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シチュエーション


私は、がちがちになって震えてた。
心臓はバクバク乱れ打ってるし、顔は真っ赤で妙に火照る。
なのに頭だけは冴えていて、半ばパニクりながらも冷静に分析していたりする。

なんでこんな性格してんだろ、私?
これから現れるだろうあの人と戦うことにどこかわくわくしている自分がいる。

あの人は今日、私の“旦那様”になった。
年は30。ベンチャー企業の社長をしている。
背が高く、黒縁の四角い眼鏡を掛けて、顔はちょっとかっこいい。
でもイケメンかと訊かれたら、ノーと答えると思う。
何故って眼が怖いから。
なんか人を虫ケラか何かのように見る。
赤い血が通っているとは思えない。緑の血が流れてるって言われても納得しそう。

彼は私の許嫁で、今日初めて会って私達は結婚した。
いつの時代の話だよ?と思う。
しかも我が家は父が会社を倒産させて借金まみれ。夜逃げか一家心中の択一状態で、何の旨みもな
いはずだ。
それは、去年死んだじいちゃんが勝手に結んだ約束だった。
一家離散の危機におろおろしていたある日、我が家に許嫁の代理人と名乗る人物から突然の電話が
あった。

じいちゃんが結んだ約束で、私を嫁に貰い受けたいと。
我が家の人間は誰一人そんなこと知らなかったし、最初は何かの詐欺じゃないかと疑ったぐらいだ。
でも、じいちゃんの実印を押した契約書が存在し、相手は乗り気だった。
しかも、恐る恐る相手方に乗り込んだ両親は、許嫁という人物の人柄に感動し、すっかり丸め込ま
れ、勝手に日取りまで決めて来た。
こっちは会ったこともないっつーのにだ。
私は相原美琴──いや、今日から狩谷美琴になった、16歳。
親の借金のために身売りしたも同然の、女子高生だ。

* * *

私には他に道はなかった。
夜逃げも心中もごめんだったから、彼が借金を肩代わりしてくれると言うのを断ることなどできな
い。

でも、なんでオジサンが16のコドモと結婚したがるんだろ?
ロリコンだと言うならまだ分かる。いや分かりたくないけど、分かる。
でも本人に会ったらそれはないとはっきり分かった。
だってあの人、私に興味ない。
全くの無表情、無反応。
教会で初めて顔を合わせた私に軽く黙礼しただけだった。
その後は儀礼的に進めただけ。
誓いのキスの瞬間だけ一瞬触れたが(くそう!あれが私のファーストキスなんだ!!)その後は
形だけの婚姻を演じていた。

ぐすん、なんか思い出してたら涙が出てきた。
私なんかじゃなくたって、あの人なら彼女ぐらい選り取りみどりだろう。
結婚は形だけで、実は愛人が5人いるって言われてもびっくりしない。
あの若さで今の地位。バカ父の借金七千万をあっさり一括返済できる経済力。
見た目だって、眼の怖さを除けばかっこいいんだし、絶対もてる。
何を好き好んで私なんだ、と。
分かんない。だからこそ、訊いてみたい。
あなた、何を考えてるの?って。

* * *

バタン、とベッドルームの扉が開く音がする。
あの人──狩谷衛だ。
その姿を見ただけで膝が震える。
しっかりしろ、私!
キングサイズのダブルベッドの上で固くなってる私を一瞥した。

「まだ寝ていなかったのか」

なんて答えたらいいのか分からず、私は無言で狩谷衛を見返した。
狩谷衛は軽く溜め息をつき、サイドボードからブランデーらしきボトルとグラスを取り出して液体
を注いだ。

「お前も飲むか?」
「未成年ですから」

そう応えると、軽く肩を竦めた。
腕に掛けた黒のタキシードのジャケットを無造作にソファーに放り投げ、身を投げ出すようにして
座った。乱暴に蝶ネクタイを外しワイシャツのボタンをいくつか外してから、琥珀色の液体に口をつ
ける。

少し酔っているのか目の下が赤い。
そのことに気付いた瞬間、この人にも血が通っているのだと思った。
私は花嫁だからと、立食パーティーも早々に退出させられ、ドレスを脱いで部屋に戻って来ていた
が、狩谷衛は如才なく立ち動き、財界のなんたらとか政界のなんたらとかと話していた。
そこは別世界だった。

元華族だとかで、お屋敷は大きいし、ホールでの立食パーティーも見たことない豪華さだった。
これがこれから私の生息する世界なのかと思うと──少し武者震いした。
面白そうだった。学校の勉強の何倍も。
無言の狩谷衛に痺れを切らした私は、とうとう口を開いた。

「なんで私なんかと結婚したんですか?」

狩谷衛は不快そうに眉を潜めたが、嘆息し落ちかかっていた髪を後ろに撫で付けた。

「答えなくては駄目か?」
「気になります」
「お前はどうなんだ」
「私は──仕方ありません。覚悟していますから」
「覚悟──?」

そう鸚鵡返しに聞き返し、何を思ったのか声を殺して笑い始めた。
カッと頬に血が上った。

「何が可笑しいんですか!」

笑いながら狩谷衛はゆらりと立ち上がった。

「お前の覚悟とは何か」

強い視線で私を見た。
酷薄な瞳ではなく、パーティー会場での笑みを形づくった冷たい瞳でもなく。
それは──勝負師の瞳。
剣道で面越しに殺気を放ち竹刀を交わす、あの一瞬に似ていた。
私は静かに笑う。

「逃げない覚悟。そして戦う覚悟」
「ほう」

初めて。狩谷衛は私に興味を持ったらしい。
私も、胸の奥に火が点る。

「何と戦う?」
「──運命。不本意ながらもあなたと婚姻を結び、今ここにいます。自分の意思とは関係なく翻弄す
る、私の運命と戦いたい」
「それは俺とも戦うということか?」
「あるいは──出来たら共闘出来たら嬉しいですが」
「共闘ね──お前は何ができるんだ?」

その言葉に反論出来なかった。
私は子供だ。まだ義務教育が終わったばかりで、ビジネスのことも、人との関わりも、何もかも知
らない。

「まだ──何もできません」

悔しい。どうして、私はまだ16なんだろう?
今まで、勉強してきたあらゆることも、学歴も、女としてすら中途半端。
せめて大学を卒業していたら違っていたのだろうか?
この身の小ささに歯軋りする。
そんな私の様子を狩谷衛は面白そうに見つめていた。
その視線に気付き、私は頬を赤らめた。
顔を反らしたかったが、彼の視線に縫い付けられて動かすことができない。

「我が奥方は面白い人らしい。気に入ったよ」

端麗な顔に僅かに笑みを滲ませる。

「お前の覚悟を見せて貰おう」

グラスを置くと、私の元へ近づいてきた。

「名前は?」

私の名前も覚えていなかったのか?

「美琴」
「美琴──か。俺は衛だ」

それぐらい知っている。
衛は、私の顎に手を掛け上を向かせた。
切れるような顔に面白がっている色が浮かんでいた。

負けたくない──!
そう思って見返すと、顔が近づき、私の唇に唇が重なった。
ちろり、と生暖かい舌が私の唇を舐める。

「キスも知らないのか?」
「知りません」
「目を閉じるんだよ」
「何故?」
「互いの嘘を見ないように──見せないように」

その言葉に従い、私はそっと目を閉じ衛に強く抱き締められた。
おずおずと手を背に回して──自分の心臓の音と相手の心臓の音を聞いた。

***

初めての大人のキスは苦かった。
酒と煙草が混じった味──。
薄く開いていた私の唇の隙間からぬらりと舌が入り込んで、私のそれを救い上げた。
あっと思った時には口内を思う様蹂躙されていた。
悔しくてこちらからも舌を差し込めば、からかうように舌先でくすぐる。
緊張して、身体が痛い。どうしていいのか分からない。
一瞬、唇が離れたので、そっと目を開ければ、からかうような笑みを浮かべた顔があった。

「子供だな」
「──子供です」
「まあいい……」

何がいいのか分からないが、また衛は私に軽く口付けた。

「力を抜け。あと、息を忘れていたら倒れるぞ」

指摘されるまで、私がキスの最中に呼吸を止めていたことすら気付かなかった。
心臓の音が煩い。

「キスも初めてなんだな」
「すみません」
「今時の高校生はもっと乱れていると思っていたよ」
「それは誉められているんでしょうか?それとも貶されているのでしょうか」
「勿論誉めている。貞淑な奥様だと」
「私のような子供では──あなたの役には立てませんか?その……性的な意味で」
「どうかな」

衛は耳許に囁いた。

「脱がしてみれば判る」

その、生々しい言葉に、全身が熱を持つ。
顔中にキスを落とされ、私はくすぐったさと、そして初めて感じる感覚に震えた。
耳から首筋にそれが移った時、下腹部がキュッと疼いた。
私はその感覚に驚き、自分じゃないみたいな掠れた声をあげていた。

「敏感だな……楽しみだよ」

また、からかうようなことを言う。
キッと睨むと、口の端に笑みを浮かべて鎖骨にキスを落とし、ちゅっと吸い上げた。

「ひゃぁ……あんっ」

誰の声?恥ずかしい。
しかもそんな私の反応を衛は面白そうに見つめている。
悔しくて反撃したいのに、為すがままだ。

「怖いか?」

よく、分からない。
そもそも、初めて会った好きでもない相手と──その、アレをするなんて非常時に、自分の気持ち
なんて冷静に分析などできない。

「大丈夫です」

やっとのことで紡ぎ出した言葉はあまりにも陳腐で、私は自分の語彙の無さに失望した。

「止めるなら今のうちだぞ」

何を、だろう?
結婚?それともこの性行為について?

「止めなくていいです」
「そうか?」

また、からかうような口調で言ったかと思うと、おもむろに胸を触ってきた。

「────ッ!!」

不快ではなかったが、ぞわりと異質な感覚に鳥肌が立った。
柔らかく、そっとこねくりまわすように触る手付きのいやらしさに、また全身に熱が広がる。
私、風邪でもひいたんだろうか?
さっきからどんどん息が荒くなるし、胸の奥が痛いし。顔が熱くて仕方ない。

「思ったほど子供じゃないと見える。気持ち好いのか?」
「……んっ、あ、わ…分からない……っ」

やだ。こんな声、私のものじゃない。
相手を誘うかのような淫らな声。まるで(見たことないけど)AVか何かのようだ。
やだ。やだ。なんで?

「自分で脱ぐか?それとも俺が脱がせるか?」

どちらも嫌だと言いたかった。
でも、私から止めるとだけは言いたくなかった。
なけなしの矜持のためにも。

「自分で脱ぎます──」

まるで蛇の生殺しのように脱がされ辱しめられるのはごめんだ。
私は衛から身体を離し、ベッドから降りた。
部屋着として用意されていた服のリボンを解く。

「もっと暗くして貰えませんか?」
「何故?」

射竦めるような視線。
恥ずかしいからだよ!
でもそんなこと衛には言えないから私は溜め息をついた。

「わかりました。もう──いいです」

彼の視線に晒されたまま、一枚一枚脱いでいく。
ブラを外すときは一瞬手が止まったが──それでも自分で取り去った。
最後にショーツを脱ぎ捨て、私は生まれたままの姿になった。
衛も脱ぎ始めた。
まず、眼鏡を外し──その顔が意外と若くて驚いた。
待つ間恥ずかしくて身体を隠したかったのだが、それでも視線は彼から外すことが出来ず、固唾を
飲んで見守っていた。
これが大人の男の人の裸なのか……単純に驚いた。
均整の取れた身体は鍛えているらしく、バランスが取れていた。
だが、根本的に女とは違う。
私も運動部出身で鍛えているが、それでも全く違った。
彼を見ることで自分の女を自覚する。
ベッドの端に腰掛け、黒いスラックスを脱ぐとき、彼の下着が目に入った。

「視線を反らすな」

彼の強い口調に身体中を縛り付けられるように感じた。

スラックスを脱ぎ捨て、立ち上がった時、彼は下着一枚だった。
その下着の中心が不自然に盛り上がっている。
知識としては知っていたが、実物を見るのは初めてだ。
これから彼の下着の奥で大きくなっているそれで、私の身体を貫くのか。
私の裸が彼をそのような状態にさせる力を持っているということにも驚いた。

「男の身体は見たことあるか?」
「幼稚園の頃になら……」
「ならば、最後の一枚はお前に任せる」
「え?」
「脱がせろ」

私は衛の顔を見つめた。

からかうような色はなく、静かな瞳。
突然私は悟った。
衛は、私が彼を拒絶することを望んでいるのだと。
誰が言うか。怖いだなんて。

「分かりました」

私は彼に近づいた。
自分の裸をその視線に晒すことも耐え難かったが、その姿で男の下着を脱がせることも耐え難い。
何故、私はこんなことしなくてはならないのだろう。
だが、私は決めたのだ。

──戦うと。

下着一枚で立つ彼の前に跪き、そっとその顔を見上げた。
その顔には劣情も、何も浮かんでいなかった。
ただ哀しみにも似た静かな時があった。
私は下着に手を掛け下ろす。
弾力をもって跳ね上がったそれを目の前にして、私は小さく震えた。
唇が戦慄くのを噛み締め圧し殺す。
初めて見る昂りは、奇妙な形体で、幼い頃の記憶にある父や友人たちのそれと全く違う。
立ち上がろうとして、手を掴まれ、それを握らされた。

「これが男の身体だ」

手の中で大きく脈打つそれは、熱く固くいきり立っている。
こんなにもはち切れそうな大きなものを私の中に収めることができるのだろうか?

「怖いか?」

静かな声が降ってきた。

「いえ……」

お互いに分かりきっている嘘。
だが、この戦いに似たやり取りは私を静かに興奮させる。
びくんと、手の中でそれが跳ねた。

「剣道をやっていたのか?」
「何故知っているんです?」

訊いてから気付く。
結婚相手のことぐらい、彼の家は調べ上げているだろうに。

「この手だ」

思わず、顔を見上げる。
彼のものを掴んでいた手を優しく握られた。

「竹刀を振っていた手だな」
「あなたも、剣道を?」
「今度手合わせするか?」
「是非」
「楽しみにしているよ」

彼の眼が初めて笑った。

* * *

彼に抱え上げられ、ベッドに下ろされた。
そのままのし掛かるようにして口付けが降ってくる。
彼の唇を受け止めているうちに身体の奥が熱くなってくるのを感じる。
とろりと、足の間で何かが溢れる。

──気持ち好い。

夢中で舌を絡める。
私の頭を抱えるようにして口付けながら、反対側の手は乳房をこね、そして乳首を摘まむようにし
て擦りあげる。

「ん……うっ……んっ……」

彼の口の中に私の声が吸い込まれる。
どうしよう?沸き上がるどうしようもない程に甘い感覚を止めることができない。

「お前は──俺にセックスの役に立つのかと訊いたな」

唇を離して私の胸をまさぐりながら言った。

「初めてのくせに、お前は淫乱だと思うよ」
「……え?」
「ちょっと胸を触っただけで股を濡らして……もうここは洪水のようだ」

そう言っておもむろに私の足を掴んで大きく広げさせた。

「好きでもない男相手に。まだこっちは触られてもいないのに」

違う!
衛を睨むが、口の端だけの笑みで返される。
所詮、それだけの女と断罪された気がした。
心を裏切り始める身体が悔しい。

「そんな女は……嫌い?」

弱々しい自分の言葉に驚く。
何を言っているんだ、私は?

「嫌いではない。教え甲斐があるというものだ」
「教える?」

私の問いには応えず、ニッと笑みを形作っただけだった。
そして私の足の間に指を差し込んだ。

「あ?……ああっ!」

まだ誰にも触れられたことのない奥に、衛は指先を入れた。
痛みが走り、苦しみに声が上がる。

「──狭いな……」

そう呟くと、指を差し込んだまま私の足の間に顔を寄せた。

「いや!……見ちゃ嫌!!」

本能的な恐怖と羞恥に慌てて手で隠そうとしたら、簡単に掴まれ、頭の上で両手を上げたままの状
態に片手で固定されてしまった。
暴れる私を押さえつけ、脱ぎ捨ててあったネクタイで、その状態のまま縛り付けられてしまう。

「痛くてもいいのか?ちゃんと解しておかないと辛いのはお前だぞ」

衛の言葉の意味が分からず涙を浮かべる私を見つめながら、そっと髪を撫でた。
思ってもみなかった優しい仕草に甘く蕩けそうになる自分がいる。

「大人しくするからほどいて!」
「嫌だと言ったら?」
「何故、意地悪を言うの?」
「お前の覚悟とやらはその程度なのか?」
「────!!」
「お前は覚悟を決めて嫁いで来たんだろ?なら、縛られようが、何をしようが俺に従え」
「私はあなたに従うためだけに来たのではない。それは覚悟とは違う」
「では再度聞く。お前の覚悟とは何だ?」
「逃げないこと。戦うこと」
「ならば、受けろ。俺がお前の知らなかったことを教えてやる」

言葉は厳しかったが、衛はうっとりするような優しさで私に口付けた。
私は涙を流しながらそれを受け止め、流される。
再度、指先で愛撫された。
今度は中ではなく、上の方にある敏感なとこ──そんなところにそれがあるのかと驚く。

「触ったことはあるのか?」

私は静かに首を左右に振る。

「これが──クリトリス。名称は……知っているな」

頷く。

「愛液や唾液で濡らしてやって、優しく触れば処女だって気持ち好くなる」
「ああっ……あ、あ、…っん──慣れているんですね」
「お前の倍近く生きているからな」

もう、会話も続けられない。
どんどん上昇する意識に私は首を振り、声をあらげる。
何ていう甘い感覚なんだろう!
腰から先が溶け落ちてしまうかのようだ。
いつの間にか中にも指が差し込まれ、敏感な突起は舌先で愛撫され、もう何も考えられなくなる。

「いやっ…だめ!……あ、あ、あ、あ!!」

ぐわっと沸き上がった白熱する意識に包まれ、私は高く叫んだ。
その瞬間、落下する。
薄れそうになる意識の奥で、私は生まれて初めて全身で歓喜していた。

* * *

意識を取り戻した時、私は額に口付けられていた。

「起きたな」
「私、一体……」
「派手にイって、気を失った」
「あれがそうなんですか?──その……」
「オーガズム。オルガスムスとも言うか」

まるで保健の授業か何かのようだ。
衛は優しく笑って、髪を撫でた。
やだ……そんな表情すると胸の奥が痛む。
痛い。痛い。
また、涙が溢れる。
感情の箍が外れ、激情が奔流となって溢れ出す。
どうしよう?私、この人のこと──好きだ。
私は衛に身体を寄せ、腰を浮かせて自分から口付けをせがんだ。
互いの唾液が混じり合い、自他の区別が曖昧になる。

「美琴……」

私の名を呼ぶ。
それだけで、胸が歓喜に包まれる。

「初めは痛いだろうが、受け止められるか?」

何を躊躇することがある?
私は頬を赤らめ頷く。

「いい子だ」

もう一度口付けを交わした後、衛は私をベッドに押し倒し、腰を引き寄せ貫いた。

「あ────!」

身を引き裂くような激痛に身体を強張らせる。

「やっぱり──狭いな……先は入った」

まだ先だけなのか。

「力を抜け」
「あ、あ、あのう…どうしたら……」

私が話すそのタイミングで、またずんと押し入った。
また衛は私の頭を撫でる。そしてようやく思い出したかのように縛り上げていた手をほどいた。

「綺麗な髪だな」

そう言いながら髪を鋤く。
今までポニーテールに結い上げることが多かったけど、今後は下ろそうと思う。
また少し奥に進む。
苦しい。身体の中が衛で一杯だ。
衛の目を見つめる。
穏やかな瞳だった。
あの冷たい瞳は嘘のよう。

──あなたは私の事どう思っていますか?思いきってそう聞こうと口を開いた瞬間、衛は少し身
を震わせ、ぐいっと強引に突き入った。

「入ったぞ」

ああ、私は本当にこの人のものとなったのだ──そう思うと、また激情が溢れそうになる。

「動くぞ」

声と一緒に身体が揺れた。引き抜き押し入る動作が繰り返され、私は激痛に身を捩る。
だが、死んでも痛いとだけは言いたくなかった。

「あ、あ、あ、あ!!」

少し掠れた自分の声が響く。
だが、下半身では粘つくような擦れる音もしている。
痛い、苦しい。
でも、これが衛から与えられるものなのだと思うと、それすら甘いものになる。
ぎゅっと瞑っていた目を開くと、思ってもみなかった優しさで衛が見返す。
大丈夫。堪えられる。

「もう、イく。あと少しだ……」
「衛さん……」
「美琴……」

軽いキス。
私の中の衛が大きくなり、激しさを増す。

「いくぞ!」

力強く数回突き上げ、低くうめき身を大きく震わせた後、私の上に落ちてきた。

愛しい男の身体を抱き留める。
これが男女の営みなのか──私はそっと目を閉じた。

* * *

苦労して身体を動かす。
身体中がばらばらになりそうな痛みがあった。緊張しすぎて変なところに力を入れていたらしい。
しかも足の間からは大量の出血。シーツが汚れている。
水に浸けなきゃと思うのに、動けない。
後始末をする衛を見て、彼が避妊具を着けていたんだと気付いた。
最中は夢中で、全く気付かなかった。
衛が寄越したティッシュで出血を拭っていると、肥大した突起に触れてしまい甘い快感がまた身を
襲った。

衛の言う通りだった。
知らないことばかりだった。
こんな快感も──人を好きになる甘いが身の切れるような激情も。
冷たいとばかり思っていた衛だが、ベッドの中では優しかった。
これが彼の地なのだろう。
優しい男が仮面を被らなくてはやっていけない世界がこれから待っている。
好きな男のためにも、私は早く大人にならなくてはならない。
戦うために。
もっと勉強して、経験を積んで。
振り向いた衛の目には後悔するような色が浮かんでいた。
私はなんの後悔もしていないと言うのに。
寧ろ、衛を見るだけで粟立つ想いをもて余している。
もう一度、あの優しい手に包まれたい。
私の知らなかった快感をこの身にもっと刻みたい。

「来て」

初めて衛──私の旦那様におねだりする。
私の広げた手の中に入った衛を強引に引き寄せ口付ける。
こんな大人のキスも初めて知った。
身体を密着しているので、男を知った身体には分かる彼の変化に驚く。
私は彼のそれを優しく掴む。

「やめろ」
「やめない」

私は微笑む。
そして、どこかで知った知識のままに、それに口付けた。
みるみる硬さを増すそれは、あの異様な姿を取り戻す。
口を開けて頬張った。
教えられたキスの要領でその昂りを愛撫する。

「やめろ……美琴」

口では拒絶するくせに、手は私を優しく撫でる。
精を放ったばかりのそれは、濃密な匂いと味だったが、寧ろ私の情欲を高めるだけだった。
痛かったが、本当に痛かったけど、もう一度欲しい。
衛の言う通りだ。
私は──淫乱だ。
衛の呼吸が荒い。
私の愛撫が彼を欲情させている。
嬉しい!
深く頬張り、上へ引き抜く。

「無理するな」

無理矢理引き離された。

「お前の覚悟は分かった。だからこれぐらいで止めておけ」
「いや……あなたが欲しい。もっと欲しい」
「お前──」
「私は子供だから、早く大人にならなきゃいけないんです。せめてこれぐらいあなたの役に立ちたい。
私にあなたのことをもっと教えて」

あなたのことが好きだから──

「お前は混乱している。少し落ち着け」

何故、伝わらないんだろう?
私は彼の手を取り、足の付け根に導いた。

「触って──もっと教えて……」

彼の指が触れただけで甘い痺れが身体を走る。

「あ……ん…………」

『女』の声だった。
ゆらりと腰が揺れる。
彼に抱き付きキスをする。
彼の口の中に自ら舌を差し込み舐め上げる。
私の求めに応えた衛は、ようやく唇を離して呟いた。

「もう子供じゃないな……」

くちゅ、と足の間で音がする。

「女、だ。酷く淫らな──」
「私を変えたのはあなたです」
「ああ」
「こんな私は嫌いですか?」
「魅力的だよ──溺れそうな程」

もう一度舌を絡める。

「美琴──」

彼は私に跪かせ、背後から中に指を入れた。
痛みは無い──好い。
パッケージを破る音がする。指は激しく中をまさぐる。
高くなる嬌声。
そして背後からそれは来た。
痛みと甘い疼き。
熱い。
何度も何度も、私は伴侶の名を呼ぶ。
彼の手の中で淫らに形を変える乳房。そして固く尖った乳首を擦られ、更に声は高まる。
腰が蠢く。身を捩る。
耳朶に彼が囁く。

「いい女だ──美琴」

手が言葉が腰が。私を変える。
誰も知らなかった私が目覚める。
衛は捏ねるように腰を回しながら敏感な突起を弄る。
そこ……だめ。
また、意識が白熱する。白く熱い世界へ誘われる。

「イけ……美琴」

彼の言葉がトリガーとなり、一際高く声をあげながら身体が痙攣した。
私の後に彼も続き、二人で高みへと上り詰める。

* * *

カーテンの隙間からの朝日に目が覚めた。
一緒にいたはずのあの人の姿は無かった。
あの出来事は夢だったのかと思ったが、身体中の悲鳴と赤い跡とシーツの染みが昨晩の情交を物語
っていた。

「学校、行かなきゃ」

だが、人妻となった私に学校での居場所はあるのだろうか。
いや、それ以上に学校のゆったりとしたペースでは遅すぎる。
私はもう、子供のままではいられないのだから。

大検受けて、大学行くか。
自分の時間が惜しい。覚えなくてはならないことは山程ある。
そんなことを考えながらベッドから降りると手紙があった。
そこには短い言葉が一言だけ。

『戦え』

私は笑みを浮かべる。
共闘してくれるらしい。






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