シチュエーション
![]() 飲み会で隣り合った彼は「鈴村雄大」と名乗り、「僕、巨乳好きなんだよね」としれっとした顔で 言った。 初対面の人間に対し、何を考えているんだ?と問い詰めたくなったが、何分呆気に取られて言葉も 出ない私は口をぱくぱくさせるしかなかった。 その鈴村さん──年は26と言ったけど、どう見ても10代で、物凄く童顔。可愛いタイプ。くり くりした黒い瞳が印象的だ。 憎めないキャラだ、と思ってしまった瞬間、懐に入られてしまった感がある。 「あのう──それって口説いているんでしょうか?」 とりあえず、私はそう言ってみた。 我ながら不躾だが、彼には非常にウケがよかった。 「有り体に言えば、そう。ねえ、僕と付き合ってみない?」 「随分はっきりと仰有るんですね」 「うん、回りくどいの嫌いだから。時間の無駄でしょ?」 凄い人だなと、半ば呆れながら感心していると、彼は更に熱心に掻き口説く。 「君、僕のタイプなんだよね。話してみたら、面白いし、ノリもいい。きっと躰の相性もいいよ」 「貴方、変わってるって周りから言われませんか?」 「よく言われる。でも、僕は基本的には真面目なんだよ。それなりに優秀だし、今彼女いないし。お 買い得」 こんな口説き文句、生まれて初めてだった。 思わず笑ってしまった私は──完敗。 結局お持ち帰りされて、今に至る。 彼の予想通り躰の相性も抜群で、私は初めて中でいくことを知り、意外と体力のある彼に一晩中抱 かれるようなこともあった。 「あっ……ああっ!」 「百合佳……」 深く繋がり、口づけも深くて。 その甘さが私を溶かす。 「いや…っ……あんっ」 繋がっている時に、敏感になっている突起を焦らすように震わされるのが気持ちいいって初めて知 った。 彼に抱かれてから、初めて知ることばかりだ。 彼のものを胸の間に挟んで愛撫すると悦ぶと言うことも知ったし、口淫の時どうすればより彼が気 持ちよくなるのかとか──色々教わった。 ほとんど男性経験のなかった私は、彼の手によって作り替えられ、彼なしではいられないほどにな った。 そんなある日、いつものように彼──雄大の部屋にご飯を作りに行くと、神妙な顔をして私を台所 から部屋へと呼んだ。 「何よ?もうすぐできるから待ってて」 「そうじゃなくて──話がある」 珍しくはっきりしない彼に、私は首をかしげながら従った。 「僕、転勤が決まった」 「え?何処に?」 「シカゴ。予定は3年」 「シカゴ!」 「うん。栄転だから当然受ける。ここで問題──」 雄大はここで言葉を切って、真面目な顔をした。 「選択肢は3つ。1つ目、君は僕と結婚して一緒に来る」 「無理!今のプロジェクト、誰がやるって言うのよ」 「待ってよ。まだ続く。2つ目。3年間、遠距離恋愛を頑張る」 「うん──」 「でも、正直僕は自信ないんだよね。きっと向こうで知り合った子と付き合っち ゃう気がする」 「酷いよ、それ」 「そういう性格なんだ、仕方ないよ。君との付き合いが最長なんだから」 「そうなの?」 「3つ目。今日でお別れ。さようなら」 「ちょっと待った。貴方、私のことそんな程度しか思ってなかった訳?」 「いや、選択肢1番が第一候補になるぐらい好き」 「何で2番に弱気なの?」 「今は君に溺れているけど、離れてセックスできなくても想い続ける強さがないと思うし」 「いや、そこは想ってよ」 「君こそどうなの?僕と会えなくても、浮気しない自信あるの?不安でぐちゃぐちゃになっても、 傍には行けないよ」 「そうだね──確かに判らない」 「そこで選択肢3番も検討課題に挙げた」 「ここでさようなら?」 「そう」 「雄大はそれでもいいの?」 「よくないけど」 「転勤、いつからなの?」 「来月」 「来月ぅ〜?!」 へたり、と私は床に座り込んだ。 雄大は可愛い目をして私を覗き込む。 「──僕と結婚してみない?」 「それ、私を口説いた時と全く同じなんですけど。もう少し盛り上げてよ」 「そんなの知るかよ。結婚っていったって、要は約束でしょ?一緒の家庭を築いて、子供作って」 「雄大の子供ぉ?」 「そうだよ、僕と百合佳の子供」 「子供が父親になるみたいでイヤだな」 「君、失礼すぎるよ」 「雄大は私でいいの?」 「うん、ベターだと思う。ベストかどうかは死ぬとき判る」 この端的な考え方が彼らしさだし、私も判りやすくて気が楽だった。 雄大と結婚──全く考えなかったというのは嘘になる。 それでもすぐにOK出来ないのは、正直今の生活への未練と新たな環境への不安だ。 今の仕事も生活もなげうって、雄大に付いていくことってできる? 正直、判らない── 「ごめん、決められないよ」 「そうだよね、僕もそうだ」 「じゃ、どうする?」 「結婚して家庭を持って子供か──あ!」 にやっ。雄大が目を輝かせて笑う。 こんな表情ってロクでもないことを思い付いた時の顔。 ものすっごく、嫌な予感。 「提案。賭けをしてみないか?」 「賭け──?」 彼の提案を聞いて、私は深く深く後悔した。 ご飯の後、それぞれシャワーを浴びて。 私が部屋に行くと嬉しそうな顔をした雄大が待っていた。 「ねえ、本気?」 この顔を見れば、返事を訊くまでもなかった。 「ものすっごく、嬉しそう」 「まあね。夢だったから」 「こんなことで決めてもいいの?」 「こんなことだからだよ」 ああもう、何でこんな男に惚れちゃったんだろ?私。 私はこめかみを押さえていたが、彼に引き寄せられ──キスをした。 初めは軽いキス。次第に深く探るように。 舌先でなぶられるともう躰の中心が熱くなる。 こんな躰にしたのは誰よ? 頬に口づけられ、そっと胸の先を弄られただけで洩れる息が甘くなるのが判る。 そっと彼の顔を覗くと──まるで遠足前の子供だ。 「君の中にたっぷり注ぐからね」 「──もうっ……」 何て恥ずかしいこと言うの? 彼の提案はこうだったのだ。 ──今日、ナマでして、子供が出来たら結婚する。 全く、ふざけているにも程がある。 しかも。 ──出来なかった時は、3年間泥沼になっても遠距離恋愛を続ける。ただし、お互い浮気しても文 句言わない。 結果、別れることになっても文句言わない。 彼は初めてのゴムなしセックスに浮かれているのだ。そんなに嬉しいのか? そんなにいいのか? 雄大の息が耳朶に掛かり、躰がひくんと跳ねるのを薄く笑う。 唇が私の首筋を這い、指先はもうバスローブを割って入り込み、乳首をつまみ上げている。 そして柔らかく揉みしだき、私の躰を溶かす。 「ああ……はぁ……っ」 もう、躰の中心は蜜が溢れかえり、彼を欲して微細な快感を伝えている。 もう触って欲しい──その愛しい指で高めて欲しい。 なのに、相変わらず、胸をさわさわとなぶる。揉み込むようにいたぶる。 私は腰を揺らしながら、声をあげる。 「甘いな──君の躰、どこもかしこも甘い」 くすくす笑いながら乳首にむしゃぶりつく。 「はぁ──あっ…んっ」 雄大が触れる全てが気持ちいい。 どうしてこんなに気持ちいいの? 「君と離れ離れの3年間なんて考えられないよ……」 「ん──」 「あ、でも向こうに行ったらグラマー美女に知り合えるのかな?」 ──バカ。 「こんなに柔らかくてふよふよしてて、それでいて敏感な──やらしい躰の子はいないだろうなあ」 やらしいなんて──酷い。 「僕仕様にカスタマイズされてるし……アソコの具合もサイコー。やっぱ、結婚しようよ」 呆れるくらい話しまくっていても、手はしっかりと私の快感を汲み上げていて ──胸だけなのに、もうイっちゃいそう。 「あ、あ、あ、あ!」 「可愛いよ。イって……いっぱい」 「んっ──!!」 小刻みに震えながら彼の腕の中で達した私は、調わない息のままに攻撃に転じた。 彼をベッドに押し倒し、馬乗りになって口づける。 彼のバスローブをはだけさせ、唇を徐々に落とす。 首筋、鎖骨、そして広い胸板に指を這わせ微笑む。 ちゅっと音を立てて乳首を吸えば、びくりと躰が跳ねる。 「くすぐったいよ」 そういえば、最初雄大に背中を舐められた時、物凄くくすぐったかったのが、今は性感帯の一つに なっている。 雄大は私の躰に眠っていた、あらゆる快楽を呼び覚ました。 このまま別れたら、私が彼の快楽を呼び覚ます、そんな悦びを知ることができなくなる──それは ちょっと寂しい。 今まで彼には教えられる一方だった。 今まで誰も知らなかった、私ですら知らなかった私を彼は見つけ出して愛してくれた。 だから今後は彼にも教えてあげたい。 淫靡で密やかな快楽を。 私の好きな雄大を、もっと大好きな雄大に変えていきたい──一生掛けて。 カリッと軽く乳首に歯を立てる。 「あっ…………」 男の人の喘ぎが色っぽいって初めて知ったのは雄大だ。 ちょっと低くて熱い声音が、私の躰をより熱くする。 達したばかりの躰の奥が、触れてもいないのに溢れてくる。 指先で硬く締まった腹筋を辿る。 下に行くにつれ濃くなる体毛。 そして、ボクサーパンツを押し上げる昂り。 私は下着の上から彼を含んだ。 「うっ……」 艶のある甘い声。 触れるか触れないかの加減で下の袋を揉みあげればさらに吐息が甘くなる。 「触って──百合佳」 彼が私に命じる。 従う快感。 そっと脱がせると、腰を上げて手伝う。 これからもたらされる愉楽への期待に膨れるそれを見つめると──私もまたそれを受け入れた時の 愉楽への期待に頬が赤らんだ。 「舐めて──」 「ん──」 彼の命令は絶対だ──今この状態の私にとっては。 石鹸の匂いの奥の、獣を思わせる生々しい臭いに私はさらに昂るのを感じる。 根元を押さえながら、ゆっくりと舌先で舐め上げる。 「ああ…気持ちいい──」 彼の深い声音。 私は微笑みながら、舌先でちろちろと尿道口を刺激する。 そのまま、また下から上へと舐め──亀頭をくわえた。 「あっ──…」 段差を唇を使って愛撫し、そして全体を呑み込む。 吸い込みながら、根元から先に向かって顔を上げていく。 ちゅっぱっと音を立てて唇から離れる。 もう一度、ゆっくりと頬を使って吸い上げる。 「百合佳──いいよ…すごく」 初めて舐めた時は少し気持ち悪くて泣いた覚えがある。 それでも、雄大が悦んでくれるから── 私のゆったりとしたペースが物足りなくなったのか、私の頭を掴み腰を押し上げてきた。 瞬間、喉の奥に当たって噎せる。 「もうっ……」 「ごめん」 全然悪いと思っていないくせに。 雄大の求めに応じて、私は少しペースを上げる。 時々喉の奥を使うと、雄大の息が甘くなる。 その甘さが私の悦びに変わる。 「ああ…百合佳──いいよ、気持ちいい。このまま出してもいい?」 いいけど──あの独特のえぐみが苦手。 「でも、今日は中に一杯出したいな……」 顎が疲れて、手による愛撫に切り換えていた私の手を掴み、躰を起こしてにやっと笑った。 「攻守交代」 仰向けにベッド寝る私の上に覆い被さるようにして雄大は私の躰を貪った。 あっという間にバスローブを脱がされ、ショーツを剥ぎ取られ、足を大きく広げさせられる。 いきなり、割れ目の先端に息づく突起を撫で上げられ、私は悲鳴を上げた。 そのまま、指先で中を愛撫する。 雄大の指は気持ちいい。何故こんなに気持ちいいの? 前に恐る恐る自分で触ってみたことがある。 でもどうやっても、クリトリスでの快感は得られても、中の快感は判らなかった。しかも、一度達 したらそれで充分で、もっと高みへと貪欲な欲望は感じない。 雄大だけなのだ──私をあの無限の悦楽に導くことのできる者は。 軽く中をなぶっただけで、私はもう達してしまった。 そのまま、彼は指を動かし続ける。 更なる高みが道を開ける。 また……イってしまう。 一度達すると、その先は容易で、ちょっとの刺激で達するようになる。 私はもう訳も分からなくなって、ひたすら彼の指に翻弄される。 そのうち、愛撫は舌先に代わり、敏感な肉芽と蜜壺を吸い上げる。 一際高く私が嬌声をあげたすぐ後に、彼は私の片足を肩に担いでその昂りで貫いた。 「あああああっっっ!!」 違う──いつもと全く違う。何これ? 肌にぴったりと馴染む男根を味わいながら、私は無意識に腰を蠢かしていた。 下ろした足は彼の腰に絡め、突き上げる快楽に溺れる。 思わず彼の唇を求め──舌を絡め合う。 「襞が絡み付く。凄い……中で蠢いてるのが判るよ」 「私も──中で熱いのが判る。先が引っ掛かるのが判るの──いい……雄大……!」 「どうしよう?気持ち良すぎて保たないよ」 「雄大……!」 彼にしては珍しく早々に中で果てたのだが、そのまま抜くことなく突き上げてきた。 ぐじゅぐじゅと愛液と精液が攪拌され、淫らな音を立てる。 担いでいた私の足を下ろし、自分の向きはそのままに、私だけ横向きにして、抱えるようにして突 き入ってくる。 深く抉られる場所が変わって、新たな快感が生まれる。 高く咽び啼いていた私の嬌声は浅く短く低くなり、最早余裕なんて全くない。 何度も体位を変えながら、達しても、達しても更に刺激されて、涙が溢れ出す。 「いやっ……いやっ……雄大、離れちゃいや!!」 こんなにも愛しているのに──離れられる筈がない。 四つん這いにされて、後ろから激しく突かれ、獣のように啼きながら、私は彼の二度目の精を受け 止める。 彼の切ない咆哮と私の嬌声が重なり、重い彼の躰を受け止めた後でも、私はうち震えていた。 さすがに起き上がれず、彼に優しく愛撫されながら拭いて貰っていたら、また涙が溢れた。 もしも妊娠しなかったら──でも、計算的に今は一番妊娠し易い筈だ──私達は入籍せず、お互のものになることなく、アメリカと日本で暮らすことになるんだろうか? 3年間も堪えることができるんだろうか? 静かに涙を流す私にそっと触れるだけのキスをした雄大は、私の髪を指で鋤いていた。 「一緒にお風呂に入ろうよ。君の躰に泡を付けて──洗ってくれる?」 もう。サイテー。感傷が台無し。 このエロエロ星人。おっぱい男。 ──でも、大好き。 その後──。 結局、私は妊娠することなく生理が始まった。 生理が来て哀しかったのは生まれて初めてだ。 私の報告を受け、がっくりと肩を落とした雄大だったが──何と第4の選択肢を挙げてきた。 私はそれを喜んで了承した。 「鈴村さん」 どうも、この名前がしっくり来ない。 でも、確かに私の名前だ。 返事をして会議のための資料の検討をする。 結局、私達は入籍だけして、彼は渡米した。 私は退職せず、日本にいる。 今携わっているプロジェクトが終わったら、退職して彼の元に向かう。 向こうで遅くなった挙式をする。 たった1年だ。たった── 辛い新婚だと思っていたが、彼は意外と帰国することも多い仕事内容だったと知ることになり、心 配だったすれ違いは今のところ大丈夫。 尤も、テレフォンセックスという新たな世界を雄大に開拓されてしまい、自分の手でも中で達する ことができるようになったことは、良いことなのか、そうでないのか── それでも、雄大が嬉しそうだから、私も嬉しい。 「愛してるよ、奥さん」 就寝前に囁く雄大に、私は送話器に向けて音を立ててキスを送った。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |