シチュエーション
![]() 「伊藤、じゃあ命令。言いなさい」 むによーー、と伊藤の頬を引っ張る。やっと気付いて、変なリアクション取っ て私から離れる。 …待つ事、15分。伊藤の奴は、やっと口を割った。 「真っ白になったんです」 はい、のっけからわかりません。でも、突っ込まず次を待つ。 「…俺、千佐子様を守りたいと思ったのに、気付けなくて、無理させて、凄く情 けなかった矢先に、ホントは、必要じゃないって、好きじゃないって言われて、 俺、悲しかったんです」 あら、あらあら。でもそれはやっぱり…どうなんだろう。 「悔しくて、辛くて、別に、千佐子様自身なんて、どうでも良かった筈なのに、 千佐子様の言葉で、おかしくなって、それで…それで、気が付いたら、凄く酷い 言葉、吐いて…ホントに、傷付けたくなかったのに、それなのに…」 …普段は、もちっと理路整然とした喋り方の筈なのに、このパニックっぷり。 こんなに困って、傷付いてるのに、私、嬉しかった。伊藤の事、なんだか愛し いなって、思った。だから、私は伊藤の事、抱き締めた。さっきとは、逆に。私 が、伊藤を慰めたくて。 「っ…?」 こいつも、きっと、そうしたかったんだろうな。やっぱ同類ってのはわかるも のなのかな?私は、さっきの伊藤と同じように、言ってやった。 「泣いてもいいよ」 きゅっ、と、も少し力を込める。正座してる伊藤と、立ち膝の私。ちょうど、 胸に顔を埋められるようになってる。伊藤が、震える。胸に、熱い息が掛かる。 「泣け」 …その言葉で、スイッチ入ったみたいに、伊藤が私を強く抱き締めた。そんで。 「…俺、本当はこの家の子供じゃないんです。本当の母親と、顔も知らない父親 の間に生まれたんです」 布団の中で、さっきまで泣いてた伊藤が、ぽつりぽつりと話し出した。 「母親は…不倫、というか妾、といいますか…父親の性欲を処理する程度の存在 だったみたいです。でも、ある日突然捨てられてしまったんです」 母親と一緒に、伊藤自身も。私は、伊藤の髪を梳いて、話の続きを待つ。 「俺が出来て、同時に、本妻にも子供が出来て…面白い話ですよ、俺とその子供、 同じ日に生まれたそうなんです。同じ父親から生まれたのに、俺は、認知もされ ないで、母親と一緒に、ゴミみたいに捨てられたんです」 さっきと違って、淡々と、あまり感情を込めないで物を言う。もうどうでもい い過去なのか、それとも、考えすぎるのが辛いのか。 「おまけに俺は親父と同じ名前だそうですよ。なんのこっちゃです」 はぁ、とついた溜息。だからか。だから、その呪縛から逃れられないのか。結 局母親も小学生の時に蒸発して、親戚の今の家の夫婦に引き取られたそうだ。一 杯愛情は貰ってこんな立派に(笑わせるつもりなのか?)育ったそうだが、どこ か欠けてしまったものは戻らず――― 「…同じ誰かを見付けて、空けられた穴を埋めてやって、それで自分の欠けた所 を補いたかったんでしょうね」 それで話は終わった。私は何も言わず、伊藤も何も言わず、沈黙だけが流れた。 寂しかったんだな、伊藤は。ぎゅう、抱き締めてやる。本当に、騙されてやれ ば、騙していれば良かったのかもしれない。穴は、多分埋まっただろうから。 「…こんな事、誰にも言いたくなかったのに。ずっと、黙ってるつもりだったの に、なんで言っちゃったんですかね」 本当に不思議だと言いた気に、伊藤はぼやく。本当にわからないんかな? 「そりゃ、伊藤が救って欲しかったんでしょ。誰かに」 「…千佐子様に?まぁ、そうでしょうね。好きじゃなかったら、あんな醜態、晒 さなかったでしょうしね」 力無く、笑う。あ、そうか。知らないんだ、伊藤は、私が伊藤を好きな事って。 私は伊藤から一旦離れると、もそもそと伊藤と顔を合わせるように移動する。 すぐにでもキス出来るような、そんな位置。電気は付いたままだったから、顔が よく見える。 「千佐子様?」 「…好きだよ、伊藤の事」 そう言うと、初めて、自分からキスをした。 「…嘘。どっ、同情、とかでなくて?」 がば、と起き上がる。視線は、じゃあさっきはなんだったんだと、言いた気だ。 私は寝転がったまま。 「わからない、って言ったじゃん。それで、考えて、結局、好きだったんだって、 わかった」 抱き締めたい。キスしたい。今は、ちゃんと自分から思える。こうやって、伊 藤が私自身を必要としてくれるってのもわかって、尚嬉しい。 起き上がったままの伊藤は、なんだか泣きそうだ。私は手を広げて『来て』と 言った。少しだけ迷って、伊藤は来てくれた。 暫く、布団の中でキスしたり、じゃれ合ったりしていた。幸せで、楽しくて、 ずっとこうしてたいって思った。けど。 「…わ」 私が上になって首を締めてた時、不意に伊藤は真面目な顔になって、その癖、 私の胸を鷲掴みにして来た。 「や…なに、どうしたの?」 「どうした…って、千佐子様、嫌なんですか?」 ストレートに、意地悪く聞いて来る。顔、真っ赤になるのがわかった。少し、 覚悟はしてたけどさ。でも、でも、やっぱり、ちょっとな。 「…嫌、じゃ、ないけど…んっ」 嫌じゃないとわかった瞬間、キスして来る。さっきまでキスしてても、ただく すぐったくて、好きだって思うだけだったのに、今は、なんだか…ドキドキして 来る。胸を掴まれてるってだけじゃなくて、なんだろう…期待してるの…かな? 「や…」 パジャマは大きかったから、ボタンを外さず上着の如く脱がされた。 色気も無しに、そのまま下着ごとズボンも脱がされる。布団の中で、裸にされ てしまった。なんだか悔しくて、反撃とばかりに私も伊藤の服を脱がせる。ええ い、でかいからやりにくいわ!! 「お前、自分で脱げ!!」 「…千佐子様、漢らしー…」 ちょっとした剣幕に、半分呆れながらぼやいた。後、ちょっと不満がひとつ。 「様は、嫌…」 様付けで呼ばれるの、嫌だ。せっかく、恋人になったのに。じとー、とした視 線を向けると、伊藤は笑って。 「サマワ、嫌ですか。俺もちょっと住みたくはないですね」 …と、はぐらかす。私はすっげぇむかついて、今度は本気で首を締める。あっ さりギブをした伊藤は、何度か咳き込んで、私を抱き締めた。 「…冗談ですって…千佐子。でも、俺だっていつまでも伊藤は嫌です」 背中をさわっ、と、なんだかいやらしい手付きで撫でる。ちゃんと呼ばれた事 と共にゾクゾクしながら、私は千尋にキスをする。 「うん、わかった。大好き、千尋」 嬉しくて、どうしようもなくて、千尋にしがみついた。が、しかし。 「あの、普通、下って私じゃないのかな?」 知識は漫画とか雑誌とかその辺しか無い私でも、この体勢は違和感を覚える。が、構わず千尋は笑う。 「いいんじゃないですか?こういうの、やり方のマニュアルなんて本来無い筈な んですから。千佐子様攻めでお願いしますよ」 相変わらずとんでもない事を事も無げに言ってくれる。 「ちょ…待って、待ってよ、私、初めてなんだよ!?わかんないよ…」 本気で困る。どうしていいか、よくわからないってのに。 「あ、じゃあ俺も童貞です。ですからやり方変でも笑いませんよ」 にこー、と笑う。こいつ、もしかして一度フッたの、根に持ってるんじゃ… そう思いつつも、少しドキドキして、やってみたい気持ちも無い、訳じゃない。 こいつが本当に童貞だとしたら、私の好みに調教してやるんだから…! 「じゃ、千佐子行きまーす!」 「…似てますね」 首を傾げながら、呟いた。 「…基本的に、舌を使うと気持ちいいもんですよ」 のっけからアドバイスをくれるな。舌打ちしながら、とりあえず電気を消して 真っ暗にする。 「うわー…」 思い切り落胆した声。うるさい、恥ずかしいんだ。手探りで顔を探し当てて、 とりあえず、キスをする。舌…か。ディープなキスとか…か?少し開いた唇の中 に舌を差し込む。舌先で、舌を突付いてみる。ざらざらしてる。手が開いている ので、さっきのお礼とばかりに胸を触る。揉み甲斐の無い胸だこと。 …反応があんまり無いから、胸はやめた方がいいと判断して、キスに集中する 事にした。さっきもそうだったけど、キスだけで、結構興奮するものだ。 口の中の色々な所を舐めると、たまにぴく、と反応がある。それが、なんだか 楽しくもあり、そうなる度に自分がいやらしく思えてしまう。身体を密着させる と、千尋の胸板に胸を押し付ける格好となる。その状態で身体を揺すると、乳首 が擦れて、気持ち良かった。 口の中だけじゃ物足りなくなって来ると、一旦唇を離し、耳朶を舐める。それ だけじゃどうもならなかったけど、耳の中を舐めて見ると、少しぞわっ、と鳥肌 が立った。面白い。 「千尋…気持ちいい?」 耳元で、囁く。ふっ、と息を拭き掛けてみると、余計鳥肌が。可愛いな。 「はい、いいです」 髪を梳いて、今度は千尋からキスをして来た。しがみ付いて、離れたくないと 何故か思った。 「あっ…!」 不意に、千尋が乳首に触れた。擦れて、膨らんだ乳首がまた硬くなる。指で円 を書くように擦られると、声が漏れてしまう。きっと、真っ暗な中で私が出した 声を聞いて、淫らに歪んでいるだろう顔を想像して、笑っているんだろう。 「千佐子の声、もっと聞きたいんですけど」 私の身体を倒して、抱き締める。心なしか楽しそうなその声は、何故かもっと、 いやらしい事をしたい、という欲を駆り立てる。でも、本当にどうすればいいん だろう。はぁ、はぁ、とお互いの息遣いだけが響く。 ふと、自分が一体何をしているのかに気付く。そうだ、する時って、何を使う かを忘れてた。私は身体を起こし、乗っかったまま、後ろ手で…大きくなってた 千尋のを触る。あまりに唐突だった為か、千尋はびっくりして声を上げた。 「…こんなになるんだ…これって…」 興味を大幅に惹かれて、身体の位置を変えて、これを触りやすい方にまた乗っ かる。つまりは、千尋に背を向けるように座った。 「あ、重くない?」 「大丈夫ですけど」 暗闇の中で、千尋のをべたべた触る。それは熱くて、おっきくて、正直…あの。 「こんなん、入るの…?」 声が、弱々しくなる。が、千尋はやっぱり事も無げに。 「入りますよ。子供が出て来るんですし、今までも大丈夫でしたから」 「やっぱ、千尋童貞じゃないんじゃんか…」 私の言葉に、1本取られました、みたいに『あ』と言った。まぁ…いいんだけ どさ…じゃあ、仕方ない…行くか… はぁ、と溜息をついて、腰を上げる。入れようとするけど、上手く入らなくて、 滑ってしまう。 「や…んっ?」 あそこに擦れて、感じてしまう。思わず、鼻に掛かった声が出た。 「…ちょっ…と千佐子、もう入れる気だったんですか?」 うわぁ、馬鹿にされてもうた。でも、でもさ。 「だって、よくわかんないよ…なんか、もっとする事あるの?」 「ありますよ…」 呆れてしまった。あるんだ…じゃあ、他にする事といえば…そういえば、まだ 濡れてないよな。でなきゃ痛いんだろうし。そういや、自分でするんだったら、 もう少し、こう…いや、でも2人でするんだから… 「千佐子、俺ちょっと調子に…」 「あ、ごめん、もう少し寝てて」 千尋がなんか言ったような気がしたけど、聞こえなかった。どうせ見えないん だから、と足を広げて、千尋のにくっつけるように跨る。今までので、ちょっと は濡れてるし、自分からこういう事をする、という事で大分興奮してる。 「…ち、千佐子?」 「なに?」 「いや、別に…続けて下さい、後、電気点けていいですか」 「却下」 物凄い名案みたいに言いやがって…恥ずかしいんだぞ、客観的に考えると… 「ん…」 千尋のに擦り付けるみたいに、腰を動かす。まぁ、指でする時の要領で。熱く て、ドキドキして、あそこが疼く。気持ちいい。 「千尋…ぁっ…ん…」 身体の奥から、蕩けるような感覚。私の中から溢れて来て、千尋のに塗り付け るみたいにまた刺激する。指で触れてみると、千尋のは、私のせいで随分濡れて いた。1人でするよりも気持ち良くて、もっといやらしい気分になって、もっと 激しく続けてしまう。 「千尋っ、いいよう…んっ、もっと…あっ…」 次第に、私の喘ぎ声と、擦れる時の水音しか耳に入らなくなる。気持ち良くて、 自分の胸を自分で触る。さっき千尋にされたのを想像して、千尋にされてる気分 で、乳首を摘む。本当に、1人でするよりも、ずっといい。けど。 「…あの、すいません、千佐子様…」 不意に、声を掛けられてしまう。 「ん…なぁに…?」 声も、いつもよりもなんか、けだるい。 「あの、気持ち良くなってる所すいません、あの、俺もいいんですけど、これは あの、セックスでなくて、千佐子様の俺を使ったオナニーじゃないかと」 「…ん、そう、なの?…あ、いやぁ…」 千尋の家の電気は、紐が長いから寝ていても手を伸ばせば電気が付く。ぱっ、 と部屋が明るくなると、途端に恥ずかしくなって来る。 「や、いや…電気、消して…」 「千佐子、そんな顔してたんですか…やっぱり点けて置けばよかった」 そうこぼすと、こっちを向かせる。相変わらず跨って見つめ合う状態。恥ずか しい。でも、さっきの顔や格好、見られないで良かった。 「…あーあ、ここ、こんなにトロトロにして」 「ふぁ…あっ」 千尋が、指であそこに触る。簡単に指を受け入れてしまう。 「あっ…ん、いい…の…」 指が、気持ちいい。擦り付けてるだけでも良かったけど、でも、やっぱり千尋 にされると、もっといい。 「思ったよりもエッチですねぇ」 「別に…違うもん」 あそこから手を離して、腕を広げる千尋。抱っこして欲しくて、すぐに抱き付 く。千尋の、身体に当たってる。 「千尋だって、やらしいじゃんか。ここ、こんなになってる」 「そうですよ、千佐子の中に入りたいの待ってるんですから」 相変わらずの物言い。でも、ああ、そういう事かと気付いてしまう。 「…ごめん、あの、私ばっか良くなって」 さっきの、オナニーだって言われたけど、確かにそうだ。千尋を使って、勝手 な事しちゃって… 「いえ、ですから俺も良かったんですけどね。ホントに」 …ホントかな?まぁ、でも、いいや。すぐ千尋も気持ち良くしたい。私は千尋 にキスすると、腰を上げて、またさっきみたいに狙いを定める。 「入れる、よ…千尋」 「いいんですか?」 うん、と頷く。今度は、一杯濡れてるから、入りやすい筈だ。初めては痛いっ ていうけど… 「っ…」 割と、心配していたよりはスムーズに、ぬるりと入って行った。けど、やっぱ りある程度まで埋まると、次第に。 「っう…っ…いっ…ち…ひろ…」 これ以上、奥に入らないようにして、千尋にしがみ付く。痛いものは、痛かっ た。千尋はぎゅっ、と抱き締めてくれた。 「だから、いいですかって聞いたのに…」 「…え?」 どうも、行き違いがあったらしい。私は入れていいかと思ったんだけど、千尋 はこの体勢でいいか、と聞いたみたいだった。正直、言葉が足りないと思う。千 尋はそっと、なるべく動かないように、私を抱き締めてくれた。 「…寝転がります?」 「つっ…ん、いや、動かない…で…」 …なんとなく、そっちよりは、こっちの方が甘えられるような気がした。しか し、痛い。ちくわにキュウリを入れるくらいの感じかと思ってたけど、実際はか まぼこに切れ目を入れて、無理矢理キュウリ突っ込むようなもんだった。 知らず知らずの内に涙が流れて、千尋にしがみ付いていた。 「千佐子」 名前を呼ばれ、上を向く。初めてキスされた時みたいに、頬に軽くされる。 「…千尋、大好き」 「俺もです」 明るい部屋の中、抱き合う。千尋の事、大好き。他の事、全部忘れるくらい。 今日の日の事、多分一生忘れない…色んな事、込みだけど。あーあ、忘れるとか いって、思い出しちゃったよ。 暫くじっとしてると、なんとか痛みも引いて来た。少しくらいなら、動いても …大丈夫かな? 「…千尋、動いていい?」 「動くんですか?」 「動くんです」 さっき、気持ち良かった。だから、今度は千尋の事、気持ち良くする。ゆっく り、少しずつ、動く。 少しだけ、ヒリヒリするけど、死ぬ程じゃあない。 「ん…千尋、気持ちいい?」 正直、私に快感はあんまり…無い。さっきの方が気持ち良かった。けど、明る い中で、顔を紅潮させて、じっと私を見る千尋がいると、自然と気分も昂ぶって 来る。私の中で千尋が出たり入ったりして、いやらしい音を立てて、千尋がこん な表情をしていて、そんな事実が、余計に。 「千尋…んっ、千尋っ好き…」 何度もキスをして、言葉で、確かめ合う。いつの間にか、私も気持ち良くなっ て、さっきよりも良くなって、頭の中が千尋だけで一杯になりそうだった。けど。 「…千佐子、ごめん、俺―――」 不意に、布団に寝かせられる。ずるっ、ていう感じで、千尋のが抜かれる。あ あ、そっか。千尋、もう…そう思ったら、私のお腹や胸に、千尋の…精液が降り 掛かった。 「っておい!?」 ノリツッコミみたいなツッコミが入る。興味本位で、手で掬って、舐めてみた。 苦くて、変な味だった。美味しいとは思ってなかったけど。 「にがい…」 「…そりゃ、甘かったりしたら問題ですよ」 そう言って、隅に置いてあった新品のティッシュの封を切って、身体を拭く。 「ここも、綺麗に…って、千佐子、まだ満足してないですよね?」 …まぁ、そう言われると…うん。心情的には、満足してるけど。でも。 「でも…もう、今日は…あそこ、ジンジンするの…」 ちょっと無理したってのもあるけど…だから、また入れられても、ちょっと困 る。今みたいに気持ち良くなるのに時間掛かっちゃうだろうし。 「そうですか、じゃあ、こうしましょう」 そう言って、千尋は私の足を自分で広げると、顔を股間に埋めて――― 「ちょっ…えええっ!?」 舌で、私の…あそこ、舐めた。そりゃ、基本的に舌を使うと気持ちいいって、 言ってたけど…あったかい舌が、感じる部分を突付く。 「やっ…やだぁ…ん、千尋、やだ、そんな所…」 わざと啜るような音を立てて、舐める。恥ずかしくて、そんな所、じろじろ見 られてると思うと、死にたくなる。 「やですか?じゃあ、こっちにしますか」 つぷ、と、舌が中に入って来る。 「ひっ、ああああっ!?ちょっ…おっ、同じ、同じだからぁっ…!」 中を、口の中みたいに舐められる。さっきの私みたいに、執拗に。唾液と同じ で、舐めても舐めても、溢れて来る。 「いやぁあっ、駄目、だ、め…しちゃ、やぁ…っ」 出来るだけ私の足を広げようとしてる。それも恥ずかしくて、私の下半身にむ しゃぶりつくような格好の千尋の頭を追い遣ろうとするけど、力が入らない。次 第に、やめてとも言えずに、喘ぎ声しか出なくなって、されるがままとなった。 …千尋の舌、気持ちいい。さっき、自分でしてたよりも、ずっと、ずっと。 「っうっ…ああっ…あ、う、あああっ!?ち…ひ…っ」 びく、と、自分の中で、何かがこみ上げる。身体中がびくびくして、声もまと もに出なくなる。 「あ…あ…ああっ!?」 正直、心臓ヤバくなると思った。身体中が震えて、気持ち良くて、でも、それ が終わった後、ちょっと心臓がどくんどくん高鳴って、びっくりした。あそこも まだヒクヒクしてて、動けなくなってしまった。 千尋は、そんな私を見て、満足そうな顔しやがって。私の横に寝転がって、一 緒に布団に包まる形となった。 「眠れませんか?」 ドキドキしてたのが治まった頃、千尋は声を掛けて来た。 「…あんまり。やっぱり、こういう時って…ね」 ひょ、っと簡単に復讐方法も思い付いたので、その事には触れず話す。 千尋は微笑んで、ちゅ、とおでこにキスしてくれた。 「…お話、しましょうか」 腕枕をしてくれて、ちょっと幸せ気分になってから、ふとそんな事を言った。 「うん、お話、して」 少し、表情が寂し気だった。 「俺、幸せな家庭に引き取られた癖に、一時期グレていたんです」 あー、そうなんだ… こうやって、黙ってた事、少しずつ吐き出して、私でガス抜きをしてくれると、 凄く嬉しい。 「何かが虚しくて、でも、どうする事も出来なくて、俺は家にも帰らず、ケンカ と、バイトと、ボランティア活動に明け暮れていました」 …えーと。 最初はともかく、真ん中微妙で、最後は、完全にいい子じゃねぇか。 「でも、けして両親は俺を見捨てませんでした。そして、両親の説得もあって、 17の夏、俺はケンカもバイトもボランティア活動もやめました」 いや、真ん中と最後はやめんでも… 「今、俺がこうしていられるのも、両親のおかげなんです。そして」 「……?」 ちゅ、と私にキスをした。 「俺、もっと幸せになりたいです。もう、傷付くのを慰めるとか、そういうので なくて。純粋に、貴方といたいです。そしたら、俺はそうなれます」 笑顔で、のたまいやがった。うわ…どうしよう、また、心臓ドキドキして来た。 千尋はわたわたしている私をじっと見て。 「…まぁ、これも嘘なんですけどね」 と、これまた爽やかに言い放ちやがった。 「どこから!?」 私は突っ込むが、千尋は何も言わなかった。まぁ、こいつって、そういえば最 初からそういう奴だったし…重い溜息をついて、眠る事にした。が。 「もうひとつ、嘘の話してもいいですか?」 「今度は最初から…?」 なんか疲れたけど、やっぱり眠れそうも無いので、聞かされる羽目になった。 千尋は笑うと、また、話し出した。 「…俺、本当は鈴原先生とキャラ丸被りな性格なんですよ」 あー…今度も、なんか納得する。ていうか、嘘か。 「それで?」 「それもその筈なんですよね。俺と鈴原先生は同じ日に、同じ父親で生まれた異 母兄弟なんですから」 ―――え? 質問するより早く、もう片方の手で千尋を私を抱き寄せる。 「おかしいんですよね。正直、藤乃原の家で出会うまで顔も知らなかったのに、 俺はそれまであの父親も、その息子も殺したい程、憎んでいたんです。関係無い のに。きっとあの人は、同い年の腹違いの兄弟がいるなんて事も知らない筈なの に、それすら腹立たしくて、憎くて憎くて、本当は、顔を合わせれば首を締めて しまいそうで…だから、だから俺、自分を隠す為に、無理して誰にでも敬語使っ て、本当の自分を隠して、自分を抑えてました」 …千尋の胸の中で、今度こそ私は何も言えなかった。きっと、何を言っても正 解でもなく、望まれても無い言葉だと思ったから。 代わりに、抱き締めた。強く強く、全てのものから守るみたいに。千尋も、私 を抱き締めた。 「―――でも、それももう終わりにします。俺には貴方がいますから」 …嬉しかった。その言葉が。嘘の話で、つまらない話で、二度と思い出さない でいいような話だったけど。 私も、千尋がいるから。だから、強くなれる。きっと、幸せになれるから。 「あ、そうだ」 急に、千尋が言う。話を逸らす為か、本当に思い出したかはわからないけど。 「今度から、イク時はちゃんとイクって言って下さいね」 とりあえず、思い切り背中をつねってやった。物凄い勢いで謝られた。 次の日、朝はおかゆを作って貰って、早い内に藤乃原の屋敷に―――今日から の私の家に帰った。 車をガレージに止めて、正面玄関から帰る。時間は指定していたから、なんと 玄関先に叔父さんも、浩司も誠司もいた。 「…ただいま」 「千佐子ちゃん…あの」 叔父さんが、申し訳なさそうに私に近寄る。浩司も、誠司も、表情は暗い。 「いいんです。全部カタは付きました。これからは、脱走もしませんし、言われ た通りにします」 そう言ったのに、叔父さんの表情は暗い。 「…それは、自棄になっての言葉じゃないんだね?」 「はい。ならないでいいならなりませんけど」 その言葉に、叔父さんは吹き出してしまう。まぁ、本気で言いましたが。 「すいません、勝手な真似をしました」 私の後ろで、千尋が頭を下げる。安心してね。次期当主権限でクビにはしない からねー。 「…そうだな、だが、千佐子を思っての事だったんだろう?」 おお、寛大だ。やっぱアンタ当主になれよ。あ、そうだ、言わなきゃいけない 事、あったんだ。 「ねぇ、叔父さん。ひとつだけ、私が言う事聞く条件出してもいいですか?」 「なんだい?叔父さんと3泊4日でデ○ズニー○ーに行きたいのかい?」 「あ、それは半永久的にいいです。あの、婚約者いましたよね?私、あいつ嫌で す。あいつと結婚しないでいいなら、という話です」 その言葉(どっちかは知らないけど)で、う、と苦い顔をする叔父さん。でも、 悪い条件じゃあないしな。 「…まぁ、いいんじゃないですか?父さん…ここでごねて気が変わられてもアレ ですし」 ナイスアシスト誠司。お前、絶対私が当主になる事で将来苦労するの丸わかりなのに、いい子だ。 はぁ、と溜息をついて、とりあえずはOKサインを出してくれた。 「しかし、悪知恵が付いたなぁ、お前」 お、来たな浩司。その言葉を待っていた。私はなるべく天然を装って。 「まぁ、昨日布団の中で千尋が色々教えてくれたから」 …その言葉で、確かにその場、周りにいた4人が凍り付くのを、私は見た。そ して視線は一斉に千尋の元へ。私、千尋の前にいるから知らないけど、どんな顔 してるのかは想像付く。既成事実、先に言った方の勝ちだ。後から別の婚約者連 れて来られても困るから。 「ちっ…ちちちちちちち千佐子ちゃん、あの、あ、ふ、布団って、あの、え?ど んな事を教えて…」 「えっとー、基本的には舌を使うと気持ちがいいとか、イク時はちゃんとイクっ て言った方がいいとか…他にもいっぱい」 あ、叔父さん死にそうな顔してる。浩司と誠司も、青い顔をしてこっちに向か って…てか、千尋の方に向かって行った。 「…千尋ちゃんよ、その話、よぉぉぉぉおく、聞かせてくれね?」 「すいませんが、千佐子さん、伊藤をお借りしますね」 両脇を2人に固められて、千尋は蒼褪めて声も出ない状態だ。そのまま連行さ れる。頑張って言い訳してね、私達2人の幸せの為に。 ばいばーい、と手を振っていると、叔父さんがやっと復活して、私の方を見て いた。 「…どうしてそんな事に…」 「あ、いいんですいいんです。最近は女子高生でもばかすかやってる時代なんで すし、合意の上です。まさか、当主になるのに、好きな人も選ばせてもらえない っていうんですかぁ?」 暗に、いざとなったらまたお母さんみたいに駆け落ちするぞ、という態度をす る。まぁ、しないし、するつもりが無いから、先手取った訳だけどさ。あ、そう だ。私はごそごそ紙袋の中から、人形を取り出し、叔父さんにわたす。 「…これは?」 「お母さんの形見です。先代の仏壇にでも供えて下さい」 叔父さんは、暫く人形を見つめたまま、無言だった。一言『ありがとう』と言 って、内ポケットにしまう。いや、叔父さんにあげた訳じゃ無いんだけど。 …しかし、大分意気消沈してるな。私は叔父さんの手を引っ張って、休憩所に 連れて行く。お茶を注いで、叔父さんに出した。大きな溜息。 「千佐子ちゃん、結婚前に叔父さんと軽井沢にでも旅行に行かない?叔父さん、 娘も欲しかったんだけどなー、もう誰かのものになっちゃうなんて…」 「いやー、相変わらずここの玄米茶は美味しいですねぇ」 叔父さんの提案を無視して、クッキーの包みを破る。なんかまだ叔父さんぐち ぐち言ってるけど、無視した。 …さて、これからやらなきゃいけない事、がっつりあるだろう。まぁ、なんと かなるな。皆がいてくれるんだし、何より千尋がいてくれる。それだけで、不安 は無くなる。アホみたいだけど、そういうもんだ。 とりあえず、まずは… 「叔父さん、私、千尋の様子見てきますね」 従兄弟達に、どんな折檻受けてるのかを考えると、えっらいワクワクして来た。 力の無いおじさんの『いってらっしゃい』を聞いて、私は歩き出した。 …まぁ、これからおっかない舅が2人付くのは気が重いだろうけど、頑張れ千 尋。私のせいだけどね、まぁ、とにかく頑張ろうな。あと、ホントごめんな。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |