従兄弟×2
シチュエーション


「あ、晴さんと萩さん、こんにちは。帰って来てたんですね」

…相変わらず、俺と萩の区別が付いていないようである。

普通、区別が付かないのは一卵性の俺と早の筈なのに、こいつ―――俺らのおかん
の妹の娘である、市川愛美は、小さい頃からいつも早の事だけ、見分けが付いていた。

曰く、『だって、早さんが一番かっこいいもん』だそうである。

「らっしゃい愛美ちゃん。僕達も今帰ったばっかりなんだ。髪伸びた?ちょっと大人っぽ
くなったね」

爽やかに笑いながら、愛美の肩を抱きやがる晴。ていうか、愛美ももう微妙な年頃なん
だから、そういうの止めた方がいいと思うんだけどな。

「そ、そうかな?」

お。前だったら微セクハラに気付かんと、ベタベタ触らせてた癖に、やんわり拒絶しや
がる。すぐに晴から離れて、適当に距離を取る。

「さっき母さんとすれ違ってさ。千早は茶の間で寝てるって。僕らもゲーム返して、すぐ
帰るし。ね、千萩」

そう言って、暫く借りていたゲーム機を愛美に見せる。

「あ。あー…だから早さん、新しいのじゃなくてロ○トの剣振り回してたんだ」
「あらら。じゃあもっと早く返せば良かったね。悪い事した」

うんうんと頷く。なんとなく、俺もやりたくなって来た。帰りに借りて行こうと思う。

そんな事を考えながら、久々の我が家に帰って来た。


…俺こと、工藤千萩と、千晴と千早は三つ子である。上から俺・早・晴だけど。精神年
齢的には逆だと思っている。何せ、この3人の中で童貞は俺だけだし。それは別に関係無
いんだけども。なんつーか、俺が一番馬鹿でガキだと思うし。

面倒な事に、3人そろって幼小中高大と一緒の学校で、進学と共に3人でとある一軒家
を借りて家を出るという計画を立てていた。

家から大学まで、大した距離は無いけど、その一軒家は大学まで更に近く、俺が好きな
ペットショップや晴の好きな風俗街、早の好きなゲーム屋まであって、正に理想だった。

が、問題が出た。

高校の時から3人揃ってその家を狙っていたんだけど、管理人の変なおっさんに話を付
けて、中を見せて貰った時だった。

早の奴が真っ青な顔をして、顔を引き攣らせた。同時に俺と晴の首根っこを掴んで即、
家を出た。そして一言。

『俺は嫌だ!!ここに住んだら40秒で死ぬ!!』

…早は、物凄く霊感が強かった。多分どっか、ちゃんとした所で修行したら素手で霊と
格闘出来るだろう、くらい。おっさんはにやにやしながら俺達を見て。

『あ、バレた?でも安心して。俺の父ちゃん、霊感無い奴には無関心だから。君はダメだ
けど、そっちの子とそっちの子は全然大丈夫』

―――などと、のたまいやがった。で。


「あ、早さん可愛い顔してる」

3人揃って、茶の間に。ナルホド、早は俺と同じであろう可愛い寝顔で寝ている。

俺と同じく不健康が売りの割には、俺と同じで趣味の為なら全力を尽くす。この分じゃ、
完徹だな。確か、今日辺り数年ぶりにライターが復活したゲームが出るとか興奮してたな。
フラゲしたと見た。

「早さん、起きて起きてー。萩さんと晴さんが来たよ」

ゆさゆさと、愛美は早を揺り起こしている。

なんというか、どさくさ紛れに触れる事自体が嬉しい、みたいな顔しよって。恋する乙
女はマジ可愛い。超胸キュン。甘酸っぱ。

「いいよ愛美ちゃん。早、満足しながら疲れた顔してるから、当分起きないよ」
「そう?でも離れて住んでるし、早さんも晴さんと萩さんに会いたいと思うよ?」

…お嬢さん、俺らほぼ毎日顔付き合わせてるんですけど。

そこら辺がイマイチよくわかっていないのか、首を傾げる。まあいいや。

本当にすぐ帰るし、愛美にもそれを伝える。愛美だって、早に会いに来たんだから、俺
らは邪魔だと思うし。

「じゃ。早く両思いになれるといいな」

愛美の頭を撫でながら、俺達は早の部屋に向かう。真っ赤っかになった愛美の顔が可愛
い。えっ、えっ?と、バレてないつもりだったのだろうか、後ろで戸惑った声を上げてい
る。晴も笑いを堪えているようだ。

廊下に出て数歩歩く。声を潜めて笑いながら、晴は。

「あは、悪いよ千萩。愛美ちゃんバレてないと思ってたんだから、合わせてあげないと」

確かに、その通り。だが。

「いいじゃん。どうせ早は愛美みたいなガキは趣味じゃねーだろ?今だって女いんじゃん。
愛美と全然違うタイプだろ?」
「んー?確か、それだったら半年以上前に別れたよ。性の不一致で」

さらりと言い放ちやがる晴。危うく吹き出しそうになった。ていうか、別れたんか。そ
ういう話は俺としても生産性無いから、しないし興味も無いしな。

しかし、あいつは一人と長く付き合うタイプで、それこそ好きな女は大事にすんのに、
なんで別れたのやら。あ、性の不一致か。そりゃ仕方ねぇ。俺には縁の無い話題だけど。

でも、いいなあ。あいつ、俺がいいなって思う奴からいっつも告られてんだもんなあ。
例外は愛美だけど。俺も、愛美は可愛いとは思うけど、ガキ過ぎるし、どうしても恋愛対
象には見れない。早もそうだと思う。

「んー、でもさ、チャンスなんじゃね?今なら、ガンガン押しちまえば落ちるかもよ」

戯れに、そう言ってみる。話しながら歩いていたので、すぐに早の部屋に着く。

晴はドアノブを回し、少し苦い顔で。

「いやー、どんなに押しても無理じゃない?愛美ちゃんは可愛いよ?確かに。そりゃ同い
年とかだったら毎晩のオカズとかになりそうだけど、僕らから見れば、愛美ちゃんは幼な
過ぎるよ。千早はどう見てもロリコンじゃあないだろうし」

と、無理!の太鼓判を押した。中々辛辣だ。まあ、確かに愛美が裸で俺に迫って来ても、
勃起するより先に痛々しさとか罪悪感を先に感じてしまうだろう、というのは想像に難く
ない。

愛美の恋は『初恋は実らない』の見本なのかもしれない。

「ま、その内愛美ちゃんも自分に合ったイイヒト見付けるでしょ」

その言葉を最後に、晴は愛美の話題から興味を無くして、ゲーム機の入った紙袋を机の
上に置く。そこらの紙とペンで『ありがと。また来襲ね』と、地味に嫌な誤字をわざと残
して行く。俺も『剣○神借りる』と、下に書く。

ゲーム専用の棚を空けると、すぐに目当てのモノは見付かる。晴も、何か面白いものは
無いかと、物色している。

「あー、久々に僕もDSしたいな」
「え?持ってんだろ?」
「ううん、ディスクシステム」

…たまに、晴と話をしていると疲れる時がある。早と一緒にいる時は、お互いが根っ子
の所が似過ぎているのか、1人でいるような気分になる。勿論1人じゃないし、寂しさと
いうものは全く感じない。寧ろ、心地いい。

対してこいつは、一応三つ子だってのに俺と早と、全然違う。ていうか、こいつはどっ
かおかしいと思う時が多々ある。早と違って、女はとっかえひっかえだし、その割には男
女問わずダチも多い。が、こいつは俺や早と一緒にいる時が多いし、いたがる。

正直俺も、こいつが嫌いじゃない。そんなん俺らは考えた事も無いけど、俺と早が一卵
性で、こいつだけ別のタマゴで生まれたから、何か疎外感を感じているらしい。

俺らから見れば、晴の方が勉強も運動も出来るし人付き合いも上手いし、運もいい。な
のに晴は堂々と俺達すらよくわからない『何か』が羨ましいとか言う。正直マジでわから
ねーんだけど。まあいいや。こいつの頭はどこかおかしいもんなあ。

「お、これか?んじゃ、紙袋に入れてこっか」

容易く目当ての物を手に取り、机の上に置いた紙袋から借りた物を取り出し、今度はそ
れに両方入れる。

「…思ったより長居したな。そろっと行くか」

うん、と、晴も頷いたその時だった。

「あ―――ちょっと、隠れよ」
「へ?な、なん―――」

そんな必要、全く以って無いのに、晴の奴は俺の腕を取り、クローゼットに隠れた。同
時に、戸も開く。

「…ふーん。萩と晴、来てたんか。悪い事した」
「でも、2人ともすぐに帰るって行ってたよ。ほら、やっぱりもういない」

置き抜けで、微妙な顔をした早と、恋する乙女全開の愛美。おうおう、微笑ましいこっ
て。ま、お前の恋は一生実らないがな!!

…と、少々意地悪い事を考えてみる。だって、無理だし。俺は絶対愛美を彼女には出来
ねー。そう思っていたんだが…動いて喋る実物を眼にした愛美は、さっきよりもちょっと
可愛く見える。後、早もなんか、やたら穏やかな顔してやがる。ちょっと前まで、どんな
に愛美が好き好きビーム放射しようが完全スルーだった癖に。しかも、絶対に気付いてい
なかった。

晴も、はてな、と首を傾げている。

「…早さんって、やっぱ鈍いのね」

少しおかしそうに、愛美は言う。うん。こいつは本気で鈍いと思う。そして俺も。てい
うか、今告白?いいシーン?俺はちょっとわくわくして来る。レッツ玉砕。

「んだよ、あいつらみたいな事言って…あいつらか?」

なんか、普通に早は愛美にくっついて、頭を撫でている。おかしそうに笑っている。な
んか、見た事あんま無い表情。

「ううん。近いけど。私が早さんの事好きなの、結局周りにはバレてたんだなーって。早
さんは気付かなかったみたいだけど」

―――!?

俺が叫びそうになって、咄嗟に晴が俺の口を塞ぐ。が、晴も眼を見開いて、物凄く驚い
た顔をしている。こいつのこんな顔見んの、ひっさびさかもしれね。ていうか、それより
も。それよりもおい。

…お、俺の眼が、脳がおかしくなっていないのならば、今、愛美は、早にチューしやが
った。俺、した事ねーのに。俺より4つ下の、つい今しがたまでガキだガキだと言ってい
た、愛美が、早に、チューを。

「えへへー。早さん。早さん」

嬉しそうに早にしがみついて、早の胸に顔を埋めている。対して早は。

「ばーか。なんだこの甘えたさんは。お前は白い猫か」

これまた、見た事無いような顔して、愛美を抱き締めている。頭にチューもしやがった。

「ばかじゃないもん。早さんの方が酷いもん」

顔を上げて、それこそ本当に幸せみたいに笑う。その笑顔はなんていうか、本当に俺で
もちょっとだけ、ドッキリしてしまった。

俺は晴の手を退けて、今はもう確認するまでもなく『恋人同士』の2人を凝視する。

ていうか、いつの間に。俺らがあんな事言って、玉砕が当然と思われていた愛美は既に
早をゲットしていたのである。これはもう、やられたとしか言いようが無い。でかした愛
美。そして何考えてんだ早。

「酷ぇって…このヤロ、襲うぞ」

ぐりぐりと、愛美に梅干をかます。痛い痛いといいながら、愛美は喜んでいる。マゾか。
ていうか、襲うって。お前本当に何考えてんだ。

…なんか。違う。あいつ違う。昨日までいつもの早だったのに、今、違う。全然わかん
ね。いや、あいつと俺はいくら一卵性の双子だからって、違う人間だってのはちゃんとわ
かってる。でも、なんか―――なんか。

ちら、と横を見る。晴の奴はもういつもと同じだ。楽しそうに行方を見守っている。

こいつはなんか、今はわかる。この状況が滅茶苦茶楽しくて、上手く行けば、自分とほ
ぼ同じ顔の男が幼さを残した、けど、やっぱり年頃で可愛い女の子を抱くなんて異常事態を期待している。そんな顔をしてやがる。

「…エッチ」

やっと梅干から開放されて、それからようやっと早の言葉を意識したのか、複雑な顔を
しながら床に座る。機嫌を取るように早も隣に座る。なんか、心臓ドキバグ言ってる。チ
ューしたって、ガキはガキなんだ。まさか、俺らの中で一番常識的な早が、いくらなんで
も愛美に―――

…よっしゃあああああああああああああ!!とばかりに、ガッツポーズを取る晴。俺は
今ほど、こいつにツッコミを入れたいと思った時は無いかもしれない。

「ばーか。お前、わかってなかったのか?」

そう言って、早は愛美の胸に手を置く。愛美は一瞬で耳まで真っ赤になりながら、俯く。

「う…し、知って…た、けど」

それこそ、蚊の鳴くような声で、呟く。まさか、まさかまさか、もう、いくらなんでも
お手付きって事無いよな?

すぐにその手をどけて、座ったまま愛美を抱き寄せる。ちょうど、愛美を手と足で囲う
ような格好。デコ辺りにチューして、耳元で、なんか呟いた。

少し間を置いて、愛美は頷く。

俺は何て言ったのか聞こえなくて首を傾げていると、晴がそっと『今日は5センチって
言った』と、耳打ちした。ますます意味がわからねぇ。

「……」

愛美は顔を上げる。その顔は、絶対に俺らには見せないような顔。なんか期待している
ようにも、笑っているようにも、泣きそうにも見える。俺でも、ドキドキする。なんか、
俺が愛美を抱いているみたいだ。

「…あんまり、胸は触っちゃダメだよ」

ちょっと待て、それは死刑宣告にも等しくないか?俺が呆れながら溜息をついていると、
晴は声を出さずに笑っていた。

「いいけど。お前が今嫌だって言う事なんかしねえよ」

…さ、爽やかだ。爽やかに言い切りやがった。俺なら無理だ。だって俺、おっぱい好き
だし。おかん以外の実物見た事も触った事もねーけど、おっぱいが好きだ。おっぱいが大
好きです!だから、好きな子にそんなん言われたら俺、どうしていいかわかんねえ!!

「…だから、早さん大好き」

男の俺から見たら、早はあまりにも格好良過ぎる。でもって、言われた当事者である女
の子の愛美は、少し震えた声で、これでもかってくらい可愛い顔で、言いやがった。

「じゃあ、あの、そんな風に言ってくれるなら、あの、あの、ちょっとなら…いいよ」

おっほ。もしかして、これ作戦か。作戦なのか。あんまりにスマートだ。俺が尊敬の眼
差しで早を見ていると、当の早は笑って。

「いいんだよ。お前が嫌だって今言った事は今日しない。もう決めたから」

…そう、男で血繋がってて同じ顔でも、惚れそうな事を言ってくれた。

『…俺、今ならあいつに抱かれてもいいかもしんね』

晴に耳打ちする。だけど、晴はなんか、悪魔のようににんまりと笑って。

『愛美ちゃんも千萩も可愛いね』

と、耳打ちして来た。意味は全くわからん。いや、愛美が可愛いってのはもう認めるけ
どよ。まあ、今はそんな事どうでもいい。この行く末だ。

「お前、髪の毛触り心地いいな」

…なんか、さっきまでのエロムードはどこへやら、急にまったりし始めた。が、愛美は
髪を手で梳かれて気持ちが良さそうだ。愛美も早の髪に触れて。

「そうかな?普通…だと思うけど。早さんもちょっとごわごわしてるけど、気持ちいい」

なんとなく、俺は自分の髪を触ってみる。確かにちょいごわごわ。晴も同様の事をして
いる。眼が合う。なんかすげー照れ臭い。にへっ、と晴は笑うが、多分照れ隠しだろう。

「そっか」

早もなんだか照れ臭そうに呟いて、愛美をぎゅっ、と力強く抱き締める。愛美も一瞬驚
いたようだったが、既に覚悟はしているのか、抱き締め返した。

愛美は物凄く、早が好きだ。初恋だの憧れだの考えた事は何度もある。その通りだろう。
でも、それ以上に早が好きなんだ。対して早も、きっと愛美と同じか、きっとそれ以上に
愛美の事を好きなんだろう。見てりゃ顔でわかる。

そういう相手に巡り会えるって、どんなに幸せな事なんだろうって思う。

でも、本当にいつの間に?

男女関係は本当に真面目で、真面目になればなる程に考えている事が駄々漏れになる早
だ。きっと、1人でいる時に色々考えていたんだろう。

そういえば、前の女と別れた事も俺は知らなかった。前なら、殆ど知ってたのに。

俺が好きになる女から、必ず好かれていたのに。やっぱ、別居してから―――てか、別居て。

「―――あ」

が、そんなどうでもいい思考は、聞こえて来た愛美の色っぽい声にぶった切られる。キ
タキタキタキタキタァ―――!!と、あっという間に臨戦態勢に。

「ん…やぁ、早さん、そんなとこ…」

見れば、あの野郎今度は愛美の耳に…なんだ、その、チューって言っていいのか?でも
なんか、愛美がビクビクしてるって事は、口の中で舐め回してんのか?

「く、くすぐったい…やだ、早さ…」

愛美が逃げられないように抱き締め、少し硬くなった声を唇で塞ぐ。一々大げさに反応
する愛美をからかうように、すぐ顔は離れる。早はじっと愛美の眼を見て、笑う。あんま
りに穏やかで、今、何をしていたかも忘れそうな顔。そして、もっかいチューする。

「―――ふぁや―――」

すぐまた離れると愛美も思っていたのか喋ろうとしたが、それは違った。早が舌を出し
て、離れかけた唇をまた追う。初めてじゃあないんだろう。愛美は少し驚きながらもそれ
を受け入れ。早の首に腕を回す。

…なんか、本当にドラマとかよく見た事無いけど、ドラマみてぇ。木曜10時…いや、
愛美がちょい幼いから、金曜9時くらいだろうか。雰囲気だけで思ってっけど。べろべろ
チューしやがって。さっきも思ったが、俺まだした事ねーっつのに。

ちら、と晴を見る。奴は食い入るように見てる。ていうか、今電話とかメールとか来た
ら、きっと俺らは殺される。早か愛美かはわからんが。携帯をこっそり出して電源を切る。
俺を見て、晴もはっ、とした顔をして、急いで同じように切る。ごっそり付いた奇妙なス
トラップの音で気付かれないか、そっちがヒヤヒヤもんだった。

「はぁ…」

ようやく、唇が離れた。愛美はぽーっとなって、力が抜けているようだ。早が支えてや
んなきゃ、今にも倒れ込みそう。そんな愛美を抱いて、さっきみたいにまた耳を攻めやが
る。今度もまたびく、と震えるけど、もう抵抗する気も無いようだ。

「ん…やだ…や…意地悪」

ほほほほ、そんな事言いながら声が嫌がってねぇじゃねえか。ふっへへ。背中や太腿を
撫で擦って、もうお前その手付きは行った事ねーけど、キャバクラでねーちゃん触るシャ
ッチョさんみたいじゃねーか。イヒヒ。でも、確かに約束通り胸は触ってねえな。紳士め。

「―――っ」

…前言撤回。紳士はそんな所に手は突っ込―――む、か?紳士でも、いざとなれば。

「あ、や、それ、またいっぱい上がってる…?」

ハードル?と、晴は声に出さずに言う。なんか晴は朧気にわかって来たみたいだが、俺
はさっぱり全くわかんね。それよりも、こっちだ。愛美のパンツの中に入った手だ。

「さあ?」

エロっ!早の顔、エロっっ!!俺、未だかつてあんな顔した早を見た事ねぇ!!ていう
か、ちっと見えにくいけど、女の子のパンツって可愛いのな。そんな中に手を突っ込むっ
て、お前は本当に犯罪者だな。色んな意味で。

「…やだよ…怖い。は、早さん?…やめて」

震える声。おおお、俺なら、この時点でもう無理。だって、怖いもん俺だって。それに
早、愛美が嫌だつった事はしないんだよな!?

な!と、晴の方を見る。が、晴は本気で笑いを堪えて、震えてやがる。え!?どういう
事ですか!?なんで!?

「だ、だって、やだって言ったら、しないって―――」
「だから、『今』やだって言ったら、って言ったろ?さっきこうするなって言ってたら、し
なかったけどよ」

…うわっほう。詐欺師だ。こいつ詐欺師だ。晴は最初からわかっていたのか、うんうん
と頷いている。視線はパンツってか、手だ。

愛美は真っ赤な顔で『やられた』って表情をしてる。正に今、2つの意味でそうなろう
としている訳だが。

「それに、死ぬほど嫌がってもないみたいだけど」
「…あ、や―――」

声の質が、また変わる。手が動く。愛美の手が、早の腕を握る。

怖さがピークに達したのか、愛美の眼に涙が浮かぶ。早はそれを舐め取って、何度もチ
ューする。それでもパンツから手ぇ抜かないのは最早天晴れだけどよ。

「ふ…む、むー…」

チューしたまんま、ゆっくりした動きでパンツの中のアレだ、なんて言えばいい。こう、
またぐらをもそもそしてる。うっわ、自分で考えて、あまりにもエロくなくてがっかりす
る。なんだまたぐらて。

愛美はもう、どうしていいかすらわからないみたいに、じっとしている。

そんな愛美の頭を撫でて、唇を離す。2人の口の間に糸が出来て、なんか超エロイ。

「じゃ、中に指は絶対入れないけど。そんでも駄目?」

殆ど力の抜けた愛美に、なんつー交渉持ち掛けやがる。そもそもパンツに手を突っ込ん
でる事自体が大変な事だってのに。更にその中にまで手突っ込むつもりだったと申すか。

『…喰い付いてるねー』
『うっせ、お前こそ。顔が生き生きしてんぞ』

非童貞の余裕か、交渉自体にあまり興味は無いのか、もう結果はわかっているのか。晴
はこっちにちょっかい出して来る。正直超うざってぇ。だって俺、こっちに夢中。

「…だ、だ、う―――」

お。どうやら愛美は断りたいみたいだけど、どっかでちょっとだけ期待してるのか?ど
うにも歯切れが悪い。俺は首を傾げる。愛美はずっと、あー、とか、うー、とか唸って。

「っ―――やぁ…」

と、愛美が返事を渋っている内に、早はやっちまう事に決めたらしく、デコチューをし
て、なんか本格的にお触りし始めた。

「やぁ…やだやだ…早さん、エッチ…そこ、やぁ」
「ばーか。エロい事してんだよ。お前こそエロ声出てんぞ」

少しだけ、湿った音がした。あー、これが、俗に言う濡れて来たって奴ですか。俺はも
う、なんか、本当に愛美以上におかしくなって来そうで。

『…下半身生き生きして来たね』

なんか、晴が言ってるけど、言葉が頭に入って来ねえ。眼の前の、本当に異常事態。だ
って、だって、俺の顔した、わかってっけど、でも、俺が、愛美を―――ちっちゃくて、
そりゃ子供だけど、女の子で、ずっとちっちゃい頃から知ってる女の子が―――

『王道的展開だったら、僕が千萩のハイパーって程でもない兵器を慰めてあげるんだけど
ねぇ。如何せん僕は男にそういうサービスするくらいなら舌噛み切って死ぬからね』

…だから、何言ってるかわかんないのに、なんか言うなよ。ていうか、本気で、俺も、
あの子、メチャクチャにしてぇ。

―――けど。

「っ、早、さん…早さん―――」

早に縋り付いて、早の名前を呼ぶ声。

…それは、なんか一瞬で冷めた。ああ、そうだよなあ。あの子は俺じゃなくて、最初か
ら早が好きな子で、あー、AV見て、好みの子だったら俺だってやりたいって思うし、そ
れと同じなんだな、って事に気付く。という事は、やっぱ愛美は俺の好みだったんだ。

好きとか、いいなっ、て思う以前の問題。

俺は愛美の事は親戚の可愛い女の子って意味で好きだけど、恋愛感情はやっぱり持てな
い。でも、裸で迫って来られたら、やっぱ勃起すんなぁ、という事だけは思った。

なんとなーく、下半身も冷めて来たような気がした。

『お、イッちゃうみたいだよ。かぁわいい顔してる』

うっしっし、と、下品に笑う晴。アホだこいつ。いや、今の今までおっ勃たせてた俺が
思う事じゃねーけど。いや、でも、やっぱもっかい行けそうだ俺も。


「―――っ…!」

手で口を押さえて、喘ぎ声をなんとか我慢しようとしている愛美。それがまたそそるそ
そる。ていうか、女の子ってどこをどうすりゃああなるんだろ。俺があちこち触っても、
きっとどうにもならんと思うんだが。

「ほれ、愛美我慢すんなー」

意地悪く、耳元で囁く。同時に、また水音。中に入ってない(そうだが)のに、あんな
音出んのかいな。女体の神秘。

小刻みに震えて、さっきのチューした後みたいに涎が開いた口から流れる。もう口を押
さえる余裕も無いのか、可愛い声で喘いでいる。AVとかより弱々しくて、実際はこんな
もんだろう、と思うより、ずっと色っぽくて、はっきりした声で。

「早さ―――や、なに、やだ―――あ、あ、や、早さん…!!」

…そんな風に。

最後まで、早の名前を呼んで、早の身体に倒れ込んだ。

「…ばか」
「おうっ!」

身体が興奮したせいだけではないであろう、真っ赤な顔で、愛美は悪態を付く。自分が
その言葉通りだと理解した上で、爽やかに返事をする早。

ティッシュで指を拭って、ぐったりした愛美の乱れたおべべを整えてやる。

「結局…今日、何センチだったの?」
「ん?5センチ。ただし、第二ハードルのぉぶっ!」

おおっと!愛美のアイアンクロー!早の顔面を掴む!!ていうか、言っている意味が未
だわかんねー!!

「早さんのエッチ!何が5センチなのっ!!」

…まあ、さっきから、早に言葉の裏を悉くかかれて、おかんむりだって事もあったのだ
ろう。愛美は少し言葉を荒げて、早をぽかぽか叩いている。

「はっはー!ばーか!第二ハードルつったじゃねーかよ!ばーか!!」

今まで、さんざエロ行為をしていたにも関わらず、一気に爽やかラブコメカップルに戻
りやがった。晴は相変わらずにこにこ笑ってるし。楽しそうだ事。

「ばか。早さんのばか」
「うっせー。お前がバカだろ…ってか、ねむ」

くあああ、と、大欠伸。そういや、こいつ徹エロゲだっけ。ナルホド、一晩掛けて抜い
たからこそ、今の愛美相手でも余裕こいてられたってか。

が、そんな事愛美は露知らず。余計に火に油を注ぐ言動じゃないの?と思ったが。

「…眠いの?そういえば、お昼寝してたよね。もしかして、私邪魔だった?」

所詮は徹エロゲなのに、それを知らない愛美は、すぐに早の体調を気遣う。こいつ、絶
対騙されやすいタイプだ。俺がちょっとヤな感じで笑っていると。

『なんとなく。なーんとなくだけど、浮気は一発でバレそうな気がするけどね』

呟く晴。でもなんとなくわかる。が、人の頭の中読むな。エスパーかお前。

「ん、別に―――邪魔なんかじゃない」

…そう言う割には、とろとろ船を漕ぎ出す。ていうか、お前普通に酷くね?彼女横に置
いといて眠いって。

「そう?じゃあ早さん、お昼寝しなよ。私も一緒にするから」

が、愛美もさる者。寧ろ嬉しそうにそんな提案をする。すいません。俺だったら無理で
す。好きな子隣で寝てて何もしないなんて事、無理です。きっと無理です。

「そ。丁度いいか。ほれ、こっち来い」

ぼんやりした顔で、早はベッドに向かう。愛美もそれに続く。

あんまりにもあっさりと、おやすみなさーい。と、2人でお昼寝をしてしまう。

…恋人同士って奥が深ぇなあ、と思うと同時に、俺には彼女が一生出来ないのではない
か、と思った。




2人共寝付きが良かったのか、すぐに熟睡してしまった。コレ幸いとばかりに俺と晴は
逃げ出し、実家を出る。既に夕日が差し、涼しくなって来ていた。

「はああ…イイもの見たああ…最初は脅かすつもりだったのに、こっちがびっくりしたよ」

…本気で言っている所が恐ろしい。が、俺も楽しんでたのだから何も言えない。

「しっかし、もう愛美が早をゲットしてたとはなあ…色んな意味で超ショック」
「まあねー…僕もショック…」

と、何故か落胆したような顔の晴。なんか、俺と意味合いが違うような…

「どした?」

しょんぼりとした顔。いつもの晴じゃあ、ない。思わず、声を掛けてみる。と。

「…だってさ、僕、愛美ちゃんの事好きだったんだもん」

そう。

晴は力のない声で、でもはっきりと言った。

その表情は、ほんの少しだけ寂しそうで、でも、口元だけ笑っていた。

「…晴」
「ん?」

俺の呼び掛けに、元気無さそうに応える晴。なんていうか。

「いや、お前ってさ、なんで意味も無い、誰も得しない、しかも面倒な嘘付くん?」

俺が呆れながら指摘する。晴はすぐさまにへら、と笑って。

「なんでわかったの?」
「なんでわからないと思った?」

ボケに対して、突っ込んでやる。晴は、あれ?という顔をして。

「…おかしいな。絶対わからないと思ったのに」

と、本気で不思議そうにいいやがった。

「お前、本当にわからなかったらどうするつもりだった。俺の心に変なもん投石すんな」
「いや、別に投石したってどうも思わないでしょ?どっち道もう愛美ちゃんは千早だけの
愛美ちゃんなんだからさぁ」

だから、こいつはどっかおかしい…そんな訳無いだろ。ぺしん、と晴を叩いて。

「アホか。胃潰瘍起こすに決まってんだろ」

ばーか、と、尻を蹴りながら言う。いたいー、と、笑いながら袋を振り回して前を歩く。
紙袋、ちょっと剣が突き破って来てるぞ、おい。

「…しっかし、あいつ霊感ある癖に、なんで俺らに気付かないんだよ」

お陰でイイ思いさせて貰いましたが。晴は意外そうに振り向いて。

「え?死んだ生き物と、生きてる生き物って違うモノだからでしょ?僕は生きてるモノの
気配なんかはよくわかるけど、死んだモノは全然わかんないし。千早はその逆でしょ」

…事も無げに言ってくれますが。全く以ってよくわかりません。それより、どっちも鈍
い俺はどうしたらいいんですか。ていうか、だからさっき、早と愛美が来るのをいち早く
察したって事ですか。

「よくわかんねぇよ…」
「あは…僕も。千萩も千早もちょっとわかんなくなった。ついでに、愛美ちゃんも」

笑いながら言うから、こいつは底知れねー。

「そっか?逆に俺はなんとなくわかって来たけどな…お前も早も愛美も」

「そうなの?」
「ん…ああ。わかってたけど早と俺は全然違う人間なんだなーってのと…後はなんとなく」

…曖昧にも程があるが、そうとしか言えないんだから仕方が無い。でも、なんとなく。

「ふーん…そうなんだ」

そう言って、また俺の隣で歩き出す。少し、真面目な顔。すぐに、また笑顔。

「…ね、千萩」
「ん?」
「今日泊まろっか。実家」

満面の笑顔で、爆弾発言。たった今、出て来たばっかじゃねぇかよ。だが、そんな事は
お構い無しに、俺の腕を掴んで元来た道を戻る。

「はぁ!?意味わかんねー!!」
「あはは、僕もよくわかんない。でも、愛美ちゃん追い出そう。今日は3人でいたい気分
なのー」

そう言って、物凄い力と速度で戻る。幸せカップルぶち壊す気か!?ていうか!!

「お前、いっつもそう言ってんじゃねえかあああああああああああ!?」



結局、走っている途中で買い物帰りのおかんと遭遇し、2人揃って荷物持ちをさせられ
る事となった。

ていうか、米の袋と特売のティッシュと醤油一升とでかい瓶詰めを一気に買わないで欲
しかった。

後、俺と晴が帰る頃には、早は愛美の父ちゃん母ちゃんと(勿論愛美も一緒に)一緒に
焼肉を食いに行っていた。ボーリングまでして帰って来て、すぐ寝た。

…晴は、奇声を発しながら寝てる早の隣でロ○トの剣を振り回していた。

俺は、それをただ見ていた。なんとなく、家を出る前と立場が全員入れ替わってるなー、
と思った。ちょっと、面白かった。






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