シチュエーション
![]() 彼の部屋で何をするでもなく、時が過ぎていた。 彼は愛用のベースを爪弾いている。 好きな曲のフレーズを何となく奏でたり、思い付いたリズムを刻んだり。 ごつごつした、長い指。 ギターに比べてベースは弦が太いから、自然と力強くなっている指。 長いネックを滑るような指捌き。 あ…やば… 感じて、きた。かも。 あの指でされてるのかな、あたし。いつも、あんな風に鳴かされてるんだ。 すっと指を滑らせて、押さえ付けて弦を弾いて音を出す。 指が細いネックを蠢き回る。 アンプを通さない生の音でも、ベースの低い音が身体に伝わる。 低い、身体の奥にずんずん響いてくる振動。 真剣な眼差しでベースを見つめながら弾いていて。 たまに音に酔いしれるように目を閉じている。 あのベースは…あたし。 ベースと彼の間に割り込んで、彼の顔を覗き込んだ。 あたしの瞳はきっと濡れてる。 「ね……しよ?」 もっといい音色を、奏でてあげる… ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |