とめどないもの
シチュエーション


あたしのご主人さまは、朝に弱い。
あたしとご主人様との出会いはとても簡単。
父親の再婚相手に父親を盗られて、嫌々突っ込まれた施設での、運命。
施設の視察に来たご主人様(ご主人様は、カオだけじゃなくて社会的地位も桁違いなのだ)があたしを拾ってくれた。
最初は憐れみからのお手伝い代わりに。
そして今は、恋人以上娘以上の誰よりも近しい関係に。
あれを運命とせずに、何をそう呼ぶっていうの。

「・・・・・・・・あ・・・・・・・・は・・・・・・・ッ」

歳の差は15歳。なまじの地位の高さでないご主人様の周囲は随分世間体を気にしたらしいけど、それでもご主人様はあたしを離さなかった。

「ね、もう・・・・・だめ、溶けちゃ・・・・・・・ぅ、」
「そーか、じゃあちょっと待ってあげよう」

軽いキスをひとつ落として、微笑みを絶やさないご主人様の口の端がさらに上がる。
同時に、刺激が来た。

「・・・・っふぇ・・・・」

断続的に与えられていた刺激が、くちゅ、という卑猥な音を最後に止まるという刺激。
代わって、その音源を責めつづけていた指を見せつけられる、この上ない羞恥。
何度やられても慣れられない意地悪に、今夜もご主人様はとても満足そうだ。
てらてらとしろくひかる中指で、わななくあたしの下くちびるに線を描いて、この上なく楽しそうに自身の口元にも持っていく。今にも燃えそうなほどカオを熱くしているのが自分でもわかるのに、ご主人様のたくましい中指と薄いくちびるから目が離せない。

・・・・・・違う。

カオが熱いのは、恥ずかしいからじゃなくて。

「ご主人様、ごめんなさい、はやく・・・・・・・・・・・・・・・溶かして」

潤んだ瞳も、上目使いも、つくろうと思ってつくってる表情なんてひとつもないくらい、あたしは根本からご主人様に溶かされてる。

「たくみさんが、欲しいの・・・・」

イイコだねって言われてるのが、にじみでるようなその笑顔がだいすき。
ベッドの上にあぐらをかいた姿から、「ここへおいで」って招かれる。

「自分で、挿れてごらん?」
「・・・・ぇ・・・・」
「欲しいんでしょ?」

ああ、ご主人様の笑顔はひとをシアワセにするばかりでもないのだった。
観念して首元に顔を埋める。
右手でご主人様の後頭部の髪をくしゃっと軽く掴んで(ご主人様に薄髪なんて無縁の話)、背を猫みたいにしならせて、内腿から回した左手でおずおずとご主人様自身を迎えにいく。
体中のどこよりもなめらかな皮膚を持つソレが、今日もあたしだけを想って先端から雫を垂らしているのを指先で知る。
とろりとしたその雫をすこしとってきて、ご主人様の目の前でみだらなショーのように指を口に含む。
かあっと頬に朱をはしらせるご主人様も、大概これには慣れられない。
これでおあいこねって、あたしも微笑んでやるのだ。

「好きだね、比奈は・・・・ソレが」
「だって、あたしはこっちの方が美味しいんだもん」

ほんのり赤らめた頬で拗ねたようにいうご主人さまが最高に可愛くて。
けど。

「そう?俺は比奈がダメ、イヤ、もっと、て言いながらココから際限なく垂らすとろとろのほうが美味しいんだけど。量も多いし、味も濃いし、何よりBGMが。なんたって比奈の喘―――」
「っじわる…っ!」

結局今日も勝てなくて、最後にはあたしの方がご主人様よりもはるかに赤いカオしてることになる。

言葉だけじゃなくて、溶けかけたあたしの秘所をちゅくちゅくと音を立てて器用にまさぐってくる指も手伝って、そろそろ、

「イイ感じに締まってきたね・・・・はやく挿れないと、おじさん萎えちゃうよ?」

うそつき、自称絶倫のくせに。と拗ねて膨らませたままの赤い頬は、濡れたくちびるに吸われてあっけなく空気が抜ける。

「ほら、手はこっち」

右手を再びご主人様自身に導かれる。
萎えるなんて言葉、ご主人様の辞書にはないんだから。
硬そうでいてなめらかな皮膚を、触れるか触れないかのすれすれで一回下から上へとなぞるとちょっとだけ逆襲が出来る。
でもそれ以上は、変わらずあたしの蜜をかきまわすたくましい指に耐えきれないからやめておく。

「挿れてご覧」

とどめの言葉とわずかなご主人様からの後押しで、するっとソレはあたしの入口へ。
入口に当たっただけで思わず目をぎゅっと瞑るほどの快感に襲われる。

「まーだまだ・・・・」

歌うようにあたしを翻弄するご主人様。
ゆるやかに腰をくねらせて、くたくたに溶けたあたしのナカへ挿れていく。
パズルのピースがぴったりはまっていくようなこの快感は、知らずに涙さえ流させるのだ。
あたしを熟知したご主人様が涙をそっと舐めとろうとしたのをキスに変えさせて、そのまますこし伸びあがって自分の少ない胸ごとご主人様の頭を抱きしめた。

動けないでしょ、なんてことはもう言わない。このまましばらく、あたしの涙が止まるのを待っててくれるのがいつものことだから。
泣き止んだ合図のように、今度はあたしから腰をくねらせる。
さっきにも増した肉体の快感に、ご主人様がつながったままゆっくりとあたしをベッドに横たえた。
ベッドサイドのランプに照らされたご主人様の顔が、上からあたしを見つめてる。
心底愛しそうに。
そう思うのは、あたしの自惚れじゃないよね?

「比奈しか、欲しくない」

舐めとられていく半乾きの涙の痕を追いかけるようにまた、涙が滲んだ。






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