キルケーの豚
シチュエーション


「こういうことをしてもいいか?」
「えっ」

彼がわたしの躰をうつ伏せにして左手を掴むと背中へと押し上げた。

「いっ、痛い!」

わたしは興奮してお尻を揺すっていた。

「やめてとは言わないのか?好きなのか?」
「やめてったら……!」

私の切羽詰まった声がシーツを濡らす。知っているくせに、そんな恥ずかしい
ことを聞かないでよ!ほら、お望みどおりに言ってあげたわよ。

「おまえ、こういう方が好きなんだろ、やっぱり」

乱暴にされると、恥ずかしい処から蜜があふれてくるのがどうしようもない。
彼のいたずらな指が双臀のあわいから覗く柔肉を沈めに掛かる。ひくつくアヌスに親指を
押されながら引っ掛けられ、ぬぷっと揃えられた二本の指がわたしを掻き回す。

「ううっ……」

一途に彼を愛している私と、玩具としか扱わない彼とのくだらない物語。

「ほら、尻をあげろってば!」
「は、はい」
「はやくしろよ!」

「し、しますから、怒らないで……」

私はのろのろと彼に言われた通りのことをする。彼は苛立って私のお尻を数回叩いた。

「あ、あうっ」

すぐに臀部を叩いていた彼の手は背中に載っている左腕へと戻っていった。
おねがいだから、もっと叩いて。ひりつくぐらいに叩いてよ。その代わりに尖りだした
核(さね)に小指が伸びてきて嬲ってくれた。

小指でたどたどしく核をいじられ、人差し指と中指で膣内を乱暴に掻き回される。
背中に掲げられた左腕を掴まれてベッドに押し付けられて、シーツに貌の片側を
埋めてわたしは喘いだ。親指が窄まりに潜り込んで下へと押し拡げている。

「おい、なにしてるんだよ」
「はっ、はあっ……。な、なに……?」

私は反応鈍く、貌を捻って彼を見た。

「右手を使えよ」
「……してよ。あなたの手でもっと苛めて」

私はベッドに片肘をついてシーツから乳房をあげる。すぐに彼は応えてくれた。
乳暈に載る硬くなった乳首に激痛が走る。彼はそれから私を更に烈しく責め立てられた。


子供から見れば両親はおかあさんとおとうさんであっても、ふたりの間にすれば
ただの男と女。生々しい……。私はどう見られているのだろうか。

「おとうさんとおかあさん、離婚するけれどいい……かな?」

母の声は震えていて、いつもと様子が違っていた。いつも喧嘩をしていた母と父。
大声でがなるのは決まって父の方。ある日、いつも泣くだけのはずだった母がついに
金切り声を張り上げて父を罵倒する。

「わたし、おかあさんが好き……」
「うん」
「やさしいから。だから、おかあさん、離婚なんかしないで」

母の貌が歪んでいる。

「どうしてイヤなの……?」

そんなこと、わたしに聞かないで。

「おとうさんがかわいそう」

私は本当のところどうでもよかった。いっそ、ひとりになってしまいたいとも
思っていた。けれども、子供にそんなことができる筈もない。

ひとり遠くにゆきたいと思って、てくてく歩いても、淋しいだけと判って帰っていった。
思えば、これがわたしのエム。そういえば、SとMの関係に埒が無いということを
何かの本で読んだことがある。

それほどディープにのめり込んでいるわけではないけれど、先なんか本当に
無いのかも知れない。待っているとすれば破壊。いく着く先は虚無。無なんて
ほんとにあるのかしら?たぶん、どちらかが居なくなるだけ。

セックスの時、彼が私のことを豚と呼んだのが始まりだった。

「豚みたいによがれよ!ほら!」
「豚……?」

私は凍りついていたけれど、逃げられない恐怖が甘美なまでに懐かしい。

「あっ、あぁああっ、あっ、あ、あうぅうっ!」

彼のペニスはエレクトして、私を磔にするように押さえつけ組み敷いて躰を
押し拡げる。ただ、好きなだけ。彼とのセックスが私だけのセックス。両手を
水平に押さえられ衝きあげられ貌に唾を吐かれてよがって淫れた。だから豚なの。
ぱっくりとひらいて物欲しそうにペニスを焦がれながら、あそこから涎を垂らしている
浅ましい牝豚。

こんなカタチでも彼だけのセックスでありたいとも願っていた。愛していたといっても、
最初の頃は泣きたい気分にもなる。でも、躰は反応して最後にいつも啜り泣き。
いつしか、あたりまえのように悦びに変っている。

つまらない日々にふらっと戻ってきた彼に呼び起こされた鮮やかな夜。
場末のホテルで毎夜彼に抱かれる。いなかった時間を取り戻すかのようにして
隙間を埋めた。ドラマチックな恋がしてみたいじゃないの。どれだけその人を
愛せたかなんて思えるのなら、それだけでこれからを生きていけるのかも。

彼は帰ってきたその日に電話をよこして、次の日に私は自分の家のリビングで
抱かれた。お茶を飲んでいるときに、おもむろにソファから立ち上がると彼は
テーブルに座れと命令した。彼に言われるままに従うと、背中を獲って両手で
火照る貌を挟み愛撫して喉に手を廻す。私は後ろ手を付いて彼の貌を見上げる。

「すこし、絞めてやるよ」

私の瞳は彼にどんな風に映っているのだろう。マッサージするように手が
当てられて、すっと離される。頸にじんわりと温かさが生まれた頃を見計らって、
また降りてきて梵の窪と喉を強く押され締められた。苦しい……。

「んぁっ……」

力は緩められた。

「口を大きく開けろよ」

私は言われたまま大きく口を開けた。彼はジッパーを下ろしてペニスを取り
出すと命令をぶっきらぼうに言い放った。

「咥えろ」

漲るペニスの先端で紅潮した貌を小突かれ、易々とは欲しいものをくれない。
怯えていた瞳は潤み始める。ペニスで貌を叩かれているだけで、なかなか手に
入れられない逸物。少しでもふれようと舌を差し出して追い求めると一気に口腔深く
挿入された。

「ぐふっ、ぐうっ!」

ペニスと逆しまになった貌で私は真っ赤になって、眩暈がしてぐらぐらしている。

「おい、咬むなよ」

口からは唾液があふれて来た。

「んんっ、ぐっ……!」

「喉を締めろ」

そんなことできない。唇だけなら何とか窄めることができるけれど、余裕がない。
舌をなんとか抽送のリズムに合わせて、肉茎に追い縋ろうとしても、それすら
ままならなかった。とりあえず、亀頭で抉られたときに唾液を呑み込む酔う要領で
穴を締めてみる。はやく、射精してよ。

しかし、私はハッとした。彼はこのまま、ゆばりを飲ませようとしているのでは
ないだろうか。だが、抗ってペニスを吐き出せる状態などではなかった。もし口腔に
液体を放出されたなら、飲み込むしか方法はないだろう。けれども、こんな態勢で
ぜんぶ飲み干すことなんかできるのだろうか。もしこぼしでもしたら、リビングに付いた
臭いはちょっとでは消えない。

私は目を見開いて慌てた。彼はそれを見透かしたように待っていて、引かれていた
ペニスに絡みついた舌を振り払ってぐぐっと喉奥へ突き入る。

「俺の腕をしっかり掴んでいろ!」

彼は怒鳴って、貌をがしっと掴んで腰を落とし始めた。よかった、彼はわたしの口腔で
気を遣るんだ。彼の腕をしっかりと掴むと上体は宙に浮き、ゆっくりと下ろされて
いった。そしてテーブルに背を付けたが、貌はテーブルからはみ出して仰け反っていて
そのまま突かれ抽送がはじまった。

「スカートを捲くれよ」

わたしは既に、投げ出していた脚をテーブルに載せていて膝を立て、もの欲しそうに
揺らしては拡げたりしていた。スカートを手繰り寄せると言われてもいないのに汚れた
ショーツを摺り下ろした。彼はたぶん口を大きく拡げて、私の爛れた性器にむしゃぶりついていた。

だって、たべられているって感じていたから。指頭が深く皮膚に潜り込んで太腿の肉に
爪を立てる。折り曲げていた両脚をかるく閉じて、いっぱいに拡げて彼を迎え入れて感じた。
やがて、AVヴィデオのようにして尻を振って、小刻みに加速してゆく。

私はストロークに放り出されないようにと、彼の両太腿をきつく抱き締めて苦悶していた。

「俺はおまえとはアソビだよ」

彼は私にそう切り出した。でも、どうして今更。

「……」

私もそうなのと、言ってみたい。

「嘘なんかじゃない」
「だって、いつもやさしい」

つい最近見た、モノクロ映画の法廷の弁護士になっていた。たしか、アティカス。
なんなら、あのおかっぱの女の子。

「後でか?じゃあ、犯ってるときは」
「やさしいときもあるわ」
「ふつうのときは?」
「もう、やめて!」

母と父みたいだ……。彼はたばこの火を灰皿に揉み消す。

「俺はおまえに責任がないのさ」

そんなこと、わかってた。泣きそうだ……。

「旦那が調停でも申し出れば、そのときはわからんけどな」
「おしまいなのね」

思っていたことをつい口にした。口に挟めば言葉は歩きはじめる。そんなことないと
言ってみたところで波紋はゆっくりと拡がってゆく。

でも、ほんとうは人がそれに向って動き出す。だって身構えるか、準備ぐらいするでしょ。
彼はぐったりとしている私を抱きあげて寝室へと連れて行った。そこからは昂揚して
歔きっぱなしだった。この男とは最後だと思っていたからかもしれない。

「横浜に行くんだ」

彼が言う。一週間後に出立すると、とつとつと語りはじめる。ネットで登録していた
人材派遣会社から連絡があったのだという。面接はもう終わっていて本採用で行くと。
また、いなくなってしまうのね。

「そんなこと聞いていないわ」
「いま言った」

いい加減な……やつ。怒りなんかこれっぽっちも無い。こいつは自由人でこいつの
流儀で生きて行くのだろう。いつも風のようにどこかへとふっと往ってしまう。
留め置くことなんかできやしない、こいつの躰。高校を卒業し私の前からいなくなってしまった奴。

そして、突然海外から帰ってくるなり、私の処へ戻って来て、錆びつきそうな鍵穴に
差し込んで扉をこじあけた。それの繰り返し。

『私、あなたを待ってなんかいないから』
『いつ、待っててくれなんていった?』

そして、またおんなじことをやっている。すくない生活費で切り詰めてやっている
人はいると思っていても……。

「おまえ次第だろ。ちがうか」
「なにを言いたいのか、私にはわからないわ」
「いろいろさ」

ついて来いといっているのではない。気が向いたときにまた抱いてやる。
それでいいなら、かんけいは続けるよと彼は言っているのだ。

「ずるい、そんないいかた」
「どうしてさ」
「だって」

好きだとしっているくせにとは言えない。もう、よそう。好きだと錯覚していたことに
すればいい。

それで、この話は……おしまい。


近所で犬が人を咬んで騒ぎになっていたことがあった。ある日、大雪の日があって
ふたりして公園で遊んでいた。真っ白な雪の上にふたりの小さい足跡だけが続いていた。
すると公園の入り口から犬が駆けて来た。わたしは躰を硬くする。大きな秋田犬だった。
彼は泣き出したわたしを見て、背後ろに匿おうとするが、その場から逃げ出したくて
走り出す。犬は大きな声で吼えながらどんどん近づいてくる。

「走るな!逃げて背を見せたら飛び掛られる」

彼はわたしの手を離さないで、近づいてくる犬の方を睨んでいる。怖くてどうしょうもなく
大声を出して泣いていた。狙われたのはわたしだった。秋田犬は飛び掛って彼の
ガードした腕に喰らいついて、小さな躰を引き摺る。彼はわたしの繋いだ手を離す。
雪の上に彼の血と躰の後が描かれる。すぐに大人たちが家から飛び出して助けに駆けて
来てくれたが、もう遅い。

彼は咬み付かれながらも指で犬の目を何度も突いて潰すと、犬は彼を放り出して
逃げていった。

腰を落としていたわたしは倒れている彼に這い摺ってゆくと、歯形の付いた腕からは
どす黒い血が噴出して雪を赤く染めていた。わたしはそのときに彼の右腕になろうと
誓って泣いていた。

彼がわたしの前から居なくなってしまったのは……いま思えば……でも、もう遠い昔の
ことだから。

ベッドで彼があのときのことを話してくれた。

「おまえの泣いた貌が忘れられないんだ」

それが、彼のエスだったと知った。私でないと勃起しないとも真直ぐに貌を見て
言った。

「これって罪だよな」

彼が横浜へ行ってから、私は数枚の昔の写真を処分した。ハードカバーに
紛れさせて売ってきたのだ。

彼のアパートでキッチンカウンターに臀部を乗せ開脚して性器を拡げてみせている絵。
躰を捻って髪を掻き上げ、頸には黒い紐が巻かれていて銀のスカルが輝いていた。
私は両手でつくった環のなかに据えるようにして、胸に手を置いてから乳房を
揉みしだく。あなたがほしいとポーズで私は誘っている。

彼の手が伸びてきて、乳房を鷲掴みにして捏ね廻し、離れていった。白い指の痕が
肌に浮き上がっても、僅かな間しか留まらないで消えていく。彼は私を抱くようにして
銀のスカルを頸からほとくとウエストへと巻きつけてくれる。カウンターから降ろされて
臀部を床に落とし脚をいっぱいに拡げ、スカルを漆黒の茂みの上に載せ腰を蠢かせる。
愛液が内腿をべっとりと濡らして、床にこぼれていた。

彼は写真を撮ってから、やっと覆い被さって来てくれて突いてくれた。アヌスを窄めて
彼のものを締め付けると、彼はスカルを私の下腹に埋め込むように腰を打ちつけてきた。

烈しく突きあげられ、逃げ場の無い私は掲げた手でカウンターを掴んで追いつめられて
歔いているだけ。やがて私は彼の脇から手を潜らせて彼の肩甲骨を抱き締める。

そして手はまた、彼の蠢く躰を脾腹から臀部へと撫でるように這っていった。抉られ
揺さぶられて、幾度となく喚いて、絡めようとする私の脚を烈しい打ちつけが跳ばしていた。


買った奴は、それを見つけて、もういちど私を殺してほしい。写真に粘っこい体液を
しぶかせて。貌に乳房に、私と彼の思い出に。そしたら、諦めることができるかもしれないから。
キルケーとなって、男を豚にしてやりたい。やっぱり、できないと思いながら、また私は頬を濡らす。

キルケーになりたい。

私は、その日から4日間だけ家を空けた。






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