I Know What I Want
シチュエーション


彼の部屋で何をするでもなく、時が過ぎていた。
彼は愛用のベースを爪弾いている。
好きな曲のフレーズを何となく奏でたり、思い付いたリズムを刻んだり。

ごつごつした、長い指。
ギターに比べてベースは弦が太いから、自然と力強くなっている指。
長いネックを滑るような指捌き。

あ…やば…

感じて、きた。かも。
あの指でされてるのかな、あたし。いつも、あんな風に鳴かされてるんだ。

すっと指を滑らせて、押さえ付けて弦を弾いて音を出す。
指が細いネックを蠢き回る。

アンプを通さない生の音でも、ベースの低い音が身体に伝わる。
低い、身体の奥にずんずん響いてくる振動。

真剣な眼差しでベースを見つめながら弾いていて。
たまに音に酔いしれるように目を閉じている。


あのベースは…あたし。

ベースと彼の間に割り込んで、彼の顔を覗き込んだ。
あたしの瞳はきっと濡れてる。

「ね……しよ?」

もっといい音色を、奏でてあげる…






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