VS幼馴染+α
-1-
シチュエーション


ていうか、あいつ嫌いだ。
男の癖に私より顔がキレイで髪がサラサラだし。
勉強出来るし運動出来るし、センスとか全然無いけど、もてるし。
性格イヤミの癖に人望あるし、家は金持ち。なんだこの完璧超人。

…ひがみなのか?と自分も思ったし、他人にも本人にも言われた事ある。悩んだ事もあ
る。けど、今は―――というか、小学校2年生くらいでもう悟った。単純に嫌いなだけで、
あいつがブサイクだろうが貧乏だろうが、きっと変わらなかっただろう、と。
なので、一緒にいると精神衛生上悪いから離れようとしたんだけど…
なんか知らんけど、今度はあいつがわざわざ私に突っ掛かって来るようになった。
用も無いのにわざわざ寄って来てイヤミを言って来るし、変な技掛けてくるし…

あいつとは、ただ単に本当に相性が悪いだけじゃなく、きっと前世は巨人ファンと阪神
ファンか源氏と平家かLAWとCHAOSか何かの、争うべき立場だったんだろう。

―――いや、ホントのホントに自分でそう思っていたんだけど。




「…?」

現在、時刻は9時43分。ドラマのちょうどいい所でチャイムが鳴った。イラっとしな
がら、覗き窓から来訪者の顔を見る。どうせ酔い潰れた工藤か、ケンカして来た三沢だろ
うかと思っていたけど、アラ勘違い。

「え?マジ?」

顔が引き攣るのがわかった。だってそこには、あいつが―――立てば悪口、座ればイヤ
ミ、歩きながらのブレーンバスター、最早自分で何を考えているかもわからんくなるくら
いに嫌いなあいつ、千田昌平の野郎が。

「すいません、どちら様ですか」

とりあえず、他人のフリをする。バレたら妹が来てるって事にしよう。

『…先に言っておくが、お前に妹はいない』

バレるどころの話ではなかった。

くそ、人の行動パターンとかも逐一読みやがって…私は負けたと思ったので、ドアチェ
ーンは外さずに戸だけ開ける。あれか、何かの罰ゲームとかか?

「…なんだよ。これ以上は開けないし、入れんぞ」

こいつの性格を考えて、爪先も入らないようなくらいちょっとだけ開ける。

「ふん、俺だってお前の部屋になんぞ入りたくも無い」

「じゃあ帰れ」

そう言って、ばたん、と閉めてすぐに鍵も掛ける。ドラマは頼まれて録画してあるから、
テレビを消して寝てしまおう。そう思ったのに。

ぴんぽーん、ぴんぽ、ぴん、ぴん、ぴん、ぴんぽーん。

…千田の癖に、中々切羽詰った?状況なようで。私はちょっとだけ優越感を感じながら、
とりあえず『うるせー、死ね』と、メールを送る。すぐに返事。『黙れ、お前が死ね』。よ
っしゃ、私は更に返信『あーあ、傷付いた。せっかく入れてあげようと思ったのに』と。

送ってすぐに電話が掛かって来た。

『最初からそんな気も無い癖に言うな!!』

名乗らずに、怒った声で叫んですぐ切れた。ていうか、何がしたいんだこいつ。私は携
帯の電源を切って、さっさと寝る準備に掛かる。が、またチャイムが鳴る。くっそ、こっ
ちも電源切ったろかと思いつつも、ここまでしつこいと気になって来てしまう。

「用件だけ言え」

根負けして、私はさっきと同じだけドアを開いて言った。

「お前は来客に対して」
「閉めるぞ」

まずイヤミかよ、と思ったけど、こっちが今は上なので、強気に被せる。珍しく悔しそ
うな顔をしていた。

「…入れろ」
「断る、嫌だ、絶対に嫌だ。死んでも嫌だ」

即座に断る。ふざけんなバーカ。なんで嫌いな奴を部屋の中に入れなきゃいけないんだ。

まあ、こいつが私に何かする、というのはプロレス技かイヤミ言うかくらいで、なんつ
ーか、ホレ、そういう事したいってのは、限りなくZeroどころかマイナスだろうけど。

うう、なんか一瞬そういう『へっへっへ、もう逃げられないぜ』『きゃー、いやー、おか
あーあさぁーん』『観念しなー』『ああぁ〜…』ぽと。(←椿かなんかの花が落ちる音)…と
か想像して、マジ寒気がして来た。自分の想像力の貧困さにも泣けて来た。

千田は私の顔を見て、やっぱり同じような想像をしたのか顔を引き攣らせながら。

「安心しろ、お前をどうにかするくらいなら工藤をどうにかする方がまだいいしい楽だ」
「…どの工藤だ」

因みに、工藤は三人いる。

「三人全部だ」
「ハゲて死ね」

ばたん、と閉める。もう開ける気は無い。けど。

「―――っ!?」

ドアを開ける音。

しまった!鍵忘れてた!でもドアチェーンが、とか油断していたら相手の思うツボ!!

「…俺を入れんと、借金取りの真似事をするぞ」

この野郎、何が目的かは知らんが強行手段飛び越えて脅しに掛かってキヤガリマシタ
ヨ!ていうか、ここまでアレだと、なんか必死に見えて来る。とりあえず趣味の悪いグラ
サン掛けて発声練習してやがる。

ま、こいつは本気で私に何かしようとかは無いだろうしな。いやいやホント。

物凄く嫌だけど、恥をかくくらいなら、と私はこのバカタレを部屋に招く事を決めた。



「さて、なんの用だ。すぐ死んでくれるとありがたいけども」
「お前が先に死ね」

ふん、とでかい態度でそっぽ向くけど、なんとなく若干いつものキレが無いような気が
する。とりあえず何か飲み物でも…

「冷えた豚汁と水道水、どっちがいい」
「あっためろ」

ツッコミは一応機能している。若干、震えている…のか?本当に、犬猿どころか軍鶏VS
軍鶏みたいな関係の私の家に来るって、本当にどういうつもりなんだか。とりあえず、指
差して笑うのは、もう少し情報入手してからだな。とりあえずは油断させるか。

「ほれ、生ぬるい豚汁」

あっつあつにしては、逆に罠かと思われる。なので、中途半端に油が浮いてぬるい豚汁
を湯飲みに入れて渡した。イヤーな顔しながら、でも一応飲む千田。ほっと一息ついた所
で、湯飲みを机の上に置いて…なんか、急にいつもの横柄なオレ様千田に戻る。

「よし、出てけ」

私は改めての挨拶代わりに玄関を指差す。が、千田は動かない。

「ふん、相変わらず礼儀がなってないな。この俺がわざわざお前の掘っ立て小屋に来てや
ったんだ。丁重にもてなせ」

…やっぱ、こいつにいつものキレは無い。ボケが甘い。ここは掘っ立て小屋じゃない。
立派な賃貸マンション、しかもこいつの親の持ちもんだっつーのに。

普段の千田なら、こういう細かい所で突っ込まれるようなボケは放たない。因みに、な
んで私がこいつの親のマンションにいるかっていうと、こいつの親とは仲良しだからだ。

まあ、実家近いし、親の前じゃ千田もいいこちゃんぶってるから、それに乗って仲良し
でいると物凄い形相で千田が睨んでくるから面白くて面白くて。

結果『貴枝ちゃんがお嫁さんになってくれればいいのに』と言われている現在。

…おばちゃんには悪いけど、それは多分無い。ま、それはさておき女の子のひとり暮ら
しはこのご時世危ないという事でイイお値段で部屋を借りている訳だ。

で、こいつなんだけど。

「お前、おばさんに言うぞ。このマンション掘っ立てとか、夜這い掛けに来たとか」

あまりに私に優位過ぎる状況で威張ろうったって、土台無理な話なのに。やっぱおかし
い。ここはひとつ、大人な私が降りてやるしかないのだろうか。

「…ふん、俺がお前を夜這いだと?」
「うん。変なグラサン掛けて、私がお前に借金してるって嘘言いふらすとか脅し掛けて部
屋に入って来るって…立派に親御さんに言える」

だから、馬鹿だなあ。問題はお前の気持ちじゃなくて、歪曲も何もしていない事実を伝
えられた側がどう思うかって、今は思い付かないのか。

「―――もう。まあいいや。馬鹿話は後だ。用件言え。今からスーパー真面目タイム。茶
化しは無し」

これ以上はもう、ただの繰り返しになる。有益な情報も手に入らない。私は姿勢を正し
て、千田の顔を見る。千田もスーパー真面目タイムと聞いて、ようやく我に返る。

「…お前、霊とかそういうの、信じる方か」

お前、宗教走ったんかい。と、すぐさま口をついて出そうになったけど、止めた。なに
せ今はスーパー真面目タイム。元はスーパーのタイムセール品を両方のお母さんに買って
来いと言われ、その時だけは争いなしで協力し合う時の言葉だったんだけども。

「…私は、そういうの感じた事無いけど…信じるかっていったら、ちょっと信じる」

ちょっと、と、親指と人差し指をくっつけて、1cmくらいだけ離す。ほっ、と千田は
安心したような顔になる。

「―――工藤の新居、行ったか」
「え?うん、行った。高校ん時から住みたいって言ってたし。自分らがゲットするまで場
所とか教えてくれなかったから、興味あったし。あそこいいよね。すっごい住みやすい」

でも何故か、そこには工藤の内2人しか住んでいない。別にいいんだけど。

はん、と、なんか鼻で笑われた。スーパー真面目タイムなのに、カチンと来た。私は千
田を睨んでやる。けれども意に介さず。

「―――ふん、やはりな。お前みたいな鈍い人間にはわからんか。工藤達もお前レベルだ
からこそ、あんな所で住めるんだろうがな」
「そんな事より、お前が言うと工藤が結婚したみたいだな」

わざと、話の腰を折る。先にルール違反したのはそっちだ。商談not成立だ。

「で?鋭い千田様はなにがおわかりになったんですか千田様。ご自慢が終わったら早急に
お帰り下さいな」

べー、と舌を出す。ホントにこいつ嫌い。ていうか工藤も水沢もなんでこいつとつるん
でんだかわかんない。まあ、あいつらもお世辞にも性格がいいとは言えないけどさ。

「…つまりだな、俺はお前と違っ」
「寝言は寝て言え、この珍滓が」

つまり、の時点で被せてやったわ。

そして、ルール違反は見逃してやる。こいつ、おかしい。支離滅裂にも程がある。同じ
事を短時間に何度も言いやがって。もう本当におかしい。

私は冷蔵庫に走り、中からマヨネーズを取り出し、蓋を開けて顔に突き出す。

「単刀直入に何があっただけ言えええええええええええええ!!」
「工藤の家でめっちゃ怖い幽霊が出てこっち向かって来たんで逃げてきましたあああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

眼球に刺さる勢いで突き出したのにマジビビリしたのか、絶叫してくれた。

そして、今がチャンスと思い、私はマヨネーズの蓋をしめて、指を差して。

「っはん」

と、鼻で笑った。

けれども、一旦その恐怖っつーの?開放してしまったらもう抑え切れなくなったのか、
私の嘲りをスルーして、顔をみるみる青褪めさせて変な動きをして語り始めてしまった。

「だからな?カラオケ行って遅いから工藤ん家呼ばれて、コンビニ新商品祭しようって話
でさ。俺は普段そんなコンビニのもんなんか食べないだろ?もうすっげぇ食いたくて、そ
んでもって家入った瞬間だよ、なんか、首がそこまで曲がっちゃいけないだろ確実にって
くらい曲がってスーツで血塗れの頭髪の不自由な30代から60代のオッサンが、俺の方
だけ見て、眼が合ったら一目散に追いかけて来て、俺、全力で走って全力疾走して、気が
付いたら、その…ここに」

ガクガクと変な動きして、大分変な日本語で状況説明してくれた。

「あ、だからさっきからお前のコートに血ぃ付いてたんだ」
「ひぎぃいいいぃぃいっ!?」
「わ!?」

明らかにウソ丸出しなのに、変な喘ぎ声みたいな叫びで私に飛び掛って来た。重い。抱
き付くな。ていうか、本当だからすげー怖い。コートの肩付近に血の手形がべっとりと。
いや、気付いたのはついさっきなんだけどさ。

「っ、う、うううう、ウソ、嘘だろ!?」
「いや、あの、嘘だったらよかったよね」

…これ、工藤達と千田の壮大なドッキリならいいのになあと思いつつ、私はとりあえず
千田のコートを脱がせる。そして。

「捨てて!捨てて棄ててすててえええええええっっ!!」

見た瞬間、また大パニックを起こす。とりあえず、私は玄関まで飛んで行って、丸めて
外に置いておく。このコート、千田はもう着ないだろうな。私欲しかったから、血ぃ取っ
て塩撒いてから着ようっと。

玄関を閉めてしっかり鍵を掛けて、ついでに、そこらにあった水沢から旅行の土産で貰
った変な魔除けの人形をドアノブに引っ掛けておく。ストラップ付きだから、多分こうい
う時の為にあったんだろう。ご利益無くて、もしえらい目にあったらその時は化けて出る。

くっそ、嫌がらせか。戻ったら千田は小鹿のようにプルプル震えやがってた。

「…ほれ千田、もう大丈夫だから。水沢の協力もあって多分奴は入って来れない」

とりあえず、水沢の名前出しときゃ大丈夫だろ。あいつ素で霊丸とか廬山昇龍覇を撃て
そうだし。

「ほ、ホント?じゃあ、俺生きたまま脳ミソ弄られて情報搾取とかされない?」
「…お前から有益な情報出ないから大丈夫だっての」

はあ、と溜息をつく。こいつ、恐怖のあまり普段のうっすい殻が完全に剥げ落ちてやが
る。ていうか、もしかして。

「泊まる気?」
「―――さて、彩川。お前俺に言う事があるだろ?」

視線で気付いたのか、うっすい、ぺっらい、いつもの殻をようやく被って、若干まだ青
褪めながらもいつもの千田に戻った。ていうか、言う事とは?

「ヘタレ」
「…違う。この俺がここまでお膳立てしてやっているんだ。馬鹿なお前でもわかる筈だ」

いやいやいやいやいやいや。

いや、本当にわからないって。どういう事だ?そんな事より、明日休みとはいえもう眠
くて仕方ないんだけど…

「あの、もう寝るからさ、頼めないんなら家出すよ?お前は本当にいいとこのボンボンの
癖して礼儀がなってないよな」
「…彩川、お前俺が好きだろう。受け入れてやるから告白してもいいぞ」

びしっ、と、なんかキメやがった。別の意味でもキメてやがるな。恐怖で。

「あのさ。お前はもう、泊めてやるからそこで寝ろ」

もう、疲れた。本当にこいつ嫌い。どうしてこんな自信過剰でアホなんだろ。こんなや
つ好きにはならないっての。

「ベッドよこせ。後、流すな」
「…流しもするわ。な、千田」

こういうのだけは、こいつは本気でわかってなかったとしたら今後も大変だろうし、そ
うでなくたって凄く不愉快になったから、言う。

「…お前、人に―――私にものを頼むのが嫌だからってそういう事言うんだろうけど、そ
れって凄く嫌だ。仮に、本当に仮に、百歩譲って仕方なく、仮定として言うけど、私が本
当にお前を好きだとしても、そんな事言われたら嫌いになる。それに」

珍しく神妙に、黙って私の話を聞いている。

「それに、なんで今この状況でそういう事言うんだよ。これで付き合う事になったら、一
緒の布団で寝られるから怖い思いしないで済むってか?」

…千田との口喧嘩は、大抵お互い捨て台詞を言って別れて終わる。だから。

「―――」

息を飲む音が聞こえた。

私は言うだけ言って、寝室に向かう。付き合いが長いんだから、私がもう話を一切する
気が無くて、寝るのだってわかった筈だ。

顔も見ない。どんな表情してるかも考えない。私はこいつが大嫌い。

静かに戸を閉めて、一気にパジャマに着替えて、布団の中に潜り込む。何も考えずに眼
を閉じる。元々眠かったから、すぐに寝れそうだ。けど。

戸が開く音。しまった、また鍵忘れてた。ぱっ、と、電気が付く。ひた、ひた、と、力
なくこっちに近付いて来る。というか、これ例の悪霊だったらどうしてくれる。水沢超ご
利益無ぇ。今度会ったらボコってやる。それより、今日この事態が既に悪夢みたいなもん
だけど―――

「…ベッドよこせ」
「断る。床で寝ろ」

千田は人の話も聞かんと、人の布団の中に入って来ようとする。私は壁側を向いて、意
地でも顔を合わせようとしなかった。


「彩川」

無視する。無視無視。こんな奴、もう知らない。私は何の反応もせずにただ、眼を閉じ
て意識が落ちるのを待つ。けど。

「…俺は、お前が好きだけど」

割と、嫌じゃなかった。さっき想像したのに、あいつが驚いて私に抱き付いて来た時だ
って、嫌悪感はそれほど無かった。思っていた悪寒なんか何も無くて、今だって触られて
いるのに、ていうか一緒の布団に入っているのに、嫌だとは思わない。多分、きっとこい
つがようやく折れてしまって、今の言葉込みでなんだろうけど、それでも不思議。

「お前がさっき言ったみたいになんか、思ってない。それだけは訂正させろ」

千田は細い。身長は私より5〜6cm高い程度。体重はきっと私が重い。私のが食うし、
どう見たって千田モデル体型だし、きっと私の手首の方が太い。


嫌い。だって、いつだってこいつはイヤミで馬鹿で根性悪で、そうだ、プロレス技だっ
てしょっちゅう掛けて来るからこんなに近いのなんて大した事じゃない。なんでこいつの
手、こんなに大きいんだ。後ろから抱き締めて、人の手首握るな。

「…お前、何キロ」
「聞くかそれ。お前より重いわ」

またイヤミかよ。ふざけんな、この期に及んで一人になりたくないくせに、イヤミだけ
は言うのかよ。ていうか、やべえ喋っちゃった。無視する気だったのに。

「普段からそれ言ってるよな。悪いけど、俺お前より多分10キロは重いぞ」

「―――へ?」

へ?と言ったはいいものの、千田の野郎もそれ以降は黙ってしまった。

今日は少し寒いし、こいつがくっついているとあったかい。けど、これって問題だろ。
相変わらず私の手首を掴んで、がっしりとくっついたまま離れない。くそ、足くっつけん
な鬱陶しい。

「…嫌がらんのか?」
「嫌がったら出てってくれんの?」

いつものような軽口。違うのは、こんなにくっついているのに、技を掛けられているで
もなし、イライラした感情もなし。

「流石に、お前が泣き叫んだら引き下がるしか無いだろ。なんでお前は無反応なんだ」

馬鹿にしたような口調。すん、て音。後頭部に鼻くっつけやがった。びくっ、とした。

「あ、なんか、嫌だ」

今までのはまだいい。けど、今みたいな匂い嗅がれるとか、それはちょっと。

だって、それってちょっと違う気がする。

「今更それって何だ。止まるか」
「―――あ、あ?」

びく、が、ぞわ、になった。なんて事すんだこの馬鹿、人の首の裏―――えと、うなじ
に口付けやがった。抱き締める力も強くなった。

「普通、嫌いどころかちょっと好き程度でも、こんなんなったら何がしかの反応するだろ。
倦怠期の夫婦か、俺らは」
「…間柄としては近いかもなあ」

付き合い、ホント長い。でも、ケンカばっかしてて、こいつは組み技が得意になってっ
て、私は殴る蹴るが得意になって、幼稚園から今まで、なんでかずっと一緒で、でも、ず
っと嫌いだったし、今更―――ああ、本当に今更感丸出し。

「今更だよ。今から関係変わったら、きっとしんどい」

すとん、と、はまったような気がした。うん。きっとそうだ。

「…私、ずっとお前が嫌いだと思ってここまで来たんだ。急にそんな事されたって、本当
に今更だよ。しんどい。お前とはずっと嫌い同士でいいよ。その方が」

…楽しいし、心地好いし、楽だ。

なんだかんだ言って、嫌いだけど、わかってる。そんなの最初から知ってる。千田とい
る時が一番楽しい。嫌いだけど。だから、別の関係になんて今更なれない。それに。

「ごめん。わかんないんだ本当に。気が付きゃお前とばっかいたから、私に好きとかそう
いうのはわからない。恋とかした事無いんだよ。だからやめとけ」

ぺし、と、手を叩いてやる。

一応、自分としてとても納得出来る断りのお言葉を、出来るだけ真摯に伝えた。千田だ
って馬鹿じゃない。むしろ頭いい。だから、きっとわかっ―――

「―――っ!?」

胸。おい。胸、胸。何触って、しかも揉みしだいてくれてやがりますかこの野郎。

「ちょ、おま、聞いてなかったのか?さてはお前寝てたのか!?わかってくれてんだろ?
お前はいつだってわかってんじゃんか!」
「だから、ここまで来て今更だと言うとろうが!それにな、お前は俺がずっといたから恋
愛がわからんと、馬鹿丸出しな事を言ってるがな、いいんだよそれで!これからわかれ。
俺はずっとお前といるからな。この俺からここまで言われて、まだ何も思わんというか、
この罰当たりが!!」

…硬直は、する。だって、こいつ馬鹿だ。あまりの馬鹿っぷりに逆に引くわ。ナニコノ
永久ストーカー宣言。男のヤンデレってただの犯罪者か801のどっちかだって誰かが言
ってたけど、こいつは正にそれじゃんか。

「ば、罰当たりって何…やだ、やだやだ、やめて、やめてって」

急に、怖くなる。怖い。さっきの千田みたいに、パニック起こしそうになる。さっきは
あんなに怖がっていた癖に、忘れたみたいに私の事性的に抱き締める。

「いいから、観念しろ。お前の相手は俺しかいないし、逆もまた然りだ。どうせ近い内に
こうなっていた。その時が今来たと思え!」

せ、説得力のカケラも無ぇ!お陰で怖さが持続しねぇ!ていうか、マジ?私、マジでこ
いつに犯られるんか!?

「い、いやいやいや、お前、実はまだどっか変なままだろ?私だよ?勃つんか?勃たんだ
ろ?いやホン―――」

イヤホン?

…自分で言って、本当に何を言ったのかもわからなくなった。

今まで、なんとか、抱き締められながらも後ろを向いて抵抗していた訳だけれども、い
とも簡単に転がされて仰向けになってしまう。思わず瞑っていた眼を開いてしまって、そ
してその目の前にはいつものように人を見下して笑っている千田。

ホント、こいつキレイな顔してる。ちっさい頃は女の子によく間違われてた。成長した
今は、女に間違われるなんて事は当然無いけど、線は細くて、でも実際に女装でもしよう
もんならホンモノ臭く見えてしまうだろう的な感じで、なんていうか。

…だから、あの、性的なモノは感じなかったというか、それなのに。

私の手を取って、あろう事か、友だちんこをしよった。いや、それって普通笑うか怒る
かドン引くかなんだけど、なんで、私、どうして。

「充分、勃っているだろう。満足か?」
「う、あ―――あ、は、はい」

ここまで堂々と言われたら、そりゃ返事するしか無い。うんうん、と千田は満足そうに
頷いて、私の手を放した。

「さて、逃がす気は毛程も無い。お前は俺の事だけ考えていろ。何もせんでいい」

犯る気満々でビンビンでギンギンの千田さん。私はもう、諦めるしか道は無い模様。こ
こまで愛してくれるんだったら、最初からそうしてくれればいいのに…

「いや、あの、だからさ、私は別にお前とするなんて言ってないし、パジャマ脱がすな。
だから、あの、その、勘弁して下さい。服脱ぐな」

人の服脱がしたら、次は自分か。私は微妙な寒さと状況の寒さに慣れる事が出来ない。
そもそも、こんなんしてたら『バリバリオッケーです!どんと来い生殖活動!!』と言っ
ているようなもんなんだけど、なんで私は無抵抗なんだろうか。

部屋明るいし、本当にお互い丸見えだし、実感が湧かない。だって、これから私、千田
とやるんだよなあ。初めてなのに。そういや、千田はどうなんだ?

「…千田、お前どうなの?」

付き合いが長いから、それ、とは言わなくても察する事は出来る。

「ふん。俺のこの華麗な身のこなしを見てわからんか?」

自信満々のご様子。華麗かどうかはともかく、なんとなくわかってたけど。でも。

「千田はいつから私が好きだったの?」

でっかい眼が、もっとでっかくなる。私は素っ裸の幼馴染を見て、純粋に疑問に思った。
私が千田を好きだから、千田は私を好きになったって言った。でも、私にはまだ、千田を
好きかどうかもわからない。それで、千田は私が好きなのに、他の女の子と付き合ったり
やる事やったりしてたとなると、どうなんだろう?

「…そんな事、どうでもいいだろう」

一瞬だけ、迷ったような顔をして、私の胸に掴み掛かる。さっきは身体が横になってた
から揉み甲斐はちょっとあったかもしれないけど、今は仰向けだから無い胸が更にナイム
ネに。ていうか、スタイル悪いよな私。今は千田の方が重いってわかったけど、腹もちょ
っと出てるからなあ。幻滅してないか。また、物笑いの種にされないか。

「彩川」

声が掛かる。う、ほら来た。乳無いとか、腹出てるとか、太ってるとか。

「…お前、身体つき、幼いな」

これまた、対処に困る。言い方が戸惑っているから、悪口じゃなくて心底思っているっ
ぽくて、逆に悲しくなって来る。

「なんか、あの、お前は背があって、手足長いのに、胸とか…こことか、なんかアレで、
逆にやらしい。なんか、子供の頃のお前にイタズラしているような気になる」

たどたどしく、なんか危険な発言をしているバカが1人。お前、子供に対してその下半
身かよ。後、さわんな。ついでに生えてないのがそんなに珍しいか。

「剃っているのか?」
「…ううん」

声が、弱弱しくなる。そりゃ、こんなの親にだって見せてない訳だし、一番最初がまさ
かこいつになるなんて思ってもいなかった。

「あの、笑うなら笑えよ?お前になんか変に気ぃ使われるの、一番嫌だ」

少し、声が上ずる。そっか、腹出てるのとか、太ってるんじゃなくて、幼児体型みたい
なもんか?しかも、それで欲情するって、マジでバカかこいつ。なのに、なんでそんな顔
すんだ。同情してるなんてカケラ程も思えない。こんな顔、初めて見る。

「彩川」

既に、私の言葉なんか耳に入っていない模様。駄目だこいつ。もうやる気だ。

「…っ」

触れた。指が、あそこに。怖い。くすぐったい。するっと指が、ウソ、中に簡単に入っ
た。すぐに抜かれて、でも、またすぐに中に入れて来て、なんか、太い。指細いと思って
たし、実際細いのに、なんでこんなに太いんだ?

そう思っていると、もう片方の手が頬に触れた。その手に、手を重ねて、多分入ってい
る人差し指を摘まむ。やっぱり、私よりは太いけど、こんなもん…だよな。

「…2本、入れてる?」

びっくりする程声が出ない。身体がだるい気がする。

「いや、1本だ。痛いか?」
「…痛くは、ないけど…凄く太く感じる」

凄くバカっぽい会話だったと思う。それでもいつもみたいに鼻で笑うとかそういうのは
無しに、そうか、とだけ呟いた。

「でも、そんな指太くないな、お前」
「…ああ」

浅く入れていた指が、もう少しだけ奥に入り込む。身体は震えるし、涙が出そうになる。
声が出そうになるのを必死で我慢した。

「お前、怖いなら俺にしがみ付いてもいいぞ」
「あ、遠慮する」

う。なんか、千載一遇のチャンスを自ら潰した気がする。こういう所、可愛くないんだ
ろうなあ。くそ。でも、そんなのしちゃったら、きっと、もう。
…不意に、千田の視線が外れる。怒っちゃったのかと思ったけど、違った。

「や―――だめ」

こんな事してる時点でもう駄目なんだろうけど、それでも、ベタベタするよりはこうい
う風に一部分とかだけくっついていた方が、まだ。手遅れにならない気がする。

千田の口の中に、私の胸がある。熱い息が掛かる。凄く、見た目いやらしい。

「待って、だめ。だめ、だめ―――」

駄目って10回言ったらやめて貰える気でいたけど、そんな事はけして無くて、そのま
ま吸ったり、口の中で舐めたりする。ゾクゾクして、千田の髪の毛を引っ張ったりしても、
全然やめてくれない。その間にも私の中で指がなんか、蠢いてるみたいな動きをしていて、
気が気じゃない。わざと音を立てるみたいに胸を吸っているし、下の方も湿った音がする。

千田とこうなる前に、なんで私は家に入れちゃったんだろう、と、今更ながらに後悔し
始めていた。

こいつ、気持ち悪い。

次から次に、私の身体を全部舐めそうな勢いで舐めて来る。一心不乱というか、眼が虚
ろというか、レイプ眼というか。

徐々に、怖いよりもキモイになって来る。でも、こんな事されて喘いでる自分もキモイ
事には変わりないんだろう。

…こうなって来ると、やっぱり千田も、努めて必死に私を好きになろうとしているんじ
ゃないかと思って来る。心のどこかで、もうやめたいなんて思ってるんじゃないかと。自
分は彩川貴枝が好きなんだって、必死で言い聞かせているように見える。








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