チョコレート
シチュエーション


チヨコレイトー。ねえ、チョコレートちょうだいよー。手作りのやつぅ〜。

お菓子よりも甘ったるい声を出して私にチョコレートをねだっているのがれっきとした
成人男性だというのだから私はうっかりこの国の将来を案じてしまう。
素人が作るチョコレートなんて、市販のチョコレートを溶かしてまた固めただけで、それのどこが「手作り」
なんだと私は疑問に思っているし、そんな素人が加工した食べ物が美味しいとはとてもじゃないが信じられない。
おまけに、私自身はチョコレートという食べ物がわり苦手なのだ。

その訴えは棄却されました。
甘ったるい願いを一刀両断に却下してみた。

ええー。ひどいや。樹璃さんは男のロマンってモノを理解してないよぅ。味は二の次、ハートがこもった
チョコが欲しいんだよう。去年もチ□ルチョコ詰め合わせだったし…!

チ□ルでも何でも貰えるだけでもありがたいと思いなさい。

えー。でもみんなは義理チョコでももっといいもの貰ってるよ。

じゃあ私以外の人から貰えば?

ヤダヤダヤダ、樹璃さんからもらいたいんだよう。どうしてそんなに意地悪なの。
だって可愛いから。心の中で返事しておく。
なんというか、この子のこういう子供っぽいころも嫌いじゃない、というか好きなのだ。
きっとバレンタインデーまでに私はチョコレートを用意してしまうんだろう、内心にやけながら。

チョコレートが駄目なら、リボン巻いて「私がプレゼント(はーと)」とか!いっそ
生クリーム女体盛りとか!!ねえ!ねえねえ!!
……頭痛がしてきた。誰がするか、そんなもん。

食べ物を粗末にする子にはバレンタインデー開催中止のお知らせですよ。

わぁーん、女体盛りは嘘です、嘘。でも願望って言ったほうがいいか。
じゃれあいながら、その日はファーストフードで夕食を済ませて駅で別れた。

それが目に飛び込んできたのは偶然だった。一人で地下街を歩いているときに店頭キャンペーンを
やっているのに遭遇したのだ。意地悪だって怒るかな?でもプレゼントは自分が貰って嬉しい
ものを贈るのが鉄則だよね。それにイロイロイイコトもできそうだし。

バレンタインデー当日。私達はちょっと奮発して高級焼き鳥屋で早めの夕食をとった。
地鶏と地酒が有名なこの店は早い時間だと客も少なく落ち着いた雰囲気で、私達はたまにここに
来る。そういえば前に来たのはクリスマスだったっけ。そんなことを考えていると、

まだ時間あるでしょ?デートしよう。
確かに私が帰宅するにはまだ早い時間だ。でも、上手に彼の家に誘導しないと。
借りたい本があると言って彼の家に行こうとしたのだけど…

バレンタインデーだよ?恋人たちの祝日だよ?外でいちゃいちゃしようよ〜。
別に祝日じゃないし。それに、外でデートするよりももっとイイコトをしてあげようと
思ってるんだけど。なんておくびにも出さないで、私は強引に彼の家へ上がりこんだ。
本当は借りたい本なんて無いんだけど、適当な本を見繕って借りることにする。
テレビをつけて……黙ってテレビに集中していると思ったら、違った。
澄んだ瞳がこちらを見つめている。

樹璃さん。ずっと、一緒にいようね。
真面目な顔でそんなことを言われると、こっちまで照れてしまう。
私から抱き寄せて、ぽんぽんと背中を撫でる。大丈夫。大好きだよと伝わるように。
不意をつくように髪の毛をわしゃわしゃと掻くと、びっくりした表情になるのが可愛い。

髪の毛、煙くさいね。焼き鳥の臭いだ。お風呂入っといで。
言えた。作戦決行だ。

彼の家のお風呂はいわゆるユニットバスというやつで、単身者用のそれは本当に狭い。
なので彼は湯船には浸からずにシャワーを浴びるだけのことが多いらしい(窮屈な湯船に浸かっていると自分が漬物になったみたいな気分がするのだと言う)。
だけど今日は作戦のことがある。さっさと出られては困るのだ。頭洗ったら湯船に浸かりなさいよ、と念を押しておいたから大丈夫だと思うけど。
頃合いを見て、自分も手早く服を脱ぐ。カバンの底に隠しておいた例のブツを取り出してバスルームへ向かう。

頭洗った?

うん、洗ったよ。どうかしたの、樹璃さん?

一緒に入ってもいいかな。

……そ、それは期待してもいいのかな。
彼の声が上ずっているのを感じて、こちらもにやけてしまう。いかんいかん。表情をなるべく普通にして……

お邪魔します。
なんだか間抜けな第一声になってしまった。

何持ってるの?
目ざといというわけではないと思う。裸眼での視力はすこぶる悪いはずだ。だからきっとそれは、香りのせいだったと思う。

んー、甘い匂いがする。
鼻をクンクン鳴らしてる姿は大型犬に似ていて、そんな彼をたまらなく愛おしいと思う。
自分もバスタブに移動して、持っていた石鹸を手早く泡立てる。

あ、それかぁ〜。いい匂い。チョコレート……だよね?

食べられないけどね。
石鹸のついた手を彼の手に重ねる。

洗ったげる。
そう宣言して石鹸を彼の身体に塗りたくった。

ちょ、ちょっとくすぐったいです、樹璃さんッ。
逃げ回ろうとしても、バスタブは狭いのですぐに捕まえられる。大事なところも、しっかり洗ってあげよう。

ひゃっ!や、そこはいいですってば!!

どうして?生クリームプレイしたがってたよね?

それはちーがーうーっ、…っうん。はぁっ、っあっ。
抗議の声に吐息が混じったのは、泡だらけの手で私が彼のモノを握ったからだ。

樹璃さん、恥ずかしい。恥ずかしいよ。

我慢しなさい。
上下させる速度を速め、石鹸を舐めないように注意しながら先のほうに息を吹きかける。
ついでに袋のほうもやわやわと揉むと、

ダメッ、もう我慢できないっ。出ちゃうよぉ。
目線を合わせて、いいよのサイン。
……!!

ふう、と息を吐くとニッコリ笑って
今度は樹璃さんを洗ってあげますよ。お礼です。
結構です、と断るより前にぬるぬるした大きな手が胸に触れる。いつもとは違う感触と
濃厚なチョコレートの香りに肌が粟立つ。

ごめんなさい、寒かったですよね。
そう言ってシャワーが私の背中にかかるように調節してくれる。

もう一個、男のロマンを言ってもいいですか?
瞳が輝いている。悪巧みをしているときの表情だ。

胸に石鹸を塗って……、こうしてもらえますか。
言われるがままに両脇を締めるような格好になって初めてわかった。

おっぱいちっちゃくてゴメンネ。
いわゆる、パイズリというやつができるほど私の胸は大きくないと自分では思っていたし、
彼も今まで言い出さなかったのでそういう趣味はないのかと思っていたのに。

いえいえ、樹璃さんがしてくれるから嬉しいんですよ。
そういいながら、無理やり作った胸の谷間に彼自身をあてがって往復させる。チョコレートの香りと
彼自身がさっき放出したぬめりが一体化して、それなりの形にはなってると思う。たぶん。

気持ちいい?

気持ちいいっていうか……すっげぇコーフンします。

樹璃さんすっげえ色っぽい。ね、もしかして感じてるの?乳首勃ってるよ?

や、これは寒いから!

じゃあシャワーかけますね。
お互いにシャワーをかけあう。狭いユニットバスの中では身体を離すのも一苦労といった感じなので、結局おおまかにしか流せないのだけど。
んー、いい匂い。
嬉しそうに笑ってくれると、こっちまで嬉しくなってくる。

樹璃さん、大好きだよ。
そういうと私の身体を半回転させて

後ろ、向いて。
え?と聞き返す間もなかった。後ろから抱きすくめられて耳朶に吐息がかかる。

ここでしたい。今すぐ。
気がつくと彼の片手はそっと私の乳房に添えられていて、もう片方の手は後ろから濡れた割れ目をなぞっている。

樹璃さんも、濡れてるよ。
反論できない。

壁に手をついて。
言われるがままに、壁に手をつくと、お尻を突き出したポーズになってしまう。

入れます。
宣言して、彼は入ってきた。意外にすんなりと侵入を許してしまうあたり、やっぱり私も興奮してたのか、
なんて考えることができたのは後になってからで。

……嬉しい。

そういって律動を刻みだす。
深く、浅く、私の一番いいポイントを探そうと動くと同時に、乳房に添えられた手は乳首に触れるか
触れないかのところで淡い快感を送り出す。

駄目だ、声が出てしまう。しかもお風呂場だから響くし。盛大に恥ずかしい。我慢して声を押し殺そうとすると耳元で

樹璃さんの声、聞きたいよ。我慢しないで。
でも、隣に聞こえる、と最後まで言わせてくれなかった。
最奥を激しくノックする動きに変わったのだ。
同時にクリトリスをつままれる。

ダメ、お願い、あ、ああ……ッ

階段を昇りつめるにつれて私の声はすすり泣くようになっていった。
彼のスピードが速くなる。

樹璃さん、愛してる、愛してる……

うわごとのように繰り返される魔法の呪文に、普段封印している言葉を私も言ってしまう。

好き、大好き!

狂ったように繰り返すと高みへ昇るスピードも速くなっていく。
宙に浮きそうなのを必死につかまってるみたいな、あの感覚。
彼も同じなのだろうか。

樹璃さん、俺、もうイきそう。

来て…い、いいっよっ。
先に達したのがどちらだったかなんて憶えていない。
気がついたら、ふたりともバスタブのなかでへたりこんでいた。

……酸欠で死にそう。

私も。のぼせちゃったね。お風呂上がったら冷えたビールを飲もう。


ホワイトデー、楽しみにしといてくださいね!三倍返しにしますから。

んー、何のことかなぁー?

うそぶいて彼の目を見る。
大好きだよ。声には出さないけどね。






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