賭け
シチュエーション


「先輩、賭けをしませんか?」

唐突に彼―直樹―が言った。
私は藤井沙夜、今日は会社の後輩の直樹からどうしても自分の誕生日を先輩である沙夜にお祝いしてほしいと懇願され、半ば根負けした状態でちょっとこじゃれたイタリアンレストランに連れて来て、お祝いを開いてあげた。
ちょうど3ヶ月前に付き合っていた彼に振られてフリーだったこともある。

「いったい・・・・どうしたの?」
「先輩、今日は僕の誕生日ですよね、僕が勝ったらもう一軒付き合ってください。僕が負けたらここの支払いは僕がします。」
「・・・・どういう賭けをするの?」

真剣な表情に私はとりあえず聞いてみた。

「・・・・・これ・・・・」

彼は小さな瓶を取り出した。

「塩ですよ。これを水に入れてグラスを選んでもらうって言うのでどうですか?」
「・・・・・・しかた無いわね、いいわよ。」

そんな茶番に乗るのもいいだろう、少しお酒も回っていたのかも知れない。
二つのグラスを準備すると一つにサラリと粉を振り入れる。

「沙夜先輩、目をつぶってください。僕が後から選びますから・・・」

言われるままに目を閉じる。グラスを動かしている布擦れの音がしばらく続いた後、

「いいですよ。」

眼前に二つのグラスが並べられる、直樹が真剣な顔で沙夜の手元を見つめている。

「・・・・・じゃあ、こっちをもらうわ。」
「僕はこっちで。じゃいいですね、せーの。」

二人同時に水を口に含む。

「・・・しょっぱい・・・・」

そう口にしたのは直樹のほう。

「じゃぁ、私の勝ちね。あらら、せっかくの誕生日なのに・・。」
「・・・いいんです、沙夜先輩が付き合ってくれただけでも。」
「有り難う、そういっていただけるとうれしいわ。」

そういうと沙夜は最後に残っていたワインを一息であける。直樹は店員を呼ぶとチェックをしていた。

「ご馳走様、いいのかしら?」
「・・・今度リベンジさせてくださいね。」
「はいはい。」

会計も終わり帰り支度を始めようと沙夜が立ち上がった瞬間、足に力が入らなくなり立ち上がる事が出来なくなってしまった。

「どうしました?先輩?」
「・・あ、ううんなんでもないわ。」

・・・・・ちょっと調子に乗って酔いすぎたかしら・・・?・・

そう思いながら再度立ち上がろうとするがやはり力が入らない。

「あれ?大丈夫ですか?手を貸しましょうか?」
「だ・・いじょうぶ・・よ・・・」

腕でテーブルを押さえつけるようにしてかろうじて立ち上がる。

「だめですよ、先輩。飲みすぎたんでしょ?つかまって。」
「悪いわね・・・」

あきらめて沙夜は直樹の肩につかまる。
少々よろけながら二人はレストランから出ると直樹はタクシーを捕まえる。

「まだ・・電車あるし・・・・」
「なに言ってるんですか?無理に決まっているでしょう?」

そういい捨てると直樹は無理やり沙夜を乗せ自分も一緒に乗り込んだ。

「・・・・・まで。」

直樹が行き先を告げる。沙夜はそんな直樹にもたれかかりながらうとうとしていた。

・・・・でも・・・おかしい・・・な・・・・そんなに・・・飲んだっけ・・?・・・

不可思議な思いのまま、車のゆれに流されてまぶたが降りていった。

次に目を開けたとき沙夜の目に映るものは薄明かりの中の白い天井。

・・・ここ・・・は・・?・・・

「目が覚めました?」

暗がりに目を凝らすと直樹がソファにもたれてグラスをもてあそんでいた。

「わ・・・私・・・?・・・」
「僕のうちです。」
「・・ご・・ごめんなさい・・・迷惑かけて・・・」
「いいんですよ。」
「今・・・・何時かしら、帰らないと・・・。」
「11時過ぎです。」

そういいながら沙夜に冷たい水を差し出した。それを一気に飲み干す

「よかった、まだ電車動いてるわね・・・。」

身支度を整えて出ようとする沙夜であったが下半身に力が入らずへたり込む。

「・・・あ・・・あれ?・・・」
「無理ですよ。せ・ん・ぱ・い。」

直樹の声が妖しく響く。ゆっくりと沙夜のほうへ歩み寄る。

「・・・・なにか・・・したの・・?」

強い目線で直樹をにらむ。薄笑いを浮かべた直樹がすぐそばまでやってきた。

「いいえ、何も。・・・・まだしてませんよ?」

そういうとしゃがみこんで沙夜を見つめる。

「ただね、さっきの水に仕掛けをしただけです。塩入を先輩が飲んだらあきらめよう、でももうひとつを飲んだら・・・・・ってね。」
「なにを入れたの?」
「ごく軽い睡眠薬。だからほらすぐに眼が覚めたでしょう?で、さっきの冷たいお水何か感じませんでしたか?」
「なに?なに・・・入れたの?」
「無味無臭の度数の高いアルコールですよ。ほら、喉通る時熱くなかったですか?」

・・・そういえば、そんな気もした、でも酔ってるからだとばかり・・・

「なんで、私・・なの?」
「だって先輩、僕としたいと思ってるでしょう?いつも僕を見るとき舐めるように見るじゃないですか?」

・・・・そんな・・・・

高い背、厚い胸板、がっしりとした腕。全体的にたくましさを持ちそれでいながら少年っぽく感じるアンバランスな笑顔。それがかわいいとひそかに思っていたものだ。
確かにこんなに女子社員に人気のある彼に、態度で好かれているのを感じて快く思わない女なんていない。でもそれはあくまでも会社での同僚としての立場であって、それ以上は考えたこともなかった。

「だからね、“賭け”だったんですよ。僕の勝ちですね。」

そういうと直樹はネクタイをはずし、カフスを取った。そうして少しおびえた表情をした沙夜を抱き上げる。

「・・・や・・やめて・・・・・」
「・・・やめて・・いいんですか?」

あくまでも敬語を使う直樹。それでいて指先は徐々に妖しく動き始める。

「ほら・・・・」

肩を抱きかかえていた指先を伸ばして細く白い首筋を軽くなでると沙夜の背中にゾクリとした何かが流れる。

「こんな状態の先輩を帰すなんて、出来ないな僕には・・・ね。」
「・・いや・・・・だめ・・・・」

弱々しい抵抗を続けている沙夜を自身のベッドへ降ろすとブラウスのボタンに手をかけた。

「・・・あ・・・・」

ひとつひとつ、ゆっくりといたぶるようにボタンをはずす。

「・・お願い・・・やめて・・・」
「・・・先輩・・いままで何人くらいの人と経験したの?」

息がかかるほど近い距離に顔を寄せながら直樹はささやく。

「・・・・・・」
「答えて・・・?・・・まずは前の彼の岡田先輩でしょう?それとあとは?」
「・・!なんで・・知って・・・」

社内恋愛自由な会社ではあったがなるべく目立たないようにしていたはずなのに・・・。

「岡田先輩から、聞いた。ねぇ?何人くらい?それとも岡田先輩だけだって本当?」

「・・ど・・うして・・・・・」
「自慢してたよ、初めてにあたったって。先輩の名前は出してなかったけど。話の内容では多分先輩かなって思って。」
「・・・そうよ・・・だから・・ってあなたになんの関係があるの!・・・」

見透かされた焦りから少し強めの口調になる。

「へぇ・・・じゃぁ・・・きっと・・・・」

直樹は一呼吸置いて告げる。

「今までとは違ったことをしてあげるよ、先輩・・・・・・。」

直樹の唇が沙夜の唇をふさぐ、そうしながらブラウスの前をはだけ、指先を首筋から鎖骨へと滑らせる。首を捻り唇を外すと沙夜は抵抗した。
「・・・やめ・・て・・・今なら・・・・・まだ・・・・」
「・・・・そんなこと言ってるの?望んでいたのは先輩でしょう?」

・・・・・そんなことない!・・・・・・

言いたいのに言葉が出ない。何故?
直樹は逃れた沙夜の右の耳元に口を寄せ吐息と共に囁いた。

「もう、身体は動くはずなのにどうして抵抗しないの?先輩お酒強いからあれくらいの量ならそろそろ大丈夫なはずだけど?」

言い切った後舌先で耳の後ろをくすぐる。

「・・あ・・いや・・・・・・」

どくんと何かが身体の中で動く。差恥に頬を紅潮させ沙夜は身を捩った。

「・・・此処・・・感じるんだね・・・かわいいよ・・・先輩・・・」
「・・・お願い・・・・やめて・・・・・」

両手を直樹の肩にかけ引き剥がそうとする。

「・・・もっと・・・感じて・・・・よ・・・・」

緩急を付けて沙夜の耳をいたぶる直樹は、ささやかな沙夜の抵抗などものともしない。

「・・・・・やぁ・・・いや・・・・」

・・・彼は・・・こんなこと・・・・しなかったわ・・・・

たまに触れることがあってもこんなにまで執拗に攻めることなどなかった。それでも十分に感じていた沙夜にとって直樹に与えられるそれははじめての経験であった。

「・・・・比べているの?」

確信を突かれて沙夜が顔をあげる。

「いいよ、別に。」

言葉の裏に何を隠しているのかわからない直樹の声。あまり興奮していないような冷静な眼で沙夜に伝える。沙夜の華奢な両手を自身の肩から外し、傍らに投げてあったネクタイを引っ張ると沙夜の両手を縛り上げる。

「お仕置きだよ、素直にならないから。後でほどいてあげるよ。 」

・・・いや・・やめて・・・・こんなのはいや・・・・

思わず目じりから涙をこぼす。その涙を直樹は舌先で掬い取る。

「・・先輩は・・・涙まで甘いんだね?」

行動と言葉の矛盾が沙夜を困惑させる。

・・・会社であんな風な彼がこんなことするはずない、そうよ・・・きっとやめてくれる・・・

沙夜はそう判断すると少し強い口調で直樹に言った。

「・・・やめなさい、もうこんなこと!早くほどいて私を帰して!」
「だめ。先輩は僕の誘いに乗った、そして賭けにも。そして僕は賭けに勝ったって言ったでしょ?逃がしてあげないよ。せっかくのチャンスだし。」
「どうしてよ、どうしてこんなことするの?」

何度目かの同じ質問を繰り返す。

「僕が先輩のこと好きなの気がついていたでしょう?先輩も気になってたから僕を見るときあんな風に見てたんでしょう?」

畳み掛ける直樹の質問にイエスともノーとも言えない自分に気がつく。

「答えられない?」

首をかしげて直樹は沙夜に問いかける。

「いいんだ、こっちで答えてもらうから。」

そういうやいなや純白のブラのレースのふちをなぞる。

「・・・く・・・」
「いやらしい下着だ、ね?どうしてこんなのつけてきたの?」
「そんなの・・・・別に・・・」

強がって答えるもそれを意に介さぬように直樹は続ける。

「誘って欲しかったんでしょ?僕に。うそつきなんだね先輩って。そうやって岡田先輩にも口説かれたの?」

・・・違う、違う、そんな意味じゃない・・・・

「ブラウス越しにも見えていたラインで僕を誘惑してたの?」

目を硬く閉じ首だけを横に振る。

「ふ〜ん、・・・・・強情だね。そんなところがせ・ん・ぱ・いらしいけどね。」

レース越しにふくらみをまさぐる。全身に力がかかってない事に『気がついた』沙夜はスプリングを利用して上半身を起き上がらせると一気に直樹をはねのけた。

「・・・・逃げるの?無理だよ先輩。」
「直樹君、今これほどいてくれたら誰にも言わないから!早く!」

ベッドに腰掛けている直樹がにやりとするとゆっくりと立ち上がり沙夜の前に立つ。一歩後進する沙夜の腰を抱きかかえた。

「いや!離して、早くほどいて。」
「・・・・・・なんで立ち上がれたと思う?」

抱えた手の指先が沙夜のロングスカートのホックにかかるとまるで手品のようにあっという間に外されファスナーを下げられた。

「・・きゃっ・・・いや・・」

しゃがもうとしても腰を抱かれていてはどうにもならないままストンとスカートが落とされる。

「へぇ、こんなの履くんだ先輩って。」

羞恥心からかぁっと全身がピンク色に染まる。
沙夜は飲むときは熱くなってしまい汗もかきやすくなるのでいつも太ももでとまるストッキングを履いている。今日もそのスタイルであった。
「さ・・・てと・・・」

直樹はつぶやくと沙夜を抱き上げベッドに横たえる。

「・・あぅ・・」

小さく声を上げる沙夜を見下ろしながら直樹はことさらにゆっくりとカッターを脱いでいく。視線だけは沙夜から外さない。

・・・いや・・・・・

逃げたくてもその視線に射られて動きがままならない。

「・・・・どうする?もう一度逃げてみる?」

足元からスカートを拾い上げ片手で弄びながら直樹は問うた。

「・・返して・・・お願い・・」

不自由な両手を使い、ようやく半身を起こしながら沙夜は訴える。

「どうしようかな・・・?」

にっこりと笑うと直樹はそれを遠くへほおり、沙夜のあごを持ち上げた。瞳を見据えられ沙夜は逃げ場がなくなる。

「逃がしてあげないよ、もう。」

そういって直樹は沙夜を組み敷くとつま先から太ももへとゆっくりと指先で刺激し始めた。

「や・・・やめて・・・・」
「されたこと、ないの?」

・・・あるわけない・・・

そういったつもりが小さな喘ぎ声に取って代わっていた。

「・・・あ・・・・・・や・・・」

・・・や・・・うそ・・・・・そんな・・・・・

元彼の岡田とは4年ほど付き合い、別れた。大学の終わりごろ同じ会社に就職が決まったことから付き合いが始まり、初めてをすべて捧げた。それでもいつしか二人の間には何かしらかみ合わないものが出来てきたときに岡田に新しい恋人が出来たことから別れを切り出されたのだ。

(お前、本当に俺のことが好きなのか?)

何度かいわれたことがあった。一緒にいても羽目を外すことなく、それはまたベッドの中でも同じだったのだろう。彼女にとってみればどういう風にしたらいいのかあまり知らなかったこともあるが。沙夜は年齢の割にはその手のことにはめっきり疎かった。

「いい声だね。もっと聞かせて・・」

直樹の声が聞こえると沙夜はあわてて両手で口をふさぐ。直樹はその手をやんわりと跳ね除ける。

「だめだよ・・・もっと気持ちよくしてあげるから・・・」

目を見開き直樹を見つめると、その視線に気がついたのか直樹が沙夜の顔を見る。あくまでもやさしい瞳は沙夜の抵抗力を少しずつ奪っていく。

・・・・だめなのに・・・なんで・・・・

身体の奥底が警笛を鳴らす。これ以上はやめて・・・此処からはだめ・・・・
押し流されそうな自分を必死で取り戻す。

「まだ、理性残ってるみたいだけど?まだ、序の口だよ。岡田先輩こういうことしてくれなかったみたいだね?じゃあ、僕が初めてなんだ、先輩にこんなことまでするのは。」

そう言って直樹はするすると器用にストッキングを脱がせると素足のくるぶしに唇を押し当て軽く吸った。

「・・やぁ・・・・・いや・・・・」

ビクンと背中が反り返る。

「先輩ってやっぱり感じやすいんだね。間違って僕がぶつかったときの反応見ててそう思ってたんだ。楽しみだな。」

・・・いやよ・・・・そんなことない・・・・

沙夜の反抗の言葉より早く直樹は次の行動にでた。

「・・ひぃ・・・・や・・・だめ・・・・・・」

膝を割るとその中心に身体を差し入れた。そのまま手を沙夜の胸に伸ばすとレース越しに頂点を探った。

「固くなってるよ、こんなに。」
「・・・ああ・・やめてぇ・・・・・いや・・・・」

布を突き破らんばかりに張り詰めた乳首が直樹の指先でいたぶられる。こすれる感触が沙夜の肢体をさいなむ。

「直に触って欲しい?このままがいいのかな?」

指を止めることなく直樹は沙夜に聞く。






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