シチュエーション


サーーー・・・・

音につられて外を見ると雨が降り始めたようだ。
のっそりと立ち上がり、窓を閉める。
雨音は止み、部屋には再び静寂が訪れる。
ゆっくりと振り返り、窓にもたれかかって部屋の中を見回してみる。

この部屋には無機物だらけ。
壁も、机も、コンポも、何一つとして自ら動き、音を発しようとはしない。

足を立たせていた力に限界が訪れ、私は窓にもたれかかったまま床に座り込む。

写真立ても
お揃いのグラスも
お気に入りのライターも
何も動かない。何も音を発しない。

寒い。
生き物のいない部屋は寒すぎる。

私は目を閉じてキャミソールの肩を抱きかかえる。
あの人の声を思い出しながら自分の名前をつぶやいてみる。
あの人の指を思い出しながら自分の顔を撫でてみる。

あの人の唇を、あの人の腕を、あの人の胸を

一つ一つ思い出しながら自分の身体をなぞる。

あの人は私の鎖骨を綺麗だといってくれた。
あの人は私の乳房を綺麗だといってくれた。
あの人は私の秘密の場所を綺麗だといってくれた。

あの人はまず内腿にキスをする。
そのまま舌を這わせて中心へ下りてくる。
軽く蕾へキスをすると左右の唇へ舌を這わす。

私は自分の指に蜜をつけ、あの人の舌の動きを思い出す。

あの人は私を追い詰める時、外気に晒された紅い蕾を執拗に舐めまわし、吸い上げた。

身体が震え、私はあの人が連れて行ってくれた世界へ独りで辿り着く事が出来た。

この記憶があるうちは、私は大丈夫。
この記憶があるうちは、私はいつでもあの人と一緒にいる事が出来る。
あの人を、独り占めできる。

雨は無音で降り続ける。

この部屋には無機物だらけ。
ペアリングも
セミダブルのベッドも

その上にある泥棒猫とあの人の死体も

何も動かない。何も音を発しない。






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