囚V・・とりこ・・
シチュエーション


「うまあ〜〜い」
「飲みすぎじゃないですかあ?」

ジョッキを取り上げようとする西の手をパチッとはたく。

「痛いですよ里香さーん」

西の大げさなリアクションに思わず吹き出す。
確かにかなり酔いはじめていた。仕事帰りによく寄る居酒屋で、後輩の西と飲んでいる。
最初5人ほどいたメンバーは一人帰り二人帰り、今は二人きりになっていた。

「西くんさー、いい加減敬語使うのやめたらあ?」

西は後輩といっても入社の時期が里香より遅かっただけで、年は里香より一つ上だ。

「俺ずっと里香さんに教えてもらってたじゃないですか、もー癖みたいなもんですよ」

里香がタメ口にしようよといくら言っても聞かない。

変なヤツ…。

でもこの後輩を里香は気に入っていた。気さくだし結構カッコイイ。それに里香さんと呼び掛
けられるのもなんだか嬉しかった。崇められているような感じが自尊心を擽るのだ。
そして何となく気付いている西の気持ちも。
でも今私には…。ちらりとバッグからのぞく携帯を見る。鳴らない…。

「ああーもう飲んじゃダメですってば!」
「うるさああい!」

職場の応接室で狂ってしまった日から一週間、仲野とはあの日の夜会ったのが最後だ。小塚様
から頂いたチップで旅行でもしようかと彼は言った。でも現実には何日間も同時に仕事を休む
事なんて出来なかった。どうするか考えておくよ、と言ったきり、あれから連絡はない。どう
いうつもりなんだろう?彼にとって私はどんな存在なの?
最初に、ただ抱いて欲しいだけと言ったのは私だ。でもこんな風に関係が続くと期待してしま
う。彼のたった一人になれるのでは…なんて…。でも…。
ああ、もう何も考えたくない。

「おかわりーぃ!」
「ダメです!送って行きますからでましょう!」

西に引きずられるようにして店から出る頃は一人では歩けないくらい酔っていた。西は里香を
抱えながらタクシーに乗り込む。

…困ったもんだなこの人は…。

自分の肩にもたれニコニコしながら眠ろうとしている里香を見つめた。可愛い…。そっと里香
の肩に手を回す。華奢な骨の感触にドキッとする。思わず胸の膨らみに目が行ってしまう。
いかんいかん。これじゃセクハラだ。
西の小さな葛藤など何も知らずに眠る里香の傍らで、バッグの中の携帯が振動し続けていた。

くにゃくにゃしてどうしようもない里香からなんとか部屋の場所を聞き出し、鍵を探り、肩を
抱えて部屋まで運び込んだ。ベッドに座らせるとパタン、と仰向けに倒れる。暑い、と呟いて
もぞもぞコートを脱ぎだした。
一息つこうと床のクッションに腰を下ろした。何かむにゃむにゃ言う里香に目をやって、固ま
る。ベッドの淵から突き出して折れた膝が崩れ、スカートの中に収まっているはずの内股が覗
いていた。ほの暗いその奥に潜んでいるものをつい連想してしまう。

やべ…。

血液が集中してきた。早くここから出ないと何をしてしまうかわからない。

何だか最近里香は変わった気がする。自分が入社したての1年前はただ可愛いなあ、ラッキーく
らいにしか思わなかった。その後年下なのに自分よりしっかりしていて客あしらいも上手い彼
女に脱帽した。まったく降参だった。それから彼女に付いて接客のいろはを教えてもらいまく
った。上手く行かず失敗するのを何度も助けてもらった。
やっと一人前に売り上げが伸びてきたものの、やはり彼女にはかなわないなあと思う。つい先
日も仲野さんの客に気に入られて、快く担当を任されていたし。きっと彼も彼女を認めている
のだろう。

その里香が、上手く言えないが、変わってきている。妙に女らしく…なった?
仕事中リングを磨いている時の、ピンと張った背筋から腰のくびれのラインに、商品を説明
しながら、客の手元に落としている柔らかな眼差しに、それは突然現われる。
なぜそんなふうに思うんだろう。それは俺が…。

ブブブ、ブブブ、ブブブ。

振動音に思考が遮断された。里香のバッグが震えている。

「里香さん、携帯鳴ってますよ」

眠りに堕ちる寸前の里香を揺り起こす。

「…うぅん…取ってぇ」

しょうがないなぁと思いながらバッグの中の振動する元を探る。あった。手渡そうとしてふと
閉じた状態の携帯のウインドウに目が行ってしまった。

着信、仲野弘樹…。

「どうぞ」

里香が受け取ったとたん携帯はおとなしくなった。ひとつボタンを押して、里香が跳ね起きた。
西の顔をマジマジと見つめる。すぐに部屋の電話が鳴りだした。とっさにベッドを降りようと
する彼女の腕を掴んだ。

「電話出たいんだけど」

彼女が戸惑っている。無言で腕を掴む手に力を込めた。電話は鳴り続いている。

「西くん離してよ、なんなの」

苛立つ彼女をよそに電話が留守電に切り替わる。振りほどこうと暴れだす彼女を押さえた。

…確かめたい。

『里香、いるなら出て』

この声、間違いない。

「ちょっと西くん!」

彼女の声が鋭く尖る。

『携帯ずっと留守電にならないぞ。これ聞いたら電話してこいよ。今週土曜日なら会えるから。
 それじゃ。』

ツーツーという音と共に彼女はおとなしくなった。

「仲野さん、ですよね…」

観念したかのようにふうっと息を吐く。

「うん…みんなには黙ってて」
「付き合ってるんですか?あの人彼女いるんじゃ…」
「いいじゃない、詮索しないで」

迂闊だった…。酔いが一気に覚めた気がする。手足はまだふらついているが頭は完全に正気に戻った。

「西くんゴメン…帰ってくれないかな…タクシー代いくらだった?」
「里香さん…」

西は今まで見たこともないような険しい顔で里香をみつめている。

「セックスフレンドってやつ。ね?気が済んだ?」
「済まねえよ!」

ドスの効いた声で西は吐き捨てるように言う。

「なんであなたがそんな…」
「…やめられないの」

言ってしまってからひどく生々しい響きをもった言葉だったと気付く。西は里香を見つめ続けている。

「俺あなたが好きです」
「それが、なによ」

一瞬、何が起こったのかわからなかった。突如、ベッドに押し倒されたのだ。

「西く…いやっ!」

男のこういう時の動作はまったく容赦ない。目の前の女を抱きたいという強い欲求が、そのま
ま力の強さになり、性急さになる。西も同様だった。
腕も脚もあっと言う間に押さえ付けられ、身動きが取れなくなる。ましてまだ酔いの廻ってい
るこの状態では勝ち目などなかった。

「どいてよ…」

西の顔を見たくなくて目一杯顔を背けた。首筋が痛いほど。

「やっ…!」

西がその首筋に狙いを定めて吸い付く。暴れたいが体にうまく力が入らない。背筋をビリッと
走るものを感じる。まさかそれはないでしょう!?否定したいが反応している。どうして!?

「やめて!」
「やめるのはあなただ」

西は首筋にきつく吸い付きながら呻く。

「そんな関係あなたらしくない…」

西は唇を離し里香に向き直る。

「俺、あなたに真剣です。寝ましょう。」

西の力強い口調に素直に感動してしまった。こんなストレートに誘われたのは初めてだった。
面食らった里香に、西の唇が近づいてくる。目を閉じきらずに、くちづけを受け入れた。
仲野と違う顔…仲野と違う唇を確かめたかった。

…異常だったかもしれない。

飛び込むように仲野に抱かれて、彼のもたらす刺激的なセックスに溺れた。
西のこの優しいくちづけで夢から現実に連れ戻された気がする。自然に舌を絡ませあっていた。
押さえ付ける腕が弛んできたが、もう抵抗する気は無くなっていた。

西の手が几帳面にシャツのボタンを外す。高価な宝石の入った箱の包装紙を開けていくかのよ
うな手つきに、気持ちが高揚していくのを感じる。里香も西のスーツのジャケットを脱がせ、ネク
タイを抜き取り、シャツのボタンを外していった。
ブラのホックが外され、裸の素肌を確かめるように揉みしだかれる。西の骨張った短い指が柔
らかい肉に沈む。

仲野の指は羨ましいくらい、しなやかで長かった。その違いに、感じだす。
そう、好意はあるが寝たいほどではなかった男だ。その男に熱望されたことと、仲野との違い
に興奮している。
わたしはもともとこういう女だったのか、それとも仲野の手で変えられてしまったのか…。

「んっ…」

考えを巡らせる余裕がだんだん無くなってきた。シャツもブラも取り払われ、西は里香の乳房
を揉みながら、固くなった乳首に舌を這わす。舌の感触も違う。僅かにざらついている気がす
る。これで下を舐められたらきっと…。期待に里香の蜜が滲みだす。
西は初めて見る里香の肢体に相当興奮しているようだ。スカートのホックを探して手が腰の辺
りを彷徨っている。

でもあえて教えてはやらない。もっともっと、自分を欲しがる様が見たい。
望まれれば望まれるほど、仲野から離れていける気がしていた。

ようやく捜し当てたホックを外しスカートを下げる。
ついさっき妄想してしまっていた内股の奥が現実に現われて、西は息を呑んだ。慎重に、ストッ
キングを下ろしていく。
これで里香を覆うものは薄い布切れ一枚だけとなった。西は腰から太股に手を這わす。

「陶器…みたいだ…」

話し掛けるわけでなく独り言のような称賛に里香の自尊心が擽られる。
希少な美しい宝石を見ているように自分を眺められるのは、なんて気持ちいいことなんだろう。
頭から足の先まで隅々に当てられる熱い眼差しに、里香の体が火照りだす。
西はなだらかな丘の窪んだ臍にくちづけると、そろそろとショーツを下ろしにかかる。ほどな
く白い肌の中心に、隠微なコントラストで黒い艶めいた茂みが現われる。生唾を呑む音が聞こえる。
爪先までゆっくりとショーツを抜き取ると、西は意外にも里香の足の指を口に含んだ。

「ちょっ…汚いよ!」

思わず上半身を起こして西を止めようとする。

「綺麗です」

西は里香の足を抱え、指に舌を這わす。

「んんっ…」

足の指を舐められたのは初めてだ。
なぜか乳首や指、性器を口に含まれる時より、口内の粘膜の柔らかさやぬめりを顕著に感じる。
その快感が直接刺激を与えているように、女の部分がわななきだす。
男がフェラチオされている時の感触と、もしかしたら似ているのだろうか?。
また西が奴隷のように奉仕しているような構図も里香の性感を高ぶらせる。

指の一本一本を丁寧にしゃぶられていくうち、無視されている女陰は男を求めてひくつき始め
ていった。
西は足先から徐々に上に向かって舌でなぞっていく。ゆっくりとそこに近づこうとするのは焦
らすつもりではなくて、ただただじっくりと里香を味わいたいからなのだろう。ようやく膝ま
で到達し、太股を割り広げる。
だんだん近づいてくる、その部分に。期待で胸が高鳴る。

「あぁ…っ」

片脚が持ち上げられ、舌が内股からその付け根に一気に滑り込んだ。西はむしゃぶりつく様に
その部分に舌を這わす。酔っているからか普段より敏感になっているそこに、男のざらついた
舌が這いまわる感触が堪らない。

体をしならせて喘ぐ里香に西は興奮して、更に忙しく舌を蠢かせる。
文字通り、食べられてしまいそうな勢いだ。
苦しく喘ぎながら身を捩ると、ベッドに向かい合わせに置いてあるドレッサーの鏡に、自分の
腰から太股の部分だけが写し出されているのに気付いた。片脚を立てた付け根に、西の頭がす
っぽりと埋まり、淫らに動いている。

「…あ…あぁ…っ」

目が離せない。客観的に自分を嬲られている様をリアルタイムで見て、快感が一気に加速していく。
思わず太股を抱え上げてしまった。そんな角度から里香が見ているとは気付かず、西は更に里
香を貪る。
脚に邪魔されて見えなかった西の唇の動きがはっきりわかる。
ピチャピチャと音を立て、自分の股の間が舐めまわされている姿に、里香は今までとは違った
興奮を感じてしまっていた。

少し体を鏡の方にずらし、鏡と反対側の脚だけ降ろしてみる。
そうすると割れ目まで丸見えになった。そこに西の唇と舌が張り付いて、いやらしく動いている。

「くうぅっ!!」

西が小さな帆をを吸い上げて舌で丸くねぶり始めた。ぴったりと吸い付いている唇を鏡で、粘
膜の中で舐められるのを直接の刺激で感じる。里香はもう夢中だった。
後から後から溢れてくる泉の入り口に、西の指が栓をした。

「…ああぁんっ!」

今度は指が里香の桃色の襞を割って押し入れられている。
女を感じさせようとする男の舌や指の動きは、どうしてこんなにもいやらしく見えるんだろう。
唇と舌と指を駆使して奉仕される自分の姿に、すっかり魅せられてしまった。

この部屋で恋人とセックスすることはあったが、大抵部屋を暗くしてしっかりと目を瞑ってい
たから、鏡に写っていることなど考えてみたこともなかった。さっき偶然にも目をやらなけれ
ば、これからも気付かなかっただろう。
セックスする自分を客観的に見るなど、ノーマルにするならまず無いことだ。
いや、普通の女なら気付いても見ないようにするかもしれない。
しかし里香の目は、鏡の中の自分の下半身に吸い寄せられたまま、言うことを聞かない。
仲野にクンニされる自分を直接見るように言われたことはある。だが鏡越しの自分の姿の方が
遙かに扇情的だった。

里香が派手によがる原因など知らず、西は里香への奉仕を続ける。

「に…西く…そのまま…っいきそう…なのお…っ」

無言で西は心得た動きを始める。指を突き立てながら、執拗に敏感な帆を舌で転がす。里香の
興奮が伝染しているのか、西の息も弾み出す。

「はあっ…いいっ…あぁ…いくううぅ…っ!!」

鏡を見つめたまま里香は絶頂を迎えた。自分のものがわなないているのを初めて見た…。

「ゴム持ってないんで…絶対外に出しますから…」

そのまま西は片脚を持ち上げて、里香の中に進入してきた。

「すご…い…グチャグチャになってますよ…里香さんの中…」

西は目を閉じて里香の内部の感触を味わうことに集中している。一方里香の目は、また鏡に吸
い寄せられてしまっていた。
自分の入り口が西のものを飲み込んでいく。さっきは食べられていたが、今度は里香が西のも
のを食べている様に見える。
西のものは仲野より細くて長い。それにカーブもきつい気がする。全てを埋めることが出来ず、
途中で里香の奥にぶつかってしまった。
西がゆっくりと腰を使い出す。

「ああっいい!気持ちいいっ…!」

男の動きが直接もたらす快感と、ぬらぬらと里香の中を往復する肉の棒の動きが、里香を狂わ
せていく。
次第に繋がった部分が白く泡立っていった。

「仲野さんにも…こんな…姿…見せるんですか…?」

激しい呼吸の合間に、西は嫉妬に燃えた目で里香に問う。

「ああ…や…めて…そんなこと…言うの…んんっ…!」
「約束してくださ…もう…しない…って…・!」

西が抽送を荒くしていく。ドンッドンッと突かれる度に訳の分からない言葉がほとばしる。

「…だまって…っ黙ってあたしを感じてえっ…!」

倒れ込み、里香を掻き抱く西のくちびるを滅茶苦茶に吸った。
西の激しい律動に、我を忘れてよがり狂った。
上と下でお互いを貪り合いながら、酸欠になりそうなほど激しい動きに食いついていった。
二人に限界が近づいてくる。

「ああ…俺もう…っ」
「わたしも…!!ああいっちゃうう…っ!!!」

里香の体がビクンと大きく弾み、一瞬おいて意識が混濁していく。
西も里香の痙攣する腹の上に生暖かい性を大量に吐き出した。



しばらく動けずに、仰向けのまま朦朧としていた里香の腹の上に溜まったものを、西が丁寧に
ふき取る。

「すいません俺早くいっちゃって…」

里香に向かってすまなそうに言う西に、おかしさが込み上げてくる。

「シャワー浴びればいいし…こっちおいでよ」

里香はぽんぽんとシーツを叩き、西を隣に呼び寄せる。

「よかったよ…スゴイ感じちゃった」
「うん…マジで里香さんすごかった…俺も…スゴイよかった…」

急に恥ずかしくなって西の胸におでこをくっつけた。寝ころんだまましっかりと抱き締められる。

よかった…確かに良かったんだけど…。

西が枕元に転がったままの携帯を手に取り、里香に渡した。

「電話して下さい。今すぐ土曜日の予定断って下さい。俺の目の前で」

なにか…違う。

ためらいながらも仲野の携帯に電話をかける。

『もしもし?』

3コールめで彼は出た。待っていたのだろうか…。

「あ…里香ですけど…」
『ちょっと待ってて』

声の向こう側がざわついている。どこか外にいるんだろうか?

『いいよ、今帰ってきたのか?』
「ごめんなさい携帯気付かなくて…その…今週の土曜日…」

西が鋭く里香を見つめている。

「…生理きそうなんで…食事だけでもいいですか?」

西が何か言いたげに口を開いた。急いでそれを制す。

『ああ、いいよ。俺も今友達と飲んでるから、また前日にでも決めよう。』

意外な答えだった。今まで会う時は必ずセックスが付いてきた。生理が来そうなのは本当だっ
たが、食事だけ、と言えば断られるかと思っていたのに…。

「はい…それじゃ…」
『じゃあ』

「何で断らないんですか!」

携帯を畳んだ里香に西が憤った声を出す。

「土曜日に会ってちゃんと話すよ。もうやめようって。」

これは嘘になるかもしれない、と心の中で呟く。
今仲野の声を聞いただけで、足りないものをはっきりと感じてしまっていた。

私…囚われたい。
体も心も、潰れるほど鷲掴みにされたい…。

「絶対ですよ。俺たち今日から恋人同士ですからね。」
「うん…」

再び暖かい胸に抱かれながら、自分がもう引き上げて貰えないほど、深い底なし沼に捕まって
しまっていたことに気付く。
助かりたい気持ちはあるのに、どうして…。
里香は自分の中の矛盾に葛藤しながら、西の背に手をまわした。


ばれないかな…。

あの後結局朝まで西と過ごした。シャツとネクタイが昨日と同じでは、同僚達にばれてしまう
から、と彼は始発で帰っていった。里香の首筋に所有の証を残して。
コンシーラーで隠してあるが気になってしまう。せめて土曜日まで、あと3日だけ仲野に気付か
れたくなかった。考える猶予が欲しかった。
しかし間の悪いことに、今朝仲野は売場にいた。すぐに外出するようで慌ただしく準備をして
いたが、一瞬絡まり合った視線を不自然に解いてしまった。そしてそんな里香を見つめる西に
も気付いてしまった。目に見えない糸が三人をピンと繋いだ気がしたのは気のせいだろうか?
仲野は特別言葉を交すことなく売場を去っていった。

− − − − − − −

…もうすぐ6時。閉店まで後二時間だ。

客がまばらになったのを見計らい、里香はバックヤードへ向かった。閉店間際になると店員は
在庫のチェックを一斉に始める。それぞれ自分の持ち場のブースにある商品の数を合わせるの
だが、それとは別にバックヤードの商品も持ち回りでチェックしていた。
その当番が今日は里香である。事務所の金庫から鍵を取出し、そこへ向かう。バックヤードの
総在庫金額は何億にもなることから、そこ自体が巨大な金庫のようになっていた。扉は二重式
で、中の扉は内側からもロックがかかり、入る時は必ず閉めると義務付けられていた。以前強
盗でも押し入ったのだろうか?

中は八畳程の広さで、更にもう一つ高級品用の金庫がある。里香はそこから手を付けることにした。
バックヤードの商品を持ち出す時は伝票が必要となる。まずそのチェックをしようと取り出し
て、ギクッとする。仲野が何点か持ち出していた。ということは返却しにここへ来るということだ。
今ここで二人きりになったらばれてしまうかもしれない。里香は急いでチェックをはじめた。
大急ぎでやったのでいつも軽く3、40分かかる作業が20分程で片づいた。最後のチェック
を終えて扉に向かったその時、目の前の扉にノックの音が響いた。

「返却したいんだけど、仲野です。」

開けないわけには行かない…。里香はロックを外してドアを開けた。

「里香だったのか」
「ピアジェですよね、返しておきます」

とにかくふたりきりになるのは避けたくて、口早に言って手を差し出す。
仲野はその手をグイッと引いて里香を自分の胸に引き寄せ、空いた手で首筋に触れた。

「きゃっ!」

指の腹でそこを拭われ、紅色の痣が浮き出た。

「何か変だと思ったら…こういうことか」

穏やかな口調の一方で、里香の手首を握る手の力が強まり、里香は戦慄する。

「わ…私」
「もしかして西?」
「…な…んで…?」

この男には全てお見通しなのか?

「なんかあいつ、今朝やけに挑戦的に俺をみてたからさ…」
「いたっ…!」

仲野は里香の手首を捻りあげ、内側のロックを素早くかける。すぐさま肩を掴まれ壁に勢い良
く押しつけられた。
仲野の目が冷たく里香を見据える。こんな顔は今まで見たことがなかった。

「も…もう終わりにして下さい…。私西くんと…」

気丈に言いたいのに声が震えてしまう。

「だめだ」

仲野はきっぱりと言い放つ。

「…だめって…そんな…」
「西じゃおまえは満足しない。そうだろ?」

図星を差されて何も言えなくなってしまった。口をつぐんだ里香を目で射抜いたまま仲野は言う。

「でも俺以外のヤツに抱かれたお仕置きは必要だな」

「いやぁっ!やめて!!」

仲野は一瞬で棚にあったガムテープで里香を後ろ手に拘束し、腰の高さほどの金庫に俯せに押
しつけた。腰で折れた足が床に届かずに空を泳ぐ。

「騒ぐな。おとなしくしないと今までのこと全てバラす。おまえがどんな風に俺を誘ってきた
 かも…それからどんな風に俺に答えてきたかも…」
「ひどい…っ」

涙声で里香は呟く。しかしなんてことなんだろう。心底ひどいと思っている行為に、体が疼き
だしている。
この後起こることは容易に想像できる。
いやだ、やめてくれと懇願する里香を押さえつけ、仲野はここで里香を犯すつもりなのだろう。
その想像に、堪らなく、甘いものを感じだす。

やはり私は戻れない、この男から逃れることなど出来ない。
嬲られることを間違いなく体が求めている。
西に抱かれて物足りなさを感じ、電話越しの仲野の声にそれが何か教えられ、今拘束され、押
さえつけられて、もう否定しようのないほど体で感じてしまった。

里香は目を瞑って、仲野の次の行動を大人しく待った。
きっとストッキングとショーツを降ろされ、後ろから貫かれる…。
しかし、仲野は胸元からハンカチを取り出し、里香に目隠しを施した。

「えっ!?わたしもう暴れたりは…」
「言っただろ?お仕置きが必要だって。普通にセックスしてどうするんだよ」

この状況も充分普通ではないのに、仲野はそんなことを言う。
なに?なにをする気なの…?
頭の後ろで固くハンカチが結びつけられ、里香の視界が奪われる。

「こ…怖い…仲野さん許して…」

ガムテープをビリッと破く音が聞こえる。見えないということは、こんな時なんて恐ろしいこ
となんだろう。仲野の真意が全く測れない。

「うううっ!!んんっ!!」

仲野は破いたガムテープを里香の口に貼り付けた。
口まで塞がれてしまった。

「これがこんな風に今役に立つとは思わなかったな…」

アタッシュケースを開く音がする。なにか、ガサガサいう音も。
ようやく里香の下半身が剥き出しにされる。
靴を脱がせ、ストッキングとショーツも脚から抜き去ると、足首も束ねてガムテープを巻き付
けられてしまった。

どうしてこんなに拘束するの?これが彼の言うお仕置きなの…?
突き出された尻の肌の滑らかさを確かめるように、仲野はそこを撫でまわす。

「んんんっ!!」

指が秘裂をすっとなぞっただけで、上半身が大きく跳ねた。いつもより鋭敏になってしまっている。
目と口を封じられることで、意識が全て触られる所に集中していた。

「濡れすぎだろ、触ってやる必要全然ないじゃないか」

仲野はそう言いながら指で里香を嬲る。床に垂直に伸びた脚に、愛液が伝っていくのを感じる。
里香はもう迷うことなく、自分の性に対する欲求を自覚する。
わたしはマゾなのだ。ずっと自分は普通だと思っていたが、仲野によって心の奥深くに、嬲ら
れたいという願望があることを暴かれしまった。
どうしようもないほど感じている。こんなお仕置きなら、むしろ嬉しいくらいだ。
このまま貫かれたら、どれだけいけるだろう…。

指だけで達してしまいそうになった瞬間、仲野の指は里香の体から消えた。

来る…。

期待に恍惚としたその時、何か異質なものが里香の入り口にグッとあてがわれた。

…冷たい!何!?これは…。

「んんんんん―――っ!!」

異物は里香の中に侵入を始めた。男のものとは明らかに違う硬さ、冷たさ。
まさか…これって…!

「わかるか?バイブだよ。使おうかと思って昨日買ったんだよね。うちへ置いてくるつもりが
 忘れて持って来ちゃってさ。」

異物が体を犯していくおぞましい感触に、冷や汗が吹き出していく。
身動きの出来ない状況下、それはしっかり根本まで里香に突き立てられようとしていた。

「んんっ!?」

何かが割れ目の中にも進入してくる。それは正確に里香の肉芽を目指しているようだった。

「こういうのって使ったことある?」

里香は必死でかぶりを振る。

「俺もなかったんだけどさ、すごい色んなのがあって迷ったよ。これは穴に入れるのとクリバ
 イブっていってクリトリスを刺激する突起が付いてるやつ。一番気持ちよさそうなの選んだ
 んだけど、どうかな」
「んんんっ!!」

バイブの先端が里香の奥に突き当たったと同時に、その突起らしいものが里香の割れ目に潜り
込み、肉芽を捕らえた。なにか人外な、無数のイボの様なものに吸い付かれているような感覚
に身震いする。
手足を拘束されたまま、それから逃れようと無駄な努力をする里香をよそに、仲野は埋め込ん
だものをガムテープで固定してしまった。
仲野は根本のスイッチを手に、その姿を見つめる。

「んん――――っ!!」

振動音と共に、里香の中に埋め込まれたバイブがくねり出す。それと同時に肉芽を捕らえるク
リバイブが微妙な震動で刺激を与え始めた。
金庫の上で、里香の体が陸に揚げられた小魚のように跳ねまわる。

「まだ半分も上げてないよ?そんなにいいのか?」

言葉に言い表せない刺激だった。全てが有り得ない動き、刺激。全くの初めての体験に、自分
が壊されてしまうような怖ろしさを感じた。
怖い!怖いの!今すぐ抜いて欲しい!!
しかし里香の願いを無視して、バイブは機械的にくねり続け、震動し続ける。
あまりのことに感情が一気に押し寄せ、爆発してしまいそうだった。

「じゃ、しばらくそうしてな。後でまた来るから。」
「…っ!?んん―――!!んんんん―――――っ!!!」

待って!!このままこんなところで放っておく気なの!?やめて!!!
呼び止めたいのに、縋り付きたいのに、声を出すことも手を伸ばすこともできない。
身を捩りつつ、なんとか金庫から降りようとしてみた。しかし腹に力を入れる度にバイブをよ
り締め付けることになってしまって、腰に力が入らない。それ以上動くことが出来ない。
ほどなく、非情にドアが閉められる音が聞こえた。

…行ってしまった…。
信じられなかった。まさかこんなひどい目に遭うなんて。誰か入ってきたらどうするの!?
わたし…どうしたら…。

止めどなく涙が溢れる。涙を吸ったハンカチがひんやりと湿り出す。
しかし、創られた暗闇の中、誰もいないひとりっぽっちの状況で、里香の意識は否が応でも卑
猥な動きをし続ける、バイブの埋まった股間に集中していく。

「んんっ…」

感じたくなどないが、女を感じさせるためだけに作られた道具には敵いそうもなかった。
全く単調なリズムで、肉壁をこね回され、肉芽に震動が与えられる。
ただそれだけのことが、今の里香には拷問に等しいほど快感を呼んでしまう。

「ん…んんっ…」

特にイボ状の突起に刺激される肉芽の快感が、堪らなくなってきた。イボが薄い包皮の中に入
り込み、挟み込むように無数に震えている。今まで感じたことのない快感が里香を堕としていく。

ふと、実家にいる頃、兄のパソコンで見てしまった官能小説を思い出してしまった。
その小説でヒロインを嬲るのは、人でなく触手。無数の触手がヒロインの衣服を剥ぎ取り、四
肢を絡め取り、身動きできなくなったヒロインに襲いかかる…。
こんなものあるわけないと思いながら、あの時はひどく興奮してしまった。特に、割広げられ
た太股に絡みつきながら、必死で逃れようとするヒロインの砦に触手が侵入していく描写…。
そしてヒロインの肉芽を舐める様に蠢くイボ状の触手たち…。

「…んん…っんっ……」

今の自分はまさにそのヒロインのように思う。
ぐねぐねと胎内を掻き回す感触、微細な振動による刺激、いつしか異空間で得体の知れないも
のに陵辱され、快感を強要されているような錯覚に陥っていった。

しかしその刺激は里香に決定的な瞬間をもたらしてくれそうもなかった。そこへ行き着くには
どうしても足りない。さっきまで強すぎると感じていたその動きは、今すでに物足りなくなっ
ている。
逃げ出すためではなく、貪るために自由が欲しくなっていた。かせられた手枷足枷が憎くてた
まらない。里香の体は昇り詰める寸前までいっているのに、股間を嬲るものは最後の一押しを
せずに同じ動きを単調に繰り返している。
頭の中にはもはやそれしかなく、苛立ちで腰がくねりだす。もう一押しなのに、得られない。
口が封じられていなければ、いかせてと叫びたいくらいだ。

里香が激しい焦燥感に苛まれ始めたその時、シャッターを切る音が数回響いた。

「…っ!?」

誰!?誰かいるの!?音の主は近づいて、里香の目隠しを解く。

「んん…っ」
「出ていったと思った?ずっと見てたよ」

不意に明るくなった視界の中に仲野の顔が浮かぶ。ドアの音をさせ、出ていったと見せ掛けて、
ずっと自分の痴態を観察していたのだと気付く。

「よく撮れてる」

デジカメを里香の目の前にかざし、今撮ったばかりの恥辱にまみれた写真を見せ付ける。

「これ、ばらまかれたくなかったらおとなしくしろよ。ま、この様子だとよがるばっかりだろ
 うけど」

見られていた…!この姿をずっと…!しかも写真にまで…!!強烈な羞恥に頬が一気に熱くなる。
仲野はゆっくりと口を覆っているガムテープを剥がし、唇で塞ぐ。ねっとりとしたくちづけに
里香の下半身が反応する。

「これ、そんなにいい?」
「あぁっ…!」

仲野がガムテープで固定されているそれを、車のギアを扱うように動かす。
里香が爪先立ちになって得たいものに手を伸ばしていることを知っていて、わざとそうする。

「あ…あ…いやぁっ…」
「そう。」

別段執着がないように仲野は手を離す。

「うぅんっ…!」

欲しい、今すぐ欲しい。あとほんの数ミリでそこに届くのに、絶対に届かない。
いつまでたっても踏み切りラインが見えない長い助走をしているようだ。

「あ…おねが…いっ…」
「何が?ちゃんと言えよ…」
「……い…いきたいのっ…いかせてぇっ!!」

振動音が一瞬で大きくなる。

「あああぁぁっ!!」

悲鳴のような声を上げ、体をびくつかせて里香はようやく待ち望んだ瞬間を手に入れた。

しかしバイブは動きを弱めも止めもしない。一度高みに押し上げたら二度と降りることは許さ
ないとでも言いたげに里香を責め続ける。

「ああっ!またいっちゃうっ!いやあっああぁぁぁっ!!」

電気ショックを受けているように、里香の体が何度も大きく弾む。
仲野は目盛りを最強に合わせた。再びいったばかりの体をより強烈な快感が襲う。重力など嘲
笑うかのように、落ちようとする体を上へ上へ突き上げられている。

「いやっもう許して!!いやああぁ!!」

里香は髪を振り乱し半狂乱になりながら跳ね回る。股間に突き刺さったものは踊り狂い、肉芽
を捕らえるものは激しい振動を加え続ける。

「ああ―――っ!!」

狂ってしまいそうな快感の中で、何度もシャッターを切る音だけが妙にはっきり聞こえた。
甘い喘ぎ声などではなく、鋭い悲鳴を上げながら、降りることの出来ない階段を凄い勢いで
無理矢理昇らされ続けていく。

「やめてえっ!!ああいやっ!いやあっ!!あああ―――――っ!!!」

幾度果てても終わることのない狂宴に、里香の意識は弾けて暗転していった。

「あっ目が覚めたみたい!里香大丈夫!?」

見たことのない天井が見える。ここは…。

「わた…し」
「急に起き上がっちゃダメだよ!頭打ったんだから」

麻美が心配そうな顔で覗き込んでいる。

「思ったより早く気が付いたね。よかったよ」

仲野さん…?。―――――っ!

自分が何をされていたか一瞬で思い出す。太股の間が痺れていることに気付く。

私…あのまま失神して…っ!

「もう閉店まであと少しだし、休んでるといいよ」

彼はそういって部屋から出ていった。
部屋…見渡すとそこは事務所の長椅子だった。とっさに制服を確かめる。

よかった…ちゃんと着ている…。

「もーびっくりしたよー。バックヤードからいきなり仲野さんが里香抱えて出てくるんだもん。
 倒れて頭打ったんだって。覚えてる?」
「それ…いつのこと…?」
「ついさっき。ね、もう痛くない?体調悪かったんならもっと早く言ってよう」

事務所を出て売場に西の姿を探す。たまたまいなかったようだ。胸を撫で下ろす。仲野と二人
きりでバックヤードにいて、その上倒れて運び出されたなんて聞いたら、彼はなんて思うだろ
うか。
私は彼を裏切った。無理矢理とはいえ、体がそれを望み、悦んでしまった。これが彼に対する
裏切りでなくてなんだろう?
このことを西が知ってしまったら一体どうなるのか…。仲野は西だけにはばらしてしまいそ
うな気がする。それにあの写真…。

怖い……。

売場の課長が心配して、持ち場へ戻ろうとした里香を休憩室に押し込んだ。
自販機で紅茶を買って腰を下ろす。あの応接室の時と同じだ。いつもと変わらない風景を見る
と、現実にあったことかどうか、わからなくなる。

紅茶を飲もうとした瞬間、ポケットの中で携帯が振動して必要以上にびくついてしまった。仲
野からだった。

『お仕置きはまだ終わってないよ』

夢かと思い始めていたことをこの声が現実だと突き付ける。穏やかな響きの中に有無を言わさ
ない凄みが、その声には巧妙に隠されている。

「もう…許して下さい…」

か細い声で乞うても、仲野の気持ちは揺さぶれない。いや、むしろ彼のサディスティックな本
能を悪戯に刺激してしまうだけだろう。

『許さないよ…まだ、ね。いいか?よく聞けよ。これから言うことをすぐ実行するんだ…』

「……えっそんなことは…っ!…い…いやです!」

携帯を持つ手が、小刻みに震え出す。

「…う………はい…はい……わかりました…」

写真を盾に取られて要求されたことは、信じがたい残酷な仕打ちだった。
呆然と手の中にある携帯をみつめる。今さらながら、仲野が恐ろしくなってくる…。

でも…足を踏み入れたのは…なくしたくないと思ったのは…私…。
選んで飛び込んだ穏やかだと思っていた海で、何者かに両足をつかまれ、深く暗い海峡に引き
ずり込まれようとしているかのような恐怖。藻掻いても、藻掻いても、伸ばした指先は水面か
ら遠ざかっていく。

里香はその恐ろしさに怯え、そして微笑する。






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