シチュエーション
![]() あたしの恋愛は長続きしない。 あたし自身は彼氏に恋をしているけど、彼氏の方はそうではないらしく、いつも彼氏から別れを告げられる。 彼氏があたしに言う別れの言葉は、付き合ってきた彼氏の数だけある。 「君は鬱陶しい」 「他に好きな人が出来た」 「恋愛より仕事を優先したい」――などなど。 彼氏達は皆、別れの言葉を残してあたしの元から去る。 別れたくないと言って引き止めても。 あたしの制止を振り切って彼氏が去った後、あたしは必ず泣く。部屋の隅で一人っきり。 別れがツラくて泣くんじゃない。 一人っきりが寂しくてツラいから泣く。 まぶたの裏と頭の奥が痛くなるまで泣いた後、あたしは旅立つ。 寂しさを紛らわす為の恋人を求めて。 前の彼氏と別れてから一ヶ月もたたない内に、新しい彼氏ができた。 今の彼は、大企業に勤めている三上さんという人。 付き合い始めてから六ヶ月。あたしにしては長く付き合っている方だ。 彼の身長は170cmで普通。体型も中肉中背で普通。顔も普通。 ちょっといい大学を出て、大企業で働いている事だけが取り柄かな。 今日はそんな彼とのデートの日。 派遣で細々と事務をしているあたしと違い、彼は忙しい人なのでデートは週末だけ。 その週末だけのデートも、最近は彼の仕事の都合で潰れる事が多かった。 先週も先々週も彼の仕事でデートはおじゃん。 会えない事をメールで愚痴ったら、『寂しい時は電話で話そう』と言ってくれた。 あたしは彼の言葉に甘え、頻繁に電話したから寂しくはならなかった。 けど、最近は会いたい時に会えないなんて、恋人でも何でもないと思うようになってきて…… これが、愛情が薄れるという感覚なのかもしれない。 こんな感情を抱くのは初めてだ。いつも、愛情がある内に別れていたから。 愛って何だろうとか考えながら、あたしはデートの待ち合わせ場所にやってきた。 CMなどで名前をよく耳にする会社のビルが立ち並ぶ駅前。 駅前は週末という事もあって、人が多く通り過ぎていく。 帰路を急ぐサラリーマン風の男。 学校帰りらしい女子高生の集団。 観光地ではないのに、旅行ガイドブックを片手に立ち往生している旅行者。 この人込みの中から彼を見つけるのは一苦労だなぁと思った時、彼があたしを見つけて話しかけてきた。 「やぁ、久しぶり」 本当に、久しぶりの再開だった。 三週間、彼の仕事のせいで会えなかった。 それなのに彼からはお詫びの言葉は一切無く、普通に接してきた。 電話でいつも話してはいたけど、ちょっと酷くない? 「何よ、軽々しく久しぶりって…… あたしが三上さんに会えなくて、どんなに寂しい思いをしたかわかってるの?」 彼の飄々とした態度にちょっとムッとしたから、言葉を荒げてしまう。 「ははは……電話とメールだけじゃ物足りなかった?」 「物足りないに決まってるじゃない!」 確かに電話やメールをしていると寂しさは紛れる。 けど、それだけじゃ物足りない。 会って会話しないと完全に寂しさは消えない。 「じゃあ、今夜は舞さんが満足するまで話しようか」 「当たり前でしょ。今まで満足させて貰えなかったんだから」 彼は自分の腕をあたしに差し出した。 多分、腕に抱きついてもいいというサイン。 あたしを怒らせた詫びのつもりなのか。 まぁ、怒ったままデートに突入は気まずいから、仲直りの意を込めて彼の腕に抱きついた。 そして、彼の足が赴く所についていく。 彼に連れられてやってきたのは、いわゆるジャズバーと呼ばれる所だった。 少し暗めのオレンジの光に照らされている店内。 店の中央にはグランドピアノが置いてあって、ライブが行われている。 ピアノの伴奏に合わせ異国の歌を歌う女性。 店内にいる数人の客達は、ピアノと歌に聞き入っていた。 あたしと彼は店内の一番奥の席に座る。 オレンジの光があまり届かない薄暗い場所。 あたしはアルコール度が低いカクテルを頼み、彼はウィスキーを頼む。 お酒はすぐに届けられた。 再開を記念して軽く乾杯をして、あたしはカクテルに口付ける。 あたしはお酒が弱い。 お酒が弱い人ランキングがあったら一位を取れるくらいに。 ちょっとカクテルを飲んだだけで、もう酔ってきた。 「三上さんはあたしと会えない間、何やってたのぉ?」 「何って、仕事だよ」 「ほんとぉ〜に?」 「本当さ。 僕の一日は仕事して、舞さんと電話して、寝る。なんだから」 「ちゃんと食事もした方がいいよぉ」 ダメだ。完全に酔ってるよ、あたし。 舌が回らなくなってる。 せっかく会えたのに、酔って終わりというデートにはしたくない。 「仕事に余裕ができたら自炊でもしてみるよ」 「いつから余裕できそう?」 「さぁ……」 さぁ……って、分かっても無いのに期待させるような事言わないでよ。 「三上さんってぇ、仕事仕事ばっかりで全然あたしと会ってくれないよねぇ。 あたしと仕事、どっちが大切なのぉ?」 「舞さん、男が女に言われて嫌だと思う言葉を教えてあげる」 「嫌だと思う言葉?」 「あたしと仕事どっちが大切?」 あの質問は、働く男にとっての禁句。 そりゃそうだ。男は女よりも仕事を大切にしないといけない。 将来できるであろう家庭を守るために。 こんな事も気づかないなんて……かなり酔ってるな、あたし。 「ごめんねぇ、無神経な質問してぇ。 今の事は忘れて、別の話しようよぉ。 あっ、そうだ。 今日ねぇ、あたしの仕事場で営業の人が上司に叱られててさぁ、ちょっと気になったから盗み聞きしてたのよぉ。 何で叱られてたかは分からなかったんだけどぉ、上司が『今を大切にしないと、明るい未来は無い』とか言っててさぁ、なんて陳腐な言葉だろうって……」 「全然陳腐じゃない。僕達も今を大切にしないと」 彼はあたしの言葉を遮り、氷と水だけになっているウィスキーのグラスを手にする。 ウィスキーを追加するのかと思ったら、グラスに入っている水を飲んだだけだった。 明日は休みなんだから、もっと飲めばいいのに。 「舞さん、僕は今を大切にしたい。 だから別れて欲しい」 ……今、何て言った? 今を大切にしたいから別れたいってどうゆう事? 「どっ、どうして!?」 酔いが一気に醒めた。 「君とこうして話している時間を、もっと別の事に使いたい」 「それって、あたしと話している時間は大切じゃないって事?」 「そう。毎日していた電話の時間を、別の事に使いたいと思っていた」 ショックだ。 あたしの唯一の楽しみであると言って過言ではない彼との会話が、 彼にとって大切じゃないという事実が。 「いつからあたしとの会話を鬱陶しく思い始めたの? 最初から鬱陶しいと思っていたら、六ヶ月も付き合う訳ないよね?」 「僕の仕事のせいでデートができなくて、 舞さんが毎日電話してくるようになった頃から」 つまり、三週間前だ。 寂しい時は電話してと言われたから、 その言葉に甘えて毎日電話していたあの頃。 「電話が嫌なら、電話していいって言わないでよ」 「別に電話が嫌じゃない。 ただ、舞さんの場合、度が過ぎているというか……」 何かの雑誌で読んだ事がある。 男は女より恋愛に興味が無いという記事を。 あたしは彼と毎日会って、毎日話したいと思っている。 寂しさを紛らわせたくて。 その思いから、彼に毎日電話をしていた。 けど、彼にとってあたしの思いは重荷だったんだ。 衝撃を紛らわす為カクテルを飲もうとしたら、 長く話していたせいでカクテルの氷は溶けていた。 水によって薄まったカクテル。 三上さんのあたしに対する愛情も、このカクテルみたいに薄まったのかな。 「三上さん、恋愛と仕事どっちが大切だと思ってる?」 「……」 彼は質問に答えてくれない。 その代わり、嫌な事を聞く女だなといいたげな表情をしてくれた。 さっき教えてもらった、男が女に言われて嫌な質問の類似質問だからか。 「あたしは恋愛が大切だと思ってる。 彼氏と毎日デートしたり、話したりしたいと思ってる。 それが恋愛であり、付き合うって事だと思うから。 あたしは、毎日傍にいてくれる人と付き合いたい」 そう、恋人とは毎日一緒にいたい。 現実的に毎日一緒にいるのは無理だと思うけど、 それでも出来る限り一緒にいたい。 一緒にいれば寂しさが無くなるから。 「じゃあ、僕と付き合うのは無理だ。 僕は忙しいから、舞さんの要望に応えられない」 「うん、実はあたしももう別れたいと思ってた。 三上さん、全然会ってくれないし…… 今日だって待ち合わせ場所に来る間、 会いたい時に会えないなんて恋人じゃない。とか考えてた」 とうとう言ってしまった。自分から別れの言葉を。 いつも言われてきた言葉を、初めて相手にぶつけた。 一方的に別れを告げられる時とは違って、悲しみは湧いてこなかった。 涙も出なかった。 寂しさに対する恐怖も無かった。 ただ、早くこの人と別れて、新しい恋人を見つけたいと思った。 いつも一緒にいてくれる恋人を。 きっと、今まで付き合ってきた彼氏達もみんな、 何らかの不満をあたしにに持ち始めたから別れを告げたんだろうな。 自分が別れを告げる立場になって、 ようやく彼らの気持ちが分かったような気がする。 彼が無言で立ち上がる。 テーブルの上に置いてあった伝票を手にして、レジへ向かった。 そのまま彼は戻ってこなかった。 無言の別れ。 きっと、もう彼と会う事は無い。 彼と別れた後、電車を乗り継いで自宅に戻ってきた。 いつもの別れと違って、部屋の片隅で泣く事はしなかった。 だって、涙が出てこないから。 これから新しい恋人を見つけるまで一人っきりなのに、寂しいとも思わなかった。 何でだろう。 あんなに一人っきりは嫌、寂しいのは嫌だって思ってたのに。 あれから一週間が過ぎた。 仕事をして、食事をして、睡眠をとるだけの一週間。 彼との電話が無い一週間。 一人っきりの一週間。 なんて味気ない日々。 夕食を食べながらテレビを見る。 テレビは丁度ニュースをやっていて、今日起きた事故を伝えていた。 高速道路での追突事故。 かなり大規模な事故だったらしく、事故に遭った車は炎上している。 ブラウン管に映し出される赤。 それは、あたしの家族を包み込んだ炎と同じ色だった。 五年前、あたしはお父さんとお母さん、そして妹を事故で失った。 その事故は高速道路で起きた。 三人を乗せた車が高速道路を走っている時、突然車が炎上。 後ろから揮発油を大量に乗せた車が追突したせいで。 だから……だから、一人っきりは嫌。 家族の事を思い出して、寂しさが募るから。 涙が溢れてきた。 家族を失って悲しくて、一人っきりで暮らすのが寂しくて。 事故から五年経ったのに、未だに家族の事を忘れられない。 一人っきりでいる事に慣れない。 寂しさの余り死んでしまいそうだ。 仲のいい相手が死んでしまうと衰弱してしまうウサギのように。 あたしは携帯電話を手にした。 リダイヤル画面を開き、通話ボタンを押そうとして止める。 寂しい時は電話していいって言ってくれた人とは、もう別れた事を思い出したから。 前まではちょっと寂しいと思えばすぐに電話してた。 今になって思う。 今日みたいな涙が出るほど悲しい時だけ電話すればよかったと。 そうしておけば、別れなくて済んだのに。 今日だって電話できたのに。 馬鹿だなぁ、あたし。 彼に別れを告げられた時、自分からも別れるって言ったくせに。 毎日傍にいてくれる人と付き合いたいという理由も付けて。 それなのに、あたしは彼を求めている。 別れた時はもう自分にも愛情は無いって思ってた。 けど、今になって彼を恋しく思う。 忙しいのに三週間、あたしの電話に付き合ってくれた彼を。 彼に会いたい……三上さんに会いたい。 厚顔無恥だと思うけど、それでも会いたかった。 会って話をしたかった。 付き合っていた頃のように寂しさを紛らわせたい。 我侭だっていうのは分かってる。 でも、今日だけでいいから一緒にいて欲しい。 一度涌き出た欲望は止らない。 夕食をそのままにして、あたしは家から出た。 閉店時間を迎え、シャッターを下ろしている人通りの少ない商店街を駆け抜ける。 道に出ると、三階建ての小奇麗なアパートが見えた。 このアパートの二階に彼は住んでいる。 あたしはアパートの二階へ続く階段を上り、彼の部屋の前に行く。 そして、ドアホンを鳴らす。 ためらいは無かった。一刻も早く彼と会いたかったから。 しばらくしてドアが開いた。チェーンの長さ分だけ。 あたしを家の中に入れる気は無いといいたげな隙間。 その隙間から彼の姿が見える。 一週間ぶりに見る彼は、何一つ変わってなかった。 「三上さん、あのっ……」 「先週、君に言うのを忘れていた事があった。 もう会わないようにしようって」 冷たくあしらわれた。 当然だ。あたしとはもう別れたんだから。 「待って。 あたし、三上さんに話したい事があるの」 「話す事なんて無い」 「ただ、あたしの話を聞いてくれるだけでいいから」 あたしはドアの隙間に手を入れてドアをつかみ、彼がドアを閉じられないようにした。 彼が勢いよくドアを閉めれば、あたしの指の骨は折れてしまうかもしれないけど、話を聞いてもらう為なら骨折ぐらいしてもいい。 あたしがドアを掴んだ意図を察した彼はため息をつく。 「いいよ、話して」 了承を得た。 「先週、あたしからも別れるって言ったけど、あれは撤回。 あたしは三上さんの事を愛してる。 別れたくないと思ってる」 「今更そんな事言われても……」 「分かってる。 今更愛してると言っても、三上さんがあたしと寄りを戻す気にならない事は。 ただ、今日だけはどうしても一緒にいて欲しいの」 あたしの悲しみと寂しさを消し去って欲しいから。 「先週、言ってたじゃないか。 毎日一緒にいてくれる人と付き合いたいって。 僕じゃなくて、その人の所に行けば?」 「そんな人、今のあたしにはいない。 新しい彼を探す前に、泣いてしまうほど寂しくなったのよ。 一度別れた人の所に来てしまうぐらいに」 今のあたしには、寂しさを紛らわす方法がこれしか思いつかなかった。 別れた男の元にのこのこと現れて、寂しいと語る事しか。 彼は多分呆れているだろうな。 同意を得て別れたはずの女が現れて、我侭を言ってるから。 忙しいから帰ってくれないか。って言ってもいいよ。 いつもの失恋みたいに泣いて泣いて寂しさを涙で流すから。 「一晩、僕の好きなようにさせてくれるなら、一緒にいてもいい」 耳を疑った。 そんな、あたしに都合のいい答えを聞けると思ってなかったから。 「本当に? 本当に、一緒にいてくれるの?」 「ああ、一緒にいてあげる。 君が僕の言う事を何でも聞いてくれるなら」 一緒にいてくれるなら、何をされてもいい。 寂しさを紛らわせてくれるなら、どんな命令にだって従う。 まだ愛している人の言う事なら、何だって聞く。 「何でも命令して。 三上さんがあたしの我侭に付き合ってくれたように、 あたしも三上さんの命令に従うから」 ドアのチェーンが外され、彼はあたしを部屋の中に入れてくれた。 何度か来た事のある彼の部屋。 フローリングが剥き出しの床の上に、ベッドやテレビが置いてある。 男の人の部屋の割には綺麗に片付いているかな。 テレビの電源が消えていた事にあたしはほっとする。 ここでまた、あのニュースを見てしまったら、泣かずにいられる自信が無い。 部屋の中心で、彼に後ろから抱きしめられた。 優しく、あたしを包み込むように。 背中から彼の体温が伝わってくる。心地よい熱。 こうして触れ合うのは四週間ぶりだった。 先週は話をして終わりだったから。 しばらくして彼は、あたしが着ているブラウスのボタンを外して脱す。 あたしの上半身はブラだけになる。 色気など欠片もない、モカのハーフカップブラ。 彼に会いたいという思いで急いで家を飛び出したから、 下着にまで気が回らなかった。 そういえば、洋服だって白のブラウスと黒のスカートという地味さ。 メイクだってほとんどしてない。 これで彼に会うのは多分最後になるのだから、 もっとオシャレしてくればよかった…… あたしが落ちこんでいると、ブラの左カップの中に手を入れられた。 左胸が彼の手に包まれ、優しく撫でられる。 沈んでいるあたしを慰めるかのように。 何度か撫でた後、彼の指があたしの乳首に触れる。 撫でられていたせいで、既に固くなっている胸の先。 あたしは感じていた。彼の優しい手に包まれて。 乳首が摘まれる。 固くなった事によって生まれた弾力を楽しむかのような動き。 「んっ……」 漏れてしまった。感じている事を示す甘い声が。 そういえば、彼は『言う事を何でも聞いてくれるなら』って言ってたけど、 何も言ってこない。 でも、彼があたしとセックスを望んでいるのは明らかだった。 無言の命令。 「……痛っ」 今まで優しく摘まれていた乳首が、強く摘まれた。 潰すかのように強く。 痛い。この痛さは彼が与える罰なのだろうか。 我侭なあたしに与える裁き。 「自分で脱いで」 乳首を捻る残酷な指とは裏腹の、優しい声で言う。 正反対の指と声、どっちが彼の本心なのだろうか。 あたしは衣服を脱ぐ。 ブラウスは既に脱がされていたから、スカートのジッパーを下げて脱ぐ。 下着姿になって、下着を脱ぐ事をためらっていると、 彼が荒荒しく下着をもぎ取った。 彼は全裸になったあたしから離れ、ベットに腰掛ける。 「僕の前に跪いて」 一瞬、どうして?と聞きそうになった。 今までの彼とのセックスで、そんな要求をされた事が無かったから。 けど、どんなに疑問を抱いても、今日は彼の命令に従わなければいけない。 それが、あたしと一緒にいてくれる交換条件だから。 言われた通り彼に近寄って、床に跪く。 彼は足の間にあたしを迎え入れた。 そして、ズボンのジッパーを下げ、自分のモノを取り出す。 何度も見て、触れて、自分の中に入れられた事がある彼のモノ。 よく見ると、既に先走りが出ていた。 彼も久しぶりのセックスで興奮しているのかな。 既に新しい彼女がいて、ヤっているかもしれないけど。 「何をすればいいか、言わなくても分かるね?」 ここまでくれば、彼が何を求めているか分かる。 あたしは跪いたまま、彼のモノに指を近づけた。 先走りを指で掬って、亀頭を指でこね回す。 こね回すといっても強くはしない。優しく、ゆっくりと。 亀頭を指で責めながら、サオを舌で舐め上げる。 時々、舐めるのを止めて陰嚢に口付ける。 彼があたしの頭を抑えつけた。 多分、全てを口に含めという意。 先端から指を外し、代わりに口で銜えた。 彼が最も感じるくびれの部分を集中的に責める。 既に大きくなっていた彼のモノが更に大きく、そして固くなった。 あたしは口の奥まで彼のモノを含む。 全てを含む事はできなかったけど、歯を立てぬように舌と口腔を使い愛撫する。 唇をすぼめて、頭を上下左右に動かして。 突然、おとなしくしていた彼のモノが動き、あたしの喉をついた。 奇襲にむせかえる。 苦しさの余り、目に涙が浮かぶ。 「ほら、ちゃんとやって」 言葉は優しい。けど、行動は残酷だ。 彼は何度もあたしの喉を突く。 苦しくて舌を動かす事ができない。 彼もあたしの愛撫を期待していないようで、 ただひたすらあたしの喉の奥に入り込もうとする。 「ぐっ……う……っ」 彼の動きが速くなる。 喉を突かれていて苦しいけど、あたしは彼のモノを舌でしゃぶった。 手は陰嚢と裏筋の繋ぎ目を刺激し、彼の最後を促す。 「くっ……」 彼が呻いた瞬間、精液があたしの口の中に迸った。 勢いよく飛び出た精液が喉仏にあたり、むせる。 精液を飲もうと頑張ったけど、咳が止らなくて無理だった。 飲み込む事ができなかった精液が口の端に滴る。 「漏らさないで、全部飲んで」 彼は口の中の精液を喉に押し込むように動く。 あまりにも苦しくて逃げようとしたけど、 全部嚥下するまで彼は許してくれなかった。 ようやく咳が止り、精液を飲む事ができた。 一回では飲み干せなくて、何度にも分けて。 精液を全て飲んだ事を確認した彼は、あたしをベットに寝かせた。 仰向けで寝かされたから、蛍光灯の光が視界に入る。 こんな明るい場所で裸や、フェラチオを見られていたかと思うと、 恥ずかしくて居た堪れない。 電気を消して欲しいと思った途端、光が遮られた。 あたしの上に彼が覆い被さったから。 「あうっ……」 首筋を舐められた。 あたしが苦手とする部分。 快感よりも嫌悪感が優先する場所。 「嫌っ……やめてっ!」 「君が僕と一緒にいたくないなら、別に止めてもいいけど」 そうだった。彼の好きなようにさせるのが今晩の契約。 これ以上嫌がったら、あたしはこの部屋から追い出される。 寂しさと、快楽を抱えた体が癒えない状態で。 あたしは我慢した。全身を襲う嫌悪感を。 我慢すれば、彼は一緒にいてくれるから。 「ひっ……嫌ぁ……」 止めてとは決して言わないけど、嫌という言葉を抑える事ができない。 彼は舌で首を責めながら、手であたしの体のラインをなぞる。 胸、わき腹を通り、手は太腿の内側へ移動した。 彼はあたしの足を開かせる。 既に濡れているかもしれない、いやらしい場所が剥き出しに…… 「凄い…… 嫌と言っておきながら、本当は首で感じてる?」 違う、首では感じてない。 あたしのそこが濡れているのは、最初に胸を弄られたせい。 彼の指が秘裂に触れた。 秘裂に沿って指を動かす。 指がクリトリスに触れると思った時、彼は触るのを止めて秘裂を開いた。 さらに露になるあたしの秘所。 きっと、彼を求めてヒクついている。 寂しさより、性欲を満たしたくて彼を求めているそこ。 早く中を掻き回して欲しいと思うのに、 彼は秘所の入り口を触るだけで中には入ってこない。 「お願い、指入れて……」 「今日は僕の命令を聞く約束だったはずなんだけど。 まぁ、一回だけなら君の言う事も聞いてあげる」 思わず口走ってしまった欲求を彼は受け入れてくれた。 あたしの望み通り指が入ってくる。 指を奥まで入れて、 あたしの中で一番敏感な所に指が当たるように出し入れをする。 あたしはもっと指を感じられるように腰を動かした。 秘所の入り口の近くにある感じる部分。 ここに刺激が与えられると、全身にむず痒いような快感が走る。 感じるけど、イクことはできないじれったい快感。 「ねぇ、クリトリスも触って」 あたしは快感の塊であるクリトリスを触ってもらえないとイケない。 沸き起こる熱を解放する事が出来る唯一の手段を彼に求める。 「言う事を聞くのは一回だけってさっき言ったばかりじゃないか。 だから、却下」 彼は余っているもう片方の手をあたしの首に持っていった。 そして、首をくすぐるように指で触れる。 人の話を聞いていなかったお仕置きだと言わないばかりに。 上半身は不快感に、下半身は快感に支配される。 この感覚は彼の指が離れない限り止む事が無い。 「おっ、お願い、もう……」 自分でも何をお願いしているのかは分からない。 首を触るのを止めて欲しいのか、秘口の指を抜いて欲しいのか、 クリトリスを触って欲しいのか。 彼はあたしの願いを聞く気は無いらしくて、中を弄り続けた。 最初はゆっくりと出し入れしていただけの指は、今では中で折り曲げたり、 内壁を押さえつけたりしてGスポットを刺激する。 指が動く度にいやらしい音が響く。あたしが流した液体によって。 「もう……」 嫌と言おうとした時、首と中を甚振っていた指が離れた。 許してくれた?と思ったけど、彼はあたしの言う事を聞いてくれた訳じゃない。 その証拠に彼はあたしの腰をつかんで、自分のモノをあたしの入り口に押し当てた。 そして、ゆっくりと中に入ってくる。 「あっ……ああっ……」 久しぶりに受け入れる彼のモノ。 長い間してなかったせいか、 狭い所に無理矢理入れられたような感じがして苦しかった。 大きく息を吸って、受け入れようと努力する。 彼はあたしの感触を味わっているようで、動こうとしない。 そのおかげですぐ馴染む事ができた。 あたしの中が彼のモノを締め付けるかのように蠢き始める。 その変化に気づいたのか、彼は動き出す。 浅く抜き差しをして、入り口の敏感なGスポットを突く。 「はぁ……っ」 彼はあたしが中だけでイケない事を知っていて、わざとそこを狙う。 いつもなら空いている手でクリトリスを触ってくれるけど、 今日の彼の手はあたしの腰を押さえつけているだけ。 感じるけど、イケない状態。 拷問だった。延々と快楽を与えつづける拷問。 「ううっ……」 入り口周辺だけでは飽きたのか、彼のモノが深く入ってきた。 それでもGスポットを刺激するのは忘れない。 むず痒い刺激から逃げたかったけど、腰を押さえられていて無理だった。 「もう……嫌。も……動かないで……ひっ!」 押さえつけられていた腰が前後に揺すられる。 嫌でもGスポットを刺激される。 イケない辛さに耐えられなくなったあたしは、自分の指を秘所に持って行った。 自分でクリトリスを触る為に。 しかし、そこに触れてイク事はできなかった。 あたしの動きを察知した彼が、あたしの手を掴み妨害したから。 自慰に浸ろうとしていた手は頭上で一括りされた。 「嫌ぁ……手、離して……」 「はしたない人だ。自分で慰めようなんて」 「誰のせいで……こんなっ」 「君自身のせいだろう?」 彼と一緒にいる事を望んだのはあたしだ。 けど、こんな風に焦らされるセックスをしたい訳じゃない。 ただ、寂しさを紛らわせたいだけだったのに。 今では寂しさの他に性欲も抱えてしまってる。 両方共自分の中から消し去りたいと思うのは我侭なのだろうか。 ごめん、三上さん。 今日は貴方の言う事を聞くって約束だったけど、その約束は守れそうじゃない。 あたしは自分の欲望を満たす事だけを考えて行動し始めてる。 「お願い、触ってぇ……」 はしたない、恥知らずと言われてもいいから、 身体中に広がっていく熱を早く解放したかった。 「これだけじゃイケない……」 しかし、あたしがどんなに懇願しても彼はあたしに触れてくれない。 彼は自分の快感だけを追い求めているかのように、激しく腰を動かす。 激しく動けば動くほど、Gスポットに当る刺激が強くなる。 「女の子だろ。膣だけでイキなよ」 「そんなの、無理っ……ああっ」 一際強く突かれたかと思ったら、彼の動きが止った。 どうして?もしかして、イカせてくれるの? あたしは彼を見上げる。 彼は辛そうな顔をしていた。 何で……辛いのはあたしの方なのに。 「舞さん……ゴメン……」 彼が呟くと同時に、あたしの中に精液が注がれた。 何度も彼のモノが震えて、生暖かい液体を浴びせられる。 「嘘っ……嫌ぁぁぁぁ!」 永遠に続くかと思うほど長い彼の放出。 打ち付けられる液体の刺激で、あたしは始めて膣だけでイッた。 生まれて初めて味わった快感の余韻に浸る事はできなかった。 快感よりも、中出しされて妊娠するのではないかという恐怖が襲ったから。 あたしはベッドから飛び降りて、自分のカバンの中を漁る。 カバンのポケットの中からモーニングアフターピルを取り出し、その場で飲む。 もしもの時の為に処方してもらった薬。 まさか、別れた男のせいで使う事になろうとは。 「ゴメン……」 彼が謝りながら、コップに入れた水を差し出してくれた。 あたしは遠慮なく受け取り、水を飲む。 セックス中に叫んでいたせいで乾いていた喉が潤う。 「本当にゴメン。中に出す気は無かったけど、我慢できなくて……」 普段のあたしなら、完全にキレていた。 けど、今日の事はあたし自ら招いた災難。 あたしが三上さんの命令に従うからと言ったから。 「こっちこそ、ゴメン。 どんな命令にも従うって言ったのに、我侭ばかり言って」 「そんな事、どうでもいい! もし、妊娠していたら…… さっきの薬を飲んだだけで避妊できるのか?」 彼に肩を掴まれてゆすられる。 あたしの事を心配してくれているのか。 それとも、別れた女に自分の子供が出来る事を恐れているのか。 こんなに焦っている彼を見るのは初めてだった。 「大丈夫。七十二時間以内に飲めばいいから。 じゃあ、あたし帰るね。 今日は一緒にいてくれて嬉しかった」 立ち上がろうとしたけど、彼が手を離してくれず立ち上がれなかった。 「一晩、僕の言う事を聞く約束だっただろ。 まだ、一晩経って無い」 あたしは彼に命じられるままにシャワーを浴び、ベッドに横たわった。 布団に包まれたせいで眠気が襲ってきたけど、 彼は眠る事を許してくれずあたしに色々質問してきた。 色々といっても、あたしの寂しさについての質問ばかりだったけど。 「どうして今日、泣くほど寂しくなった?」 「ニュースを見て、家族の事を思い出したから」 「家族の事?」 「昔、事故で家族を失ったのよ」 「いつも寂しいと言っているけど、寂しい理由はそれ?」 「そう。家族がいなくて寂しい」 実は、彼に寂しい理由を話すのは今日が初めてだった。 家族を失った事を話して、余計な心配をさせたくないから。 あたしの気持ちを察したらしい彼は、家族について深く聞いてこなかった。 「今まで舞さんは猫だと思っていたけど、実はうさぎだったんだ」 「どうゆう意味よ?」 「寂しいを理由に我侭を言う人だと思ってたら、 実は本当の寂しがりやだったという事」 やっぱり、我侭だと思われてたんだ。 一応自覚はしてたけど、面と向かって言われるとショックだった。 「ねぇ、舞さん」 「何?」 「寂しい理由話してくれてありがとう。 いつも電話していた時、ずっと疑問に思ってたから」 「そう……」 これ以上、彼は話しかけてこなかった。 静まる部屋。 しばらくして、彼の寝息が聞こえてきた。 その寝息に誘われるように、あたしも眠りにつく。 朝になって目を開いた時が一晩の契約の終わり。 翌朝、あたしと彼は寄りを戻す事無く別れた。 僕は君の寂しさを紛らわす事はできないと言われて。 彼の部屋で別れを告げられた時、あたしは泣いた。 いつもは自分の部屋に戻るまで泣くのを我慢するけど、今回は彼の目の前で。 ここから離れた途端、一人っきりになるのが寂しくて。 彼は泣くあたしの頭を撫でながら言った。 「きっと、君の寂しさを無くしてくれる人が見つかる」と。 彼と別れて数ヶ月。 その間何人かの男と付き合ったけど、 あたしの寂しさを無くしてくれる人とは出会って無い。 皆、何かと理由をつけてあたしと別れる。 今付き合っている男との別れも近かった。 最近、話をする度に鬱陶しいと言われるようになってきたから。 今日にでも別れを告げられる予感がする。 皮肉にも今日のデートの待ち合わせ場所は数ヶ月前、 彼と待ち合わせをした場所だ。 あの時と同じように、駅前にはサラリーマンがいて、学生がいて、観光客がいる。 この人ごみの中から付き合っている男を捜すのは一苦労だと思った時、 あたしは見つけてしまった。 付き合っていた頃は何の特徴もないと思っていた彼を。 あたしは彼に駆け寄った。 ニュースを見て寂しくなって家を飛び出した時のように。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |