シチュエーション


年末に向けて、仕事は忙しくなる一方だった。
残業ばかりの日々で、久しく女遊びもしていない。
言い寄ってくる女も何人かいるが、社内の女は面倒で手を出さない主義だ。
そろそろ欲求不満も限界点に達するかもしれない。

ほとんど照明を落としたオフィスで煙草をくゆらせながら、ひとりPCに向かう。
山積みの仕事に苛ただしさがつのる。
眉間にしわを寄せた表情が固定しそうなくらいだ。

その時、廊下にかすかな足音が聞こえた。

「?」

誰だ、こんな時間に。
さっき守衛のおっちゃんが、もう残ってるのは俺一人だと、
あきれたように笑っていったはずだが。

その時、地味な女が姿を現した。
かすかな灯りの中に俺を見つけて、かなり驚いた様子だった。

「…っ、桐生さん」

誰だ、この女。
見覚えはあるんだが、とても喰う気になれない女は、俺の記憶の中にはほとんど残らない。
えーと、確か、同じ部署ではあるが…

「あぁ…えっと、ナカジマさん、だっけ?」

おぼろげな記憶を辿る。

「いえ…あの、鹿島です。カジマ。」

ぼそぼそと俯き加減に答える。陰気な感じの女だ。
俺の苛つきが余計増す。

ほとんど接触を持った事のないこのつまらない女を、しげしげと眺めた。
いつも顔がよく見えないように俯いている。
肌が荒れて、化粧もほとんどしていないようだ。
野暮ったい眼鏡をかけて、髪も中途半端な長さのまま、おかまいなし。
服装もブランドなぞとは縁遠い、印象にも残らない、
体のラインをすべて隠すようなものだ。
この女、本当に『女』なのか。

「あ、そう」

何の興味もなく、PCに向かう。
こんな女、かまってられるか。

「す、すみません、忘れ物しちゃって」

しどろもどろに言い訳をする。そんな事、俺の知った事か。
おびえてこちらの様子を伺うように、おどおどと歩く。
イライラする女だ。

その時、俺の中で凶暴な衝動が走った。

『この女を滅茶苦茶にしてやりたい』

俺の横を通り過ぎる時、その手首を掴んだ。
鹿島は驚いて振り返ったが、何が起こったのか理解できないという表情だった。
そうだろうな。
この女の人生の中で、こんな事が起こった事なんてないだろう。
不味そうな女に手を出すのは自分が情けなく感じるが、
この際性欲のはけ口になってもらおうか。

デスクに押し倒す。
それでもまだ自分の状況が分かってないようだ。鈍い女だ。
両手を頭上でひとまとめに押さえて、片手で自分のネクタイを外す。
その動作を見て、やっと何が起こったのか理解したようだ。

「っ、きりゅうさんっ、離してくだっ…んぐぅ?!」
「騒ぐなよ、厄介だから。それとも大声出して人呼んで、こんな所見られたいのかよ?」

外したネクタイを口につっこんで、吐き捨てるように言ってやった。
女の顔が絶望的に歪む。
その表情に、初めてこの女に興味を覚えた。

「いいね、その顔。興奮する」






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