シチュエーション
![]() 8月。 眩しい日差し。はしゃぐ声。 この時期になると思い出す。 自ら手放してしまった、彼女のことを。 「ただいま。」 「あ、おかえりなさい!」 当たり前のように繰り返されてきた台詞。 俺が当然のように彼女の家へ帰ってくるようになって2年が経っていた。 それが長いのか短いのかは分からない。 あのとき、なんとなく離れがたかった俺に、 「もし良ければ、一緒に住んでください。私にちゃんと好きな人ができるまで。」 と彼女が言った一言がきっかけだったっけ。 俺にとって不都合はないし、むしろオイシイ話だと思ってすんなりと受け入れた。 ただし、 「分かった。でも、あくまでも君に好きな人が出来るまで、であって、それが俺になっちゃ だめだからね。」 と、ずるい念をおしたうえであった。 この部屋と彼女はとても居心地がよく、俺には辛い現実を見せつけない、まるで楽園の ような場所だった。カラダの相性もとても良かった。 だからといって、彼女のことを好きなわけでもなかった。 それでなくても出不精な俺はなかなか彼女とデートもしなかったし、自分の好き放題 やっていた。 帰ってきて早々、部屋に入るやいなや、彼女の前に立ちはだかった。 「どうしたの?岩瀬さん、ぁ…っ……。」 軽くキスをしてやる。 それだけで熱に浮かされたように、ぼうっとした目つきで俺を見る。 「しゃぶれよ」 それだけ言って着ている物を全部脱ぐ。 彼女は、何かに魅入られたかのように、素直に俺の欲望の塊に口づける。 竿に舌を這わし、くびれに唇を引っかけ、軽く扱く。 そうかと思えばタマを軽く口の中へ銜え込み、やわやわと舌で転がす。 今度は鈴口へ舌を這わせ、先走りを舐めあげたかと思うと、そのまま小さな口の中へと 全てを飲み込み、ジュッ、ジュルッといやらしい音を派手に立てストロークする。 「また、上手く…なった、な。」 頭にそっと手を乗せ、しなやかな髪をまさぐってやると、ぎこちなく上目遣いになり、 恥ずかしそうに微笑んだ。 そんな彼女の耳をやわやわとさすってやると、 「ん、んんっ……。」 と色っぽい声を上げる。 「お前まさか、俺の銜えてるだけで、濡れたりはしてないよなぁ?」 そう言いながら、口を放して彼女のスカートの中へ手を突っ込む。 「そんなことっっ!……んんぁ〜っ!!」 予想通り、下着としての役割を果たしていないパンティの上から小さな突起を指で擦る。 「おーお、本当に淫乱。」 言えば言うほど、彼女は辛そうな表情になる。しかしあそこはそんな表情とは裏腹にますます 敏感になっているはずだ。 ぐちゅ、っ……と、こらえきれなくなってあふれかえる蜜の音。 ますます困り果てる彼女。 「いつの間に、こんな淫乱になった?俺が居ない間、誰かとヤッてたんじゃないか?」 自分の彼女とは認めないくせに、ものすごい独占欲が沸く。男なんてみんなこうなのかな。 「ん、っ……、そ、んなわけっ、な、い……!クゥッ!!」 パンティのサイドから指を突っ込み、とりあえず指でイカせる。 本当にイキやすいな、こいつ。 「えー?本当か?こんなに淫乱なくせに、俺だけで気が済むの?」 どうしてか分からないけど、彼女を責めていると、更に更に虐めたくなってくる。 浮気なんてするがらじゃないのはよく分かってるのに。 「本当っ、だも、ん……!わた、し…、岩瀬さんが、っ……、ああっ!!」 彼女が俺に惚れているのは分かっていた。 そこにつけ込んでいるのもまた事実。 俺の態度は、彼女からすればものすごく思わせぶりだろう。 パンティを引き抜いて、手早くゴムを付けて愛撫も無しにいきりたった欲望を彼女に突っ込む。 後ろから、尻を持ち上げた体勢が、彼女をますます汚しているようで堪らない。 「俺のことは、好きにならない、約束、でしょ?」 烈しく打ち付けながら彼女に言う。 とてつもなく、彼女からすれば冷酷な言葉だろう。 しかし、俺が教え込んだ彼女のカラダは、そんな冷酷な言葉でさえも快楽の引き金にしてしまう。 「ああっ、ぅんっ……、でも、でもぉっ…………はぁっ!」 烈しい律動に加え、後ろの小さなすぼまりへと手を伸ばす。 彼女の蜜でヌルヌルになっているから、そこへは容易に指を滑り込ませることが出来る。 人差し指を一本。 打ち付ける、グジュッ、ジュッという水音の他に、クニュッという音が加わった。 「くはっ……、いや、だめぇ……。」 そういいながら、彼女の肉壁は俺のモノを更に力強く締め上げる。 襞が蠢く。俺のモノを締め付け、さすり、襞の一枚一枚で舐めあげる。 「なにがダメなんだよ。どこのどいつにこんなに仕込まれてんの?こんなヤラしい女、見たことねぇ。」 そういいながら、彼女の左腕を後ろ手に引っ張り上げる。 上体が弓なりにそれて、たわわに実った乳房が震えていた。 言葉だけでは物足りず、手を放して彼女をうつぶせに押しつける。 烈しく律動したまま、彼女の肩に、首に、背中に力一杯噛み付く。 「あああ──────────っっっっ!!」 さっきまでとは比べ物にならない、引きちぎられるような圧力を感じる。 「先にイッてんじゃねぇよ!────イクぞ。」 一番奥深いところへ突っ込んだまま、ゴムの中で、俺は果てた。 「どうしても、岩瀬さんに見せたいところがあるの。だから、ご飯食べたらでかけよう、ね?」 いつもなら無理なのを分かっていて口に出さない彼女が、珍しくこう言った。 「うん?まぁ、いいか。そのかわり、お前が運転しろよ。」 一発抜いて気分も良かったのか、俺はそう返事していた。 「ほんと!?じゃあ、はやくご飯にしようね!」 彼女の顔がぱぁっと晴れ上がり、腰が抜けそうにふにゃふにゃしていたカラダに活を入れていた。 久々の夜のドライブで、彼女は上機嫌だった。 俺はと言うと、暑さから少し不機嫌になり始めていたが、たまにはいいかと窓の外を眺めた。 「つーいたっ!」 そこは、海だった。 夜の海。 「ここに、何があるんだよ?」 「ほら、もっとこっち来て。あれ、見える?」 砂浜に打ち付ける波が、キラキラと蛍のように輝いていた。 夜光虫だ。 この時期、この辺の海では珍しくない。 波が動くと反応して光り、波とともに砕け散る。 そして、新たな波とともにまた光り輝く。 「なんだ、夜光虫じゃん。これだけ見せたかったの?」 つまらなさそうに答えると、彼女は 「知ってたの……?なんだ。そっか。」 せっかくの宝物を汚されたように、がっかりしていた。 「まぁ、せっかく来たんだから、少し散歩して帰ろうぜ。」 さすがに泣かれちゃまずい、と思って、手を引いて静かに砂浜を歩いた。 このときの彼女の表情は、暗くて見ることが出来なかったけれど、瞳が潤んで輝いているのが 分かった。 これが最初で最後の、彼女との手を繋いだときだった。 あれから半年の時が流れた。 俺は卑怯なことに、彼女の友達から別の女を紹介してもらっていた。 彼女からすれば、これを明らかにした時点で、俺も友達も一気に失うことになる。 そのときは、俺からすればそれでもなんらかまわなかった。 紹介してもらった女は彼女とは正反対のタイプで、むしろ俺好みだった。 相手も俺を気に入ったらしく、俺は相手の家へ入り浸るようになった。 彼女からかかってくる電話も、無視するようになった。 普段は適当にあしらい、気が向いたらこっちから電話して、ヤリにいっていた。 まさに「都合のいい女」だった。 適当な頃合いを見計らって、別の女が居ること、もう彼女とは会わないことを彼女に伝えた。 「知ってたよ。分かりやすいんだもん。わざとかも知れないけど。」 彼女は怒るわけでもなく、涙を浮かべながら静かに言った。 「その人は、岩瀬さんが本当に大好きな人ですか?」 「そんなの、よくわかんねぇよ。」 「幸せになって、くださいね。私みたいな想い、彼女にさせないでくださいね。」 そういって、彼女は俺から離れた。 つくづく、人ってのはばかだなぁ、と思う。 あのとき、オモチャのように扱って、壊した彼女。 俺から離れるようにし向けた彼女。 今になって、その存在の大切さと、想いの強さに魅入られた。 彼女に今でも好かれていたい、また、俺を迎え入れて欲しい、と心から願った。 でもそんなご都合主義が通じるわけはなく。 彼女には新しい彼が居て。 俺の電話のもったいぶった言葉にも揺さぶられなかった。 「ごめんね。」 その一言で、全てが分かった。 あまりにも自分が情けなくなる。 いつか、この想いは、夏の暑さに融けて、消えゆくだろうか。 夜光虫のように、砕け散ってくれるだろうか…………。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |