voices
シチュエーション


声を求めてた。あたしの名前を呼んでくれる声。

何時の間にか、あたしの声がそれをかき消していた。


緊張しっぱなしのあたしを気遣って、子供をあやすような声色でずっと囁いてくれていた。
その優しい声のトーンに、だんだん眠くなるような、そんな安らぎを感じ始めて。

それまで話しかけられてもうつむいたり、はにかんだり、「…ん……」としか返事が出来なかったあたしが、
ブラの上から触れられた時、かすかに「ぁっ」と声を上げた。
それにあなたは気付いてくれたの?
壊れ物にでも触れるような手つきに、だんだん力が込められて来た。
あたしの反応を伺うだけではなく、あなた自身の意思が込められた愛撫。

だんだん溺れてゆく。
こんな耳許で囁いてくれてるのに、声がよく聞こえない。
何を言われてるのかよくわからないけれど…
『囁かれている』という行為に、感じてしまっている。

あたしの声がどんどん高くなって、あなたの声をかき消した。
自分でも聞いた事のないようなあたしの声に翻弄される。
アダルトビデオのわざとらしい声に、よく似てた。
演技なんかじゃない、自分でも止められずに口から零れる声。

あたしの意思を伝えようとしても、あたしの喘ぎ声は止まらなかった。
ふっと切れた叫びの間に、

「や…っ、め、…もぉっ……」

と言ってもみても、
それはあなたの快感と愛撫の手を更に煽っただけなのかもしれない。

舌足らずなあたしの声と、あなたのすべてにいちいち反応して跳ねるあたしの体。
あなたの腕の中で、人形のように踊らされている。

あたしの名前を呼んでくれてるのに。
「可愛いね」と囁いてくれてるのに。
それをもっと聞きたいのに、あたしの声が邪魔をする。

あたしの「やめて」はどうしてあなたの耳には「もっとして」に聞こえるの?
何度イってもどうして許してくれないの?
自分がこれだけ感じられるなんて、あたしは初めて知った。

あなたとほとんど一緒のタイミングでイった時。
一番大きな声で悶えた後、あたしはベッドの中に倒れこんだ。
身動き出来ず、あなたのぬくもりと穏やかな声を何処か遠くに感じていた。
あなたの囁きに答える事すら出来ず、「…ぁ……」と発したあたしの声は、
自分でも感じてしまうくらいうっとりと満足した甘い声。

あなたの耳に届けばいいと、強く願った。






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