り泣きになり、
潤んでいた目からは涙が零れ始めていた。

ドウシテ オクマデ キテクレナイノ・・・?

「気持ちイイの?どうして欲しいの?」

子供をあやすようなヤツの声。
だけど、どうしてもあたしは言葉に出来ない。

「ねぇ、何で言ってくれないの?」

いつもなら繰り返される問いに苛つき、
「うるさいっ!」ってグーで殴ってるハズなのに。

「恥ずかしい・・・」

やっと絞り出したあたしの答えに、ヤツは畳み込むように囁く。

「どうして恥ずかしいの?もうこんな所まで見ちゃってるのに、俺。
 もう、全部見せてくれてもいいだろ?身体も、心も、裸の所・・・」

胸がドキドキしてる。
何だろう、この感じ。
片想いの相手に想いを打ち明ける前のときめき?
ううん、ちょっと違う・・・

あぁ・・・子供の頃、クラスの男の子に、
「お前にだけ教えてやる」って
彼の『秘密基地』と呼んでいる所に連れて行ってもらった時のドキドキに似てる。

知らない所に・・・冒険に出る気持ち・・・

コイツが最初のオトコな訳じゃない。
最後のオトコにすると決めた訳でもない。

それでも。
あたしのワガママに呆れないでいてくれる。
いつも笑ってくれる。

コイツになら、いいかもしれない。
あたしを、ホントのあたしを、見せてしまっても・・・

「ほら。どうして欲しいの・・?」
答えを求めるヤツの声。
今までどうしていいかわからず、空を彷徨っていたあたしの視線が、
ふっと振り返ってヤツのそれとかちりと合った。

「あ・・・」
あたしの口が開いた瞬間、腰が持ち上げられて、
ヤツの熱い部分へと振り下ろされた。

「ふぁああああんんんん!!」

ずっとこの瞬間を待っていたはずなのに、
突然の衝撃に叫び声をあげる。

「すごい・・・お前の中、めちゃくちゃ熱い・・・これだけでイキそう・・・」

満足げな溜息まじりの熱い囁きに、あたしの体はビクビクする。
ヤツは、その感覚さえも愉しんでいるようで。

「あ・・・あ・・・う、ん・・・」

激しく突く事が難しい体勢なので、
あたしは腰をヤツに掴まれて前後左右、そして円を描くように動かされる。
激しく突かれるより、もっと感じてしまう。
自分の体の奥深くを、ぐちゃぐちゃにされるこの感覚。

「気持ちいいんだね・・愛液が、俺の太腿まで溢れてくる・・・」

羞恥心を煽られて、あたしの体は更に火がつく。

ヤツに支配されている。
もはや体を動かす事も、声を出す事も自分の意思ではもう出来ない。
体が反応して動くのはヤツの愛撫のせい、
声をあげるのもヤツの行為を受けての事。
あたしの体なのに、ヤツがすべて動かしている。

「気持ち、いいの・・・?」

ヤツが甘く尋ねる。
耳から直接入ってくる言葉は、直に脳へ伝わってゆく。

「ん・・・きもちいい・・・ぁあ、ん・・・」

普段は絶対答えないのに、素直に言葉が出てしまう。

支配されている・・・侵されてゆく・・・
あたしの理性も、本能も、体も、すべて。
ヤツに愛されなければ、あたしは指一本動かせないくらいに。

なのに、どうしてだろう。
何故これが、こんなに甘く感じられるのだろう・・・

支配される悦び・・・それが、こんなに甘美だなんて・・・

白い光が近付いて来る。
絶頂の悦びの世界。
早くあの波に飲み込まれて、溶けて溺れてしまいたい。

口の端からは飲み込めない唾液が流れ、
両目からは感じ過ぎたあまりの涙がとめどなく溢れてくる。
それでもなお、ヤツの唇はあたしの首筋を執拗に這い、
その手で乳首をころがされ、クリトリスを摘まれる。
そして、あたしの中は、熱いものでかきまぜられて。
これだけの快感を与えられながら、
まだ欲するようにぎゅんぎゅん締め付けて。

もう、何も・・・考えられない・・・

快楽の感覚だけ研ぎすまされ、
理性も思考も低下して、意識が遠くなって来る。

早く。早く。
あの世界へたどり着きたい。
あの波に飲み込まれたい。

首筋や耳朶に熱い吐息がかかる。

「お前は、俺のものだ・・・俺だけのものだからな・・」

こんなそばで囁かれているのに、遠くに聞こえるヤツの囁き。


『−−−−−−−ハ・・・・イ・・・・−−−−−−』


意識が途切れ、あたしは、白い快楽の世界に飲み込まれた。

真夜中に目が覚めた。
けだるさを感じても、どうしてもあのセックスが夢のように思えてならない。
思い出せないいらつきと、のんきに寝てるヤツが気に入らなくて、鼻をつまんで叩き起こす。

「・・ひっでぇなぁ、起こし方ってのもあるだろ?」

ぶつぶつ言いながら、本当に怒っている様子は微塵もないんだけど。

「あの、さ・・・」
「ん?」
「夕べ・・・何かした?」

我ながら間抜けな質問。ヤツも目が点になる。

「何か・・・夢、見ちゃったみたいで、さ・・・」

言葉をごにょごにょ濁し、かなり格好わるいあたし。
だけどヤツはそれで、あたしの言いたい事を察してくれたらしい。

「夢じゃないよ・・鏡、見てみ?」

訝しく思いながら鏡に向い、後ろを向いて首筋を見ると・・・すっごいキスマーク。
唖然とするあたしに、ニヤニヤしてヤツが言う。

「俺のもの、って印」

途端にあたしの脳裏に浮かぶ台詞。

『オマエハ、オレノモノダ・・・オレダケノ モノダカラナ・・』
『−−−−−−−ハ・・・・イ・・・・−−−−−−』

最後のあたしの台詞は、頭の中だけの呟きだったのだろうか。・・・・それとも?

もし後者だったら、と、顔が真っ赤になる。それこそヤツに確認なんて出来っこない。
そんなあたしを見て、ヤツのにやけ顔が最高潮に達した。

「すげー、キスマークと同じくらい、顔真っ赤」

げらげら笑うヤツの頭を、あたしは今度こそ、思いっきりグ−で殴りつけた。

いつもと同じように朝が来て、いつもと同じように振る舞うあたし達。
だけど、夕べから、確実に違う、あたし達。






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