シチュエーション
![]() がらり。 「…早っ」 「詐欺…」 誠司が予想よりも早く服脱いで、腰にタオル巻いて入って着た事に対しての私 の言葉と、多分、誠司のは…私が身体にタオル巻いていた事に対してだろうか。 「詐欺ってお前、ていうか、早いな、お前も」 「早いでしょう、普通そんなお誘いを受けたら」 完全に開き直っているのか、誠司は普通に桶でお湯を掬った。 「お湯、ぬるくないですか?江戸っ子でしたらもっと熱く…」 「お前、どこのじいさんだ。いいの、傷に染みるんだって」 精神的にはともかく肉体的にはゆったりしていたので、身体は結構良くなって いた。誠司がちゃんと治療してくれたのもあるけど。 「そうですか…そうですよね、すいません」 シャンプーとリンスを一緒に手にとって、がしゃがしゃ頭を洗い、ヘチマにボ ディーソープをぶっ掛ける。誠司は、意外とガサツな面もあると思う。 「別にどうでもいいんだけど…シャンプーとリンス一緒にするとあんまり意味が 無いって、聞いた事あるよ」 なんだかこういう所を見ると、誠司も可愛く思える。 「そうなんですか」 全然、気にしてなさそうだ。こいつそのくせ髪の毛お綺麗だったような気がす る。ムキ―。私は風呂から出て、身体を洗っている誠司からヘチマを奪い取る。 「背中、流してあげる」 「…あ、ありがとうございまいたったたたたたた!?」 がっしゃがっしゃ、と、少々力を込めてやる。あ、赤くなった。シャワーのコ ックを捻って、大分冷たいお水をぶっ掛ける。 「つっ…ぬああああああ」 泡が、一気に落ちる。頭から背中から、泡が落ちて行く。鏡にも掛けたから、 ぐぬあああああああああ、と悶えている誠司の顔が見える。可愛い。 「…こっ…殺す、気、ですか…」 恨み節の入った誠司を無視して、私はまた湯船に逃げる。はぁ、と誠司は溜息 をついて残りの泡をお湯で流した。そんでもって。 「失礼します」 静かに、誠司が湯船に入って来た。 …なんだか、凄く変な感じだった。 「…話、する?」 急に会話が途切れて、どうしようかと思って、そう言った。 「別に、無理してする必要はありませんし」 そう言うと、誠司は眼を閉じた。まぁ、そうなんだけどね。この、何も話さな い状況が…全然重苦しくない。寧ろ幸せ。ずっとこうしてたいと…思ってしまう。 「…うん」 私も、沈んじゃいそうなくらいに身体を伸ばす。おっきいお風呂って、本当に 気持ちいいな。 「色々落ち着いたら、どこかへ行きません?」 おい、さっきの言葉はどこへ行った。苦笑しながら、いいね、と返す。旅行な んて、全然行った覚え無いからな。誠司とだったら、どこでも楽しいかも。 「…千佐子さん」 「ん?」 誠司が、笑う。けど、今までと少し違う。どっちかって言うと、悪戯っぽい… く、と身体が引っ張られる感覚。それもそうだろう、誠司はいきなり私のタオ ルを――― 「ひゃ…!?」 慌ててタオルを取り返そうとするけど、そんなの、裸で誠司に突っ込むのに変 わりないじゃないか。気付いた時には、誠司に抱き締められていた。 「ちょ、あの、せ、誠司、いや…」 「…嫌も何も、わかってましたけど、普通入浴に誘うって、無いですよ?」 きゅうう、とまるで私の身体を自分に押し付けるみたいに抱きすくめられる。 いや、あの、確かによく考えればそうだけど…でも… 「嫌なら、すぐ止めますけど。その代わり僕、三日は泣き暮らしますからね」 そ、それは、あのもう既に脅迫じゃ…でも、正直断っても私に被害は来ない脅 迫だ。 「…第一、なんで自分の中のレギュラー物を好きな人の隣で見て、その後一緒に 風呂に入らなきゃいけないんですか…」 誠司が抱き締める力をどんどん強くして来る。ああ、ナルホド。 「誠司、あの、発情しちゃったの?」 …言い方、ものっ凄く悪かったかもしれない。誠司はぺし、と私の頭を叩いた。 「しましたよ、ええ、大いにしましたよ」 さっきから、あの、当たってる。誠司の…うわああ。 「…由愛子?それとも…私?」 ちょっとテンパりながら、どえらい事を口にしてしまう。誠司は脱力して、私 の肩に顎をのっける。 「あんまり、由愛子由愛子と連呼しないでいただけますか…そっちは、もう出し てきましたから…」 「え?…う…ん…?」 言葉の意味を考える間も無く、キスされる。誠司の手が私の胸を包むみたいに 触ると、なんだか鳥肌が立った。嫌なのか、そうでないのか、判断もつかない。 「やぁ…誠司…」 誠司が、私の胸を触っている。こんな事になるなんて、思ってなかった。誠司 が、こんな事、私にするって…どこかで、ぶっちゃけありえないと思ってたし… 「っ…や、やだ、誠司、誠司ってば」 もう片方の胸…てか、乳首を、口に含んだ。変な感触。唇だけで挟むようにさ れると、本格的にぞわっ、としてしまう。 「千佐子さん、痛いです」 いつの間にか、誠司の髪の毛を掴んでいたらしく、抗議の声が上がった。 「だ…っ、だって、こんな、の…」 おっかない。誠司と、いやらしい事のイメージが、理屈でわかっていても、ど こか繋がらなくて、なんだか凄く悪い事をしている気分になる。 「こんなの?」 誠司が、少しからかうような声で、聞いて来る。その間にも、私の身体を逃が さないように押さえ、胸を揉み続けている。 「…嫌ですか?」 身体の奥が、熱くなって来る。誠司の手が身体を這い回る度に、怖いのと、少 し物足りない、という気持ちが強くなって来る。 「千佐子さん、今なら土佐犬にも負けそうですね」 比べるモノが、違う気がする。意地悪だ、こいつは。元々だって、熊なんか倒 せる筈が無いのに。それだって、嘘だって知ってる筈なのに。 「食べる量の割には、あまり出てる訳でもないですし」 「あっ…」 お腹を撫でて、耳元で『胸もですけど』と嫌味を言う。誠司の、ダイレクトな セクハラは、リアクションに困る。けど、とりあえず胸については由愛子を標準 にされちゃたまんねぇ。 「…小さい方が好きだって、言ったくせに」 回らない頭では、この程度の返ししか出来ない。馬鹿丸出しじゃん、私。 「好きですよ」 笑いを堪えながら、言う。馬鹿にされてるよ、やっぱり。腹立たしい。誠司は 私をお風呂の縁に座らせると、下から私の身体を舐めるみたいに見た。 「ただ、小さいからでなくて、貴方ですから、貴方の小さい胸が好きなんで」 かこーーーーーーーーん、と手近にあった桶で誠司の頭を思い切り殴った。お 前、それは言い過ぎだろうよ。 頭を擦りながら、誠司は涙眼でこっちを見る。 「…容赦無いですよね、千佐子さん…」 「おうよ」 ふん、と誠司を蹴ってやる。 「今のは、僕が悪かったです」 すいません、と謝ってくれるのはいいけど… 「誠司…」 太腿を撫でながら、首筋を舐められる。ぞくぞくして、押し退けようとするけ ど、その前に唇は少し下に移動する。くっ、と胸を掬い上げると、赤ちゃんの如 く吸って来た。 「あっ…待って、や、そこ、や…」 太腿を擦っていた手が、内腿に移動する。誠司の指が、触れる。 「やっ…あ!?」 逃げようとしたけど、下半身押さえ付けられてたから、そのまま寝そべってし まう形になる。当然、誠司に見せ付けるような格好になってしまう。 「やだ、や、誠司…!見ないで…」 「…嫌です」 即却下。誠司は脚を閉じないように手で押さえ付ける。明るい中で、私は全部、 誠司に曝け出す格好となってしまう。 「やだぁ…っ…」 恥ずかしくて、怖くて、涙が出て来る。誠司の顔が、見れない。そんな所、自 分だってじっくり見た事なんか無いのに。 「っ…!」 つ、と、誠司の指が触れる。お湯かどうかはわからないけど、そこは濡れてい て、簡単に誠司の指を受け入れてしまう。 「誠司、やめてぇ…こんなの、や…あっ…ああ」 指が、もう少し奥まで入って来る。 そう思ったら、指が、抜かれる。が、また。音を立てて、誠司の指が私の中を 行き来する。 「あっ…あああっ!?」 不意に、誠司が口を付けて来る。自分でも、触った事あるけど、一番感じる場 所。強く吸われると、誠司の指を締め付けてしまう。それがまた良くて、もっと 刺激を求めてしまう。 「ふぁ…あっ…誠、司…い」 眼の前がぼやけて、明かりだけをみつめてしまう。自分の中から、お尻に伝う くらい濡れて、それが舐め取られ、また溢れ出す。 「いやぁ…」 快感に負けたくなるのと、恥ずかしいのとがぐちゃぐちゃになって、逃げ出し たくなる。頑張れば、すぐ逃げれるようなもんだけど、力が抜けてしまって、ど うしようも無い。 …嫌、じゃないんだけど、でも、やっぱり慣れてない?ようなもんなんだろう か。不意に、視界が暗くなる。誠司が、私を見下ろしてる。今、私はどんな顔を してるんだろう。 「千佐子さん…」 ぎゅう、と抱き締められる。どうして?なんで、こんな怖いの? 「―――貴方を、誰にも渡さない」 そう、抑揚の無い声で呟く。声だけなのに、それだけで、抱き締める腕も、体 温も、全てが怖くなった。 「や…あっ、放して、誠司、なんか、怖い…」 誠司が、どっかおかしい。それなのに、誠司自体が何かを怖がってるみたいで、 どうすればいいんだ。このまま、誠司の好きなようにさせれば、収まるのか?て いうか… 「渡さないって…誰に…」 誰にって…こんな私なんぞ欲しがる奴がいるのか?そういえば…誠司が言って いたような気が…―――あ。 「…叔父さん?」 もしかして、本当に、そうなのか?てか、誠司、心配性過ぎないか? 「誠司、そうなの?そんな、叔父さんの事―――」 抱き締める力が、緩む。慌てて誠司の顔を覗き見ると、茫然とした顔で、私を 見てた。でもって、その呆然とした顔が、次第に悲しそうな顔になる。もしかし て、本当に、確証があって…言ってたのかな。誠司がこんなんになるって、相当 だと思うし。 「誠司、もしかして、何かあったの?」 泣く寸前くらいにまでなった誠司を、私は抱き締める。暫く震えていたけど、 観念したように、ぽつぽつと喋り出した。 「―――貴方を地下牢に入れた後、父さんに、経緯を話しました」 うわ。忘れてたけど、私自爆したんだよな。道理で杖ついてたのに、叔父さん と浩司からツッコミ無かった訳だ。 「先に、貴方の怪我の事を伝えて、それから、説明しようとしたんです」 言いにくそうに、言葉を一生懸命選んで、誠司は言う。 「…その時、父さんは、確かに言ったんです」 誠司の表情が、曇る。じわ、と涙が浮かんだ。誠司が、泣いてる。それだけで も凄くびっくりしたんだけど、誠司が言った言葉に、もっと驚かされた。 「…理佐子に、何をしたって…」 誠司は、震えた声でそう言った。 叔父さんの様子は、尋常じゃ無かったそうだ。誠司の胸倉を掴んで、本当に、 おかしくなったんじゃないか、と思うくらいの剣幕で。すぐ、戻ったそうだけど。 「僕は、ずっと父さんが何を考えているか、わからなかったんです。父は、ずっ とお祖母さんに逆らっていたのに、お祖母さんがおかしい事くらい、子供だった 僕にもわかっていたのに、でも、父さんはずっとお祖母さんの側に立って…」 誠司は、私にしがみ付いて、急に話が飛んでしまった。けど、誠司は大分興奮 してしまっている。私は誠司を抱き締めて、とりあえず、全部吐き出させる事に した。 ―――どうやら、誠司も、浩司も、ずっと、それこそ、このくそ厄介な遺言を 残した前当主―――私のお母さんと、誠司達のお母さんのお母さん、即ち私達の ばぁちゃんに虐げられていたみたいだった。 駆け落ちしたお母さんを、ばぁちゃんはずっと探していた。 その間、お母さんの妹の子供で、身体の弱い浩司と誠司は、ばぁちゃんに、絶 対に当主にさせないと、必要の無い人間だと、言い聞かされていた。 ばぁちゃん―――てか、ババァに謂れの無い貶めを受ける度、具合が悪くなっ て行った浩司を、いつまでもババァに苦しめられる元の父親、母親を、誠司は小 さい頃から守ろうとしていた。 けど、ある日を境に、父親も身体を壊し、亡くなった。 それから数年経って、今の父親―――叔父さんが入り婿としてやって来た。表 向きは母親を守っていたそうだけど、逆らい続けていた元の父親とは反対に、言 いなりとまでは行かないけど、意に添っていた。 それが、逆に自分達を守る為のものだと思っていたけど、今回の事ではっきり わかった。叔父さんは、お母さんを―――理佐子を自分の手中に納めたかっただ けだと。そしてお母さんが死んだ今、私を身代わりにしようとしていると。 だから、そうなるより先に、誠司は私を手に入れようとした。好きだって気持 ちはあるけど―――焦って、関係を持ってしまえば、既成事実さえ作ってしまえ ば、絶対に手が出せなくなると思って。 「…すいません。でも、これじゃ僕、あの人と何も変わらないですよね」 しゅん、となってしまった。本当は、叔父さんの事に気付きさえしなかったら、 お風呂の誘いだって受けなかったそうだ。もう少し、こういうのに疎そうな私が、 ちゃんと心の準備が出来て受け入れてくれるまで、待つつもりだったそうだ。 …つまり、誠司も、やっぱり浩司の弟で、私の従兄弟。ちょっと考え無しな馬 鹿なんだ。まぁ、私なんかよりは、ずっと優しくて、同じくらい不器用な。 わかってた筈なのに。大切な人を大切にし過ぎて、自分だけが背負い込んでし まうって、わかってたのに。 ―――誠司がこういう奴だから、私も、守りたいって、吐き出して、泣いて欲 しいって思う。ここに来て、やっと、はっきりわかった。私、誠司の事が好きな んだ。必死になって家族を守りたいと思ってるこいつの事…好きになってたんだ。 「…?」 静かに、泣いている誠司を、私は抱き締めた。誠司は、そんな私に戸惑ってい るのか、わたわたして手や首を動かしている。 「…好きだよ、誠司。ああいう事しなくたって、私はもう、誠司のものだから」 そう、正直に自分の気持ちを伝える。ぴた、と無駄な動きが止まった。そして、 暫くそのままでいて、それからまた暫くして―――誠司も、抱き締めてくれた。 あー、すっげぇ幸せ。半端なく癒される。が、ひとつだけ、心残りが。 「…あのさ、しよっか?」 ぶっ、と誠司が吹き出した。まぁ、唐突っちゃぁ唐突なんだけど…あの、悪い けど、私だって、中途半端なままだし…せっかく、素っ裸同士なんだし…何より、 私も出来れば…誠司とのこう、確証が欲しいっつーか。ああいう事言った手前、 なんだけども。 下を見れば、誠司のだって…あの、まだまだ元気だし。青少年の性欲をなめる なっつー話だ。ていうか、男の人のって、はぁー、こうなってるんだ。うわああ。 「っ…!?」 恐る恐る、触れてみる。熱い、大きい。こんなん…入る、んだよな。モザイク 掛かってたけど、入ってたし。好奇心もあって、由愛子みたいに口を開けて…は ちょっと怖いから、舌で突付いてみる事にする。 「っちょ…千佐子さん!?」 慌てて、私の頭をがっしと掴む誠司。手はいいのに口は駄目なんだろうか。 「せぇ…じ?嫌?」 なんか、物凄く焦った表情で、本当に舐めさせまい、としてるみたい。 「あ、あの、嫌、な訳は100ありませんけど、でも、千佐子さん無理をしてい ないですか?貴方、変な所で気を使いますし…」 …うわああああああ。誠司に言われちまったぁ。なんか、情けなくなって来る。 が、同時に大分嬉しい。大事にされてるなぁ、と実感してしまう。が、しかし。 「別に、無理してないよ。さっき、誠司同じ事してたじゃん。だから、私も」 がっしり掴む誠司の手をどけて、再度トライする。見るの自体初めてだけど、 これ自身が誠司だから、不思議とそんな怖くはない。かと言って日常的に出来る かと言われても困るけど。今は、大分やらしい気分にもなってるからかな。 ちろ、と舐めてみる。しょっぱい…んだかなんだかわからないけど、味云々よ りも…凄く『自分の意思でで男の人のを舐めてる』って事実が、どうしようもな くいやらしくて、恥ずかしい。舐めてるだけで、由愛子みたいに口いっぱいまで 入れてる訳じゃないんだけどさ… それでも、ずっと舐っていると、誠司のが私の唾液と、途中で誠司から出て来 た(とりあえず精液じゃないそうだ)ので、ヌルヌルになって来た。 私も舐めてる事で興奮してきたのか、そっと触ったら、同じくらい濡れていた。 「…千佐子さん」 誠司が、思い詰めたような顔で、キスして来た。こう言うのなんだけど、お前 私の数十倍は色っぽいな。ちょっとした嫉妬心を抱きながらも、誠司にしがみ付 こうとする。けど。 「誠司?」 誠司は私の身体をひっくり返して、四つん這いにさせる。 「誠司、こっちがいいの?」 やっぱ、由愛子がちょっと頭にあるのかなぁ。まぁ、由愛子は最初こそこんな んだったけど、終いにゃもう様々な格好でブチ込まれてたけどな。しみじみ思う。 気配り上手の誠司は下にタオルを敷いてくれている。でも、そうするって事は、 やっぱり、後ろからするんだろうな… 「…痛かったら、言って下さいね」 ぐっ、と腰を掴んで、そう言ってくれる。でも、多分歯医者と一緒で途中で止 める事は無いんだろうなぁ。 「―――っ…」 ゆっくりと、時間を掛けて、誠司のが私の中に入って来る。 …誠司の事、好き。だけど、そういうのとは別物で、なんだか怖い。自分の身 体の中に、誰かを受け入れるってのは… 「っつ…」 眉を、顰めてしまう。ゆっくりだけど、やっぱり、痛いものは痛い。やっぱり、 後ろからよりは…真正面の方が良かったかもしれない。まぁ、後の祭だ。 「誠司…誠司…っ…」 名前を呼ぶしか出来なくて、でも、どこかで受け入れる事に慣れて来て、ひと つになれて嬉しいとも、思う。痛みの分だけ、なんとはなしに。 「あっ…うぁ…あ」 奥まで、行き届く。痛いのは痛かったけど、まぁ、余裕が全て無くなる程じゃ あ、なかった。 「んっ…」 誠司が、両手で胸を掴んで来た。両方の乳首を、同じような間隔で摘まれると、 誠司のを締め付けてしまう。少し痛い。もう少しだけ、待って欲しい。 声の調子でわかってくれたのか、誠司はそれから動かずに、じっとしていてく れた。時折頭を撫でてくれたり、背中にキスしてくれたりした。 次第に、ズキズキしてた入口とかが、痺れるような感覚に変わって行く。はぁ、 と溜息をつくと、誠司がまたさっきみたいに胸を掴んだ。今度は――― 「あ…あぁっ…」 また、締め付ける。けど、今度は痛みは少なく、蕩けるような感覚がした。声 も、甘ったるいものになる。誠司が少しだけ動いて、中を行き来すると、水音と 共に、声も洩れる。少しだけ引き攣るような感覚も、快感の方が勝って、気にな らなくなっていた。 「いっ…誠司、いいっ…あ…ああっ…ぅ…」 どうしよう、気持ちいい。誠司がする事、全部気持ちいい。ゆっくり、私の事 気遣って、傷付けないように動いてくれる。嬉しくて、気持ち良くて、あられも ない声を、上げてしまう。それが続くと、腕が身体を押さえきれなくなって、床 に付いてしまう。思い切りお尻を突き上げるような形になってしまう。 「―――て、いい、ですか?」 途切れ途切れに、誠司の声が聞こえて来る。私は頷きながら、また声を上げる。 いやらしい子だと、誠司は思っているだろうか。そんな事を思った瞬間、違和感 を感じる。誠司の指が、お尻の――― 「え…やっ…やだ…あっ、そんな…」 お尻まで一杯濡れてたから、誠司の指も、割合簡単に受け入れてしまう。そん な所に入れた事が無いから、奇妙な感覚が襲い掛かる。また、きゅっ、て誠司の を締め付けてしまう。 「やだ…変、変なの…いやぁ…抜いて…」 じたばたするけど、誠司は一向に止めてくれない。 「いいでしょう、許可はいただいたんですし、僕の一杯締め付けてくれてるんで すから…それに、入るのかと聞いてきたじゃ、ないですか」 くっ、と指を動かし、その度に私は締め付け、腰を動かしてしまう。いや、確 かに聞いたけど、まさか、誠司――― 「今は無理ですけど…その内、試してみます?」 「ひぁ…あああっ!?」 もう片方の指が、感じる所を、痛いくらいに強く擦る。びっくりするくらい敏 感になっている。お尻も一緒に弄られる度に、もっと快感を求めて、声を上げ、 腰を振ってしまう。頭の中が真っ白になって、ただ、快感だけを求めてしまう。 ―――最後は。 自分自身の大きい声と、自分の中で何かが弾けるような感覚。 身体中の力が抜けて、同時に物凄い眠気が襲って来た。ここがお風呂だって事 も忘れて、私はそのまま意識を手放した。 『…お姉ちゃん、これ、あげます』 そう言って、誠司くんは私に摘んだお花をくれた。 『ありがとう』 お礼を言うと、誠司くんは真っ赤になって、とても嬉しそうに笑った。 『…誠司様、千佐子様…そろそろお時間です』 後ろから、声がする。誠司くんのお母さんと、一緒に来た人。 『鈴原先生、もうなの?』 がっかりしたような声で、誠司くんは言う。先生という事は、お父さんじゃあ ないんだろう。 『はい。そうです。ですが…私は千佐子様とお話があります。それまで、そこに いていただけますか』 『…うん、わかりました』 不服そうな顔。私は、その鈴原先生って人に、茂みの方まで連れて行かれる。 そして。 『いずれ、君は連れ戻されるだろう』 ―――え? 意味が、全くわからない。言葉の意味が、理解出来ない。でも、鈴原先生は構 わず、喋り続ける。 『そんな事はどうでもいいんだ。とにかく、葵には気を付けなさい』 ―――は? いきなりそんな事を言われても、凄く困る。誰、アオイって。 『葵は、私と違って賢い。だから、早い内に気付き、眼が醒めるだろう』 意味が、全くわからない。なにが言いたいんだろう。なにをしたいんだろう。 『そして葵は藤乃原の人間を、当主を―――君を憎み、そして、私を憎むだろう』 頭が、おかしいんだろうか。この人は。 『―――私の一番大切なあの子に―――慎吾に手を出させたら、許さない』 え?え?はい?誰?どなたですか?そのシンゴって。 『あの子は、私の掛け替えの無い存在だ。だからこそ、狙われる。だから、身代 わりを用意した。だから、使うなら、その子を使いなさい』 その子?名前がその子?そうなの? 『いいか、その子は道具だ。その子は慎吾の事も、葵の事も全て知っている。君 の味方であり、切り札だ。もしもの時は、その子を差し出せ』 肩を、掴まれる。怖い。この人、怖い。怖すぎて、私は声さえ出ない。 『―――その子の名前は―――』 最後に、それだけ言って、その人―――鈴原先生は笑った。この上ない、怖い 笑顔で。怖くて、怖くて―――それから、記憶が無い。気付いた時には――― 「―――っ!!」 がば、と起き上がる。ここはどこだろう。ベッドの上で、私は寝ていた。 「っ…あ…」 ぼろぼろと、涙が溢れ、流れた。 怖い。凄く、怖い。 「っ…や…」 どうして怖いのか、まるでわからない。それなのに、恐怖で、震えていた。 「…どうしたんですか?」 不意に、横から声が掛かる。心配そうに、私の手を握る人。 「っ誠司くん!!」 ぎゅう、と私は、何故か誠司をそう呼んで、抱き付いた。そして、安心感から か、思う存分、誠司の胸の中で泣いてしまう。 「…千佐子、さん?」 戸惑いながらも、私を抱き締めてくれる。背中を叩いて、安心させてくれる。 …馬鹿みたい。自分より年下の奴に縋って、泣き喚いている。どうして怖いか もわからないのに。けど、これだけはわかる。 今、ここで、誠司が側にいてくれて、本当に良かったって。 「…懐かしい呼び方をしてくれたものですね」 泣き止んで、それでもまだ誠司にしがみ付いていると、不意に誠司が言った。 「え…っわた…し、変な呼び方…した?」 鼻を啜って、誠司の顔を見る。苦笑して、頷いた。そして、腫れた瞼と、唇に キスをしてくれた。 「なんでもないです。もう、これだから貴方を1人にはしたくないんですよ」 頭を撫でて、またぎゅっとしてくれる。心が、楽になる。けど、これだからっ て…どういう事だ。 「…まぁ、もうこうなった以上は言ってしまいますけど…昨日の夜、貴方が心配 で見に行ったら、畳の上で寝ていたじゃないですか」 ―――う。そういえば、そうだ。でもって、誠司が布団に寝かせてくれたんだ よな…あああ、情け無い。 「それで、出て行こうとしたら、貴方泣いてしまうんですからね。言ってしまえ ば、僕の好きな理由はアレかもしれませんね、1人にしておけないって」 からかうように、笑いながら言う。うわああ…ん?という事は… 「誠司、もしかして、その時―――」 …キス、したのって、もしかしなくても… 「そうですよ。いいじゃないですか、バイト代ですよ」 そのバイト代という言葉に若干の不満はあるものの…そっか、あの時、私の事 安心させてくれたの…誠司だったんか。 「……」 いいんだろうか、こうやって、誠司に甘えてばかりで。ていうか。 …自分、確か、風呂場で寝た筈じゃ…慌てて自分の身体を確認。あ、バスロー ブ着てるや。誠司、ナイス。 少し吹き出してしまいそうになりながら、またしがみつく。 「昨日、誠司のおかげで、安心出来た…本当に、ありがと」 その時に、わかられたのかな…寂しかった事…まだ、お父さんに縋ってた事。 誠司は私を抱き締めて、子供をあやすみたいにしてくれる。そして。 「寂しいの、嫌ですか」 そう、聞いて来る。私は、頷く。 「1人は、嫌ですか」 …基本的には同じ事だけど、まぁ、違う事でもあるから、頷く。 「…僕で、いいですか」 「誠司じゃなきゃ、嫌」 頷かず、そう、真正面から、言った。 「―――ありがとうございます」 それは違うんじゃないかなぁと思いつつ誠司は私を抱き締めながら横になった。 「…しっ…かし、これから、結構大変ですよ」 不意に、誠司は呟く。 「そうだろうな…」 ちょっぴしうんざりしながら、私も呟く。 「覚えなければいけない事、しなければいけない事、山程あります」 「苦労するだろうけど、教えてね」 …暫く間を置いて、はい…と死にそうな声で呻きやがった。まぁ、ちょっと考 えれば誠司の気持ちも痛い程わかるけど。 「後、くれぐれも父さんには気を付けて下さい」 「…うん」 今度は、私が死にそうな声。嫌だなぁ、嫌だなぁ…この親子関係。 「あと…」 後はなんだ…これ以上がっかりさせないでくれよ… 「愛してます、千佐子さん」 そう言うと、キスしてくれた。 …こんちくしょう、嬉しい不意打ちじゃねぇか。 「うん、私も…私も、誠司の事…うん、まぁ、そうだよ」 「ありがとうございます」 変な空気が漂う。 「…ふへっ…」 「…あはは…」 つい、笑ってしまう。幸せで、嬉しくて、恥ずかしくて。 いつの間にか、怖いという感情は、無くなっていた。誠司がいてくれるから。 なんだかどえらい事を忘れているような気もするけど…気を付けるべき『葵』 ちゃんとやらが奴である限り…まぁ、大丈夫か。それよりも、気を付けるべきは …叔父さん。 「…誠司」 「なんですか?」 「私と誠司で駆け落ちしたら、もう誰も追って来ないような気がしない?」 …なんとなく。 なーんとなく、言ってみた。 「…あまり、実の無い話はやめません?」 「そりゃそうだ」 はぁ、とお互い溜息。まぁ、いいや。誠司がいてくれるなら、どこでもいい。 1人にしないでくれるし、寂しくもさせないでくれる。ましてや、それが誠司様 とあれば、怖いもんなんか何も無い。とにかく、これから大変なんだ。たっぷり 睡眠とって、起きたら… ―――明日のごはん、なんだろう? 当座の悩みは、とりあえずそんなもんだった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |