アイツに似た瞳
シチュエーション


初盆が来る前に、気持ちのカタをつけておきたかった。
あんな風に、片思いしていた相手がいきなり義兄になって。
逃げるように海外留学したのも束の間、事故死だって!?

そんなの、認めない。
そんなの、許せない。

許せるわけがないじゃない。あのとき、とっときの勇気を出した私にアイツは
「悪いけど、僕は君のお姉さんが好きなんだ」と照れ笑い交じりに正直すぎる答えをくれた。
だから……

いくつかの島を巡るフェリーに乗って、小さな島にたどり着く。
島は蒸し暑いけれども心地よい海風が吹いていた。
だけど、お寺までの道のりは急な山道で、私はヒールを履いてきたことを後悔するはめになった。
義兄の墓はその山のてっぺんの墓地の一等高い所に位置していた。
すごく見晴らしはいい。けど、もの凄く大変じゃないかー!
私はぶーすか無実の死人への文句をたれながらバケツの水をこぼさないように石段を上る。
何かの罰ゲームみたいだ。
真新しい墓石はすぐにわかった。
とりあえず、掃除をして持参した花を供える。
謝ったりなんかしない。ただ、会いに来ただけだ。
と、急に雲行きがあやしくなってきた。ヤバイ。夕立だ!


「ずいぶん遅かったんだね」

そう男に言われたとき何を言われたのか一瞬理解できなかった。
山の麓のボロっちい物置小屋の入り口で、その男は私に言った。

「ずぶ濡れだろ、入れ」

何を偉そうに、と思ったが口には出さず、私は招かれるまま小屋にはいった。

『ずいぶん遅かったんだね』とは、どういう意味だろう…

私は男を見ないようにしながら考えを巡らせる。
山道にヒールでてこずったこと?突然のどしゃぶりの雨に対応しきれずパニクったこと?
墓前での義兄との会話のこと?それとも…葬儀にも顔を見せなかったのに今更来たこと?

男は小屋の奥で何かしている。どうやらストーブを点けているようだ。

「濡れた服、出して」

突然の呼びかけにとっさに反応できず、びくっとした視線だけを送ってしまう。

「濡れた服、出して。ストーブですぐ乾く」
「脱ぎなさい。風邪引くから」

説得力のある声。私は思わず従っていた。

「これ、洗濯してあるから着なさい」

男は自分の鞄からおそらく自分の替え用であろうTシャツを私によこし、自分は上半身裸になっている。

日焼けした横顔。太目の眉毛。全然アイツには似ていないはずなのに、妙に懐かしさを感じさせる。
何故だろう。
そんなことを私が考えている間に、男は押入れから毛布を出していた。

「毛布、被りなさい」

差し出された毛布を受け取って、肩から羽織った。
たしかに、これでストーブにあたっていれば風邪はひかなくてすみそうだ。

「あ、アンタはいいの?」

男が相変わらず上半身裸だったので私は思わず声をかけていた。

「別に」

ヤバイ。まともに視線が合ってしまった。
そして、わかった。
眼が、似てるんだ。あの日私にゴメンと言ったときのなんだか申し訳なさそうな瞳に。
それに、声も。
それがわかった瞬間私は、身震いした。寒さからでなく。


うつむいて、決心してからもう一度男を見る。
視線がかちあう。
アイツに似た瞳を持つ男。それだけでいいと私は思った。

羽織っていた毛布をはだけ、床に敷く。

「おい」

男がこっちを見ているのがわかる。

「あったかくして。」

あくまで命令口調で私は言った。

「温めて。」

次に視線を絡めたときには、お互いの瞳は欲望に濡れていた。

キス。それは永遠とも思われるような時間。
そして決して丁寧とはいえない、荒々しい愛撫。けれどひたむきさを感じるその愛撫を
私は好ましいと思った。

「…いいよ」
「うん」

交わした言葉はそれだけだった。
床の上に毛布を敷いただけの場所で、私達は荒々しく交わった。

目を覚ますと、私は服をキッチリと着ていて、毛布を被ってあの小屋にいた。
男の姿は、ない。
キツネかタヌキに化かされたのだろうか。ふと、そんな気分に陥る。
それでもいい。アイツによく似た瞳をしていた。それだけで。

帰りのフェリー!急激に時間の存在を思い出して私は鞄を探る。
鞄からは現金も何もなくなってはいなかった。

急いで船着場に向かう。最終のフェリーを逃したらこの何もない島で一泊する破目になる。
それだけは避けたかった。

!!!!!

信じられない!
いた。
そこに、さっきの男が、いた。

「もう、帰るの?皐月ちゃん」
!!!!!
コイツ、どうして私の名前を!?っていうか何でここにいるのよ!?
私が目を白黒させていると、ニヤッと笑って

「俺の名前は幸隆。佐田宏隆。そう、道隆の従弟なんだ」

!!!!!

「全部、わかってたの…!?」

やっと絞り出した声が震えているのがわかる。

「うん。可愛い義妹の話は道隆から聞いてたから、すぐにわかったよ」
……信じられない。眩暈がする。と思ったら私は腰を抜かしていた。

「もう一泊していきな」

もう最終フェリーには間にあわないな、と心のどこかで冷静な私が呟いていた。






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