好きなのは
シチュエーション


「ねえっ。百合(ゆり)はさ、好きな男の子とかいるの?」
 
昼休み、青空の下。
本当は立ち入り禁止の屋上だけど、私たちはいつもここでお昼を食べていた。
雨が降ってたりして天気が悪くない限り、いつでも。ここで、二人。
 
「んー、そうだなあ。C組の佐藤くんとかかっこいいと思うけど〜。」
 
私が問いかけた相手、鈴木百合はコスモスのように可憐な笑顔で答える。
セミロングの薄茶色の髪が揺れている。
別に脱色とか染めたりとかしてるわけじゃないって彼女は言ってた。
私にもそれはわかる。だって、とっても色白で綺麗な肌をしてるから。
 
「好きってわけじゃないよ。今は特に好きな人なんていないかな?」
 
フォークの先にタコさんウインナーをくっつけて、ぷらぷらと振っている姿が可愛い。
本当に、なんて可愛い女の子なんだろうって思う。
芸術的なほど可愛い女の子って、嫉妬とかの対象じゃなくなると思う。
彼女を見ていると、自分と比べてどうこうってんじゃなくて、その姿を見ているだけで
和めるっていうか、心が癒されるっていうか、まあ、そんな感じ。
 
「舞の方こそどうなの? まあ、今の時期、そんなのに気を取られてる場合じゃないけどね〜。」
 
そう。女の子って、24時間恋してるって言う生き物。
勉強してても、食事をしてても、女友達と会話してても、
いつだって心のどこかには好きな相手を住まわせてる。
でも、そういうのって、時には何もかもをダメにしてしまう邪魔な感情でしかない。
受験を間近に控えた同級生たちの中には、好きな男の子のことなんかで悩む時間より、
一つでも多く英単語や定理や公式なんかを覚えたりする時間の方がよっぽど重要って
そんな空気が流れてる。
――まあ、私はそうは思ってないんだけど。
 
「そだね〜。あたしも好きな男の子なんていないなー。」
 
私は苦笑いして即答する。
うん。好きな男の子なんていない。
だって……私の好きなのは……






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