Baby Baby
シチュエーション


この状況はどうしたらいいんだろう。
やっぱり、やっぱりそういうことなんだろうか。
彼氏の部屋に初お泊りってことは覚悟するべきなんだろうか。
――小松蛍子、26歳にして人生の局面を迎える。

なんて、かっこつけてどうする!


気が付いたら、26歳だったのだ。

中学も高校も大学も共学、普通に部活したりサークル入ったり。女友達はもちろん、男友達も
それなりにいる。今だって付き合いのいるやつもいる。
就職だってなんとか出来た。少ない同期の仲はわりといい。月に一度は飲みに行く。
おしゃれだって好きだし、まぁ化粧品に関してはオタクレベルでハマってるかもだけど。
顔だって普通だと思う。自分で可愛いとは思わないけど、悪いとは思ったことはない。
とにかく普通。何度も言うけど、普通に生きてきただけなんです。
そうなんだ。気が付いたら26歳だったというだけなんだ。

なのに、なぜ一度も彼氏がいないのか!

理由がわかっていたら苦労しない。もうね、この年で一度もいたことないとか、誰も思わないん
ですよ。皆、彼氏いる前提で話してくる。その度、私はどう対応していいのかわからなくなる。
これが大学生の頃なら、ウブで可愛いんでしょうよ。いや、今時高校生でもどうなんだろう……。
長く続いてる女友達一人は、私に彼氏いたことないのを知ってるけど、別に取り立てて何か言っ
てくる訳でもない。ありがたい。「紹介しようか?」とも言ってくれるけど、それで知り合う相手はと
ことんだめだった。恋愛にならなかった。友達が増えるだけだった。26年で培われた、恋愛フラグ
スルースキルが発揮された瞬間だった。そんなスキルいらない。
もはや、「彼氏?うーん、今は恋愛いいかなーって感じ(笑)仕事楽しいしさぁ」と、一通り経
験してきましたよ、なキャラ付けがなされている。一通りも何も、まだゼロ通りですけどね。まぁ、
そのキャラ付けのおかげで、話しすぎてボロを出すということはなかったし、助かっていたんだ。
だけど本音言うと、彼氏ほしいです。
高校の頃、3ヶ月に集中して男の子に告白された時期があった。
でも残念なことに、「よく知らない子と付き合うのはちょっと」とか「試しに付き合う、なんてやだ」
とか、無駄な潔癖さで断ってしまったんだ。ああ、勿体無い。あれが最初で最後のモテ期だっ
たんだと思う。私に、あと2回モテ期が来るとは思えない。

ところが、そんな私にうっかり彼氏が出来てしまった。

新居陽介。3つ下の、大学時代のサークルの後輩。
在学中、陽介は1年生だったし、あんまり話したことはなかった。小規模サークルのせいか、
1年生の顔と名前は全員把握してた。でもそれだけだ。4年生ともなれば、サークルはほぼ引
退みたいなものだったし。
だから、半年前のOBと現役生が一緒に集まった飲み会はびっくりした。大学生になりたての、
どこか幼い1年生の印象しかなかったから、垢抜けて男の人らしくなった陽介にびっくりした。
気が付いたら飲み会の席が隣で、携帯のアドレスを交換していた。
まぁ、それから色々ありまして。
二人きりで出かけるということはなかったけれど、サークル仲間と共にちょいちょい遊ぶように
なりまして。陽介の告白で、付き合うことになった訳です。最後のチャンスだと思ったんです。
これを逃したら、もう一生彼氏は出来ないと思ったね。ええ、必死ですよ。それに、話すように
なってわかったんだけど、陽介とは結構気が合う。話してて楽しい。おまけに顔もわりと好み
だったし、付き合わない理由はなかった。ちょっと打算的なところがあるのは仕方がない。

付き合って、2週間とちょっと。
楽しいです。ええ、ええ、楽しいです。初めての彼氏ということで内心相当浮かれているんだけど、
それが伝わらないようにするのが大変なくらい。いや、一緒にいて楽しいってことはちゃんと伝えて
いるんだけど。でも、3つも上の(一応)先輩が年甲斐もなく浮かれてるって思われたら、ちょっと嫌
だ。別に先輩ぶりたい訳でもないし、オトナの女なんて装える訳もない。だけど、年相応の経験積
んできてないというのは、やっぱりコンプレックスだ。
男の人が嫌いなのでも怖いのでもなく、普通に恋して告白したこともあったのに、一度も彼氏が出
来ないなんて。

自分はどこか欠陥があるんじゃないか、そうとしか思えなかった。


「けーこさーん、次入ってください」

突然声がして、ちょっとびっくりした。陽介がタオルで髪を拭きながら出てきた。部屋着みたいな
ゆるい格好は初めて見るから新鮮だ。私服は結構かっちりしてるから。

「とりあえず寝巻き、これ着てください」
「……ありがと」
「すみません、遅くまで連れ回して」
「こっちこそごめんね。突然家にお邪魔して」
「全然。蛍子さんが家にいるの、すげえ嬉しい」

そう言って、笑う陽介にときめく自分がいる。どうしよう、思ったより私はこいつが好きなのかもしれない。
コンビニで買ったお泊りセットとポーチ、寝巻きを持って立ち上がる。お泊りセット、なんて自分が
買うことになるとは思わなかったなぁ。

「あ、タオル好きなの使ってくださいね」
「うん、ありがと」

湯船に浸かるのは久々で、ほっとした。陽介の家のお風呂はセパレートだった。私はユニットバ
スが嫌じゃないので、今の家はユニットバスだ。なんだか湯船が広く感じる。次、引っ越すとした
らセパレートでもいいなぁ。
そんな事を考えていたら、突然現実を思い出した。

そうだ、お風呂を出たら、もしかしたらもしかしたら、しちゃうかもしれないんだ。

一気に体温が上がって、くらくらする。だめだ、ここでのぼせてはいけない。
そもそも、私が陽介の家にいるのは、終電を逃してしまったからだ。一緒にデート(自分がデート
という単語を使う日が来るとは思わなかった)していて、ご飯のあと何となく離れたくなくて、お茶
していたら終電を逃してしまっていた。乗り換えの関係で、普通よりかなり終電が早かったのを
忘れていた。陽介の家のある方面の電車はまだ終電じゃなかったので、こうして泊まらせて
もらうことになった訳だ。

そう、今日泊まるのはたまたまなんだ。

こっちは何にも用意していない!それは向こうもきっとわかってる!……たとえ何もないと
わかっていても、デートの際には下着に凝ってましたけどね。気分の問題で。
ああ、でもどうなんだろ。付き合って2週間でしちゃうものなのかな。普通なのかな。わかんない。
いや、いつかはするんだろうと思ってましたけど。
だいたい、付き合うことになったその日にキスされたからなぁ。あの日は家に帰っても眠れな
かった。軽く、唇に触れただけなのに。しょうがないじゃないか、正真正銘ファーストキスだった
んだから!

どうなんだろ、いわゆる陽介は手が早い人なのかな。……慣れてるのかな。そりゃ私よりは
慣れてるだろうけど。ああ、なんか残念な女でごめんなさい。年上女のテクなんて持ち合わせ
てない。単なる耳年増なんです、ごめんなさい。ミーナとかアンアンの『みんなのSEX事情』み
たいな記事を、どきどきしながら読んでました。ちなみに「初体験は何歳?」っていうアンケート
結果に落ち込んだのも事実です。
いっそ、エッチなことに興味のない淡白な人間だったらよかったのに。したこともないのに(した
ことがないからこそ?)、その手の知識ばっかり増えていった。一人ですることも覚えてしまった。
いつか、誰かに触ってもらえるのかななんて考えながら、何度もイッた。気持ちよかったけど、
心にぽっかり穴があいたように、さみしくてさみしくて仕方なかった。
あ、やばい。髪の毛を洗い終わって、体を洗いながら考えていたら、気分が落ちてきた。いかんいかん。
今日、しちゃうのかな。
タクシーで帰ればよかったかな。結構距離あるけど、帰れない距離じゃないし。
でも、陽介といたかったんだ。
一緒にいられるのなら、してもいいかな。
だけど、初めてだってわかっちゃうだろうな。
重いって思われないかな。
別に陽介のこと、いい加減なやつだとは思わないし、むしろ私には勿体無いくらい良い子だと思う。
だから余計に嫌われたくないんだ。


「お風呂の栓、抜いてないんだけどいい?」
「大丈夫です。明日洗濯に使うんで」

お風呂から出ると、陽介は冷たい水を用意してくれた。
家に初めて来て思ったけど、陽介ってちゃんと家事するんだなぁ。突然お邪魔したのに、部屋は
物こそ多いけど綺麗にしてたし。脱衣所だって、洗濯物溜まってなかった。これは見習わないと。
すっかり喉が渇いたので、ごくごく水を飲んでいると、陽介がじっと見つめているのに気が付いた。

「何?」
「……すっぴんですか?」
「あ、うん……」

いつもの癖で、お風呂で化粧を落としてしまってから気付いた。でも、(一般的な意味でも性的な
意味でも)寝るのに化粧したままっていうのもなぁと思って、眉だけ軽く描いたんだ。

「結構感じ変わりますね、可愛い」

……そんな顔で、「可愛い」なんて言ってくれるな。どうしよう、頬が熱い。

「普段は綺麗って感じだけど、今はなんだか幼くて可愛い。年上の人に可愛いって、失礼かもだけど」
「いや、えっと……うん…嬉しくてにやけるから、あんまり言わないで」
「じゃあ、いっぱい言う」

にこにこしながら言う陽介。こいつ、わかってんのかな。今、私がどれだけ緊張してるか。いや、わ
かられても困るけど。
借りた寝巻きはやっぱり大きくて、自分でもベタだなぁと思ったけど、上着がワンピースみたいに
なっていた。だからといって上だけ着た状態で出る訳にはいかないので(それはさすがに狙いすぎ
だろう)、きちんと下も穿いた。結局下着も上下着けた。そういう雰囲気じゃないのにノーブラってい
うのは、いかにも期待してましたよーって感じで嫌だったからだ。

「髪、乾かしましょうか」
「へっ?」
「俺、得意なんです。姉貴にやらされてたから」
「お姉さんいるんだ」
「2つ離れてるんですけどね。今は普通に仲いいけど、基本的に下僕扱いだったし」

言いながら、タオルで水気をとってくれる。お姉さんより年上か、私。地味にへこむ。
ドライヤーのあったかい風を感じた。やっぱり距離が近くなると、どきどきする。あと、なんだろ。
頭とか髪を触られてるのって、なんだか変な感じがする。意識しすぎかな。

「綺麗にまっすぐなんですね、髪」
「だからパーマもかかりにくいし、コテで巻いてもすぐ取れるんだ」
「確かにパーマの蛍子さん見たことなかったかも。見てみたいなぁ」
「もう諦めちゃったよ」
「まぁ、蛍子さんなら何したって可愛いんだろうけど」

そういうこと、さらりと言わないでほしい。
答えに困って、もうだまることにした。触れる陽介の指が気持ちいい。時々、耳や首に指が触れると
ぞくぞくしてしまう。……なんだか思っていた以上に、私は期待してるらしい。だめだめ、単なるスキンシップ、
彼氏彼女にありがちないちゃいちゃだと考えよう。意識しちゃだめだ。
ぐるぐる考えていたら、ふと、前の彼女にもしたのかな。そんなことが頭によぎって、嫌になった。
はい、終わりました、という陽介の声で、考え事はやめることにした。ありがとう、って振り返ろうとしたら。

「ひゃ、わ……っ」

突然うなじにキスされて、変な声が出る。色気のかけらもない。

「あ、すみません、つい」

そのままぎゅっと抱きすくめられた。熱い。一気に体温が上がる。

「ついって……」
「好きな人が近くにいて、しかも風呂上がりで俺の服着てたら、そりゃキスしたくなりますよ」

甘い。陽介の言葉は全部甘い。陽介は、自分の思っていることははっきり口に出すタイプだと思って
たけど、こういうのは困る。夢なんじゃないかって思う。恋人になったら、こんなに甘いこと言われる
のって普通なんだろうか。わかんない。普通なんてわかんない。

「俺ね、浮かれてるんです」

う、わ。耳元で囁かないでほしい。どきどきするし、ぞくぞくする。全身の血が逆流する感じ。
陽介の体温を改めて意識してしまって、訳わかんなくなる。
腕から解放されたかと思うと、陽介と向き合うようにされた。あ、なんか真面目な顔。

「キスしていいですか」

そんなこと聞かれるのは初めてだった。いつもいきなりだったのに。おかげで、いつまでたっても慣れ
なかった。別に嫌じゃないし、ただ心の準備が出来なかっただけだけど。
でも、今こうして聞かれると、やっぱりだめだ。余計に緊張してしまう。うなずくのが精一杯だ。
肩に手を置かれて、陽介の顔が近づく。見ていられなくて、目を閉じた。

「…ん……」

触れるだけなのに、なんでこんなに気持ちいいんだろう。陽介だからなんだろうか。ああ、でも私、
陽介のキス好きだなぁ。心臓はどきどきしっぱなしだし、なんだか気恥ずかしいけど、すごく安心する。
頭撫でてくれるから、余計にそうなのかも。
舌で唇をつつかれて、少し口を開くと陽介の舌が入ってきた。
うわ、どうしよう。
何度かしているけど、やっぱり慣れない。どこに手を置いていいのかわからなくて、陽介のTシャツをつかんだ。

「ふ、……んぅ…っ」

陽介でいっぱいになる感じ。すごくやらしいことしてるみたいで、声が漏れてしまう。
唇が離れてしまうのが、残念に思えた。
……なんだか頭がぼうっとしている。うまく呼吸出来なかったせいだろうか。
見上げると、陽介が首に触れてきた。

「陽介……?」

腰を引き寄せられて、耳や首筋に唇が触れる。今までだって、唇以外にもいろんなところを
キスされてきたけど、そうじゃない。
なんか違う。
えっと、つまりはそういうことで。
そういうキスをされてる訳で。
勘違いじゃないよね?私の妄想でもないよね?

「……触ってもいいですか」

どこを、なんて聞ける訳もなく。私はうなずくことしか出来なかった。
陽介の手が、上着の上から胸に触れる。
わ。
うわわわ。
男の人に胸を触られるなんて初めてだ。昔はよく、女友達とふざけて触ったり揉まれたりしてたけど。
そんなのとは全然違う。服も着てるし、ブラだってしてるのに、触れられたそこが熱い。
残念ながら大きいとは言えない私の胸は、陽介の手のひらにすっかり収まっている。触れる
だけじゃなくて、そっと揉みしだかれる。揉みがいのない胸で申し訳ないなぁ……。
すごい、やらしい。
心臓の音がうるさい。
状況に酔ってんのかな。
鎖骨の辺りに唇を感じて、少し身構えてしまった。ついに、そういうことになっちゃうんだと思って。
ひとつずつ、ボタンを外される。み、見られてしまう……。そんなの健康診断でしかないし!だって
処女だし!いや、そういうことじゃなくて。ブラ着けてるのに、見られるのが恥ずかしいって、そんな。
そんな今更照れる年齢か。この年で照れるのか。

「わ」

胸をはだけさせられて、陽介の最初の一言がそれだったから、私の胸が一体何の粗相をした
のかと不安になった。

「な、なに……?」
「ちょっと想像以上で」
「想像って……何想像してんの」
「蛍子さんのいろんなとこ。でもやっぱり本物には敵わないな。胸も下着も全部、可愛い」

……こいつは。結構、その、なんていうかエロい人のなのか。いや、私も一人でしてるんだから、
人のこと言えないけど。
ベッドに行きましょうか、と言われて一気に体が強張った。

ああ、やっぱりそうですよね。
そういうことですよね。

さっきのいつもみたいな会話のせいで忘れかけていたけど、途端に意識してしまう。
ベッドに、そっと横たえられて、陽介を見上げた。このシチュエーション、なんていうか、それっぽい。
いや、それっぽいって今まさにするんですけど。自分が、男の人を下から見上げるなんて変な感じだ。
緊張してるの、伝わってないかな。
だって陽介は、あんまりいつもと変わらない。なんか、余裕がある感じ。先輩ぶりたい訳じゃないけど、
やっぱりなんだか悔しい。こいつも、初めての時は緊張したのかな。してほしいな。
おでこにキスされて、胸の辺りが楽になったと思ったら、ブラのホックが外されていた。横になると
一気に胸が流れるから、元々残念な大きさの胸はさらに残念になった。
ブラが押し上げられて、胸があらわになる。
どうしよう。
どうしよう。
肌が、ざわざわする。
なんでだろう、なんでこんなに恥ずかしいんだろう。触られてもいないのに、見られるだけでこんなに
恥ずかしいなんて。あ、今更だけど電気……明るいままだし……。
陽介の喉が鳴ったような気がした。
恥ずかしくて、どこを見ていいのかわからなくて、とりあえず目を伏せたら自分の胸に行き当たった。
やばい。……乳首立ってるし。
陽介の手が、直に胸に触れる。
さっきより少し強めに揉みしだかれ、親指で乳首を弄られる。途端、甘い痺れが体中に伝わる。
うそ、胸ってこんなに気持ちよかったっけ。
吐息が荒くなる。興奮してるんだ、私。

「…ぁ……っ」

陽介に、口に乳首を含まれた。そのまま舌で転がされて、さっきとは比べものにならない気持ち
よさが体を駆け抜ける。思わず声が出そうになって、必死で堪えた。
乳首だけじゃなくて、胸のいろんなところに吸い付かれる。
つむっていた目を開くと、陽介が見えた。

途端、訳がわからなくなった。

こんな表情の陽介、知らない。

ちゃんと男の人なのに、年下っていうせいかどこか少年っぽいのが陽介だと思ってた。陽介の
笑顔は安心できて、好きだった。いろんなこと、一緒に笑えたらいいなぁって思ったから、付き合
おうと思った。
でも今は違う人みたいに思った。
別に乱暴にされてる訳じゃない。触られるのが嫌なのでもない。
だけど、怖くなった。
さっきまでは、してもいいかなって思ってたのに、今は怖い。出来るとは思えない。
なんで?
自分はこんなにいっぱいいっぱいなのに、陽介は余裕だから?
置いてかれた気持ちになるから?

わかんない。
初めてだって知られるのが嫌だから?それとも、それが怖いから?
だって、きっと経験者のふりなんて出来ない。
重いって思われたら、やだ。
それはプライド?
それとも陽介が好きだから?好きだから嫌われたくない?
わかんない。
わかんないよ。

腰に手が当たったかと思うと、ズボンを引き下ろされた。普段、ミニなんて履かないタイプだから、
足を見られるのだって慣れてない。全部引き抜かれて、下着だけになってしまった。
やだ。
恥ずかしさと怖さで、余計に混乱してしまっていた。

「や……」

訳わかんない
怖い。
見ないで。
こわい。
私の全部、見ないで。

「…や、めて……やだぁ、やめて…っ」

衝動的に叫んで後悔した。
……最低だ。一番避けたかった事態に、自ら飛び込んでどうするの。
本当に嫌なら、ベッドへと場所を変える時にでも言うべきだった。それなのに、タイミング悪すぎる。
散々いろんなこと許しておいて、今更じゃないか。
面倒くさい。
本当に面倒くさい女だ。

「すみません」

しばらくの沈黙のあと、陽介の体が離れた。
なんで謝るの。謝るのはこっちじゃないか。
だって傷つけた。陽介の、そんな表情見たくなかった。そうさせたのは私だ。
本当に、最低だ。

「やっぱり、俺がっついてましたよね」

違う。
そうじゃない。
やだ。
やだ、やだ。
そんな顔しないで。
――嫌いにならないで。

「違うよ、陽介のせいじゃない!」

身を起こして、陽介に飛びついた。
だけど、顔が見れない。見るのが怖い。腕をつかんだまま、ずっと下を向いていた。

「わ……私、訳わかんなくなっちゃって。怖くて……っ」

あ、やだ。涙出てきた。
陽介に顔は見えないだろうけど、声が涙声になってる。
泣いてどうにかするつもりなのかって思われるかな。
でも、その涙は、自分がつまらない人間だとつくづく思ったからだ。

「ほんと、26にもなって恥ずかしいんだけど、私、その、あのさ」

怖い。言うのが。
引かれるだろうな。重いって思われるかな。
だけど、もう言わなきゃ。
唇が震える。

「……し、たことなくて……付き合うのだって、陽介が」

うわ。

「……初めてで」

面倒だ。
自分で言ってて、つくづく面倒な女だ。
26で処女なのも、それがコンプレックスなことも、陽介に嫌われるかなってぐるぐる考えてることも。
全部全部、面倒だ。
こんなことも、こんな悩みも、今の年齢で経験することじゃない。私以外の人は、もっと前に終わらせてる。
だけど私は26歳で、四捨五入すれば30歳だ。もう、そういう年齢な訳で。
人並みの人生、送れてないんだなぁ……。
情けない。
そう思ったら、一気に涙がこぼれた。

「どうしていいのか、全然わかんなくて」

ぶっつりと切れたみたいに、涙が止まらない。
陽介はずっと背中を撫でてくれた。……なんでこんなに優しいんだろう。
ある程度、私が落ち着いたところで陽介が口を開いた。

「なんとなく……すごい恥ずかしがりなのかなー可愛いなーって思ってましたけど……」
「ま、まさか初めてだとは思わないよね……ほんと、ないよね……」
「いや、なくはないです」

そう言って、陽介は私の顔を上に向かせた。
可愛く泣けるタイプでもないし、涙でぐしゃぐしゃで酷い顔を見られたくなかったのに。
何より、陽介の顔を見るのが怖かった。

「ゃ……ごめ、んなさい……」

怖くて、また涙が溢れた。

「謝らないで」

そっと涙をぬぐってくれる。
なんで陽介、そんな優しい顔するの。
なんで私みたいな女に優しくしてくれるの。
そんな価値、ないのに。

「……嫌なの、全部、自分が。陽介に重いって思われるかなとか、嫌われるかなとか思っちゃうのも、
す……するのが怖いのも、全部全部、自分のことしか考えてない……」

だめだってわかってるのに、たまらなくなって少しずつ吐き出した。


何かで読んだ。セックスは、お互いの一番弱いところを見せ合うものだって。今の私には、それは
無理だ。つまんない意地やコンプレックス、陽介には知られたくなかった。
陽介に嫌われたくなかったから。
陽介が離れていってしまうのが怖かったから。

だって、誰かに好きになってもらえるなんて、この先ないと思ってた。

大学時代だって、社会人になってからだって、恋しなかった訳じゃない。だけど、その人が私を選んで
くれたことはなかった。その度に自分ってなんなんだろうって考えた。家族仲はいいし、友達だっている。
仕事は面白いし、職場の人間関係もいい。自分は「いらない子」なんかじゃない、幸せだってわかってる
のに、自分の価値がわからなくなっていった。
誰も私のことなんか、可愛いって思わないんだろうなぁって。
別に酷いことされたり言われたりしてきた訳じゃないけど、男の人にとってどうでもいい女なんだろう
と思った。恋愛市場じゃ価値がない女なんだろうなぁって。だけど同時に、恋愛が全てじゃないとも考えてた。
恋愛以外じゃ人生楽しめてるんだから、たった一要素で悲観的になるのはおかしい。今もそう思ってる。
『おひとりさまの老後』を読んで貯金を始めたのも、どっちかっていうとポジティブな気持ちからだったはずだ。
大丈夫。わかってる。
わかってるのに。
少しのさみしさを認めたつもりだった。だけど、結局は見ないようにしてただけだった。いつだって
胸が痛かった。ふとした時に、ああ自分は一人なんだなって思ってさみしかった。そう思う度に、
おかしい、そんなはずないって思うようにしてた。だって周りに人はいるのに。大切な人たちがいるのに。

陽介に告白されて嬉しかったけど、付き合ううちにどんどん怖くなっていった。
陽介が優しくしてくれたり、好きだって、可愛いって言われる度、すごく嬉しいのに身構えてしまう
自分がいた。自分にブレーキをかけるようにしてた。

今までの分、全部陽介にぶつけてしまいそうで怖かった。
可愛いって思われたい、手繋ぎたい、抱きしめられたい、甘えたい、キスしたい。そういう願望を
ぶつけたくなくて気を付けていたけど、見透かされてしまったらと考えると怖くてたまらなかった。
だって、こんなの身の程もわきまえない、ただの欲張りじゃないか。
そんな価値もない女のくせに。


……重い。これは重い。

涙も収まってきて、ずいぶん冷静になってきた頭で思う。
ていうか、何を話しているんだ!私は!
さぁっと血の気が引いた。ような気がする。
何、不幸自慢のつもりか。ない。これはない。こんなこと、いきなり言うのだって、陽介のこと考えて
ないことになる。どこまで私は自分のことしか考えてないんだ。フェードアウトされてもしょうがない。むしろ
直接はっきりと別れましょうと言われてもおかしくない。だって重い上に面倒だもの、この女。ストーキングは
しないので安心してほしい。あー、あー、なんだか捨て鉢になってきたぞ。
だけど。
正直言って、まだ信じられないけど。
陽介が私のこと好きだって言ってくれたの、すごく嬉しかったんだよなぁ……。
もうその思い出だけで生きられるなぁと思っていたら、陽介は私の頭を撫で始めた。それされるの、
好きだからやめてほしい。どきどきするからやめてほしい。

「……俺、今ほっとしてるって言ったら嫌いになりますか?」
「え……」
「蛍子さんのこと、今まで俺全然わからなかったんです」

その言葉もよくわからなくて、きょとんとしてしまった。
陽介は代わりになる言葉を探しているようだった。

「いや、えっと。んー……わからないっていうか、不安ていうか悔しいっていうか」

その言葉もよくわからなくて、陽介が話し出すのを待った。
不安?悔しい?

「俺から告白したし……やっと大学出て働き始めたところだし。蛍子さんから見たら、子ども
なんだろうなって思ってて。でも年なんて絶対埋められるものじゃないし。
嫌われてはないんだろうけど、必死だなって思われてたら恥ずかしいなぁとか考えてました」

実際蛍子さんのこと好きすぎて必死ですけどね、と陽介は苦笑して言った。

「ごめんなさい、正直言って一線引かれてるって感じてたんです。
一旦考え出したらよくないことばかり思いつくんですよね。
俺ばっかり好きになってて、蛍子さんはそうでもないんだろうなとか」

ひやりとした。
まさにその通りだったから。私、わかりやすいのかな。だったら陽介はとっくに私の願望なんか、
見透かしちゃってるのかもしれない。

「でも、嫌われてないならいいか。あのさ、蛍子さん」

私の体をすっぽりと抱え込むようにしながら、陽介が言った。さっきより近くなる。

「知らないところ、いっぱいあるよ。これからどうなるとか、まだ全然わからないよ。
だけど、蛍子さんと話すの好きだし、もっと一緒にいたいって思えたから告白したんです。
……自分のことしか考えてないのは、俺も同じ」

違うって言いたかったけど、うまく声が出なくて代わりに首を横に振った。

「残念ながら、そんなもんなんですよ」
「でも陽介……」

声を出したら、やっぱり少し裏返った。

「私と違って線引いたりしないじゃない」
「だって好きなんだから近づきたいよ」

心とかだけじゃなくて体も全部。
好きなんだから近づきたい。
それって、すごく勇気のいることだ。私は線を引いて逃げた。陽介は逃げなかった。

「そりゃあ怖いですよ、今でも。それでも蛍子さんのこと知りたいんです」

確かに付き合い始めてから、陽介のこと少しずつ知るようになった。
出会いこそ5年近く前だけど、私は陽介のことほとんど知らなかった。再会して皆で遊ぶように
なってから、知ることは多かった。付き合いだしたら、もっと増えた。こういう表情するんだ、ああいうの
好きなんだ、こういう癖あるんだなぁ――なんて。

私、本当はわかってた。
いろんな面、知る度に陽介をどんどん好きになっていったこと。

すごく好きな訳じゃないけど嫌いな訳じゃないし、なんて考えてたけど、正直もうどうでもよくなってた。
会う度にもっと一緒にいたい、離れたくないって思うし、キスする度にもっとしたいって思った。唇が離れる
のがさみしいなって、いつも思ってた。
そうなんだ。
好きだから。
好きだから、嫌われたくなかった。
だけど、好きだからって線を引いて逃げてしまうのは違う。私はもういい加減、踏み込む勇気を持つ頃だ。
今やらないで、いつやるんだ。好きなんだから、向き合いたい。

「私も」
「うん」
「私も陽介のこともっと知りたい。本当、私、怖がりだけど……」

キスするのかなって思ったら、陽介は私のおでこにおでこをくっつけてきた。

「怖がり同士でいいじゃないですか」
「でも、私今まで怖いからって逃げてて」
「今まではいいから、これから」
「これから……」
「無理しなくていいんです。ちょっとずつでいいんです。
蛍子さんとは長くじっくり付き合いたいなぁって思うし。だから」

陽介は顔を離して、まっすぐに私を見てきた。
一瞬目を伏せそうになった。怖いけど、目を合わせるのは怖いけど、でも。私もちゃんと見つめ返す。
陽介がふわって笑う。

「もう少し、お互いを知ってからしましょう?」

してから知ることも多いけど、って陽介は続けた。
あ、なんだろ。
胸がじわっとあったかくなって、泣きそうで、たまんない。どうしようもない。陽介のことが好きで、
好きでたまらなくなってしまった。
触れたいなぁ。
そう思った時には、とっくに手が出て、私は陽介にぎゅうっと抱きついていた。
陽介の背は低くないけど、すごく高い訳でもない。陽介を見るときはやっぱり見上げてしまう
けど、細身ということと後輩ということで、あまり大きいイメージは持ってなかった。でもやっぱり
大きいなぁ。男の人だなぁ。

あー、こういうふうに陽介の体を感じるの、すごく幸せだ……。
少し体を離して陽介の顔を見ると、ちょっと驚いたような顔してた。あ、なんか可愛い。

「ごめんね、なんかすごく嬉しくって」
「いや、謝らないでくださいってば」
「……うん。ありがとう」

泣きそうになってしまったから顔が見えないように、また抱きついた。
でも、さっきみたいな泣きたい気持ちじゃない。あったかい気持ちだ。ちょっと浮かれてるかもしれない。
普段なら、絶対こんなことしない。しないっていうか、出来ない。

「好き」

別に今までが不幸だとも思わないけど、陽介と会えて本当によかった。
陽介みたいな良い子が私のこと好きでいてくれて、私も陽介のこと好きだってはっきり言える
ようになれて、嬉しい。好き同士、になれるなんて気の遠くなるような確率だと思ってたけど。
こうしてるだけで、あたたかい気持ちになれるって本当に幸せだ。
ちょっと浸っていると、突然陽介が私の体を離した。
え。
な、なんで?私、何かした?どうしよう、嫌だった?
軽くパニックになってると、陽介の顔が赤いことに気付いた。

「……そういう不意打ちは困る…」
「え、何が……、――っ!」

手を掴まれて、足の付け根に誘導される。
うわ。
うわわわわ。
もちろん、そんなところを触るのは初めてで、一瞬よくわからなかった。だけどスウェットだから、
余計感触がわかりやすいというか。陽介がどういう状態なのかわかってしまって、こっちも顔が
赤くなる。
ああでも、そういうことなんですよね。
私が怖い怖いなんて言うからやめてくれただけで、本当は。

「やっぱり、その、し、したいよね……」
「しませんよ」

でも、と言いかけると、陽介がばつの悪そうな、というか苦虫を潰したような、まぁそういう
微妙な顔してさえぎった。

「すみません、言わせてもらいますけど、今すっごく我慢してるんですよ俺。
諸々脱いだ格好で抱きつかれて、好きな人に好きだって言われて、どうにかならない訳がないでしょ。
大体、蛍子さんが好きって言ってくれるの、さっきのが初めてだし。ああもう!」

そういえば、確かに色々脱げてて酷い格好だった。寝巻きは上しか着てないし、それもボタン
外して前全開になってるし。下着は上下着けてるといっても、ブラのホックは外れちゃってるし。
冷静に考えると、すごい格好だな……。今更恥ずかしくなって、上着の前をかき集めた。
まぁ、それはそれとして。
えっと。
そうか、私今まで陽介に好きって言ったことなかったんだ。
なんとなく、ごまかしてきてたと思う。だって、『付き合う』ってもっとこう激しいというか情熱的なもの
だと思ってた。いや、性的な話じゃなくて。
お互いのこと、好きで好きでしょうがない人同士が『付き合う』ものだと思ってた。
とりあえずで付き合っちゃう人たちがいるのも知ってるけど、自分には遠い世界の話だと思ってた。
だって私、最初から陽介のことすごく好きって訳じゃなかった。最低なことに少しの打算的な考えが
あった。嫌いな訳じゃないけど。むしろ好きだったけど。ただ、恋愛方面の好きっていう感じじゃなかった。
でも、キスされたの嫌じゃなかったんだから、やっぱり初めからそういう好きだったのかな。どうなんだろう。
体触られるのだって嫌じゃないし。

「だけど、絶対今日はしないって決めましたから。今日だけじゃなくて、もうしばらくは。
蛍子さんが俺を欲しいって思うまでは、絶対」

……。
なんか結構露骨なことを言われてるような気がしないでもない。というか、もっと他の言い方が
あるだろうと突っ込みたかったけど、今は気付かないふりをする。
なのに陽介は、気が付かないふりをしたのに、無意味な努力となるような反応をしてくれた。

「まぁ、そのうち一緒にお風呂入ったり、俺の上に乗ってもらったりしてもらうつもりなんで」
「――なっ……!?いや、ちょっと、……ええっ!?」
「あはは、だって好きな人のいろんな姿って見たいじゃないですか」

さわやかに笑顔で言わないでほしい。
どうしよう、ぐるぐる考えてたら、また真面目な顔をして陽介が言った。

「今日はしません。けど、……もうちょっと触ってもいいですか」

陽介の声が低く掠れて、心臓がどきんと飛び跳ねる感じがした。
嫌じゃない、怖くない、この感じ。

「触られるのも、怖い?」
「……怖くない……」

そう答えるとキスしそうな距離に近づいて、やめても大丈夫ですからね、と囁かれた。ち、近い……。
のどが渇いた感じがする。
言わなきゃ。
そりゃ最後までは怖いけど、陽介に触ってもらうのは多分好きだ。嫌じゃない、じゃなくて好きだと思う。
私だって、もう少し触ってほしい。……恥ずかしいけど、でも言わなきゃ伝わらない。

「もっと触って……、…ん、んぅ…!」

答えた途端、唇が触れる。
唇だけじゃなくて、舌も。
さっきした時はされるがままだったけど、今は違った。多分、というか絶対下手なんだろうけど、もっと
陽介のこと知りたくて、頑張って舌をのばす。すると、陽介は私の耳をさすったり軽く中に指を入れたり
してきた。指、優しいのが嬉しい。なんだろ……。キスしながらだと、やたら感じてしまう。耳でこんなに
感じるだなんて思わなかった。
息が苦しいと思った頃に、陽介は離れた。
ぼうっとしてしまっていたら、陽介は、私が飲みきれずに口の端に溜めてしまった唾液を舐め取った。
なんか、そういうの……。
あ、やばい……自分の中から、とろりと落ちる感覚がした。なんていうか、その。興奮っていうか、
むしろ発情っていうか。どうしよう。もっと触ってほしくなる。
腰の辺りを撫で回されて、腰が震えた。
撫でてるだけなのに。なんで、こんなに気持ちいいんだろう。もっと、もっと、って思ってしまうんだろう。
そんなことを考えていると、ふと陽介と目が合ってしまった。やだ、私間抜けな顔してたよね今。
うわうわうわ、急に恥ずかしくなってきた!

「あの……電気もう少し、暗くしてもらってもいい……?」
「だめ、蛍子さんの顔とか体、ちゃんと見たい」
「た、大したものじゃないですから!胸ないし!本当に!」
「……なんでそういうこと言うかな。俺好きですよ、蛍子さんの体」
「…んっ……!」

太ももから腰、胸までのラインを優しく撫で上げられて、思わず声が出てしまった。

「肌気持ちいいし、胸可愛いし」

小さいっていうのを可愛いって言い方してくれる辺り、本当にいい子だなぁ。なんて思ってたら、
陽介の手がのびて胸を揉みしだかれた。時々乳首をこすられると、背中の辺りから自分の中心まで
ぞくぞくして、切なくなる。なのに、耳にキスしてくるから余計に感じてしまう。

「今までがどうだろうと、蛍子さんは可愛いです。……自信持ってよ」

だめ、耳元で囁いちゃだめ。ずるい。反則だ。
言われてることはすごく嬉しいのに、今はひたすら気持ちよくなってしまう。息も荒くなってる。あ、だめだ、
頭ぼーっとしてきた……。
胸を触っていた手がお腹に下りていったかと思うと、ショーツの上からあそこをそっと撫でられてしまった。
反射的に足を閉じたけど、そんなことじゃ指の動きは止まってくれなかった。

「う、ぇ、あの、待って、そこはだめ」
「嫌ですか?……今日はもうやめましょうか」
「そうじゃなくて、心の準備が!」

途端、陽介はきょとんとした顔をして、それから吹き出した。
え、なんで。変なこと言った!?
だって嫌じゃないよ!確かに触ってほしいよ!でも同時に恥じらいもあるんだってば!興味はある。
性欲もそれなりにある。陽介の触り方好き。だけど、今私は恥ずかしさで死ねるほどなんです。本当に申
し訳ないけど、心の準備しないとちょっと無理なんです。花も恥らう乙女って年頃でもないけど、恥ずかしい
のは恥ずかしいんです。

「そういうところ好き」

言いながら、おでこやほっぺにキスしてきた。なんか小さな子をあやすみたいだ。子供扱いか。そうか。
そうだよなぁ。うう……。いいんです、これから覚えていくから。
そんなことをぐるぐる考えていたら、準備出来ました?と聞かれて、うなずいた。うなずいたけど、私、
心の準備出来てるのか……?
さっきよりもしっかりとなぞられていくと、自分がどれだけ濡れていたのかがわかってしまった。え……
おかしくない?だって、一人でしてた時だって、こんなに濡れたことなかったし。
うわ、どうしよう。どうしよう。だってこんなの。
一人で少し混乱していたら、ショーツの上からかき回すみたいにいじられて、くちゅっという音がした。
……もう、無理……。

「見、ちゃやぁ……」

陽介の指がどう動くのか見てられなかったし、顔も見られたくなくて、陽介の胸に抱きついて顔を隠した。
限界です……。だけど、目をつぶってしまったら、音が余計に聞こえる気がした。私の荒い呼吸と、恥ずか
しい水音。それから、陽介の心臓の音。

「でも触るのはいいんですよね」

そう言って、陽介はショーツの脇から指を入れてきた。普通に脱いで触られるより、絶対そっちの方が
やらしい気がする……。
指で往復するような動きに、体がふわふわしてくる。さっきよりも水音が粘っこい。

「とろとろだ」
「や、だ……っ言わないでよぅ……」
「俺としては嬉しいんで」

自分でもわかる。きっとそこは熱くて、柔らかくなってるんだと思う。でも言われるのは別なのに。
好きな人にそういうこと言われるの、恥ずかしくて仕方がない。

「――ひぅ……っ!」

いきなりだった。少し、そこに触れられただけなのに、体が跳ねた。体中に電流みたいなのが走っていく
感覚。頭がしびれていくみたいな。だめ、そこすごく好きだから。陽介のTシャツをつかんで快感をやりすご
そうとしたけど無理だ。敏感なそこを転がすように指を動かされる。

「ぁは、ふ、ぁ……っ」

うまく呼吸が出来ない。
転がしたり、強めに押し付けるように指を動かしたり、かと思ったら優しく触れてきたり、そういじられている
と体だけじゃなくて腰も動いてしまった。一人でしてることバレちゃうかななんて一瞬考えたけど、もうどうでも
よくなった。気持ちいいのを追いかけるのに必死だった。

「…ぁ、あ……っ、は、んんっ……っ」

息荒い。私。時々、声が出そうになる。ふと背中に陽介の手のひらを感じた。もう片方の指は意地悪なのに、
背中を撫でる手はひどく優しい。
ぬるぬるしたのを、そこにまぶしてはいじくられた。
つるんとすべりそうなそこを、陽介の指がしっかりと捕まえてる。
だめ。やめて。いいの。すごく気持ちいの。だめ。やめないで。だめ。だめ。

「ふ…ぁ…、ようすけぇ……」

どうしようもなくなって、陽介の名前を呼んだら全然予想もしない、甘えるような声が出て恥ずかしくなった。
だって、普段こんな声出さない。甘い女の子って感じの鼻にかかった声は、自分とは遠いものだ。恥ずかしい
のに。なのに、もっと甘えたくなる。

「……もっと、呼んで」

うわ、そんな熱っぽい声で囁かれたら。今、お腹の奥がきゅんっとしたの、わかった。
でも陽介は全然手を止めてくれる訳なんてなくて、二本の指でそこをしごきだした。頭の中白くなってきて、
うわごとみたいに陽介の名前を繰り返す。
あ、耳……陽介の舌でねぶられてる。舌、熱い。やだ、一緒にいじられたら、私、だめ、もう、やだ、だめ、

「――――、……っ…!」

――声にならなかった。

上り詰める感覚の後、頭の中が白くはじけた。心臓が壊れそうなくらい。
びくんびくんと体が跳ねて、だらしなく体から力が抜けた。やっと呼吸が出来たのはその後だ。
……なんだか空気がおいしい気がする。
甘い余韻が残る体を、陽介はぎゅうっと抱きしめてくれた。ほっとする。あちこちにキスされてから、
やっと唇にキスがきた。
大好き。
徐々にクリアになっていく頭の中で思う。さっきよりももっと、陽介が好き。好きなんだ。


諸々の処理をして、身支度をして、一緒にベッドの中に入った。
陽介は、まるで当たり前みたいに腕枕をしてくれた。……本当に自分でもベタだと思うんだけど、
ていうかバカだなぁって思うんだけど、やっぱり腕枕もちょっと憧れていたのです。まさかとは思う
けど、全部陽介に読まれちゃってるのかな。は、恥ずかしすぎる……。少女マンガの読みすぎって
いうのはわかってる!りぼん派です。わかってる。わかってる。だけど、嬉しいです。はい。
でも陽介、腕しびれちゃわないかな。
これ、結構男の子が頑張らなきゃいけない体勢のような気がする。
そう思って言ってみると、首の辺りに腕がくるようにしてくれた。これなら大丈夫かな。

ただ、そうすると、さっきよりも陽介が近くになるもので……。いや、もうね、そろそろ慣れなきゃ
いけないと自分でも思うんだけど!もっとすごいこと、さっきまでしてたくせに!いや、すごいこと
って表現はどうなんだ。中学生か!まぁ、それとは別ということで……。誰かの心臓に近い位置に
いるって、本当にどきどきして死ねる。だけど、陽介が柔らかく笑ってくれたから、ちょっと落ち着けた。

少しずつ、いろんなことを話した。

「俺ねぇ、本当に今日浮かれてたんですよ」

「ずっと、どうやって家に誘おうか悩んでて。そしたら思いがけず、今日は蛍子さん来てくれて」
「悩んでたんだ……」
「悩みますよ。そういうことが一番の目的だって思われたら嫌だし。
でも家でゆっくりするのも好きだしなぁって思ってたんです」

見透かされたみたいで、びっくりした。ごめん、思っちゃってごめん!
だって陽介、早生まれでまだ誕生日来てないから22歳なんだよ。20代前半なんて健全な
男子だったら、そういうこといっぱいしたくなるもんじゃないのかって考えるし。実際さっきだって、
あそこ硬くしてたし。特に若くもない、あんまり健全でもない私だって、その……一人でして
しまうくらいには悶々としてるし。いや、だからといって、いつもいつもそういうことばっかり考え
てる訳じゃないけど!……それは陽介もだろう。ですよね、はい。

「でも、結局我慢できずにいろいろしちゃったので、だめですよね」

陽介が、ちょっと苦い顔して笑う。

「……だめじゃないよ」

そんなの、私だってちょっと期待してた。期待っていう言い方が正しいのかはわからないけど。

「だって私も、その、するのかな……って。しちゃうのかなって、どうしようってずっと考えてた。
初めては痛いとかいうから覚悟決めなきゃとか考えてたし」

ああ、やっぱり期待かな。緊張して、ぐるぐる考えてしまって、過剰反応して、どきどきして、
だけど陽介が好きだって言ってくれるならいいかなって思った。今から思えば好奇心もあった
んだろうけど。

「でも、結局全然覚悟出来てないし、泣きわめくし、みっともないとこ見せたし」

最初は陽介を傷つけた。私が臆病だったせいで。結局は誰にも言わなかったことを陽介に
打ち明けてしまった。今でもちょっと怖い。私なんかがそんなこと口にしていいのかって思わ
なくもない。でも打ち明けないままだったら、近いうちにすれ違っていたと思う。早々に別れてた
と思う。
私は一人で、自分のことばっかり考えていたんだ。

「多分ね、陽介だから見せることが出来たんだと思う」

私より経験があるからじゃなくて、ちゃんと思ってることを口にしてくれる陽介だから出来たんだ。
私たちはお互いのこと、もっと知っていくべきなのに、私が拒否してばっかりで。陽介はちゃんと
知ろうとしてくれた。私だって、していきたい。知っていかなきゃ。

「俺もわりとみっともないところ見せたかと思いますけど、まぁ……
蛍子さんの可愛いところいっぱい見れたんでいいです」
「ぇえ!?そっち!?」
「見せてくれて嬉しいです」
「や、それはあの、別に……」
「ゆっくりいろんなことやっていきましょうね」
「え、あ、ええ!?うん、いやあの」

混乱する私を放っておいて、楽しそうに笑う陽介。ひどい。そんなの。いや、嫌じゃないんだけど。
頭を撫でてくれながら、陽介が口を開いた。

「蛍子さん、明日予定ある?」

明日は日曜日で、久々に何の予定もない休日だ。強いて言えば、ちょっと溜まりつつある
家事をこなさなきゃってぐらいで。
そう答えると、ちょっと言いにくそうにしながら陽介が言った。

「……少しでいいから、うちにいてくれませんか」

もうちょっと一緒にいたいんです、と視線をそらした。
……わ。
可愛い。可愛いっていうか愛おしい。
陽介がそんなふうに甘えてくるのは初めてな気がした。思えば、私もどうすればいいのか
わからなくて甘えるようなことは出来なかったけど、陽介が甘えてくるってことはなかったような
気がする。頑張ってたのかなぁ……。仮にも先輩なのに、たくさん我慢させているんだろうかと
考えると、情けないやら申し訳ないやら。
『恋は二人でするものだ』なんて、よくある表現だと思ってたけど本当なんだろうな。
どっちかが我慢してたら、二人でいる意味がない。まるで一人だ。
あ、そうか。そういうことか。だめだなぁ……私、陽介にいっぱいしてあげたいことあったのに。
してもらいたいことじゃなくて、してあげたいこと。私はしてもらいたいことを知られてしまうのが
怖かったけど、そのせいで陽介にしてあげたいことを出来てなかった。どこまで自分のことしか
考えてないのか!そう考えると本当に本当に反省。
いっぱいしたいな。いろんなこと。これから、少しずつ。
そんなお願い、いくらでも言ってほしいよ。これから、いっぱい。

「陽介がいいなら、私ももっと一緒にいたい」
「本当!?やった、すっげえ嬉しい」

溶けそうな、心底嬉しそうな笑顔で、朝ごはん何がいいですか?なんて聞いてくる。
……ずるい。この笑顔を見るためなら、なんでもしてしまうじゃないか。これが惚れた弱みって
やつなのかなぁ。いいよ、幸せですよ、ええ。

陽介の胸に手を添える。ちょっと、っていうかかなり勇気を出してキスをした。






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