キャミワンピ
シチュエーション


私が思うに、どう考えても、彼は無駄に紳士的だと思う。
高校三年の夏に付き合い始めて、今は二人とも大学二年。

今年のお正月に、突然抱きしめられてキスされて。
その夜、次は『あれ』なんだよな、って私はぼんやり考えてた。

だけど……それから半年以上経ってるのに何も起きない。
もうじき夏も終わるというのに。

つい昨日も、自分の部屋のベッドの上で、私は彼に抱きしめられてキスをされてた。

そんな状態が気持ちよくて、とりあえずこれでもいいかな、って、そう思ってたら、
おなかのとこに何かがあたってて、それが彼のだって気がついた。

でも彼はすぐに変な体勢になって、腰だけを浮かすようにした。
多分私に気付かれないように、だと思う。

いいのに…って喉元まで出掛かったけど、口にすることはできなかった。

「んもう、ほんっとに、じれったいね〜」

そう言ってコーヒーカップをガシャンと置いたのは千尋ちゃんだ。

高校入って同じクラスになったときからの友達。
地味めな私と違ってやたら行動派で男前な性格なんだけど、
なんか相性がよくて、大学生になった今もよく会ってる。

今日は猫の映画を見に行った帰り。
普段の彼女は、彼と格闘技見に行って大騒ぎしてたりするんだけど、
一方ではこういうのも大好きで、さすがに硬派の彼氏を誘うわけにもいかず、
だいたい私が一緒だったりする。

帰りに寄った喫茶店。映画の興奮が一段落したとこで、
私にとって一番の懸案事項を、思い切って千尋ちゃんに話した。

「ったく、拓ちゃんも相変わらず真面目だねぇ」

3人そろってずっと同じクラスだったから、拓也のことも彼女は良く知ってて、
だから相談したというのもある。

「で、瞳ちゃんは拓也クンに抱かれたいと」

有無を言わせない目が私を見つめる。きょどりながら私はなんとかうなずく。

「で、どうしたらいいかと」

再びうなずく。

「じゃ……よしこれでいこう!」

極彩色のペンでコースターになにかを書いてる。

「じゃ〜〜ん」

見せてくれたのに書いてあったのは……

Mission #1
 拓ちゃんの煩悩を極限までひたすら煽る

本当に、彼女ってみもふたもない。

「で、本日使える予算2000円ぐらいあるかな?」
「それぐらいならあるけど」
「じゃ、ちょっと着るもの買わなくちゃね」

「たとえば今日の瞳ちゃんはチュニックとジーンズだよね。
 多分、デートのときも、例えワンピースの時だって、
 ガーリー基本だと思うんだけど、当たってる?」

「……まぁ、だいたいそうかも」
「じゃ、いいかも。うん。すぐそばだからこれから行こう」

と言いながらも、彼女はもう立ち上がってる。
即断即決なんだよね、千尋ちゃんはいつも。


「え〜っ?! こんなの着るの」
「はいそこ、文句言わない」

あまり私の行きそうも無い、派手な柄の商品が多い店。

千尋ちゃんの選んだのは花柄のキャミワンピ、胸元にギャザーがあるやつ。
可愛いのは認めるけど、細い肩紐があるだけで、ちょっと肌の露出が……

「今回は、はなから瞳んちに彼が来るっていう設定だよね?」
「うん、そう」
「で、たまたま家には他に誰もいない、っていう『危険なひるさがり』」
「……まぁ、そんな感じで」
「つくづく思うんだけど、可愛い顔して実は策士なんだよね瞳って、昔から」
「アハ……」

「実際問題として、紐なしブラはわりと落ちてきちゃうから、
 ヌーブラにするとか考えるとこなんだけど……
 今回はミッションのために、これを素肌に着て頂きます!」
「え? これを? ブラなしで?」
「大丈夫、ギャザーあるし」

そうかもしれないけど、でも、あ、

「あと、これモモが上のほうまでほとんど透けてて……」
「そう。だけどボトムつけたら意味ないし」

普通はスパッツかジーンズか、そんなのつけるんだろうけど。
これも軍師によりありがたく却下。

見やった鏡の向こう、
そんなこんなで恥じらいをゴミ箱に捨てちゃったその姿は、
全然いつもの自分じゃないように思えた。

……なんかこれじゃ、あからさまに誘ってるって、そんな感じにしか、

「あらあら。誘いたいんでしょ? 誰かさん? 違った?」

違いません。その通りです。
2000円で購入させていただきました。

そしてミッション当日。
出迎えた私のいつもと違う服装を見て、彼氏の目が大きく見開かれた。
さらに家族の不在を知ると、さらに激しくきょどった。

でもすぐ帰ってくるからって言って無理やりあがってもらう。
ステップ1、クリア。


「普通にしてりゃ大丈夫、ことさらお色気発散する必要はないし、
 だいたい、それって瞳ちゃんには無理だと思うし」

……それなりに傷ついたんだけどね、あのセリフには。

「ベッドに座って、隣にこの服着た彼女がいたら、
 あたしだったらソッコー押し倒すよ、間違いなく」

自信たっぷりすぎて、
『千尋ちゃん=男』疑惑が久しぶりに私の中で沸き起こったのは内緒だ。


「瞳ちゃん?」

あっ、いけない、目の前の彼が不思議な顔してる。
ミッションだミッション。

ダイニングで紅茶飲んでから私の部屋に。

で、彼がベッドに腰掛けたあと、隣に座ったんだけど、
いちおう裾を直しては見たものの、腿がばっちり透けて見えてて、
なんかへたすればパンツまで見えそうでやたら落ち着かない。
でもことさら手で隠すのもわざとらしいし。いったいどうすれば……

そんなぐだぐだな状態のわたしの肩に、ひょいって彼の手が掛かった。

「あっ!」

予想外の状況に思わず声が出た。

流れるように引き寄せられ、キスされた。
甘くて柔らかい。
ほんとに。

……大好きだ。拓ちゃんにキスしてもらうの。
なんか体中がとけちゃいそうな気分になる、いつも。
全部の力がぬけてしまうというか。

唇がやっと離れたと思ったら、こんどは押し倒されてた。
のしかかられて、ギュッって抱きしめられて、
息が苦しいんだけど、でも、すっごい気持ちいい。

で、やっぱりおなかのとこに硬いものがあたってて。

彼、気付いたのか前と同じように体を離そうとした。
あわてて、そうさせまいとしがみつく。
一瞬驚いてたけど、すぐに彼は体を密着させてきた。

ビクンビクン脈打ってるのがしっかりわかる。
ズボン越しでもわかる。すっごい硬くて……大きい。
こんなのが入るんだろうか、私の中に。ほんとに。

そのとき耳元で囁くような声がした。なんかせっぱつまった感じで。

「瞳……いいか?」

なんとかうなずいた。声になんかできない。目なんか見られない。
でも、そういう気分になってくれて、とても嬉しかった。

彼は起き上がり、ベッドの上にあぐらをかいて座った。
同時に私の手が引っぱられる。

どうすれば? と思ったら彼は自分のももをたたいてた。
そこに?
うなずいてる。

引っぱられるままに後ろ向きに彼の腿の上に腰を下ろす。
小さな子どものように抱っこされてた。

首筋に唇が触れた。くすぐったくて「だめ」って言いながら逃げる。
でも彼の両腕にがっしりホールドされてて自由が利かない。

左右の首筋にキスされる。
やたらくすぐったくて「いじめだよ!」って言おうと思った瞬間、
前に回ってた彼の両手が移動して、私の左右のふくらみの上に舞い降りた。

私の視野の中、胸元のギャザー越しに彼の手のひらが載ってる。
だけじゃなくて、つかまれてる……すっぽりと、胸を。

ゆっくりと動く拓ちゃんの手。すごく卑猥な動きだ。

あっ、
思わず声に出てた。

なんか、へんな感じ。

でもすごく恥ずかしい。
私の胸を拓ちゃんがいやらしく揉んでることとか、
へんな声だしちゃったこととか、いろんな意味で。

思わず目を閉じた。

そしたら、揉まれてる部分の感覚がとても鋭敏になって、
すぐに乳首が立って彼の手のひらにぶつかるようになって、
多分彼も気付いちゃってるだろうと考えたら、
もう顔に血が上ってきた。熱い。熱すぎる。

「ん? 着けてない?」

ブラしてないの、気付かれた。

彼は、すっと両手で胸元のエッジをつかんで剥がすように浮かす。
肩越しに彼の顔が覗いてるから…… 見えてる?!

「だめ!」

あわてて両手で押さえたけど、力の差は歴然。

「おれ、鼻血でそう」

すけべ!!

「ごめん」

そんなわたしの剣幕に、彼はあわてて手を離した。

「でも瞳のオッパイ綺麗で、すごく感動した」

この言葉にはリアクションのとりようがなかった。
ただただ恥ずかしい。

「続けるよ」

そのことばとともに、再び彼の両手が胸に。
でもこんどは指先を胸に向けて、なんか探し回るように……

そして両方の乳首の上に着地した。
フッと軽くつままれた。

私の体を突き抜けた、さっきまでと全然違う明らかな快感に、
思わず背中をのけぞらしてしまう。ほとんど反射的に。

首筋に彼のキスが舞い降りる。
でもキャミ越しにつままれた乳首からはずっと刺激が続いてる。

彼の腕をつかんでた、必死に。
止めたいわけじゃないけど、自分がどこかに飛んで行っちゃいそうで。

胸から離れた彼の右手が、キャミの裾のほうをつかんで、ゆっくりとまくりあげる。
太ももが見えてきて、ついにはパンツのはしっこが見えてしまう。
足が緊張してこわばってくる。

キャミから離れた手は、いたたまれない状況の私にかまうことなく、
太ももの奥に向かってスーッと腿の上をすべってくる。
息がつまる。

ちょうど、その部分に指が触れた。

「ふぁっ」

自分の口から出た、やたらなまめかしい吐息に驚かされ、
恥ずかしさのあまり、とっさに彼の手をつかむ。
太ももの奥にある腕と、胸を刺激してる手と、両方をぐっと。

頬に唇があたった。
ゆっくりそちらを振り向くと、待ち構えていたように唇が重なる。

入り込んで来た彼の舌に、我を失ったように自分から舌をからめる。
ありえないほど淫らに。求めるように。
口の中、胸の頂、そして太ももの奥。
同時に三箇所を拓也に犯され、私の頭が真っ白になってたせいかもしれない。

止まっていた太ももの奥の指が動き始める。
促されるように足を開くと、彼の手のひらがぴったりクロッチ部分を覆った。
その場所が急激に熱くなる。
薄い布一枚で彼の指が触れてる、というだけで。

両手がふいに私の体から離れた。
つかのま思考能力を少し取り戻した私は、一度深く息を吸い、吐き出した。

その瞬間を待っていたかのように、二つの手はキャミの中に潜り込んできた。
おへそを通過して、胸にたどりついて……

両方の胸がわしづかみにされた。
痛みに思わず声が出る。その悲鳴に彼の力がゆるむ。

「…ちょっと、痛いかも」

正直に言った。


これも千尋ちゃんから注意事項として聞いていたこと。

「男って、女の身体の繊細さ、まるっきりわかってないから。
 痛かったら痛いって、ちゃんと言ったほうがいいんだよ?
 拓ちゃんならきっとわかってくれると思うよ、優しいから」


「そっか。ごめん」

それからは宝物を扱うようにしてくれた。千尋ちゃんの言うとおりだった。

見えてるのはシフォンの奥、胸のとこで彼の手がいやらしく動いてる光景。
でも感覚は鋭くなってて、彼の手のひらに直接触れてる乳首が、
誤魔化しようの無いほど、しっかりと立ってるのが自分でもわかる。
そのむこうでパンツは丸出しのまま。

彼が胸から手を離しキャミの後ろ側をつかんで上に動かそうとする。
両手を横について、お尻をちょっと浮かした。
スルッと抜ける。

胸の下でドーナツみたいに一瞬丸まる。
でもまだ続けたいらしい。全部?

両手を挙げたら、そのまま私の首を通過し、キャミは彼の手の中に移動する。
だから、今の私はおっぱい丸出しで彼のヒザの上。
どこを隠せと、いや、実際に困る。とりあえず胸を腕で隠してみた。

彼は手を伸ばし、私のキャミを器用に片手でそばの椅子にかける。
体が離れ気味になって、彼がシャツを脱いでるんだと気付いた。
上半身裸の彼が私の背中に密着する。
その両腕が胸を隠す私の腕越しにまわされ、まるごと抱きしめられた。

背中から伝わる彼の体の感触。うわっ、なんか硬いんだ、男の体って。
やっぱ全然違うんだな、ってしみじみ思った。

「瞳」

耳元で突然名前を呼ばれ、瞬時に心がとろけた。

「拓ちゃん……」

彼の声に呼応して、自然と私の想いも口からあふれる。

こんだけ大好きなんだから、あとはもう、
彼の言うとおりにしてればいいんだって、自分に言い聞かせた。

まわされていた手が今度は私の両腕をそっとつかむ。
彼の希望に沿うために私は腕をおろした。
入れ替わりで下から持ち上げるように彼の手のひらが乳房を包む。
そして指だけが別の生き物のように乳首をもてあそび始める。

さっきと違って、目の前に見える状態。
自分のと思えないぐらい固くなった乳首を拓ちゃんがいじってる。
見てられなくて目を閉じると、より一層感覚が集中して、
触れられるたびに体がビクッってなる。

しばらくして手が胸から離れた。
もっと続けてほしいと思った自分に、ちょっと驚く。

背中に手のひらがあてられ、静かに横たえられた。
彼は私の腰のあたりに座り、残った下着に手をかける。

ちょっと腰を浮かしたら、あっという間にヒザの近くまでおろされた。

あまり他人様にはお見せしてない部分が、彼の目にはしっかり見えてるはずで。
そんなこと考えてるうちに、もうパンツは足首を通過してた。

彼はベッドを降りて、手の中のものをキャミの上に置き、
そしてズボンを脱ぎだした。

しげしげと見るのもどうかと思い目を閉じた。
けど、実は薄目でしっかり見てた。

あせってるのか、ズボンを脱ぐときに転びそうになってる。
私だけじゃなくて拓ちゃんも緊張してるとわかって、なぜか安心した。

彼がこっちにくる。あわてて本気で目を閉じる。
ベッドがきしみ、私の横に彼が来たのがわかった。

「力、抜いて。瞳の嫌がることは絶対にしない」

彼は耳元でそう言うと私を横から抱きしめた。
私も彼を抱きしめる。背中がとっても大きかった。
どこに手を動かしてもずっと背中で。そんな感じ。

しばらくお互いの体温を通わせるように、二人ともじっとしていた。
心の準備をしてたのかもしれない。彼も。私も。
彼の右手がわたしの股間に伸ばされた。

陰毛のとこでふわふわとためらうようにしたあと、
決心したように、指先が閉じた太ももの間に潜り込んできた。

なすすべもなく、私は彼の体に抱きつく。少し足を開いたまま。
彼の指がおそるおそる合わせ目の表面に触れた。

わっ!
心の中で、私は大声をあげてた。

ちょうど中心にあてられた指は、しばらく動かなかった。
そして、ゆるやかに上に向かって動き始める。

ゆっくりと、ゆっくりと。
合わせ目沿いに動いた指が、上の端っこのほうに触れた。
敏感な場所からの衝撃に息が止まる。そして指が離れ、息を吐く。

上下に彼の指が動いて、柔らかい部分を撫で上げるようにしてて、
でもこっちとしては、どうしようもない恥ずかしさばっかりで、
快感とかそんなの受け止める余裕なんて無くて。
一番上のとこに触れられると体がビクッとなるのだけど、
正直それは快感と呼ぶには程遠い気がした。

指が離れた。で、なんかもぞもぞしてる。

なにしてんだろうと思ったら、器用に片手でパンツ脱いでたみたいだ。
だって、再び抱きしめられたとき、私の右腰に固いものがじかに当たってたから。

もう少ししたらこれが入って来るんだと思ったら、ちょっと恐くなった。
痛くありませんように……そう願うしかなかった。

そのときだった。私の手が引っぱられたのは。着地点は彼の股間方面?

握らされた。
触って欲しいんだ、拓ちゃん。
痛くしちゃうと悪いと思いながら、そっと握った。

それは硬くて、ちょっとプリプリしてて、
あと、ピクッピクッって脈打ってた。
予想外におっきいし。

ずっとこんなのついてたら邪魔じゃないのかな、男の人って……
あ、でも普段はもっと小さいから大丈夫なのか。

「瞳。もう、すっごく入れたい、ここに」

そう言って、彼は指で私の中心に触れる。
声が震えてて、彼がすごく興奮してるのがわかった。

でもそんな彼の思いに関してコメントするなんて絶対に無理。
お願い、わかって!
そんな思いをこめて彼の胸に顔を伏せて、抱きついた。それが私の精一杯。


ベッドの上、ちょっと離れた所で拓ちゃんは今、コンドームと格闘してる。
なんかうまく行かないようだ。こっちを見た。

「見られてるとすごく緊張する」
「あっ、ごめん」

わたしはあわてて壁のほうを向いた。

なんか手伝えることあったら、って思ってたんだけど、逆効果になってたようだ。
でも、どんなふうに手伝えるかは激しく疑問ではあっても、
『わたし』のためにああして彼が必死になってるんだから、なんかしてあげたかった。
いっぱいの感謝の気持ちをを伝えたかった。

うん。こんど、言おう。ありがとう、って。
もしかしたら普通のことかもしれないけど、
今の私にとってはすごく嬉しく思えたことなんだから。


なんとか付けおえて、彼は私のところに来た。
上に乗っかられて、私の両足の間に彼の腰が挟まる体勢になる。

片手で私の合わせ目が開かれ、その中心に固いのが押し当てられた。
まだ痛くはない。まだ。

ギュッって押し当てられ、少し入った。
入り口のところに引き裂かれるような痛みが起きる。
拓ちゃんの胸に口を押し当てて、しがみついてこらえる。
さらに中に進んでくるともっと激しい痛みになった。
多分、声に出てたと思う。我慢なんてできない。

「もうすこし」

彼の体に抱きついたまま、私はかろうじてうなずいた。

そして彼の体に力がこもり、その腰が強く押し付けられた。
さっきのがほんの『こて試し』かってぐらいの衝撃。
ひっきりなしに襲ってくる痛みに、もう限界だと感じたとき……

「入った」

彼がそう言った。うれしそうに笑ってる。
私も微笑もうとしたけど、多分相当ひきつった笑いだったと思う。

そのままの状態で私達は、唇をむさぼり、抱きしめ合った。
その瞬間だった。

彼が、「アッ!」と小さく叫んだ。
どうしたんだろ? セックスって男も痛いんだろうか?

私の疑問を感じたのだろうか、彼が答えた。

「出た」

え? なにが? ……っと、あぁ、セーエキのこと?

それを裏付けるように、彼が手で自分のを押さえながら腰を引き、
同時に、痛みの元となったものが私の中から出て行ったのがわかった……
まだ痛いけどさっきほどじゃない。

なんか、気持ち、後始末を終えた彼の顔がくもってる。
どうしたんだろ。よくなかったんだろうか。私と、して。
見せる笑顔が、ひきつってるような、そんな気がした。

しばらく抱き合ったあと、服を着た。
ダイニングで私の入れた紅茶を飲んだあと、彼は家を出た。
彼はずっと口数が少なかった。

「ふ〜ん。とりあえずおめでとう、というとこかな?」
「うん、ありがと。千尋ちゃんのおかげでなんとか」

「で、そのあとは?」
「?」
「だからやったんだよね?」
やった…って。ほんとに、ひたすら直接的表現で答えにくい。

「あ、あの、一週間ぐらい間をあけて、あと………2回」
「合計3回ね。で?」

「彼氏は、入れたらすぐ終わって、そのあと浮かない顔してると」
「えっと、えっと……うん。そう」

喉が渇いて口にしたローズヒップティーは、全然味も香りもしなかった。
大好きなお店で買って来た、まだ新しいものをさっき自分でいれたのに。

「で、瞳ちゃん的には、彼氏のそんな表情が心配だと」
「うん…… あの、なんか私、女としてなんかが欠けてるとか、
 気付かないで拓ちゃんにとんでもないこと言ってるとか、
 そんなことがあるなら、すぐにでも直して」

人差し指が私の唇に押し当てられた。

「これだから初心者は困るんだよね〜」
千尋ちゃんはそう言って、ローズヒップティーを飲む。

「男ってね、セックスで女を狂わせたいって本能的に思ってるのよ。
 もちろんアダルトビデオの女優さんなんかは、ほとんど演技なんだし、
 小説だって、まぁ虚構の世界なわけで」

「でさ、あんたの彼氏も瞳ちゃんを乱れさせたいって望んでるの。
 ところがあまりにも瞳ちゃんの中が気持ちよくて、
 入れたら即出ちゃうから、全然そんなことする余裕なくて。
 だから、男としての自信を失っちゃってる、っていう感じだね」

「ま、瞳ちゃんの中がすごく気持ちいいのが最大の原因なんで、
 気にする必要なんて全然ないんだよ?」

「つまり、彼氏にとってベッドの中の瞳ちゃんって、
 ものすご〜〜〜〜くエロい女なの。わかった?」

なんとなく、わかった。やたら恥ずかしいけど。

「あ〜、一回でいいから実際に瞳ちゃんの『中』の具合を男として味わって……」
私のじと目に気付いた千尋ちゃんは、残ったローズヒップを一気飲みした。

「でもさ。ハグされてキスされて、甘い言葉ささやかれたりするのって、
 それだけでも女のコからすればかなり幸せなコトなんだけどね」

鮮明に記憶に刻まれた、あの日のそんな瞬間を、私は思い出してた。

「あと、自分の体で彼が気持ちよくなってくれれば、
 女のコとしてはそれだけで十分だしね。
 だから最初が痛いってわかってても我慢してるんだし」

今日は彼と午前中から街に出て、一日ずっとデートだった。
映画見て、ワインを飲みながら食事して。
着てきた思い出のキャミワンピはもう今年最後の出番かもしれない。
もちろん、前回とちがってブラもボトムもつけてるわけだけど。

食事のあと引っぱられて入ったのがこのブティックホテル。
もう私はシャワーを浴びちゃって、
可愛いパステルカラーのベッドの上で、彼が出てくるのを待ってる。
そう。これからやることといったらひとつしかない状況。

そんな私は、このあいだの千尋ちゃんの言葉を思い出してた。

「彼が終わったら、ソッコー抱きついて『大好き』って言ってあげなよ」
「そんな恥ずかしいこと」
「でも、『早くても全然気にしてないよ』って言ったって、彼は傷つくよね?」
「……多分」
「『気持ちよかったよ』なんて嘘言うのも絶対無理だよね?」

やっぱり千尋ちゃんの言う通りが一番だと思った。
そしてそのとき聞いたもうひとつのエピソードも蘇ってくる。

「この間なにをトチ狂ったか、指を中に入れて激しく動かすわけ。
 これが痛いの痛くないのって。『何したいの?』って聞いたら、
 『潮を吹く千尋を見たくて』なんて寝ぼけたこと言ったから、
 ひじ打ち食らわせて、バックとって締めワザ実行したのね。もう、怒りMAXで。
 彼がタップしたとこで正気に戻って解いたけど、危なく落としちゃうとこだった。
 ラブホテルで男を締め落とす女って……いないよね。ハハハ」

……千尋ちゃんの彼氏やるのって、結構大変かも。

「お待たせ」

バスローブ姿で拓ちゃんが出てきた。

ベッドに腰掛ける私の横に座る。
横抱きされて、キスされた。大きな手が私の髪をなでる。

上半身だけ脱がされ、ベッドに押し倒された。
むき出しになった乳房に唇が吸い付き、舌が器用に乳首を転がす。
すぐにそれは固くなる。

手が私の太ももを割る。下着はつけてない。
中心部に着地した指は、ゆっくりと上に向かう。
敏感な突起のとこで動きを止めた。
私がそのたびに息をつめるのに気付いて、わざとやってるんだと思う。

指が離れた瞬間に、お約束のように息を吸う。
何度かそれが繰り返されたあと、彼の指が中心に着地したとき、それは起きた。

クチュッ……

水っていうかなんか、なんか湿り気の多い音が聞こえた。
彼にも聞こえたようだ。指を離したあと、動き、止まってる。
再び指が着地して、また同じような音がした。

……わたし? それって、濡れてる……の?

彼の指が合わせ目をかきわけるように侵入を開始した。
接してる場所に、明らかに粘液が存在してるってわかる。
今までと違う。ヌルヌルになってるんだ。奥が。

拓ちゃんのが私の入り口に押し当てられたときも、
ヌチャッっていう感じの音がして、いつもと全然違ってた。

そして驚いたのは、先端が入り始めても全然痛みがなかったことだ。
すごくスムーズに中へと進み、
彼が息を吐いたとこで全部入ったのがわかった。
それでも全然痛くない。

私は嬉しくなって、彼の顔を見つめて微笑んだ。

「今日は全然痛くないよ」
「そっか、それは良かっ」

その瞬間、彼がうめき声をだした。
そして、私の中のものが、激しく脈打つのが感じられた。
いつもは痛くてそんな余裕が無かったせいだろうけど、今日は違ってた。
ピクッピクッって動いてるのがわかる。

中のものが動かなくなって、彼が大きく息を吐く。
ここで言わなくちゃ! 勇気を出して!

「……拓ちゃん! 大好き」

彼の目が大きく見開かれた。
恥ずかしさもあって、彼に抱きつき自分から唇を重ねた。

最初は戸惑っていたようだったけど、
唇を離したとき、拓ちゃんは微笑んでた。顔いっぱいで。
そんな彼の表情を見て、私は心の中でちっちゃくガッツポーズ!

彼が腰を引こうとした。私はそれを押しとどめた。

「もうすこし」
「でも」
「お願い」

私の中に拓ちゃんの分身が入ってて、
心と、体と、表情と、ぬくもりと、
彼の全部が私のものだって確信できるこの時間を、
もう少し味わっていたかった。わがままだとは思ったけど。

私の気持ちがわかったのか、彼は離れるのをやめた。

今、私を埋めているものは、私の心さえも満たしてくれてる。
なにもかもが愛おしい。
そんな思いの中、突然、感情の全てが今までにないくらい沸き立った。

急に私の奥のほうでかすかなうねりが起き始める。
私の意識とは無関係に、
中に入ったままの固いものをつかまえるようにあやしく動いて、
もう、拓ちゃんのそれの形が手でつかんでるみたいにわかる気がして。

「くっ!」

拓ちゃんがうめく。

「出る!」

再び私の中で彼のが律動を始めた。さっきとおんなじように。

「やばい、2回分はやばい」

彼はそう言って有無を言わさず腰を引いて、私から離れた。
ほとんど余韻を味わえなかったけど、彼の言うとおりだと思った。

彼はコンドームの始末を終えると私のそばにきた。

「今の、なに?」
「……わかんない」

ただ、拓ちゃんのこと大好きだな〜って思って、
で、身も心も触れ合ってて、もうすごく幸せだな〜って、
そしたらなんか突然ヘンになっちゃってて。

「そっか。でもさ、驚いたよ。瞳のがさ、くねくねってすごく」

私はあわてて彼の口を塞いだ。いいよもう! 恥ずかしいから!

「ごめん」
「いいから」

私は彼の手をとって引き寄せ、首の下に回した。そして足を彼の腰にからめた。
なんか木にとまったセミみたいになってる。

「重くない?」
「ぜんぜん」

聞こえてくる心臓の鼓動をBGMに、心やすらかにまどろむ。

今だけじゃなく、ずっとこういうふうに拓ちゃんと居られますように。
眠りに落ちる一瞬、私はソファーの上のキャミワンピを見ながら、
会ったこともない神様にお願いしてた。心の中で。そっと。






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