シチュエーション
![]() あたしのご主人さまは、朝に弱い。 毎朝ベッドまで起こしに行くのはあたしの役目。 そりゃ、毎晩飽きもせずあたし相手に3ラウンドもしてたら起きられないのも無理はないけども。 この場合、あたしの方が回復がはやいのは運動量の差なのか、若さの差なのか。 「そろそろ起きて?今日は新企画のプレゼンなんだって言ってたじゃない…」 ベッド脇に膝を付いて声を上げてみても、毎度のこと、んふーとかぐう、とか意味を成さない唸りしかかえってこない。 仕方ないなあ、もう。 最近思いついた遊びをやってみようと思い立ち、立ち上がった。 キッチンの棚からはちみつのポットを取り出して、スプーンでひとすくい。飲みこまないようにしながら舌をつかって口内に広げる。 ぽってりとした厚みが気に入られているくちびるにもそれを塗って。 自分でその甘さに耐えきれなくて最後に放り込んだ氷は、先制攻撃にも使ってしまおう。 なにも言わずに(正確には、言えずに)ベッドの脇に膝をついた。 しあわせそうに蕩けた寝顔はもったいないけど、どうせならあたしだって蕩けさせてほしいし。だいいち遅刻するし。 ちゅうっと音を立ててくちびるを吸い、空気を求めて開かれた隙間にまずは氷を入れてしまう。 突然の冷たい刺激に、半分だけ目が覚めたらしいご主人さま。 とろんと開きかけのまぶたのまま。けれども、すぐにはちみつの甘さに気が付いてあたしの口内をむさぼってくれる。 わずかな甘味も逃すまいと舌を挿し入れられて、歯列から口内の粘膜のすべてを犯される。 「・・・・・・ん・・・・・・ふうッ・・・・・・」 氷の洗礼を受けたご主人様は、舌も、流し込んでくる唾液もひやっとしていて、得体の知れない何かがうごめくように思えてぞくぞくした。 ほてった口内をつめたい舌が這い回る。 そのつめたさが欲しくなって、無我夢中でご主人さまの舌を追い、絡め合わせる。 いやらしく音を立てて絡み合った舌に、何やらつめたくかたい感触が当たったと思うと、さっきの氷が今度はこちらに入れられた。まだすこしはちみつの風味が残る唾液とともに、氷はあたしの口とご主人様の口を行ったり来たり。 同時に、ご主人様の手があたしの、Tシャツ一枚しか隔てられていない胸を責め立てだす。 「はッ・・・・・・あ・・・・・・んんッ・・・・・・」 布越しの刺激に、甘く切ない快感が全身を駆け抜ける。 こりこりと、まるで小さなビー玉でも転がすように弄ばれている。 あたしが一番弱い所を的確に責めつつも、何食わぬ顔でいるご主人さまはきらい。 「溶けてきたね、氷・・・・」 もう今にも消えそうなサイズになったそれを、最後にあたしが含んだ。 案の定、くちびるではさんだ途端にすうっと静かに消え去っていく。 そうして、もう頼りない冷たさしか残っていない水と、はちみつ風味の唾液が混ざった液体が口の中に残された。それらを飲み込む余裕すら与えられずに責めたてられ、だらしなく開いた口元からつうっと線を描いて液体がこぼれおちる。 「ん。・・・・悪いコがいるね」 すかさず舌で舐めとってくれるご主人さまは、大好き。 お互い、最終目的地は完全にカモンベイベェな状態なんだけども、朝は絶対手を出さないのがルール。 何故ってやっぱり遅刻するから。 「汗くさいよ、ご主人さま・・・・」 「んんッ、そりゃ大変だ・・・・あ、今何分?」 「えぇと・・・・7時20分。ぴったりいつも通り」 この辺の時間配分はすっかり手馴れたモノ。 だって、ご主人さまのことなら隅から隅まで把握してるのよあたし。 シャワー浴びてあたしが作った和食の朝ご飯をしっかり食べてスーツをキメて、八時きっかりに 「イイコで待っておいで」 ちゅうっと強めのいってらっしゃいのキス。 その続きをしてはもらえないとわかりきってはいても、とどめのちゅうで堪えていた腰ががくがくと力を失った。 バタン、とドアの閉まる音を聞いてから玄関にぺたりと座りこむ。 フローリングの冷たさが心地よい。 ああご主人さま。 こんなところであそこに手を這わせてるあたしは・・・・いつも結局「イイコ」ではいられないのです。 あたしとご主人様との出会いはとても簡単。 父親の再婚相手に父親を盗られて、嫌々突っ込まれた施設での、運命。 施設の視察に来たご主人様(ご主人様は、カオだけじゃなくて社会的地位も桁違いなのだ)があたしを拾ってくれた。 最初は憐れみからのお手伝い代わりに。 そして今は、恋人以上娘以上の誰よりも近しい関係に。 あれを運命とせずに、何をそう呼ぶっていうの。 「・・・・・・・・あ・・・・・・・・は・・・・・・・ッ」 歳の差は15歳。なまじの地位の高さでないご主人様の周囲は随分世間体を気にしたらしいけど、それでもご主人様はあたしを離さなかった。 「ね、もう・・・・・だめ、溶けちゃ・・・・・・・ぅ、」 「そーか、じゃあちょっと待ってあげよう」 軽いキスをひとつ落として、微笑みを絶やさないご主人様の口の端がさらに上がる。 同時に、刺激が来た。 「・・・・っふぇ・・・・」 断続的に与えられていた刺激が、くちゅ、という卑猥な音を最後に止まるという刺激。 代わって、その音源を責めつづけていた指を見せつけられる、この上ない羞恥。 何度やられても慣れられない意地悪に、今夜もご主人様はとても満足そうだ。 てらてらとしろくひかる中指で、わななくあたしの下くちびるに線を描いて、この上なく楽しそうに自身の口元にも持っていく。今にも燃えそうなほどカオを熱くしているのが自分でもわかるのに、ご主人様のたくましい中指と薄いくちびるから目が離せない。 ・・・・・・違う。 カオが熱いのは、恥ずかしいからじゃなくて。 「ご主人様、ごめんなさい、はやく・・・・・・・・・・・・・・・溶かして」 潤んだ瞳も、上目使いも、つくろうと思ってつくってる表情なんてひとつもないくらい、あたしは根本からご主人様に溶かされてる。 「たくみさんが、欲しいの・・・・」 イイコだねって言われてるのが、にじみでるようなその笑顔がだいすき。 ベッドの上にあぐらをかいた姿から、「ここへおいで」って招かれる。 「自分で、挿れてごらん?」 「・・・・ぇ・・・・」 「欲しいんでしょ?」 ああ、ご主人様の笑顔はひとをシアワセにするばかりでもないのだった。 観念して首元に顔を埋める。 右手でご主人様の後頭部の髪をくしゃっと軽く掴んで(ご主人様に薄髪なんて無縁の話)、背を猫みたいにしならせて、内腿から回した左手でおずおずとご主人様自身を迎えにいく。 体中のどこよりもなめらかな皮膚を持つソレが、今日もあたしだけを想って先端から雫を垂らしているのを指先で知る。 とろりとしたその雫をすこしとってきて、ご主人様の目の前でみだらなショーのように指を口に含む。 かあっと頬に朱をはしらせるご主人様も、大概これには慣れられない。 これでおあいこねって、あたしも微笑んでやるのだ。 「好きだね、比奈は・・・・ソレが」 「だって、あたしはこっちの方が美味しいんだもん」 ほんのり赤らめた頬で拗ねたようにいうご主人さまが最高に可愛くて。 けど。 「そう?俺は比奈がダメ、イヤ、もっと、て言いながらココから際限なく垂らすとろとろのほうが美味しいんだけど。量も多いし、味も濃いし、何よりBGMが。なんたって比奈の喘―――」 「っじわる…っ!」 結局今日も勝てなくて、最後にはあたしの方がご主人様よりもはるかに赤いカオしてることになる。 言葉だけじゃなくて、溶けかけたあたしの秘所をちゅくちゅくと音を立てて器用にまさぐってくる指も手伝って、そろそろ、 「イイ感じに締まってきたね・・・・はやく挿れないと、おじさん萎えちゃうよ?」 うそつき、自称絶倫のくせに。と拗ねて膨らませたままの赤い頬は、濡れたくちびるに吸われてあっけなく空気が抜ける。 「ほら、手はこっち」 右手を再びご主人様自身に導かれる。 萎えるなんて言葉、ご主人様の辞書にはないんだから。 硬そうでいてなめらかな皮膚を、触れるか触れないかのすれすれで一回下から上へとなぞるとちょっとだけ逆襲が出来る。 でもそれ以上は、変わらずあたしの蜜をかきまわすたくましい指に耐えきれないからやめておく。 「挿れてご覧」 とどめの言葉とわずかなご主人様からの後押しで、するっとソレはあたしの入口へ。 入口に当たっただけで思わず目をぎゅっと瞑るほどの快感に襲われる。 「まーだまだ・・・・」 歌うようにあたしを翻弄するご主人様。 ゆるやかに腰をくねらせて、くたくたに溶けたあたしのナカへ挿れていく。 パズルのピースがぴったりはまっていくようなこの快感は、知らずに涙さえ流させるのだ。 あたしを熟知したご主人様が涙をそっと舐めとろうとしたのをキスに変えさせて、そのまますこし伸びあがって自分の少ない胸ごとご主人様の頭を抱きしめた。 動けないでしょ、なんてことはもう言わない。このまましばらく、あたしの涙が止まるのを待っててくれるのがいつものことだから。 泣き止んだ合図のように、今度はあたしから腰をくねらせる。 さっきにも増した肉体の快感に、ご主人様がつながったままゆっくりとあたしをベッドに横たえた。 ベッドサイドのランプに照らされたご主人様の顔が、上からあたしを見つめてる。 心底愛しそうに。 そう思うのは、あたしの自惚れじゃないよね? 「比奈しか、欲しくない」 舐めとられていく半乾きの涙の痕を追いかけるようにまた、涙が滲んだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |