シチュエーション
![]() 精さんの設計事務所――といっても、一人でやり始めてから7年ぐらいの小さな事務所。 最近少し仕事先を増やしたらしく、忙しそう。 そこで私が、大学の授業のあいた日や時間を、事務所で手伝うことにした。 私はこの4月に、めでたく希望の大学の建築科に入学したのだ。 仕事の手伝いとかで、精さんとの一緒の時間が増えて、それがなによりうれしい。 仕事中の精さんは何度か見たことはあっても、一緒に仕事するのは違ってて、すごく新鮮だった。 きりっとして、ドキドキする。 普段着でパソコンに向かってても、勤務時間(きっかり9時―5時)中は違う顔してる。 最初の頃は、こっそり見とれていたものだ。 でも、浮かれてもいられない。一応、雇われている身ですから。 「午前中にFAXするもの、はい、これだけ」 「はい」 「宛先、間違えんなよー。今日はそこまででいいぞ。課題あんだろ?」 「うん。でも、大丈夫だから。他にやることあったら言ってよ」 「課題できてからで、いい」 精さんは忙しいらしく、またパソコンの画面へ向かう。 とりあえず、FAX送信の準備を始める。 送信ボタンを押すと、カタカタとFAXに紙が通って行く。 メールでやりとりできる会社もあるけど、まだFAXってとこもある。 図面やその説明なんかがあると枚数がかさむ。 あれ? 「精さん、送信失敗、って……もう一回やってもダメなとこがある」 「んー?」 「ほら、小川工業さんとこ、今3回目だけど、ムリみたい」 「あーそういえば、社長、回線の調子がどうのって、これのことか」 「どうする?」 「仕方ない、持参するか。今日中ならいいだろ」 「じゃ、学校行った後で届けてくるよ。あそこなら6時までに行ける」 「……今日雪降るって言ってたぞ。ムリすんな、俺が行くから」 12月も下旬、ていうかクリスマス前。世の中超多忙な時期。 精さんも、小川さんの会社も。 まあ、うちの両親みたいに遊びに出かける人もいるけど。 なんたって冬休みだもんね。 両親は定年退職記念とかで、昨日から年末までの日程で、海外旅行に出かけて行った。 師走の日本を抜け出して、オーストラリアでのんびり、なのだそうだ。娘を置いてさ。 まあ、長年頑張ってきたんだから、いいんだけどね。 「昼から学校行って、授業後課題出して、資料探して……もっと早く出られるし」 「そうか? じゃあ、頼もうかな」 「バイト料もらってますから……あ、そうだ、ボーナス期待していい?」 「うっ……ボーナスか。おまえ、バイトだろー?……ま、まあ考えとくわ……」 「よろしくぅ!」 あとの仕事を片付けて、私は大学へと、いつものように自転車で出かけることにした。 * 「秋山ちゃん、雪降ってきたよ。さむー!」 「うへえ。嫌になっちゃうなあ。これから届け物しないといけないのにぃ」 「大丈夫?」 「うん。じゃ、もう行くね。今、4時か。これなら……」 外は、曇ってるとはいえ、まだなんとか明るいし。 自転車で行ける所まで走ろう。 目的地まで、30分もかからないし。 自転車で風を切っていくと、手袋の中の指の感覚が無くなっていく。 動いてるから体は暖かいけど。 「佐々木設計のものです。書類お届けにきましたー」 工場の入り口で中に向かって叫ぶ。 社長さんを待っている間に、雪が斜めに降るようになった。風が出てきた。 汗をかいてるせいで、あったまった体がどんどん冷えていく。 「ごめんなさい、お待たせ。ああ、どうも」 「これです」 「ごめんね。お手間とらせて、申し訳ない。あ、どうも……確かに全部」 社長さんは手早く受け取り、踵を返した。 機械止めてないんで、戻るんで、すみませんね、とすまなそうに。 年末は誰だって忙しい。 のんびりしてんのは、私たち子どもだけか……。 奥から「返事は明後日と伝えてください。佐々木さんによろしく!」と声が飛んできた。 待ち時間約10分は充分に私の体を冷え切らせてくれた。 家までこげば、また温かくなるでしょ、そう思った。 シャワー浴びて、ココアとか飲んで、精さんに温めてもらえば……きゃああ。 むふふ……なんてヤラシイ妄想してる場合か。 雪は吹雪に変わってる。 透明の100均傘も、風にあおられて差せない。 日が暮れてるし、自転車も視界が悪過ぎて、引いて帰ることにした。 これじゃ、家までの帰宅コースタイムが倍以上になる。 足も手も、指先に感覚ない。絶対霜焼けがひどくなるよ。寒いよおお。 マジで洒落にならないかもしれない、と思えてきて、だんだん心細くなった。 小学生のころよく精さんに霜焼けマッサージされて、嫌だったなあ。 痛がって悶える私を、面白がってたよなあ。 そんなこと思い出したら、胸が少し温かい。 この春大学入学してからは、焦る気持ちが少し薄れた。 精さんもたぶん、同じ気持ちでいるんだってことがわかってきたから。 嶋岡さんとか周りの人からも、それとなく聞かせてもらえたし。 でも、まだ、ちゃんと言えてない。 確かめてない。 おじさんの死とか、おばさんの介護のために会社を辞めたとか。 おじさんの仕事を引き継いで、ずっとひとりで「石にかじりつく思い」でやってきたとか。 半ひきこもり仕事人、なんて言って、精さんは笑うけど。 精さんには精さんの歴史があって、私にもそれなりに私の歴史があって。 でも、隣同士ずっと寄り添いながらも、平行線だったものを、なんとか交わらせたい。 今なら、ぶつかっていっても、受け止めてくれるかもしれない。 雪が止んできたみたい……あともう少しで家だ。 見慣れた夜道が、雪のせいでぼうっと白く明るく浮かんで見える。 どこか違う場所を歩いているような錯覚に陥る。 全てを覆って、白く清らかな景色に変えてしまう雪。 そういえば、私の名前、両親だけじゃなくて精さん家族も一緒に考えたって聞いたっけ。 その割には、雪の降る日に生まれたから、「雪」って、かなり安直なんじゃないの? やっと、家が見えてきた。 家の前の人影が走り出してくる。 「ユキ!」 精さんの出迎えにホッとする。 「ごめん、やっぱり俺が行けば良かった……さあ、風呂沸かしてあるし、すぐ入れ」 「うん……」 寒くて口が回らないし、ホッとしてなんだか眠い。 玄関入ったところで足元がふらついた。 すぐに精さんの腕に抱きとめられる。 「あっ、大丈夫だから、大丈夫……はは、お腹すいて……」 「まず、風呂入ってこい。着替えはとりあえず俺のを貸すから」 ふっと耳にかかった息が熱い。 腕の力が緩まなくて、ドキドキする。 靴を脱ぎながら、その手から逃れた。 お風呂へ直行する。 はああっびっくりしたあ。 お風呂に入っても、ドキドキは収まらなかった。 鏡に映った自分の体。 体だけは、オトナになったと思う。 つんと起った乳首がすごくやらしく見えて、熱いシャワーを思い切り頭からかぶった。 * 晩御飯まで精さんのベッドで、少し眠った。 ヒーターで暖めてあった部屋が心地よく、すっかり回復した気分。 更に晩御飯がシチューで、体の芯からあったまった気がする。 なんたって、精さんのお手製で、上げ膳据え膳。 「冬の宿題少しやっておこうかな」 「お、それがいいぞ。冬休みはおやっさん達いないから、どうせ遊びまわるつもりだろ」 「お付き合いというものがあってですね、私だって忙しいんです」 「ふーん」 口の端を上げて笑いながら、お皿を片付けていく精さん。 洗うよ、とスポンジを精さんから取り上げて、お皿を綺麗にしていく。 このくらいはやらなくちゃ、かな。片づけものは嫌いじゃないから。 「じゃあ、頼もっかな」精さんは、メールチェックしてこよ、て部屋に入っていった。 ふたりきり。 いつもは自分の家に帰るけど、あまり寒いから精さんの家に泊まることにした。 着替えは明日の朝、暖かくなったら取りに行くことにしようと思ってる。 雪のせいでシン……と静か。なんだかテレビをつける気にもなれない。 ソファに座って、精さんの自転車雑誌を捲ってみる。 去年のクリスマスは、バイトしたお金でウエアなんかをプレゼントできて満足だった。 精さんも喜んで愛用してくれているし。 今年はなんにしようか、まだ決まっていないな……。 宿題が、使わせてもらっている元おじさんの部屋の製図台の上に、やりかけのままにしてあるのを思い出した。 ……結局、宿題をやる気にもなれず、だらだらと時間を過ごしてしまった。 だぶだぶのパジャマや、ジャージのせいじゃない。 なんだか落ち着かない。 「おーい、ユキは俺の部屋使えよー。俺はソファで寝る」 「へ? そんな、ちゃんと眠れないでしょ。私がソファで寝るよ」 精さんが毛布や枕を持ってやってきた。 「部屋、使えよ。ああ、宿題はどうすんだ」 「えーと……」 「やっぱり、宿題やる気無いんだろう。ほれ、さあ行った、行った」 部屋に追い立てられる。 ベッドに座って、ヒーターの使い方なんかを教えてくれる精さんの横顔をぼんやり見つめる。 玄関で抱きとめられた時の腕の力強さ。 その腕で私を抱きしめてくれたんだと思うと胸が熱くなる。 しばらく緩めようとしなかったのは、何故? その後なんとなく精さんが目を合わせないのも気になってる。 ――ふたりきり、だからだ。 少し手を伸ばせば、触れられる距離。 「おやすみ」とぽんぽん頭に触れるだけで、行ってしまうの? 「もっと……触ってよ」 上着の裾を引っ張ると、精さんは驚いて振りかえった。 勇気を出して、精さんの視線を正面から受けとめた。 ほんとうは、どきどきする。緊張して胸になにか込み上げてきた。 目頭が熱くなって、きっと目が潤んでるだろうな。 でも、不思議と頭は冷静だった。 「私……精さんのこと好きよ。精さんは、ホントは私のことどう思っているの?」 「なっ……」 「私の気持ちずっとわかってたくせに、このまま知らんぷりしていくの?」 「ユキ、そんなんじゃ……」 ぎゅっと抱きしめられて安心しているだけじゃ、だめなの。 手をつなぐだけで満足していた頃には、戻れない。 その先を確かめたい。 「……抱いて、欲しい」 「……」 見開かれた精さんの目がまっすぐ私をとらえて、身動きできない。 息苦しいほど見つめ合った後、精さんは床に膝をついて、私の目線まで降りてきた。 「俺は……ずっとユキのこと、なにより大切に思ってきた。だからいい加減にできない」 「うん」 目線より下になった精さんは、片膝をついて私を見上げる格好になった。 精さんはゆっくり言葉を探すように私に話してくれる。 「小さかったユキがどんどん大人になっていくのを見ていて、不安になっていったよ」 「……どうして」 「可愛い女の子から、綺麗な女になっていくのがさ、なんていうか……心配になった」 「……」 「いつか、恋をして他の男のものになるんだろうなあってさ」 「……それはないっ」 「俺は男として見られてるのか、って。“隣の優しいおじさん”なだけじゃないかって」 「違うよ」 「ユキが俺のことどう思っているのか。でも、性急に確かめるのはダメな気がして」 「……」 精さんは遠くを見るような目をした。 「それに、ユキがこれから出会う人に、本当に好きになる人ができるかもしれない」 「それは……っ」 「ユキを俺のものにしてしまったら、ユキが本当に好きな人ができた時、後悔するだろ」 「私はそんなこと……」 「俺みたいなおじさんとして、絶対後悔するぞー」 「精さんじゃないと、嫌だ」 「嬉しいけど」 頬を緩ませ、にっこりと笑う。 それが、私の胸を温かくする、いつもの大好きな精さんの笑顔。 「精さんは、私のことどう思っているの? ちゃんと聞かせて」 「…………大切な、特別な人、かな」 「なにそれ」 今、ちゃんと聞きたい。 ずっと言わずにきた想いを。 「私は、精さんのこと大好きよ」 「そりゃ、ありがたい」 「はぐらかさないで」 「……ん……俺は……ユキのこと、愛してる、かな」 いつものように何気なく言って、にっこりと笑顔になる精さん。 胸がきゅうっと締め付けられる感じがして、同時にあっという間に涙が溢れてきた。 「は、反則だよ……爽やかに言って……それ、それって家族愛とかじゃなくて……?」 「じゃなくて。女性として」 精さんの手が私の髪を撫でる。 温かくて安心する大きな掌。 もう片方の手で、あふれた涙をすくってくれた。 頬を何度も撫ぜられるたび、少しくすぐったくて目を伏せた。 「言っただろ、心配してたって。実は自分のものにしたくて悶々としてた訳ですよ」 「……!」 「男だから、ユキに欲情したり、デートと聞いて嫉妬したり……醜いだろー」 「よくじょ……」 「俺も男なんだから。押し倒したくなったりとか、ちゅーしたいなあとか」 「ちょ……、ちゅうって」 思わず笑ってしまった。 真剣な話してんのに。 「ユキだって、人のベッドの上で、ヤラシーことしてただろー」 「あっ」 ひえええっ覚えてんの? ここで一人でしてたこと。 「見てないからって、何にもしないで部屋から出ていったじゃない」 「実は見ちゃった。好きな子のあんな格好見たら、誰だって襲いたくなるでしょうが」 「や……」 「体に悪いぐらいガマンしたさ。俺、大人だもん。高校生のユキ押し倒して嫌われたくない」 「お、押し倒されても、良かったよ?」 「ばっ……俺の気持ちの問題もあるんだからなー。いい加減にしたくないの」 「うん」 「自信もなかったし」 「……今は……?」 肩に置かれてた精さんの手が、ゆっくり腰にまわる。 少しづつ距離が縮まっていく。 ドキドキするのを抑えて、震える両手で精さんの頬をぎゅっと挟んだ。 「こら、にらめっこじゃないんだぞ」 「ちがうもん。……ちゅーするの」 すかさず精さんの唇を、上から掠めるようにキスした。 不意打ちに固まった精さんに、すぐにもう一度重ねて、ちゅうっと音を立てて吸ってみた。 「今は?」 離してから、顔を覗き込んで、もう一度聞いてみる。 唇の温度よりも高い体の熱を知りたい。 焦らされているようで、体が勝手に次の熱を生んでいく。 「ユキ、顔、真っ赤だぞ」 「また、はぐらかす……」 「いや……可愛い」 精さんだって、顔が赤いくせに。 それを見て思い切って、自分から、借りていたパジャマのズボンを脱いだ。 精さんのパジャマの上着は、だぶだぶで裾が膝上まで隠してくれる。 「ほー、そうやって誘えるほど、大人になったのかー」 「もう、子どもじゃないんだからねっ」 「……ほんとうに、いいのか? 後悔し……」 「いいの!」 「……ほんとにもう、待たなくて、いいんだよな……」 「いいの……っ」 その表情がふっと緩んで、いつも見る微笑に変わる。 精さんが伸びあがって、私の唇にゆっくり唇を重ねた。 ほっとため息が出る。 「……初めて、だよな……」 「当り前でしょ………」 「……うーん。できるだけ優しくするから……」 「お、お願いします」 お互いに、ぷっと吹き出した。 笑いながら、精さんが手を添えて私の体をベッドに横たえる。 上着を脱ぐ仕草に、思わず見とれてしまう。 肩幅とか、胸とか、腕とか。 自転車やってるからだろうけど、全体にがっしりしてる。 もともと大柄な人ではあったけど。 「自転車焼け、してる」 「そうだな」 自分から手を伸ばして、その肩や腕に掌を滑らせる。 それが合図のように、唇が柔らかく覆われた。 深く吸われて、唇を開かされ、温かな舌が入り込んでくる。 初めてだし、余裕ないし……ほんとはすごく緊張して、というより、怖い。 でも、なんだかそれを悟られたくない。 私の余裕のあるみたいな態度も、照れてることや震える気持ちを隠すため。 だから思い切って、精さんの後頭部から首に腕を絡ませた。 歯列をなぞる舌に、自分の舌を絡ませていく。 唾液が溢れ、湿った音が驚くほど大きく響く。 息が苦しい。 ふいに、唇が放された。 「……無理すんなよ……」 私の口から垂れた唾液を拭って、髪を掻き上げてくれる。 額と頬にキスされたところで、パジャマの前ボタンが全部はずされてることに気付いた。 「い、いつのまに?」 「さっき」 「どんな技使ったの……ひゃ」 強がるのはもう無理かもしれない。 精さんの掌が布越しに私の胸のふくらみを覆った。 きゅっと力が加わる。 「んっ」 息つく間もなく、ふくらみの先を摘ままれ、恥ずかしい声が出た。 「ああんっ」 慌てて、手の甲を口の上にあてる。 精さんは気付かないふりで、パジャマの上から摘まんだ先端を口に含んだ。 両足をこすり合わせるように、身を捩った。 布越しにきつく噛まれて、あ……と声が漏れる。 ボタンの開いた布の間の素肌をつうっと指先が滑っていく。 おへそを弾いて、指先でひっかけるようにしてくるりと輪郭をなぞられた。 くすぐったくて、体が縮まる。 それはとん、と下腹部へ降りて、つ…とまた進み出す。 足の付け根を辿って、ぎゅっと閉じた足の間をくすぐるように動いていく。 胸の布が濡れて冷たい感触が、きゅっとあそこへ痺れる感じを伝えてくる。 反対の胸も同じように、口で噛んだり舌で弾いたりされると、あそこがジンジンとしてくる。 私の様子がわかるのか、精さんの指は、足の付け根が緩んだ隙にそこに滑り込んできた。 ぐちゅっ。 ショーツの上からぐっと押さえられたそこは、すごくいやらしい音をたてた。 精さんの指が一瞬動きを止めた。 恥ずかしい。 顔を両手で覆っても、どうしようもないのに。 でも、精さんの指はすぐに上下に強めに動き始める。 止めようもない水音がくちゅくちゅと耳に聞こえてきた。 恥ずかしいのに、それも体の中の熱を高めていくのがわかった。 私の中の奥の疼きが、どんどん大きくなっていく。 もっと、と思わず口に出そうになった。 脱ぎたい、直接、触れて欲しい。 「脱が……せていい?」 見透かされている気がして、驚いた。 声は掠れ気味だったけど、精さんは穏やかな表情で私を見る。 こくこくと頷くのがやっとだ。 すると唇が塞がれて、また深いキスをくれた。 今度は精さんにされるがままで夢中でこたえた。 その間に、私の着ているものはすっかり脱がされていた。 部屋の灯りが消えて、ベッドサイドの灯りだけになった。 今まで明るかったことも気がつかないくらい、余裕なかった。 「綺麗……ユキ、もうちょっと上向いて」 「やだよ……恥ずかしい」 やっと言葉が出せた。横を向いて、お腹の中の赤ちゃんみたいに丸くなる。 すぐに背中を、唇の感触が下から上へ上っていった。 くすぐったいような痺れが足の裏へ突き抜ける。 「やあんっ」 仰け反った私の体に、後ろから精さんの手が伸びてくる。 下から包みこまれるように、片方の胸が精さんの掌に覆われた。 きゅっと、柔らかく握られ、そのままその先端も摘ままれる。 直接の温もりが、体中を駆け巡っていくみたい。 「ユキ……」 耳に熱い息をかけられるように、精さんが呼ぶ。 ずっと肩や首筋を啄ばまれるように唇でなぞられていたから、堪えきれなかった。 自分から、顔を後ろに向けて、精さんの唇を求めた。 ぶつかるような、噛みつくようなキスが待っていて、息が詰まる。 離れようとした精さんの舌に、舌を伸ばして、絡ませる。 赤い舌がいやらしく動くのが、視界に飛び込んできた。 私ってこんなにやらしいことできたんだ……。 夢中でキスを求めて、精さんにしがみつく。 鼻にかかるような声が、知らずに出てて、自分のだと気づいて、驚いた。 精さんを誘って、体が自然に開いていく。 精さんの手を、自分の下腹部へ導いた。 応えるように精さんの指はするっと、あそこを撫でるうように奥へ滑り込んでいく。 指の温度を感じる間もなく、くいっと曲げられた。 軽いその動きは、リズミカルに軽い水音をたて始める。 「あ……ん……んん……」 開きかけた体を閉じようとして、精さんがふっと視界から消えたのがわかった。 今まで胸のふくらみを覆っていた掌がなくなって、かわりに先端が吸われる。 精さんが、たぶん尖りきっているそこに口づけて、また強い刺激が突き抜ける。 足の間には閉じることができないように精さんの腕があって、指の動きが大胆になっていく。 思わず悲鳴じみた声が出てしまう。 慌てて口を塞ごうとしたけど、精さんにその手首を掴まれて、顔の横に留められてしまった。 「我慢するな。声、聞きたいんだ……ユキの声」 囁くような精さんの言葉に、とろとろになったあそこが更に溶けていく気がした。 舌で乳首を弄ばれるように揺らされて、甘噛みされて、飲み込まれるように吸われて……。 そのたびに体が跳ねるけど、精さんに抑えられてるから、悶えるように捩るだけ。 声だけが恥ずかしく部屋に響く。 その声に合わせるように、精さんの指が、わざとみたいに粘り気のある音をたてる。 指はあそこの襞を上下に何度も往復して、上のほうの敏感になってるトコで止まった。 「やあっ……は……あっ」 びくっと背中が浮くほどの感じ。 精さんが探るように指を回す。 いったん下に滑って、愛液をすくうような動きでまたそこに指を戻す。 まるで撫でつけるように、くるくると敏感なそこを愛撫される。 頭の先まで突き抜けるような痺れが、何度もそこから背中を走っていく。 恥ずかしいけど、自分から腰を浮かしてしまう。 ふと上半身が軽くなり、唾液にまみれた胸の先端が、ひんやりとする。 膝裏を掴まれて、ぐっと片足が持ち上げられた。 「あああっ」 指じゃない、生温かいものにあそこが撫でられて、体が跳ねる。 何度も撫でられ、くちゅくちゅという水の音がそこからしてくる。 精さんの髪の毛がそれに合わせて、下腹や足の付け根をくすぐる。 髪の毛……伸びてる。今年中に、切ってあげなきゃ。 手を伸ばした先で、精さんの頭が足の間で動いてるのが見えた。 「や、やだやだあっ」 少し抵抗してみるけど、がっちり押さえられてて無駄だった。 いつもの優しい精さんとは違って、まるで貪るようにそこを舐めてるのが見えた。 体の奥から激しい疼きが突き上げてきて、怖い。 あそこの窪みに精さんが舌を尖らせて、押し入れてきた。 指とは違う質感に、精さんの男性のモノを想像して震える。 舌が止まることなく滑って、今度は敏感な尖りが揺らされるようにに突かれた。 さらに、探りだされ、唇で啄ばまれるようにひっぱられ、ねっとりと舐られる。 抑えきれず、声が立て続けに出て、自然に首がいやいやと振れた。 精さんの髪の毛に手を伸ばして、制止したかった。 でも、できなかった。 ううん、逆。 もっと。 「もっと……お……」 勝手に口に上った言葉に、体がカアッと熱くなる。 精さんの動きは少し止まって、すぐにまた舌が上下し始めた。 今度は指が加わった。 「おねだりされたら、おじさんは弱いんだなー」 「や……ちがっ」 指先が窪みに触れて、次の瞬間ぐっと入ってきた。 体が強張る。 「いやっ……ゆび……く……あ」 温かいけれど、異物感が怖かった。 「せい……さ……やあ……んああ……」 でも奥へ突き入れられていく指を拒むことができない。 本能、って言葉が頭をよぎる。 もっと奥へ、欲しい。 無言のまま、精さんが指を進めるのを、私の奥の部分が待ち受けているのがわかる。 ひくひくしてる。 ひくつく動きが、精さんにも伝わるんなら、すごく恥ずかしい。 精さんの指がゆっくり中で動き出す。 蠢く、っていうのがあっているその動きは、どんどん大きくなっていく。 かき混ぜられていて、ぐちゅぐちゅ音がする。 ひくひくした感じが、どくどくと脈打つ感じに変わっていく。 埋め込まれてる、探るような指に、もう一本指が添うように滑り込んできた。 「やめて……やめてぇ……だめ……」 口では拒否してるのに、私は腰を浮かして2本目を受け入れた。 押し広げられたそこは、精さんのモノを受け入れているような錯覚すら覚えた。 指はばらばらに中で動き回って、私は叫んでいるように声を上げていた。 中を、指が擦るように上下し始める。 体の中の強い疼きが、うねるようになっていく。 「な……に……これ……や、やだあ……っ」 精さんの頭をぐるぐると片手で撫でながら、もう片方の手はシーツを握り締めた。 怖いくらいの気持ちよさが、突き上がってくる。 「ゆび……やめて……やあ……や……やっ、やっあっ」 喉がからからになって、声が掠れる。 あそこから強すぎる快感の波がたくさんやってきて、息ができないくらい。 これ、なに? 怖い、精さん。 「精さん……っ、精さ……あ……あ――!」 大きな波にさらわれそうで、足をおもいきり突っ張った――。 「ユキ」 精さんの声が遠くから聞こえる。 「ユキ……」 だんだん精さんの顔がはっきりしてくる。 額にちゅ……と音がして、キスされたのに気がついた。 「わかる……?」 そう言われて、我に返る。 体の力が抜けていき、少し重くなった感じがする。 「や……だ……」 ……イっちゃったんだ、私。 精さんの目が、笑っている。 急に恥ずかしくなって、顔を両手で覆った。 「可愛いよ」 精さんの声がする。 うわ……恥ずかしい……でも、精さんは……まだ、ってことに気付いた。 そうだ、精さんは。 手をはずして、精さんを見た。 「ほれ、すっげーことになってるんだけど」 「なっ、ばかあ」 精さんはいじわるく私の目の前に、手をかざした。 べたべたになって、手首まで滴が伝っている手だ。 また両手で顔を隠した。 「ばかばかあ!」 「ごめんなー」 くっくっと喉の奥で笑うような声が聞こえて、手を拭いてるような気配がする。 死ぬほど恥ずかしいのに、精さんひどい。 でも。 精さんのせいで、あんなになった自分がすごく不思議で、嬉しい気持がする。 なんだろう、また体の奥で熱が生まれる。 それはさっきまでの性急さはなくて。 ゆったり体を開きたい感じで、私の中を満たしてゆく。 「ユキ」 また名前を呼ばれる。 両手をゆっくり顔から離した。 次に精さんが言わなくても、自然にそれがわかった。 「いいか……?」 さっきまでの優しい雰囲気とは少し違って、精さんが真剣な目で私を促した。 いいよ、ってつもりでこくんと首を振った。 両方の膝小僧に手がかかる。 お尻が持ち上がる。 精さんが上から私を見下ろす。 「ちゃんとゴムつけたから」 「い、いつの間に用意……してたの?」 「んー、内緒」 気遣ってくれる、そのことがすごく嬉しい。 それと、いつからかわからないけど、精さんがそういうつもりでいた、っていうこと。 何気ないそぶりで、私をそういうふうに見てたってこと。 そういうの、嫌じゃない。 体の中の熱が急速に上がっていく。 ……もっとそういうふうに見て欲しい。 また、あそこが、とろ……と溶けだす感じがした。 固いモノがあてがわれる。 すごく熱い、それ。 ぬちゃ……と音をたてて、擦りつけられる。 精さんのモノ、少し怖い。 「たぶん、痛い、と思うけど……」 精さんはなにか我慢しているそぶりで言った。 でも、擦りつけられる動きは止まず、だんだん速度を増していく。 すごく、気持ちいい。 「……うん。あっ……せ……さん……や、あっ」 また、とろけるような疼きが起こってきた。 精さんの腕を強く掴んで、精さんを見上げる。 もう……欲しいよ、精さん。 「……ごめんな」 そう言って、精さんはいったん動きを止めた後、ぐっ、とそれを入口に押し当てた。 「!」 叫びそうになり、声を飲み込む。 ぐっ、ぐっと精さんが入ってくる。 指なんかと比べ物にならない、圧倒的な質量に、意識が飛びそうになる。 「噛みつけ、肩とか腕とか。叫んでもいいぞ……ユキっ」 精さんの手が胸に触れたから、ビクっとした。 あそこにきゅっと力が入って、精さんの大きさを感じる。 「ユキぃ……」 精さんがすっごく我慢してるのがわかった。 でも、ちょっと止まっただけで、すぐまた奥へ奥へと押し入ってくる。 メリメリと裂けるような痛みに歯を食いしばる。 喉に込み上げてきた叫び声を押し殺す。 「……全部入ったから」 目を開けて、息をついた。精さんの顔が目の前にある。 切ないような表情で、ふっと笑って、キスをくれた。 舌を何度も吸われて、また私の奥がきゅうっと疼く。 胸の先端を精さんの掌でころ……と愛撫され、あそこが濡れていくのが自分でもわかった。 一杯。 私が精さんで満たされている、っていう感じだ。 「しあわせ」 思わず口をついて言葉が出た。 痛みより、不思議と幸福な気持ちが広がっていく。 自然に涙が溢れて、耳の方へ伝っていく。 「動くよ、ユキ」 そう言って精さんは腰を少し引いた。 また、ぬちゃ……って音が耳に届く。 「ああっ」 痛みが体をはしる。 抑えていた声がつい出てしまい、精さんが動くたびに呻いてしまう。 精さんが唇を唇で塞いでくれけたど、唾液の音が下から届く水音と一緒に、頭の中まで響いてくる。 揺さぶられるままに、身を任せていたら、痛みとは違う感覚をわずかに感じた。 唇を離して、声を上げた。 精さんも吐息なのかわからない息を弾ませて、速度を上げてゆく。 痛いけど、精さんが中で擦るたび、さっきの波が小さく打ち寄せてくる気がした。 「っ……止まんね……ごめん」 違う、精さん、私……気持ちいいよ。 痛いのと気持ちいいのが混ざって、なんだかわかんない涙がこぼれていく。 精さんが思い切り深く突いてきて……ぴったり腰を合わせたままもっと深くを揺らして。 そのまま、私の上に体を預けるように覆いかぶさってきた。 はあっはあっていう、ふたりの激しい息だけが部屋中に聞こえてる。 波が引いていく感じが、名残惜しい。 精さんの体の重みが、苦しくは無く、むしろ心地よくて安心する。 痛みがあるけど、嬉しくて、また涙がこぼれていく。 「痛い? 大丈夫か?」 精さんが慌てて私から離れていく。 違うよ、精さん。 「嬉し……くて」 言葉にならなくてただ、泣けた。 精さは何度か私の頭を撫でてから、ぎゅっと抱きしめてくれた。 少し落ち着くと、精さんが私をきれいにしようとしていて、慌てて私も手伝おうと手を伸ばした。 シーツに小さいけど赤い染みがあるのが見えて、なんだか胸が一杯になった。 「おむつ換えたの思い出すなー」 「ば、ばかあ。こんな時にそんなこと言うなんて、信じられないっ」 むくれて丸くなった私をそっと抱きかかえるようにして、精さんが向い合せに寝転ぶ。 掛け布団をかけて、寄り添ってくれる。 精さんの胸に額をくっつけて、さらに丸く体を寄せた。 自分の体じゃない、水に漂うような感覚があったから、精さんの腕の強さですごく落ち着いた。 ……そういえば、思い出した。 「あ……あのね……クリスマスプレゼント、まだ決めてないの……何が欲しい?」 「うーん……」 あと4日でイブだった。 もう日にちが無い。 「ユキが、欲しい」 頭の上の方で囁かれた言葉は、小さかったけれど、声には力がこもってた。 同時に、背中を精さんの温かい手が滑っていって、腰を引き寄せられた。 また痺れるような感覚がはしり、どくん、と体の奥が波打つ。 精さんの顔が見たかったけど、上を向きたい気持ちを抑えた。 そのまま精さんは、私の髪の毛に顔を埋めたみたい。じっとしてる。 きっとすごく照れているんだ。 私まで、顔が火照ってくるみたい。 「……えっち」 「長いこと待ったもんだから、我慢きかなくて」 その言葉に、胸が熱くなる。 精さんはその体制から、私の体の下に腕を差し入れて、抱きしめてくれた。 「……今から、もう一度でも、いいよ……?」 「ユキがもたんだろうが。そのくらいは我慢する」 少し拗ねたような声が聞こえて、吹き出した。 可笑しくて、ふたりで笑って、そして、眠った。 雪は朝起きる頃にはやんでいて、外が全部銀色になっているだろうな。 そう思いながら。 * 「そういえば、私の名前、どうやって決まったの?」 「俺の案が採用になったの」 「へー、精さんが名づけ親……」 恋人が名付け親って、ちょっと複雑な気分。 「どういうとこから発想したの? やっぱ、安直に天候から?」 「違う」 「じゃ、なに?」 「……ドロロン閻魔くん、ってユキ知らないよなー」 「え? 懐かしのアニメで見たことはあるよ」 「その、閻魔くんに出てくるの、雪子姫。ユキちゃん」 「は?」 あの、ミニの着物着てて、いつも脱がされるっていう、あれだ。 「俺、大好きでさー」 「はあ? もっ……もうっエロオヤジなんだから!」 冗談なのか、なんなんだろうか。 精さんはすごく楽しそうに笑ってる。 「え? ユキ……わっ」 クッションを思い切り精さんに投げた。 明日のイブの日をどうするか、精さんの屈託のない笑顔を見ながら、考え直そうと思った。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |