記憶の相似形
シチュエーション


不意に、何の前触れもなく呼び覚まされる記憶。
頭の中の奥深くにしまい込んでいたそれは、時に悪戯に顔を覗かせる。
時に甘く、時に苦い、記憶の反芻。それは時と場所を選ばない。
俊之と一緒に眠るベッドの中にも、遠慮なくもぐり込んで来る。
俊之は私の幼馴染みだ。
小学校5年生の夏の終わり。私は転校生、俊之はクラスのいじめっ子。
そんな出会いから十数年。
誤解や嫉妬。それでも、気がつけば、私達はふたりで寄り添っている。

『美貴も飲むか?』

ミニバーの前で、ミネラルウォーターを手にした俊之の声に、私はふっと我にかえった。
週末を利用しての小旅行。もうだいぶ日が高くなったというのに、外に出ることも忘れて、ホテルのベッドで戯れあっていた。

『どうした?ぼんやりして。』
『・・・思い出してたの。小学生の頃の私と、俊之のこと。』
『随分昔のことだな。そう言えば、おまえ、転校生だったんだよな。』

俊之はベッドの上に座り、懐かしそうに微笑んだ。

『あの頃の俊之って、私のこと、すっごく、いじめていたよね。』

私はちょっと意地悪な口調で俊之を責めてみる。

『ガキの頃は、いじめることでしか女に愛情表現ができねえんだよ。』

俊之は苦笑いを浮かべ、ミネラルウォーターをぐっと飲み干した。
からかいの言葉。机の上の落書き。
それでも私は、ちゃんとわかっていた。
俊之は私のことが好きなんだってことを。
うんといじわるをして、私のことを可愛がろうとしているのだということも。

気がつくと何時の間にか、俊之の吐息がすぐそばまで近づいてきていた。

『私のこと、いじめようとしてる?』
『ん…?』

俊之はとぼけた表情で、私の言葉をかわした。
ちょっと武骨な指先が、私の髪をくしゃくしゃと撫でる。
その心地良さに、私は俊之を誘うような眼差しで見つめる。
ミネラルウォーターで濡れた唇を、そっとなぞりながら。

やがて焦れたように俊之の唇が私を奪った。
口移しに注ぎ込まれたわずかな水が、私の乾きを一瞬で満たしてゆく。
慣れ親しんだ舌が私の口の中をゆっくりとなぞってゆく。
ナイトローブの胸元が乱暴に開かれてゆくのを感じながら、私は俊之から返される視線を待っていた。

放課後の教室。日直日誌を書いていた私に、俊之がちょっかいを出してきた。
いやっ!―そう言って振り払った私の手を、俊之がつかんで握りかえした。
そして、ほんの一瞬、深く見つめあった。私達が、はじめてふたりだけに通じる言葉を持った瞬間。あの時の俊之は、もう女を求める男そのものだった。

『美貴…』

待ち望んでいた視線が、私の裸身を射るように見つめ返した。
その視線を記憶となぞらえる。
男が女を求めるときの眼差しはいつも同じだ。大人も、子供も。
俊之は私の躰をシーツの上に押しつけ、乳房を手で包み込むと、奮いつくように顔を埋めた。

『ああっっ…』

俊之だけに聞かせる、淫らな声、淫らな吐息。

『誘ったのはおまえだからな…。』

顔を上げ、私を見つめ返す俊之に、いじめっ子の表情が浮かぶ。

『意地悪しちゃ、いやだっ…』

形だけの抗いは、いつの頃からか、敵わなくなった腕の力に封じ込まれる。
俊之は、私の腕の自由を奪いながら、貪るように乳房に執拗に舌を這わせ、乳首を弄る。
乳首は否応なく硬く尖り、俊之の劣情を誘う。

『ここだけじゃ、物足りないよな、おまえは。』

俊之はそう囁くと、私の腰を抱え上げ、淫らに脚を広げた。

『だめっ、恥ずかしいっ…』

私の言葉に構わず、俊之は脚の間に唇を寄せ、吐息を埋める。
腕の力とはうらはらに、舌はやさしく花芽を探る。躰が溶けそうになる。
秘芯が熱く潤むのがわかる。蜜が湧き上る感覚さえも。
蜜を啜り上げるように舐め上げられ、秘芯に舌を深く押し込まれる。

『ああんっ…』

私はただ、なすがままになり、あられもない姿で喘ぎつづける。

秘芯を刺激していた俊之の舌先がさらに下がり、際どく責めたてる。

『そんな…嫌っ…』

拒絶の言葉を口にしながら、俊之の舌遣いに狂わされてゆく。

『全然嫌そうに見えないぜ…。』

俊之が、見透かしたような笑みを浮かべながら、つぶやく。
そう。俊之の腕の中で「嫌」という言葉が拒絶を意味したことは、一度だってない。
教室でいじめられていた、あの頃でさえも。

気がつくと、俊之は熱くそそり立った自身を握り締めていた。
私は魅入られたように手の中のものに視線を奪われる。
はじめて見た時に怖れさえ感じたそれに、頬擦りしたいほどの愛しさを覚えながら。

『欲しくてしょうがないって顔だな。』

俊之はわざと意地悪な笑みを浮かべる。
待ち望んでいることをわかっていながら、俊之はなおも意地悪く焦らす。

『何が欲しいのか、ちゃんと言わなきゃな。』

恥ずかしい言葉を言わせようとしてる。すがるように見上げた私に、俊之は追い打ちをかける。

『我慢できんのか?…。』

俊之が私の目を覗き込む。
切り札を私にあてがい、花芽を探りながら、得意げな顔で。

我慢なんかできない。目の前のいじめっ子に、私は甘く屈した。
目を閉じ、俊之だけにそっと囁く言葉。俊之が欲しい。ただ、ただ、それだけ。

ふと、大きな手のひらの温もりを頬に感じた。
目をうっすらと開くと、俊之は静かに微笑み、私の躰を愛しそうに抱きしめた。

『ちょっと意地悪しちまったな。』

暖かな日差しが、窓から差し込む。

わかっている。意地悪ばかりしてても、最後はいつも私にやさしくしてくれるってことも。

『来て…。』

俊之は願いに応えるように、私の躰を一気に貫いた。
いつもするように俊之の躰へと腕をまわし、強く抱きしめる。
いつもしていることなのに、繋がるたびに新しさを感じ、躰が馴染んでゆく。
やさしく擦り上げるような揺さぶり。

『もっと深く…』

深く繋がりたい。俊之の躰にしがみつき、淫らに腰を遣う。
やさしい揺さぶりは、少しずつ激しさを増してゆく。
俊之の顔が切なそうに歪む。悲しくないのに、涙がこぼれる。
俊之のすべてを受けとめたい。俊之の躰も、流れ落ちる汗も、注がれるものもすべて。

『美貴っ…いくっ…。』

俊之の躰が、びくんとしなった。
あたたかいものが躰の中に流れ込む。私の躰を満たしてゆくように。

俊之は息を少し乱しながら、私の胸元に顔を埋めた。
俊之の鼓動が躰に響くのを感じながら、俊之の頭を胸にかき抱いた。

『だんだん、淫らになっていくな、美貴は・・・。』

私に腕枕をしながら、俊之がちょっと意地悪な口調で囁いた。

『いやっ・・嫌い・・。』

私は俊之の腕に顔を埋めながら、あの時と同じ言葉を口にしてみた。
学校の帰り道、しつこくからかう俊之に向かって何度も叫んだ言葉。
あの時、言葉とはうらはらに、私の心は俊之の傍にいられるうれしさに満たされていた。
そして今、私の心もまた、あの時と同じ悦びに満たされている。






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