禁断
シチュエーション


「こんなところで寝てたら風邪引くよ」

シャワーを浴びて戻ってくると、彼は椅子に座ったまま眠っていた。

「ん?あぁ」

ふぁーっと大きなあくびをして、両腕を上に上げて、伸びをする。
私はホテルに来る前に買っておいたビールを冷蔵庫から出して、喉に流し込んだ。

「あなたも入ってきたら?」

いっこうに動きそうもない彼に声をかける。

「うん。こっちおいで」

そう言って彼は両腕を前に広げて「抱っこ」のポーズをとる。
ビールをサイドテーブルに上に置いて、私は彼の腿に横向きに座った。

「んー、こうの方がいいな」

彼が私の足を持ち上げて、正面を向かせる。
私は後ろから抱きすくめられる形になった。

「くすぐったいよ」

彼の顎が、肩に乗っかっていたから。
そういうと、彼はいたずらするように耳の後ろや首筋を舐めはじめ、耳たぶを唇で弄ばれ、私は堪えきれず、甘いため息をもらした。

「おまえって敏感だよね」

耳もとで囁かれて、背中にゾクゾクと甘い感覚が広がった。
スルスルと彼の手がのびて、バスローブの中をまさぐられる。

「あ、ブラしてない」
「だって、お風呂上がりだもん」

やわやわと乳房を揉まれ、不意に人さし指と中指で乳首を摘まれ、私は小さな悲鳴を上げた。
彼はバスローブの紐を解き、前を開けさせる。片手で胸を揉んだまま、もう片方の手は下へと伸びてゆく。
太ももを撫でながら、耳もとで囁かれた言葉に、私は息をのんだ。

「縛っていい?」

ふるふると首を横に振った。頭に血が上って、めまいがした。
もう一度聞かれたら、断る自信がなかった。

「前、縛ってほしいって言ってたよね?」

畳み掛けるようにいう。
そう、縛ってほしいと言ったのは私。
でも、その時彼は、そんな事に興味はないといった感じで、笑ってはぐらかされたのだ。
彼の両手が、私の両手首をつかむ。

「いいよね?」

彼の言葉と、これから起こる事を想像して、私は濡れた。
バスローブの紐で、後ろ手に両手首をしっかりと縛られる。

「はい、じゃあ、場所交代」

そう言って、私を持ち上げるように立ち上がると、私を椅子に座らせた。
彼が屈んで、キスしてくる。唇に、首筋に、そして乳首に。

「は・・・ぁ・・・」

私の口から、甘いため息がもれた。

「バスローブ、脱げないね。この方がエッチでいいか」

縛られたため、腕のところでバスローブが引っ掛っていたのだ。
彼の手が、太ももを撫で、ひざを掴むと、大きく足を開かれた。

「っや・・・」

慌てて足を閉じようとするが、がっちりと押さえ込まれて、閉じる事が出来ない。

「ダメだよ。この足も縛っちゃおう」

嬉しそうな彼の声。
もう、頭がぼうっとして、抵抗する事も出来ない。私は彼の言いなりだ。
足の甲を、椅子の脚の外側から引っかけるようにすると、
そのまま足首と椅子の脚を一緒にくくりつける。反対の足も。
これでもう、私は足を閉じる事が出来なくなった。

縛り終えて、彼が顔を上げると、彼の目の前には、もう濡れてシミを作っているであろうショーツがある。
彼が、そこをじっと見ている。

「見ないで・・・」

顔から火が出るほど恥ずかしいのに、それと同じ位、感じている自分もいた。

「もうこんなに濡らして。いやらしいね」

そう言って、ショーツのふちを指でなぞる。

「ん・・・あ・・・」

たまらず声が出る。もっと・・・もっと触って・・・。
あと・・・もう少し・・・。

彼の指がそこに触れる、そう感じた瞬間、指を離された。
どうして?
彼に声をかけようとしたその時、彼の口から信じられないような言葉が発せられた。

「じゃあ、シャワー浴びてくるから」

そう言って立ち上がる。咄嗟の事に、私は声も出ない。
嘘でしょう?私はこのままで?

「そんな顔するなよ。ほらほら、寂しかったらテレビでも見て、さ」

彼がテレビをつける。こんなホテルで放送されているのは、もちろんアダルトチャンネル。

「やっ・・・やだ・・・解いて」

首を大きく横に振って、彼に訴えるが、彼は知らん顔だ。

「じゃあ、すぐ戻って来るから待っててね」

彼は本当に行ってしまった。

目の前のテレビでは、AV女優がわざとらしい喘ぎ声を上げている。

『AVってさぁ、わざとらしいし、男の都合のいいように出来てるから
女が見てもつまんないんだよね』

いつだったか、彼にそう言った事があった。それは嘘ではなかった。

でも、今の私は・・・

そんなわざとらしい喘ぎ声にも反応していた。
腰が甘く疼く。そこが熱く、溢れてくるのが分かった。
でも、手も足も縛られ、どうする事も出来ない。
わずかに腰を動かしてみても、快楽を手に入れる事は出来なかった。
テレビの中で絶頂を迎える女が妬ましかった。
呼吸が乱れ、浅く、早くなり、目からは涙がこぼれた。

ヒクヒクと秘部が痙攣するように蠢く。熱く・・・熱く。
早く・・・早く戻って来て・・・。

彼がシャワーを浴びている10分か、15分の時間。それが永遠に感じられた。

――彼が戻ってきた。

もう私の頭の中は、膜が張られたように思考が濁り、彼を求める事しか考えられなかった。

欲しい、欲しい、欲しい・・・。
早くきて。解いて。

十分な刺激を与えられない、その敏感な部分は、もうおもらしをしてしまったのかと思うほど、ショーツをぐしょぐしょに濡らしていた。

「凄いな。想像以上だ」

彼が熱を帯びた声で呟く。ベッドに座り、テレビを消す。

「解いて・・・お願い・・・」
「だめ」

そんな・・・。気が狂いそう。がっくりと首をうなだれて、なるべく何も考えないようにする。
彼が、まさに舐めるような視線で、全身を見つめている。
早く来てほしくて、無意識に腰が動く。

彼が近付いてくる気配。
彼はボクサーパンツにバスタオルを羽織っただけの姿だ。
椅子の前に彼が立つ。ボクサーパンツの中のものが、上を向いて大きくなっているのが分かった。
それを見ただけで、私の息は熱くなり、身体の中がじんとするのを感じた。
彼が屈んで、私の顔を見上げる。
そのまっすぐな視線に、思わず目をそらしたとたん、彼の顔が近付き、キスされた。

唇をむさぼるようなキス。乱暴に舌が押し込まれる。
舌が、別の生き物みたいだ。唾液がねっとりと口の中で絡み合う。
舌を吸われ、苦しくて、思わず喉の奥から声が洩れた。
ゆっくりと、唇が離れてゆく。
不意に彼が私の髪の毛を掴み、上を向かせる。
目の前には、彼のもの。それを顔に押し付けられる。

「ぁ・・・・・ん・・・」

突然の事に驚きながらも、私は下着越しに彼のものを唇で愛撫していた。
彼がボクサーパンツを下ろして、竿を手で持ち、私の頬に押し付けた。
首を横に振って、逃れようとするが、髪の毛を掴まれていて、うまく動けない。
彼の先端からにじみ出た液で、私の頬はぬめってゆき、そのまま口へと運ばれた。
それを唇に塗り付けられ、口へ押し込まれる。

「んん・・・・」

麻痺した思考回路は、何も考えず、彼のものをしゃぶっていた。
手が使えないので、うまくくわえる事が出来ない。それでも、必死にそれを舐めまわす。

不意に腰が引かれ、口の中のものが抜かれる。

「あ・・・」

思わず、不満の声が漏れる。
彼は、膝立ちの状態になって、両手を私の腿にのせる。

「凄い・・・もうびしょびしょだね・・・」

彼の声が、どこか遠くで聞こえている気がした。
すーっと腿を撫で上げられ、びくりと身体を震わせた。
彼の手が腿を離れ、乳房を鷲掴みにする。

「ひゃぅん・・・!!」

咄嗟の事に、顔をゆがめる。それが、痛みのためなのか、快楽のためなのか、自分でも分からなかった。
彼の手の力がゆっくりと抜かれてゆく。それと同時に、今度は優しく揉まれる。
硬くなった乳首に触れられたとたん、私は軽く達してしまった。
ただ、それだけの事なのに。
躰が熱くて、自分じゃないみたいだ。頭に血が上る。頬をつたう涙に、今初めて気付いた。

「そんな顔するなよ。今解いてあげるから」

そう言って彼は屈みこみ、足に縛られたものを解きはじめた。
両足を解き終え、立ち上がって、背中に手を回して、腕の拘束も解く。
膝の裏と、首の後ろに腕を通して、いわゆるお姫さま抱っこでベッドに運ばれた。

「気持ち悪いよね」

彼が私のショーツを見ながら言う。私は小さく頷く。
彼は、搾れるのではないかと思えるほど重くなったそれに手をかけて、一気に抜き取る。
愛液が、足に絡み付く。

彼の指が、首筋を撫で、乳房に触れ、痛いくらいに硬くなった乳首を親指と人差し指でぎゅっとひねり上げる。

「・・・っ!!」

頭のてっぺんから足のつま先まで貫かれるような快楽が私を襲う。
それはもう、声にはならず、ただただ深くため息をつくしかなかった。
彼の指は、臍の周りを撫で、さらに下へと滑らかに滑ってゆく。
足の付け根を撫で、止まる事なく溢れる蜜壷に指の腹を触れられただけで、私は達した。

「は・・・ぁ・・・」

くちゅり。といやらしい音を立てて、彼の指が侵入してくる。
自分が自分でなくなるような感覚。特別はことは何もしていないのに、彼の指が動く度に、身体が反応し、私は簡単に絶頂を迎える。

指を抜き、私の頬にその液体を塗り付けられる。
私はもう抵抗する力もなく、恍惚と彼を見つめる。

「もっと焦らすつもりだったのに。もう我慢出来ない」

彼はそう言って、はち切れんばかりに硬くなったそれを私の入り口に押し当て、一気に貫いた。
十分すぎるほど濡れたそこは、何の抵抗もなく、奥までそれを受け入れる。

「はぁ・・・!!いい・・・・・」
「いいよ・・・。お前の中、凄く熱い・・・」

ぐちゅぐちゅと私の身体の中をかき回す卑猥な音が、部屋中に響くのも構わず、やっと手に入れた快楽に、自ら腰を動かして、貪った。

彼の体温と、自分の体温が解け合ってゆく。
まるで、彼の肉体が、自分の肉体になったかのような。
彼の身体も、自分の身体のような錯覚に陥る。

「手を・・・繋いで・・・」

喉の奥から絞り出すように、やっとの思いで彼に伝える。
彼が、私の手首を掴み、それから優しく、指を組むように手を繋いだ。

・・・まただ。
身体が融けていく感覚。確かに手を繋いでいるのに、繋がっているのに・・・。

私の身体が、彼の身体の一部になる。
彼の唇が、私の口を塞ぐ。私は貪るように彼の唇を、舌を、舐めまわす。
彼の唾液が流し込まれ、私はそれを飲み干す。
それは、甘い媚薬に感じられた。

アダムとイウ゛も、こんな甘い果実を食べたのだろうか・・・。






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