橙カプ
-2-
シチュエーション


そして。

ばしん。

「いたっ!?」

手で、頭を引っ叩く。

「いぁっ、いたたたたたた!?」

ばしん、ばしん、ばしん、ばしん、ばしんっ!

同じ場所を、同じ力で、計6回叩く。マジで痛かったのか、さっちゃんは頭を
押さえ、涙眼になっている。

「…言わなかった私も悪いよ。でもね、さっちゃん。私はさっちゃんの彼女でし
ょ?それなのに、どうして私に聞かないで、あの馬鹿2人の事を信用するの!」

気が付けば、普段通り。しかも、あいつらにするのと、全く同じ態度。いや、
寧ろテンションが高い。ついさっきまでの、さっちゃんに抱いていた恐怖や不信
感は全て消え去っていた。そりゃそうだ、と納得出来るくらいのカミングアウト
だったからな。

さっちゃんは完全に脅えて、正座して私の断罪を受けている。

「いい?さっちゃんも馬鹿だけど、深幸と誠人は、それに輪を掛けて馬鹿も馬鹿、
ウルトラ馬鹿スペシャルなの!だから、金輪際奴等の話は話半分で聞く事!でな
いと、馬鹿菌が感染して大変な事になるからね!」
「…はい」

すっかり意気消沈して、声もちっさい。

私は膝を着いて、さっきとは逆に、さっちゃんの顔を覗き込む。

「もしかして、私の事、怖い?もう、私と別れたい?」

と、意地悪く聞いてみる。と、やっぱり物凄い勢いで首を横に振って。

「やだ!みっちゃんと別れるの、ぜった…」

よくできました、と、口を塞いでやった。私から、ってのは初めて、かな?

「うへへへへへへへっ」
「う、うへ?」

戸惑ったような声を出すさっちゃん。そりゃなあ、こんなキモイ声出しゃなあ。
キモイよなあ。でも、出ちゃうんだから、仕方ないじゃん。

「みっちゃん?」

私の感情をわかってくれたのか、ぎゅう、と抱き締めてくれる。それが、今ま
ででいっちばん、気持ち良くて、幸せだった。私も遠慮せずにしがみつく。

「大好きっ、さっちゃん大好き。一杯こうしたり、遊んだりしたい。ずっと、仲
良しでいようね」

疑問さえ解ければ、何も怖いものなんか、無い。話したい事とか、知って貰い
たい事とかあったけど、今は割とどうでもいい。それより何より、こうしていた
かった。まあ、追い追い、でいいか。

「…うん。俺も。ごめん、変に焦っちゃって。敵わないって、そう思ってて。そ
んなの、関係無いのに。ごめんね。みっちゃん、好きだよ。大好き」

暫く、抱き合ったままでいる。

なんだか、幸せだ。言葉とか、そういうの、今は必要無いっぽい。あっても困
らないけどさ。

身体を押し付けるようにして、本当に、後2日くらいこうしていたいな、と思
ってる。さっちゃんは、どうなんだろう。顔は見えないけど―――

「…さっちゃんって、もしかして、ムッツリ?」

馬鹿2人のテンションにはならないだけで、エロエロさは、もしかして変わら
ないんじゃないかな、と思った。

さっちゃん、おっきくなっちゃったよ。なんだよ。マジシャン芸人かよ。

…もう。

「あ、あの、ごめん、あの、ごはん、先に食べてて、俺―――」

「…さっちゃん、しよっか」
「え!?え、いいよ、ダメだよ!俺、みっちゃんの事、もう絶対傷付けたくない
もん!だから、あ、お湯入れて置いてくれると…」
「私が、したいの。お風呂、借りるからね」

びしり、と、今こそイメージ通りのハイパー女王様の如く、言ってやる。

今まで、どうしてかわからなかったから怖かったけど、今は怖くない。寧ろ、
やりてぇ。悪いが、エロへの興味と探究心は、あいつらよりデカイ。と、思う。

さっちゃんは、私の事好きで、私はさっちゃんが好き。でもってお互い今、性
欲も最高潮。いつも通り、コンドームも用意してるだろう。ここまで条件揃って、
何を拒む必要があるんすか。私は半ばワクワクしながら、お風呂場へ向かった。



「ま、待った?」

さっちゃんもお風呂に入るよう薦めて、結構なスピードで戻って来た。

「んー、待ってない。寝てた」

なんか、緊張してるっぽいさっちゃんをおいでおいでして、2人で布団に包ま
って、抱き合う。今までは何か、ムード重視、みたいな感じだったけど、今のは
なんだか、気持ち重視とでも言うのかな、とにかく抱っこしたい。さっちゃんも
嬉しそうにしてくれてるし。

「ねえ、あいつらのスパルタ教育ってどんなんだったの?」

ふと思って、聞いてみる。あ、微妙な顔になった。

「…あー、の、なんていうか、俺が女の子役やって、一通りやったら、次、男役
になって…みたいな」

しどろもどろに答える。うわあ。

「えー、やだ、前から思ってたけど、深幸と誠人ってホモなんじゃないの?」

…大抵2人でいるし、そんなん出来るって…どうよ…

うえー、と、気持ち悪くなった。けど。

「それは無いと思うよ、だって、終わった後、本気で蒼褪めてたし」
「なら、やらなきゃいいのに…」

その姿も容易に想像出来る。馬鹿にも程が無いか。

「…それはやっぱり、俺とみっちゃんの事、心配してくれたからだと思うよ。も
しかしてみっちゃんは気付いていないかもしれないけど、まっちゃんもちぃちゃ
んも、みっちゃんの事、大切に思ってるよ」

まあ、それはさっちゃんが、過去の悪行を知らないからそう言えるんだろうけ
どさ。まあ、いいや。今は、さっちゃんの事だけ、考えていたいんだから。

しかし、今まで見る余裕とかあんまり無かったけど…ちょい伏目がちで見下ろ
してくる顔って、ちょっとかっこいいかも、と思った。

「髪の毛、切ってあげよっか?」

ちょっとだけ、鬱陶しい前髪。キスして、顔に当たる感触が、ちょっと気持ち
いい。

「いいの?じゃ、今度お願いね」

そう言って、もう一度、キス。舌が入って来て、鳥肌が立ってしまう。帰る途
中で上げた、リンゴ味のガムの味がした。キスするの、好きだなあ、と思って、
さっちゃんの唇が離れてしまった時、慌てて追って、今度は自分から舌を絡めた。
舐め合っている内に唾液が溢れそうになって、飲む。一旦顔を離して、自分の唇
を舐めてから、もう一度キスをねだる。

キスをしながら、さっちゃんは髪を梳いてくれた。とても、気持ちがいい。

…やばい、このまま寝てもいいや。多分、さっちゃんもいう事聞いてくれるだ
ろう。が、これはとてつもなく非道な意見なんだろうな。

「わ…」

そう思った瞬間、今度は、別の場所にキスして来た。

「さっちゃ…くすぐったい…」

ちゅ、と、音がして、吸われるように首筋にされた。背中がぞわぞわして、や
っぱ鳥肌が立ってしまう。前は、緊張してそれどこじゃあなかったんだけど。

「そ、そう?ごっ、ごめんね」

ちょっと慌ててしまった。前と、反応が違うのが、想定範囲外だと見た。

「…謝っちゃ、やだ」

ぺふ、と頬と頬を擦り合わせてみた。こんな、素っ裸同士なのに、楽しいや。

「…うん、なるべく気を付けるね」

そう言って、そっと、少し熱い手をお腹に置いた。パン職人向けの手だ。

すっ、と移動して、その手が…なんか、少し迷って、私の腕を掴んだ。何をす
る気だろう、と思ったけど、そのまま、指にキスだけして、放した。その仕草が
なんとも可愛くて、嬉しくなった。

「あ、の、おっぱい、触っても…」
「いいよ。ていうか、聞かないでいいよ。今までだって、気持ち良かったんだも
ん。もう怖くないから、さっちゃんの好きにして」

律儀というか、めんどいというか。私のその言葉を聞いて、ようやっと普通に
してくれるみたい。

…なんか、期待してる自分がいる。そりゃ、最初は痛かった。意地張って、痛
いなんて言わなかったし。でも、回数重ねる内に、どんどん、あの、胸とか、気
持ちいい場所とかでなくても、感じるようになった。

…さっちゃんに、されて。

さっちゃんの…で、私の、中…いっぱいになって…

「あ…」

熱い手が、今度こそ胸の上に。さっちゃんの大きい手で掴まれると、ドキドキ
してしまう。両方、掴まれる。少し、強めに。
「…みっちゃんのおっぱい、気持ちいい。やらかいし、すべすべだし」
「ありがとね。さっちゃん…んっ」

強めなのに、やんわりと揉まれる。なんかおかしいけど、こうとしか、言い様
が無い。こうされると、本当に私自身、女なんだなって、そう思う。ちょっとだ
らしなく、口が開いてしまうと、蓋をするように、さっちゃんがキスをしてくれ
る。舌を舐めるだけで、すぐに顔が離れてしまい、胸の方に視線が下りる。案の
定、さっちゃんはおっぱいを吸い始めた。

「…いっぱい、吸って…」

少し、注文を出してみる。今までだって、気持ち良かった。けど、もっと、吸
って、舐めて欲しかったな、と思った。さっちゃんの口の中で、私の乳首が舐め
られる。たまらず、声が漏れてしまう。

「さっちゃぁん…」

声を、我慢しようとして、する必要が無い事に気付く。今までなら『怖い』と
言ってしまいそうだったのを堪えてたけど、そんなの、今は無い。

「…いい、よう…さっちゃん…」

今度は、私がさっちゃんの髪を梳く。さっちゃんの左手は、私のもう片方のお
っぱいを揉み続けて、右手は、手探りで私の頬を撫でてくれた。

不意にさっちゃんが顔を上げると、少し潤んだ瞳と眼が合ってしまった。表情
は、完全に年上の男の人で、ドキドキして、少し困ってしまった。

「や、んっ…」

にこ、と笑って、もう片方の胸に吸い付く。吸われて、濡れて硬くなった乳首
を、右手の指の間で挟まれると、声がまた、出てしまう。指の間で、好きなよう
に挟まれ、また硬く、膨らんでしまう。

「う…ふぅ…ん、ん…」

ちゅう、と、少し押し付けるように唇へのキスをされる。今度はまた舌を絡め
て―――というよりも、口の中を舐めるような、そんな感じだった。

「ふ、ぅ…むっ!?」

そのままで、両方の乳首を指先で摘まれる。びくっ、として、上半身が一瞬だ
け浮き上がった。ズン、と、下半身にまで快感が伝わる。摘まれたまま、さっき
の、指の間でされるよりも強く弄られると、どうしようもなくなってしまう。唾
液を飲み込む事も出来ず、口から溢れてしまう。

「ん…ふ、みっちゃんの口、中もいっぱい濡れてる」

…何かと比喩するように、ちょっといたずらっぽく言う。そうだ、さっちゃん
はムッツリ系の、回りくどいエロだ。時として、物凄く達の悪い―――

「ねぇ、キスしていい、口に」
「…一々、聞かなくても…」

翻弄される。こういう時だけの、悪戯っぽい笑みに。

そうだ、最初から、さっちゃん自身も楽しんでた。私が、喜んでると思い込ん
で、だから、さっちゃん自身も…

「え…キス、は…?」

ぐうっ、と、両足を左右に開かれる。これは、流石に恥ずかしい。

「するよ、こっちの、みっちゃんの口。いっぱい濡れてるね、もう」

うううううううううっ。さっちゃんめ、いつからそんな子に…

「や…あっ…やっ、ちょ…」

さっちゃんが口を付けると、くち、と、濡れる音がした。慌てて脚を閉じよう
としたけど、がっちりと押さえ付けられて、出来ない。舌が中に入って来て、嘗
め回す。あったかい口の中に、入口ごと食べられたみたいな感覚。わざと音を立
てて啜っている。

「やああ…だめ…そこ、あっ…変、やあああっ」

急速に、身体から力が抜ける。脚からも力が抜けたのがわかられたのか、両手
を使って、さっちゃんは私のを弄り始める。

ちゅ、ちゅ、ぐち、と、指が行き来する音が、耳に入る。好きな人に、大事な
部分を曝け出して、感じている。

「さっちゃん…あう…うう、だめぇ、そこ…わたし…」

さっきみたいに、感じる場所を指で摘まれる。濡れて、ヌルヌルしてるから、
指が滑って、擦るようにされる。そうされて、さっちゃんの指を締めてしまう。

「これがいいの?…あの、もしかして、苦しい?」

…意地悪なのか、気にしぃなのか。首を横に振ると、今度は瞼にキス。涙を舐
め取って、また唇にキスをしてくれた。私はさっちゃんにしがみついた。

「好き…大好き…私、あのね、さっちゃん…」

全く脈絡の無い言葉だ。けど、さっちゃんは笑って抱き締めてくれた。けど…

「やぁん…そんな…っ」

手が、また下半身に伸びて来る。トロトロになったそこは、簡単に指を受け入
れてしまう。唇を舐められ、そのまま舌を這わせたまま、また首筋に吸い付かれ
る。今度は、びくっとしたけど、また、指を締め付けて、感じたのがわかられて
しまった。これって、開発されてる、って事なのかな…

「…あ…え?」

身体が火照って、力が入らない。ふわふわした状態で、不意にさっちゃんが私
から離れる。どうしたのかな、と思って、すぐその意味に気付く。ここまで来て、
身体を離したなら、ひとつしか無い。今までもそうだったし。

「みっちゃん、力抜いて」

そう言って、覆い被さって来る。脚は開いたままだったから、すぐに…あの、
さっちゃんのが、当たって…

「…うん…」

そう言われても、いざされると、力が入ってしまう。痛い、という事はもう無
いんだけど、でも、やはり緊張してしまう。

「―――あ…」

ゆっくりと、さっちゃんが、私の中に入って来る。

大きいのかどうかは、よくわかんないけど、最初は、ちょっとだけだったのに、
身体中いっぱいにされたような錯覚に陥った。実際は、20cmも無いようなも
のが、入ってるだけなのに。

それなのに、こんなに熱くて、頭も、身体もどうにかなりそうになる。

「さっちゃん…さっちゃんっ」

ぴったりと、さっちゃんの身体が密着してる。私より小さいのに、なんだか大
きい。胸が潰されそうなくらい強く抱き締めて、名を呼び続ける。

…私が、さっちゃんを、こんな風に思ってるみたいに、さっちゃんも、私を違
う風に感じているのかな…そう、思った。だよね、こんな、弱気な声、出てるか
ら…きっと。

「あ…あああっ…ん、熱い…の…ひぁ…」

さっちゃんのが、私の中を擦る。もう離さないみたいに締め付けて、快感を搾
り取ろうとする。さっきの指より何倍も太いものが、出たり入ったりして、指よ
りもいやらしい音を立てて、熱くて、声が出てしまう。

「いい、いいようっ、もっと、していいからっ…」

自然にぼろぼろ涙が出て来て、とんでもない事を口走ってしまう。

私の言う通りに、掻き回すように、私の中を抉り、快感を与えてくれる。その
度に、声を出して、また求める。

今までみたいに、声を我慢しないだけで、もっと、もっとこんな気持ちいいな
んて、知らなかった。きゅう、と、さっちゃんのを締め付けて、その中で、また
激しく動かされると、余計に気持ちいい。

「…みっちゃん…っ、美咲」

不意に、そんな風に、名前で呼ばれた。

「っ…さっ…あっ…ひああっ、あああっ!?」

名前を、呼ぼうとしたけど、少し体勢を変えようとしたタイミングとかちあっ
て、悲鳴に近い声が出てしまった。

「っ…ああ…っ…」

ウソ。なんだか、痺れるような、感覚だった。頭の中がぼやけて、変な声が出
た。さっちゃんは、少し意地悪く笑って。

「どうしたの?」

と聞いて来る。頭がボーっとしていたから、正直に。

「っ…変なの…今、されたの、あそこが、なんか…っひゃあっ!」

下半身を浮かされ、さっきと同じ場所を、同じように突かれる。我慢出来ず、
また声を上げる。さっきよりも派手な水音が聞こえ、それが、自分達の出してい
る音だと気付いて、恥ずかしくなってしまう。

…でも、いい。乱暴なくらいに攻められて、それがそのまま快感に繋がって、
声に出る。私が感じてるの、全部わかられてる。

「ぅああっ…もう、ダメぇっ、や、さっちゃ、あああっ…」

びくびく、と、引き攣るように、今まで以上にさっちゃんのを締め付ける。瞬
間、快感が広がって、一際大きい声を出してしまう。

少し遅れて、さっちゃんが…なんとなくだけど、終わったような気がした。

暫く経ってからさっちゃんのが抜かれて、脱力感が襲って来る。そして同時に。

ぐうぅううううう。

と、お腹が鳴った。

なんとも色気の無い話だけど、育ち盛りだから、仕方の無い事なんですよ。で
も、その前に少しだけ、余韻を味わっていたかった。



「…じゃね。また来週、学校で」
「送るよ、もう遅いし」

空は、もう夕焼け色。でも、私は断った。

「いいよ、逆方向なんだから。ちょっと、1人でいたい気分だし」

そう言うと、最後に、キス。エッチの時はあんななのに、今、ちょっと頬にし
ただけで真っ赤になってしまった。愛い奴め。

「そういえば、あの時、名前だけで呼んでくれたよね」

ふと、思い出して言ってみた。

他意は無いのに、妙に慌ててしまった。

「あ、あの、別に、ごめん、気に障った?あの…なんとなく」
「なんか、くすぐったかった。私も呼んでいい?幸男くん」

返事を貰う前に、言ってみた。なんか、くすぐったい。呼んで、と、視線で訴
えると、やっぱり恐縮しながら。

「…美咲」

って、呼んでくれた。でもって。

「やっぱ普通がいいね、みっちゃん」
「だぁよねぇー、さっちゃん」

そう言って、笑った。

笑っていた。少なくとも、表面上は。

やるべき事があったから。だから、こっそり、さっちゃんが貰ったという例の
紙袋を拝借していた。


家に帰ると、既に空気はピリピリしていた。

電話で、即家に帰れ、と告げた時、察しのいい奴等は、もう気付いていた。な
んとかして逃げようとしていたみたいだけど、深幸が、余計に恐ろしくなると思
ったのか、誠人を宥めて家に戻って来させた。

「ただいま」

ばんっ、と、乱暴に戸を開ける。私の部屋の床に、深幸と誠人が正座して待っ
ていた。

「お、おかえり」
「オカエリナサイ」

完全に脅え切った、家畜の目だった。まあ、そうなるようにしてたんだけどね。

「さっちゃんから聞いたけど、余計な事してくれたね」

くっくっくっ、と笑って、私は勉強机の椅子に、脚を組んで座る。制服だから
パンツ丸見えだけど、全く意に介さない。眼の前の2人も、パンツ所の話では無
いという事を、身体でわかっているから。

「あ、あの、俺等は、ミッキーの為を思って…」
「うるさい。お前等に発言権は無い」

静かに、言う。深幸はやっぱりわかっているのか、ガタガタ震えながらも、機
嫌を損ねないよう、顔を伏せずにまっすぐこっちを見ていた。

―――怖かった。この数ヶ月で、体重大分減った。

好意だったというのは、今のこいつらの様子からも見て取れる。が、関係無い。

今の私は、とにかく、腹が立っていた。

「…あのさ、3択があるんだけど、内容知ってから選ぶ?」

口の端だけを上げ、眼は全く笑わずに言う。2人ははい、と、頷いた。

A:『魔女っ子★TEACHER(30近い独身教師が次元を超えてやって来た
魔法の国のプリンセスと、クラスの生徒を守る為、魔女っ子になって戦う、
子供向けだが大きいお兄さんにもお姉さんにも人気のあるアニメ)』のコス
プレをして、日曜11時から町内を牛歩で一周

B:漫研女子部員の前で、実践801講座(撮影可)本番アリ

C:ここで、私に犯される(順番は自分達で決め、一部始終を見る義務アリ)

「…マジですか?」
「マジです。あ、ちゃんと道具はさっちゃんから預かって来たから」
「え、でも犯すって、え、このバイブはアナル用じゃあないよ…」

詳しいなおい。そんなん、よく知らんかったわ。

「別に、入れるの私じゃないし。まあ、私の機嫌を損ねる度に太いものになって
行くけどね。まあ、どの選択肢選んでもいいけど」

脚を組換え、脅え出す2人を眺める。

「あ、名物コンビのお前等だから、意外と需要あるんだよね。因みに誠人攻の方
が人気高いらしいよ」

知りたくなかった事実を死って、ガクガク震え出す。お父さんお母さん叔父さ
ん叔母さん、貴方達の息子は、近日中に2/3の確率でホモになります。まあ、
これが子供を放って仕事に勤しみ過ぎた報いなんですかね。

ふう、と、すっかり暗くなった空を見ながら、本気で相談し始める馬鹿な弟と
幼馴染。多分、総合的な事を選んでAになるだろうな、と考える。

ふと、さっきのさっちゃんの『みっちゃんは気付いていないかもしれないけど、
まっちゃんもちぃちゃんも、みっちゃんの事、大切に思ってるよ』という言葉を
思い出した。

…完全に、ありがた迷惑だったんだけどね。

まあ、これも、幼少時の復讐も結構入ってるからなぁ。別に、今のこいつらに
恨みは無いんだけど…

「…そういえば、なんで気付いたの」

本当に疑問に思ったのか、誠人が聞いて来る。

「明らかに童貞のさっちゃんにしちゃ、なんか手慣れてると思ってね。甘いんだ
よ、プロを舐めるな」

…まあ、私のこの、こいつらの前で必要以上に変なイメージを作らせてしまう
言動も…悪いんだろうな。あーあ、プロって言葉にものっ凄い喰い付いてるよ…

ていうか、逃げればいいのに、完全に『やらなければいけないもの』として受
け止めている時点で、こいつら本気で馬鹿だなあ、と思ってしまう。


「…仕方ないなあ…ま、今回だけだよ」

2時間経っても決まらなかったし、もう飽きてきたし、なんか怒りも風化して
来たので、そう言ってしまった。その瞬間、2人の眼が輝く。が。

「その代わり、3ヶ月くらい炊事洗濯掃除買い物宿題、全部任せるから。あ、弁
当もちゃんと作れよ。代金はその都度払うし、規定料金超えたら自腹だしね」

…ま、この位にしてやるか。

思考停止状態から脱したのか、今になって『マジっすか!?』と声を揃えるが、
3択よりもマシだと踏んだのか、渋々納得し始める。

ま、これでこいつらも将来1人暮らしする時の修行にもなるだろ。

いつまでも、3人でいられる訳じゃあ、無いんだし。

―――事実、さっちゃんが加入した事で、あんまり変わりはしないけれど、何
かが変わってしまったような気はする。

悪い事じゃ無い。けど、本当は…

…3人でいる事が、永遠だと思っていた。

本当は、こいつらが嫌いだったのか、もうわからない。

けど、大切な家族、と言い切れるこいつらが、今は一番大切な人ではない、と
いうのはわかる。

きっと、こいつらもそうだと思うけど…

「…なんか、複雑」

ぽそ、と呟いた言葉は、誰にも気付かれなかったようだ。

もう一度脚を組み替えて、真剣に当番を決めるこいつらを見るのだった。


「あ、宿題は深幸じゃなきゃヤだからね」
『…はーい』






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